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ビジネスモデルとコース料理の意外な共通点

1月29日(水)6時20分配信 東洋経済オンライン

ビジネスモデルもコース料理と同じように、全体を通して調和した味わいが求められます(写真:stockstudioX/iStock)
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ビジネスモデルもコース料理と同じように、全体を通して調和した味わいが求められます(写真:stockstudioX/iStock)
日本の経営学では、ビジネスモデル研究が盛んだ。コンサルタントや経営者から研究者まで、いろんな立場の筆者が、思考法、多様なツール、パターン集などをまとめ、書店では多くの本にあふれている。
このたび、日本のビジネスモデル研究の第一人者でもあり、早稲田大学で起業家育成プログラムを担当する井上達彦氏が、学術研究や海外のイノベーションプログラム、実務の最前線で使われている方法などを集約し、ビジネスモデルの発想法から事業の循環までを描いた『ゼロからつくるビジネスモデル』を上梓した。
同書は500ページを超える大作ではあるが、今回は、同書のエッセンスである、ビジネスモデルをつくる順番とつくりかたのポイントを語ってもらった。
 あなたは一流のレストランに行ったとします。そこで出されたコース料理が下記のようなものだったら、あなたはどう感じますか? 

・前菜:白身魚のカルパッチョ
・スープ:豚汁
・魚料理:焼き魚のエビチリソース
・肉料理:サーロインステーキの酢豚添え
・デザート:わらび餅とエスプレッソ
 一皿一皿の料理はすばらしかったとしても、コースならではの調和した味わいは期待できません。異なる文化・流儀の料理がごちゃ混ぜになって、てんこ盛りになっているからです。

 「自分がシェフであれば、絶対にこんなことはしないなぁ」

 誰もがそう感じるはずです。ところが、ビジネスモデルづくりにおいては、実はこのような「ごちゃ混ぜてんこ盛り現象」が頻繁に起こっているのです。

■てんこ盛りの分析と発想

 ビジネスモデルをつくるための分析手法やフレームワークはたくさんありますが、それぞれの文化的な背景は異なるので、使うときの流儀も違います。
 データを大切にするもの、言葉を大切にするもの、矢印で示せる関係を大切にするもの、というようにさまざまです。

 勉強熱心なビジネスパーソンほど、さまざまなセミナーに参加し、いろいろ試していることでしょう。

 しかし、わずか数時間のセミナーで、分析手法やフレームワークが考案された文化的な背景や、その価値観にまで踏み込むことは不可能です。だから、断片的な理解にとどまり、印象に残った分析手法やフレームワークをてんこ盛りにしてしまうのです。
 コース料理には出てくる順番があります。例えば、フランス料理では、「前菜」「スープ」「魚料理」「口直し」「肉料理」「デザート」「コーヒー」と並びますが、これは時間をかけておいしく食べるための工夫です。

 同様に、ビジネスモデルをつくるのにも順番があります。私の場合、その手順は「分析」「発想」「試作」「検証」としています。

①分析……まずアイディア発想に先立ち、調査して分析します。大きな問題については、細かく砕いて整理します。「分析」によって事実を整理できれば、何が大切なのかも明らかになってきます。
②発想……整理した事実を基に創造的に「飛躍」させて発想します。
③試作……「発想」によってひらめいた「考え」を形にしていきます。形にしていくことで自身の考えも、より具体的になります。
④検証……「試作」を作り市場に受け入れられるかどうかを実際に確かめます。検証結果は、次のサイクルの「分析」における新しい起点となります。
 このサイクルを小さく、賢く、失敗を恐れずに何度も回すことで、ビジネスモデルづくりが実現します。
■3つのつくり方

 ここでは、ビジネスモデルのつくり方を、文化や流儀が異なる3つのコースとして紹介します。以下、それぞれのアプローチが、どのような考え方に基づき、何を分析して、どのように発想し、どんな形にして、どうやって確かめるのかを説明します。これがわかれば、読者の皆さんも、どのコースを選ぶべきかが判断できるはずです。

