ここから本文です

新型肺炎で「インバウンド4000万人」に黄信号

1月30日(木)5時15分配信 東洋経済オンライン

東京・浅草の仲見世通りを歩くマスク姿の外国人観光客。新型コロナウイルスによる肺炎で深刻な被害が出ている中国で春節(旧正月)の大型連休が始まった(写真:時事通信フォト)
拡大写真
東京・浅草の仲見世通りを歩くマスク姿の外国人観光客。新型コロナウイルスによる肺炎で深刻な被害が出ている中国で春節(旧正月)の大型連休が始まった(写真:時事通信フォト)
 新型コロナウイルスが猛威をふるっている。中国の国家衛生健康委員会の1月29日までの発表によると、死者は計132人に上った。 

 発熱や上気道症状を引き起こす新型コロナウイルスは、中国湖北省の武漢市において2018年12月に同ウイルスに起因する肺炎の発生が報告され、その後、日本でも患者の発生が報告されている。

■沖縄観光のキャンセルは1.3万人に

 これを受け、全日本空輸(ANA)は1月29日、当初2月1日としていた成田ー武漢線の欠航期間を3月1日まで延長すると発表。日本政府も同28日に武漢へANAのチャーター機を送り、29日に現地に滞在していた日本人206人を帰国させた。ANAの武漢便の欠航により影響を受ける旅客人数は約5800人という。
 新型コロナウイルスにより大きなダメージを受けているのが観光産業だ。中国政府はウイルスを封じ込めるため、同国からの海外団体旅行を禁止。沖縄県内を訪れる観光客のキャンセルも1万3000人を超えたという。今後、キャンセル数はさらに増加する見通しだ。

 中国発の新型感染症といえば、2002年後半から2003年半ばまで世界で8000人以上が感染し、700人超の死者を出したSARS(重症急性呼吸器症候群)が挙げられる。
 SARSの中国における感染数は5327人。対して今回の新型コロナウイルスは28日までで同5974人、疑いがあるのは9239人と、その伝播はすさまじい勢いだ。SARSの発生時は、訪日観光客への影響は数カ月程度で収まった。しかし、野村総合研究所によると、仮にSARSと同等の影響が1年間続いた場合、「新型肺炎の影響(のうち、インバウンド需要の減退のみ)で日本のGDPは2兆4750億円、実に0.45%も押し下げられる」(野村総合研究所)可能性があるという。
 2020年までの達成を目指してきた訪日観光客の政府目標4000万人にも黄信号が灯っている。安倍政権は地方創生を重要戦略に据え、観光政策をその戦略の柱とした。2013年にはビザの発給要件を緩和し、免税対象品目も拡大。2012年に836万人に過ぎなかった訪日観光客数は2018年についに3000万人を上回った。

 7月開幕の東京オリンピック・パラリンピックによる特需を織り込めば、2020年に4000万人の達成も視野に入る勢いだった。
■日韓対立が激化し、訪日客数に急ブレーキ

 ところが、とんとん拍子で成長してきた日本の訪日客数に2019年、急ブレーキがかかる。

 歴史認識や安全保障をめぐる問題で、訪日客の2割強を占める韓国との緊張が高まり、韓国人訪日客は2019年8月から急減。前年比で60%以上減少する月が続き、2019年の訪日客数は前年比2.2%増の3188万人にとどまった。

 そこで政府が目をつけたのが、中国人の訪日需要だ。実際、訪日客のうち中国人の観光客数は、韓国との関係が悪化する前の2018年が838万人と一番多い。インバウンド政策の陣頭指揮を執る菅義偉官房長官は2019年8月、東洋経済の取材に「今年(2019年)に入っても中国人訪日客数は10%程度の伸びを維持している。中国人訪日客は、どんどん増えるだろう」と訪日中国人に期待を寄せていたが、今回の新型コロナウイルス問題でそれも見込めなくなった。
 訪日観光目標を「量」から「質」へ転換しようという動きも今回、水を差された格好だ。政府は2020年の目標として、訪日観光客数4000万人と同時に、観光消費額8兆円という目標も掲げている。

 2019年時点の進ちょく率は、観光客数が3188万人、約80%なのに対し、観光消費額は4.8兆円、同60%と低い。その原因の1つは、滞在日数が短く、物品購入額が小さい韓国人観光客の比率が大きいことにある。韓国人観光客の1人あたり旅行支出(一般)は2019年で約7万5000円と、全体平均の約15万8000円を大きく下回っている。
 「日本のインバウンド戦略が、人数ではなく消費額という『質』の重要性を再認識し、正しい方向に向かう転機になるのでは」(観光産業の研究家)という声もあがっていたが、中国人観光客の減少となると話は変わってくる。

 一時期「爆買い」という言葉が流行ったように、中国人観光客の消費意欲は強く、1人あたりの旅行支出は約21万3000円(2019年)。まさにインバウンド戦略における「上客」だったため、新型コロナウイルスによるダメージは大きくなりそうだ。
■地方の高級ホテル50カ所構想へ疑問の声

 インバウンド戦略の数値目標を客数から消費額へシフトする象徴といえるのが、菅官房長官が2019年12月に示した、地方で高級ホテルを50カ所整備する方針だ。5つ星レベルのホテルを求める層の誘客や、より多くの支出を促す狙いがある。

 しかし、この政策には観光業界から冷ややかな視線が送られている。あるラグジュアリーホテルの幹部は「平均客室単価が4万円を超えるようなラグジュアリーホテルを地方で実現するためには、地域の綿密な観光マーケティングに基づいたコンセプトと、その価値観を体現するためのオペレーションができる人材が欠かせない。観光マーケティングが洗練された地域は一握りであり、そのような人材も足りない」と切り捨てる。
 別の業界首脳も「方向性は間違いではないが、ラグジュアリーを実現できる場所は世界でも限られる。どこまで政府が支援できるのか」と懐疑的だ。

 東京オリンピックで日本を世界にアピールし、2030年に訪日観光客6000万人、観光消費額で15兆円を目指すとしてきた日本のインバウンド政策。これまで右肩上がりだった時代が一変し、コロナウイルスという逆風が吹き始めた観光業界の課題は、欧米や成長著しい東南アジアなど、次なる顧客の開拓となりそうだ。
森田 宗一郎 :東洋経済 記者

最終更新:1月31日(金)13時27分

東洋経済オンライン

 

【あわせて読みたい】

Yahoo!ファイナンスからのお知らせ

Yahoo!ファイナンスからのお知らせ

Yahoo!ファイナンスからのお知らせ

【PR】Yahoo!ファイナンスからのお知らせ

平均年収ランキング

1. (株)キーエンス 2,110万円
2. GCA(株) 2,063万円
3. (株)三菱ケミカルホールデ… 1,738万円
4. ヒューリック(株) 1,636万円
5. 三菱商事(株) 1,607万円
6. TBSホールディングス 1,586万円
7. 伊藤忠商事(株) 1,520万円
8. 日本商業開発(株) 1,501万円
9. ソレイジア・ファーマ(株) 1,460万円
10. 三井物産(株) 1,430万円
もっと見る

ヘッドライン