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新型肺炎リスクが浮上する為替市場、SARS流行時と比べる「深刻度」

1月28日(火)6時01分配信 ダイヤモンド・オンライン

新型肺炎の感染拡大リスクが高まった27日、為替市場ではドル円が一時108円台に下落した。SARS流行時と比べたリスクはどれほどか(写真はイメージです) Photo:PIXTA
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新型肺炎の感染拡大リスクが高まった27日、為替市場ではドル円が一時108円台に下落した。SARS流行時と比べたリスクはどれほどか(写真はイメージです) Photo:PIXTA
● 新型肺炎が世界中に拡大 金融市場の新たなリスクへ

 2019年末頃に中国湖北省武漢市で発生した新型肺炎は、20年に入り感染者数や死亡者数の増加が散発的に報道されていた時点では、金融市場で大きく材料視されなかった。しかし、1月21日に厳重な感染予防対策を取っていたはずの医療関係者15人の感染例が報告され、香港大学の研究チームが「感染者は武漢市だけで約1300人に上っている」との推計値が発表されると、人から人への感染懸念が一気に高まり、新型肺炎は市場の新たなリスク要因に浮上した。

 21日以降、新型肺炎の感染拡大が市場の焦点となると、上海や香港市場を中心にアジア株は大きく下落し、世界景気の減速懸念から銅などの資源価格も下落した。為替市場では、人民元や韓国ウォンなどのアジア通貨、豪ドルなどの資源国通貨が比較的大きく下落する一方、リスク回避姿勢の高まりから円高圧力が強まっている。ドル円は1月17日に110.29円まで上昇したが、新型肺炎の感染拡大懸念が高まると、27日には一時108円台に下落した。

● SARS流行時との比較 当時はアジア株・通貨が大きく下落

 今回の新型肺炎の感染拡大について、市場では02年11月から03年7月にかけて香港からアジアを中心に感染が拡大したSARS(重症急性呼吸器症候群)との類似性が想起されやすい。SARSによる被害は、感染発覚から03年7月5日の世界保健機関(WHO)による封じ込め成功の発表まで約8カ月の間に、感染者が37カ国で8096人、死亡者は774人だったとされる。一方、今回の新型肺炎では、中国国内だけで2744人の感染、80人の死亡が1月27日までに確認されている。
 市場では当面、新型肺炎の感染がSARS規模に広がることを織り込む動きが続き、ドル円は一段安となるだろう。その後は、新型肺炎の感染がSARSを上回るか、終息に向けた進展がみられるか、などに関連した報道に反応して、上下することになりそうだ。

 SARS流行時の株式・債券市場を振り返ってみよう。香港のハンセン株価指数は、01年の米ITバブル崩壊で世界的な株安基調が続く中、SARS流行という悪材料が加わったことから、SARSの感染拡大直前(02年10月末)から11.8%安(03年4月25日)まで下落した。また韓国、シンガポールの両市場でも、SARS感染源(当時は香港、中国広東省)との地理的な近さや、経済的つながりの強さなどが意識され、株価の下落幅が大きかった。

 一方、主要国・地域では、日本や欧州市場で株価の下落幅が大きかった。また米10年金利は、02年10月末の4.0%前後から03年6月16日には3.07%まで低下した。

● SARS流行時の為替市場 ドル円の下落は比較的小幅

 次に当時の為替市場を振り返ってみよう。香港ドルは対米ドルでペッグされ(1米ドル=8.28香港ドル)、人民元も対米ドルで事実上の固定相場制が採用されていた(1米ドル=8.2780元前後)ため動きは少なかったが、韓国、シンガポール、台湾などのアジア通貨は、株価と同様に下落幅が大きかった。
 ドル円は02年10月末の122円前後から03年5月19日には115.07円と約7円の下落を記録した。7円の下落幅は、19年中の値幅(8円程度)と比べると大きく見えるが、01年中の値幅(18円強)と比べると大きくない。

 SARS流行時が今回の新型肺炎懸念と大きく異なるのは、資源国通貨、高金利通貨の動きだ。今回、豪ドルなどの資源国通貨は、主要輸出先が中国であることなどから下落圧力がかかりやすかったが、SARS流行時は、銅や原油などの資源価格が02年を底に上昇基調入りしていたことから、NZドル、豪ドル、南アランド、ブラジルレアルなどはむしろ大きく上昇した。

● SARS流行後の金融市場と経済 通貨や株価は下落幅を帳消し

 なお、SARS流行が終息に向かうと、通貨や株価は03年4-6月期におおむね底を付け、WHO(世界保健機関)が03年7月5日にSARS封じ込め成功宣言を公表すると反発し、SARS流行時の下落をほぼ帳消しした。米株価が02年10月10日を底に反発基調に入っていたほか、資源価格も上昇基調に入っていたことなどが、反発時の追い風になったとみられる。

 各国経済をみると、SARS流行前の02年7-9月期から、SARS流行時の03年4-6月期にかけてのGDP成長率(前年同期比)の悪化幅は、台湾、シンガポール、韓国が最も大きく、為替、株式市場の反応とおおむね整合的だった(ただし成長率の悪化理由は、SARSの悪影響だけではない)。
● 今回は中国当局の情報公開が早いが 米景気・米国株の調整リスクは大きい

 今後の金融市場に対する新型肺炎の影響は、感染拡大の程度次第だろう。ただ、今回はSARS流行時と違い、中国当局の情報公開が金融市場への悪影響を限定する要因となり得る。

 SARS流行時の中国当局は、02年11月の症例発覚後、03年2月までWHOに公式報告をせず、投資家の不安心理がリスク資産の価格を必要以上に押し下げた可能性がある。一方、今回は中国当局が比較的早期に記者会見を開催するなど情報開示を行い、WHOもすでに関与している模様だ。こうした中国当局の対応は、市場に一定の安心感を与えた面もあり、今回はSARS流行時よりも早期に最悪シナリオを織り込んで下落するものの、その後は終息に向けての反発も早まると予想される。

 しかし、今回の方がSARS流行時より相場変動が大きくなり得る要因もある。その1つは人民元相場だ。前述したように、SARS発生時の人民元相場は、対米ドルで事実上の固定相場制が採用されていたが、現在は比較的自由に変動しており、新型肺炎の感染拡大に伴い人民元の下落が他アジア通貨の下落を大きくし得る。

 米景気と株価の局面が、SARS流行時と今回とで違う点も見過ごせない。SARS発生時の米景気は、ITバブル崩壊後の後退局面から01年11月に拡大局面に転じており、米株価も02年10月10日を底に反発基調に入っていたため、悪材料を受けた下落余地が比較的限定されたとみられる。一方、足元の米景気は、09年央以降の長期拡大がいつ終わってもおかしくなく、米株価も最高値圏で推移している。新型肺炎の感染拡大が契機となり、米景気や米国株の調整が大きくなるリスクは、SARS流行時よりも大きいのである。

 (みずほ証券チーフ為替ストラテジスト 山本雅文)
山本雅文

最終更新:1月28日(火)6時01分

ダイヤモンド・オンライン

 

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