 ・戦略分析アプローチ

 1つ目のアプローチは、戦略コンサルタントのノウハウを体系化したもので、数値で示せるようなデータとロジックが重んじられます。まず、市場の規模は大きいのか小さいのか、成長率はどうなのか、共創の環境は厳しいのかといった外部環境の分析を行い、ビジネスの機会や脅威を洗い出していきます。
 次に、自社が持っている「ヒト、モノ、カネ、情報」といった経営資源の分析を行い、内部資源の強みと弱みを把握します。最後に、これらを掛け合わせて発想するわけです。

 例えば、「自社の強みを生かしつつ、市場の機会を最大限に活用するにはどうすればよいか」という具合です。星野リゾートのビジネスモデルは、このような戦略的な分析を基に生み出されてきました(『星野リゾートの教科書』日経BP社)。

 このアプローチの最大の特徴は、分析に重きを置く点で、データによる裏付けがない発想には価値がありません。非論理的で突飛な発想も望まれません。発表資料には、自らのアイデアを裏付けるための数値やグラフが並びます。ビジネスモデルを形にするときは、事業コンセプト(誰に、何を、いかに)という点から描き出され、新規事業提案の会議などで、その妥当性が確かめられるのです。
■分析対象は、「困りごと」を抱えた顧客

 ・デザイン思考アプローチ

 2つ目は、近年注目を浴びている、デザイン思考のアプローチです。これは、戦略分析アプローチの弱点を克服するために生まれたもので、それを補完するものです。数字で示されるデータよりも人間性に目を向け、ビジネスモデルをつくるときに顧客との共感を大切にします。彼らがどのような「困りごと」を持っているのか、それを言い表す言葉が大切とされるのです。
 このアプローチを生み出したのは、デザインコンサルタントです。一般的に、デザインといえば、製品を美しく、あるいは使いやすくするなど、意匠設計に関わるものだと理解されがちですが、身近な生活から社会システムのデザインまで、ありとあらゆるものに適用できます。

 このアプローチで活用されるのが、現場の観察やインタビューです。現地に潜入したフィールドワーカーとしての調査者は、異文化世界の人たちを理解するために、彼らの日常的な行動様式を詳細に記述します。外部から理性的な理解をするのではなく、当事者の立場からの内面的な理解ができるように心がけるのです。
 例えばJINSを創業した田中仁さんは、観察をきっかけにビジネスモデルをつくりました。2000年、友人と韓国の東大門市場に行ったときに、日本だと眼鏡は3万円ぐらいするメガネがレンズも含めて一式3000円程度で販売されていたのです。田中さん自身は、視力がよくて眼鏡を使わないのですが、友人が驚いている様子を観察して商機を見いだしました。

 分析対象は、「困りごと」を抱えた顧客です。顧客の立場で、顧客の世界に入り込んでビジネスモデルづくりに不可欠なインサイトを得ます。ここから得られたインサイトは、アレックス・オスターワルダーさんとイヴ・ピニュールさんが考案したビジネスモデル・キャンバス(BMC)といったフレームワークに落とし込まれます。
 BMCについては詳しく紹介しませんが、これは、顧客や提案価値などを枠の中に言葉を記入してビジネスモデルをデザインするための枠組みです。紙の上でも形にできれば、ストーリーとして語りかけ、顧客や投資家などにアイデアの筋のよさを確かめることができます。

 観察やインタビューから顧客のニーズを読み取り、それを言葉にして示すわけですから、その言葉が顧客のニーズの本質をうまく捉えられているかが問われます。

 ・パターン適合アプローチ
 3つ目のアプローチは、異国や異業種のビジネスモデルの構造をパターンとして読み取り、それを自らの業界に移植しようとするもので、アナロジー(類推)によるパターン適合と呼びます。

 アナロジーとは、「2つの物事に共通点があることを認めたうえで、一方の物事に見られるもう1つの性質が他方にもあるだろうと推論すること」(日本大百科全書)です。

 例えば、コンビニのおにぎりのように日々傷んでいく商材を扱うためには、少しずつ作って少しずつ売り足す仕組みが必要だということから、同じく、毎週陳腐化するファッションアパレルを扱うにも、同様の仕組みが有効だと推論することです。実際、日本のファッションアパレル企業の中には、セブン-イレブンを参考にしながら、追加生産・追加補充のビジネスモデルを構築したものもありました。
 異国、異業種、あるいは過去のビジネスモデルを「お手本」のベースとすれば、自らの国、自らの業界、そして現代でも、同じような事業の仕組みが再現できるかもしれません。三木谷浩史さんも、織田信長が築き上げた「楽市楽座」をヒントに楽天市場のビジネスモデルを築き上げましたといいます。インターネットが空間的な制約をなくし、新たな時代の楽市楽座を生み出すきっかけとなると考えたのです。

