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外国人の疑問!なぜ「桜見」でなく「花見」なのか

1月30日(木)5時25分配信 東洋経済オンライン

(左)アン・クレシーニさんが(右)元NHKアナウンサーの宮本隆治氏に日本語の「なぜ?」に迫りました(写真:草野裕司撮影)
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(左)アン・クレシーニさんが(右)元NHKアナウンサーの宮本隆治氏に日本語の「なぜ?」に迫りました(写真:草野裕司撮影)
今年はオリンピックイヤー。日本政府観光局は、2020年の日本国内への外国人旅行者数の目標を4000万人としています。外国人との接点は増える一方。そんななか、日本や日本語のことを外国人に聞かれたら答えられますか? 
普段、何の疑問もなく当たり前に使う母国語だからこそ「知らない」「間違いやすい」日本語を、外国人視点から楽しく再発見する『教えて! 宮本さん 日本人が無意識に使う日本語が不思議すぎる!』。案内人は、見た目はヤンキー、中身は日本語オタクの外国人、アン・クレシーニ。博多弁を流暢に操る応用言語学者です。日本語指南役の元NHKアナウンサーの宮本隆治氏との笑えるやりとりに思わず引き込まれます。素朴な「なぜ?」に、あなたはいくつ答えられますか? 
■なぜ「桜見」ではなく「花見」と言うの? 

 私の名前は、アン・クレシーニ。バージニア州出身のアメリカ人だ。自分のことをついアンちゃんと言ってしまう。今は、福岡県にある北九州市立大学で応用言語学を研究しながら、大学生に英語を教えている。

 日本に住んではや20年。来日したころは、日本にも日本語にも興味が持てずに、引っ越しで隣人の日本人に「あの、その、……外人です」としか言えなかったっけ。そんな私がこんなにも、日本語と日本の魅力のとりこになるなんて、いったい誰が想像しただろう。
 日本語に恋に落ちたのは、「ちりばめられる」という言葉がきっかけだった。私は次第に日本語の世界に取り込まれていった。

○「カキキュウカ(夏季休暇)」
○「ビブンセキブン(微分積分)」
○「セアカゴケグモ」
 大好きな日本語のコレクションが増えていき、お茶、着物、三味線……日本文化を1つずつ生活に取り入れていった。25年もの長い間患っていた摂食障害を日本食の「味噌」で克服してからは、日本人と日本文化をもっと深く理解したいという思いが強くなった。日本に命を救ってもらった――そう思っているから。
 ただ……日本語は奥深い。日本や日本語を学べば学ぶほど、私はわからない言葉、知らない表現、文化の違いが生む誤解に出合うことになった。

■「~しにくい」と「~しづらい」は違う? 
■「なおざり」と「おざなり」はどう使い分ける? 
■「事実」と「真実」って、同じじゃないの? 
■どうして「桜見」と言わずに「花見」なの? 
 学べば学ぶほど、日本が大好きになればなるほど、私を悩ませる日本語の繊細さ、多様性、不思議さ……。もう、どうしたらいいの!?  そんなとき出会ったのが、元NHKアナウンサーの宮本隆治さんだった。私はすぐさま宮本さんを質問攻めにし、その日から日本語と日本の奥深さにどっぷりつかった夢のような日々が始まった。
■宮本さんに聞いてみた

 アン:宮本さん、日本では何かと「花見」が話題だね。でも、見る花は桜と決まっているのに、なんで「桜見」じゃなくて「花見」と言うの? 

 宮本:日本の花見の歴史は古く、奈良時代から始まっています。その時代の「花見」は、桜ではなく梅だったと言われています。梅は唐(現在の中国)から輸入されたもので、貴族が愛でるものだったと考えられています。

 アン:梅は貴族が見ていた花だったのか! 

 宮本:そうです。奈良時代に「花」と言うと「梅」のこと。そして「花見」は、貴族が梅を愛でる会のことでした。しかし、その後、梅と桜が入れ替わっていきます。奈良時代の「万葉集」には、梅を詠んだ句が100首前後もあるのに対し、桜を詠んだ句は40前後だったのですが、平安時代の「古今和歌集」では桜のほうが多くなっていきます。さらに、桜を「花」という言葉で表現するようになっていきました。
 宮本:大衆に桜が好まれるようになったのは、江戸時代だという説があります。桜の「さ」は、田の神様を表します。「くら」は、神が座る場所。人々は、春が来て田植えの時期を迎える前に、山に咲き誇った桜を見て、そこに田の神が降りてきたと考えたのですね。神が宿る桜に向けて、お酒や食べ物をお供えするようになったそうです。

 アン:桜の木に田の神様が宿るのか。ここにも日本特有の「八百万の神」の考え方が生きてるね。言葉の響きも「ハナミ」のほうが美しいしね。
 宮本:そうですね。桜はパッと咲いて、サッと散ります。日本人は、桜の儚さや潔さに、生きる理想像を重ねたのかもしれません。「田の神様」という考え方もそうですが、日本人には、無宗教という感覚が強い人が多いのですが、実は、神道や仏教の影響を多分に受けています。