■パターン適合アプローチ5つのステップ
 このアプローチの手順は、ビジネスモデルにおいて矢印で示せる関係性を自分の世界に持ち込んで具体化していくというものです。以下の5つのステップになります。

① 自社の課題を特定する
② 異国や異業種でよく似た状況で課題を解決した「お手本」を探す
③ その「お手本」を箱と矢印で結ばれた関係として描く
④ 「お手本」を自らの業界に移植して、その関係を再現する
⑤ 適合させつつ修正し、具体化していく
 この一連のプロセスで、ビジネスモデルのパターンが「型」として示されていれば、アナロジーは容易になります。「サブスクリプション」「マッチング」「フリーミアム」という型の中から「お手本」にできるものを選び、それを再現すればよいからです。
 それゆえ、アナロジーを用いて分析と発想をする場合、お手本となるビジネスモデルの構造を読み解く必要があります。このときに役立つのが、企業と顧客(供給業者)がどのような関係で結ばれているのか。登場する企業と顧客を矢印で結んで、お金の流れやサービスの流れなどを示した図です。私は、板橋悟さんが考案した「ピクト図解」を利用することをお勧めしています。

■和洋中のどのコースを食するのか

 それぞれのアプローチをコース料理として見なすと、さまざまなことがわかります。文化的な背景が違うこと。分析対象や発想法も違うこと。使うべきフレームワークや検証のあり方も違うこと。それゆえ、いいとこ取りのように組み合わせてもうまくいかないのです。
 最後に、このコラムをここまで読んでくださった方々に3つのメッセージをお伝えします。

 第1に、各アプローチにおける「分析」「発想」「試作」「検証」の手順を、その文化的な背景にまで踏み込んでしっかりと味わってほしいと思います。適切だと思うものを選んでやり切ってください。

 例えば戦略的分析アプローチは、データがあって適切に分析されれば失敗のリスクを減らせる反面、調査と検討に時間がかかってしまいます。また、まだ存在しない新しい市場については、顧客も競争相手もいないのでデータが取れません。それゆえアイデア発想が難しくなるのです。
 これに対して、デザイン思考やパターン適合アプローチで進めれば、将来について大胆な発想を出すことができます。ただし、このアプローチは論理的な飛躍を伴うことが多いので、プロトタイプをつくってしっかりと検証しましょう。

 3つのアプローチを一通り試してみることで、それぞれの強みと弱みがわかります。すべて味わうことで、どのような場面で何を選べばよいか判断できるようになるのです。

 第2に、各アプローチにおいて何が大切にされているかを感じ取ってください。戦略的分析アプローチでは、数値やデータが重んじられるので、それを示したグラフや図表にこだわりましょう。
 一方、デザイン思考アプローチでは、顧客に提案する価値が大切なので、その本質を言い表す言葉がポイントです。これらに対して、パターン適合アプローチでは、ビジネスモデルを構成する企業や顧客の交換関係がクローズアップされるので、供給業者、企業、顧客などのステイクホルダーを矢印で結んだ図をしっかりと書きましょう。

 何を分析して、何を発想し、どのように見える化のツールを使って描き出すのか。それぞれのアプローチの流儀をわきまえたうえで、フレームワークを選ばなければなりません。
 第3に、以上の2つができるようになれば、皆さんが置かれた状況に合わせて適切なアプローチを選ぶことができるようになります。経験豊かな連続起業家は、状況に合わせて、頭の中で自在にこれらの発想法やフレームワークを使いこなしています。最初から「このアプローチ」と決めるのではなく、いろいろと試してみて、最も適切なものを選んでいくような感じです。

 ここまで読んでくださった皆さんは、「ごちゃまぜてんこ盛り」に陥ることなく、自然に、調和がとれたコース料理を食することができるようになっていると思います。
井上 達彦 :早稲田大学商学学術院教授

最終更新:1月29日(水)6時20分

東洋経済オンライン

 

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