■「いただきます」と「ごちそうさま」の意味

 アン:アンちゃんはクリスチャンだけど、日本の神道の考え方には興味がある。「いただきます」も、本来はすべてのものに命が宿るとされていて、「その食材の命を私の命にさせていただきます」という意味よね。それを知ってから、食べ物を残さずにいただくようになった。おかげで摂食障害を克服することができた。
 でも、最近はこの「いただきます」の意味を知らない人が多い。大学の生徒に聞いてみたけど、知っている学生は23人中1人しかいなかった。最近では、「給食費を払っているから子どもに〈いただきます〉と言わなくてもいい」と言っている親もいると聞くけど、「いただきます」は、日本の文化の象徴で、「生きる姿勢」そのものだと思うから、大事にしたいと思う。

 宮本:正しい日本語と一緒に、美しい日本の考え方を伝えていきたいですね。ところで、「ごちそうさま」の意味はわかりますか? 
 アン:「ごちそうさま」は、食事を出してくれた方への感謝の気持ちなんじゃないかな。

 宮本:そのとおり。漢字で「御馳走様」。「馳走」とは「走り回る」「馬を駆って走らせる」という意味です。方々巡って食材を得て、料理を作り、もてなすために奔走する様子を表しています。そこから心を込めたもてなしや、おいしい食べ物、豪華な食事を意味する言葉になりました。「御」がついて丁寧語になり、「様」という接尾語がついてあいさつ語となりました。
 アン:命をいただくことへの「いただきます」、もてなしてくれた方への「ごちそうさま」。本当に美しい日本語だね。

■「ニホン」? 「ニッポン」?  どちらが正解? 

 アン:日本人は、「ニホン」と言ったり、ときどき「ニッポン」と言ったり、両方あるよね。どちらが正解なの? 

 宮本:私が在籍していたNHKでは、正式な国号として使う場合は「ニッポン」、そのほかの場合は「ニホン」と「ニッポン」とを読み分けています。1934年に放送用語に関する委員会が立ち上がり、第1回の議題が「ニッポン」と「ニホン」の読み方についてでした。委員会には文部省や国語の研究者らが集まり、国号として使用する場合は「ニッポン」にすると決めました。
 外国語表記も「JAPAN」ではなく「Nippon」とする案が示されましたが、正式決定はされませんでした。さらに2009年には、政府が「統一する必要はない」としています。

 アン:つまりはどっちでもいい、ということなんだね。アメリカでも、USAと言ったり、アメリカ合衆国と言ったりするけれど、どちらを使ったらいいのか迷う。

 宮本:実際、かなり曖昧に使われていて、固有名詞も両方使用されています。例えば、東京にある日本橋はニホン橋ですが、大阪の地名の日本橋はニッポン橋です。日本大学はニホン大学ですが、日本体育大学はニッポン体育大学です。また、どちらでもよいとされる場合、NHKは次のように読んでいます。
【ニッポンと読む語】
日本(国号)・日本永代蔵・日本国・日本国民・日本賞・日本放送協会など

【ニホンと読む語】
日本画・日本海・日本海溝・日本海流・日本髪・日本酒・日本書紀・日本脳炎・日本料理など

【どちらも読む語】
日本一・日本記録・日本犬・日本三景・日本時間・日本男子・日本刀・日本晴れなど

 宮本:「ニホン」か「ニッポン」か。日本人もかなり感覚的に使い分けていますが、どちらでもいい場合は「ニホン」と発音されることが圧倒的に多いようです。「ニッポン」と発音する場面を数えてみると、そう多くないことがわかるでしょう。
 これは、言葉が時代を経て、省エネを目指す傾向があることを示しているのだと思います。ニッポンという発音は破裂音でニホンよりも発音にエネルギーが必要ですね。そうすると、次第にニホンのほうが使われるようになっていくのは自然な流れとも言えます。

 アン:なるほど!  省エネかぁ!  それは、若者たちが使う和製英語や略語にも言えるね。

■いつから「五輪」と呼ばれるようになったか

 宮本:言葉を略すのは日本語の特徴でもありますね。例えば、オリンピックを「五輪」と呼びますが、これは1964年の東京オリンピックがきっかけです。
 アン:オリンピックの「オリン」と「ごりん」は音が似てるね? 

 宮本:そうですね。オリンピックが「五輪」と言われるようになったのは、当時の読売新聞の記者によるものでした。新聞の見出しに、6文字も使うのは長すぎる。何かいい略語はないかと考えたのがきっかけだったそうです。

 五つの輪がオリンピックのシンボルですから、漢字がそれを表していますし、当時その新聞記者は、宮本武蔵の「五輪書」についての記事を読んでいたこともあり「これだ!」と思ったそうです。五輪という言葉は略語とはまた少し違いますが、短くする感性を日本人は持っているということでしょう。
 アン:それは本当にそう思う。若い人たちと話していると、とくに略語ばかりで目が回りそう。
アン・クレシーニ :北九州市立大学准教授

最終更新:1月30日(木)5時25分

東洋経済オンライン

 

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