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茨城ではスタバもかなわない名店の圧倒的魅力

1月26日(日)5時30分配信 東洋経済オンライン

焙煎工場を併設した「サザコーヒー本店」(筆者撮影)
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焙煎工場を併設した「サザコーヒー本店」(筆者撮影)
 まだ公式に発表されていないが、「スターバックス コーヒー」の国内店舗数が、2019年のうちに「1500店」を超えた。喫茶店(カフェ)業界で初となる快挙だ。

■喫茶業界は「スターバックス1強」

 これまでほかの記事でも紹介してきたが、現在の同業界は「スタバ1強時代」。「スターバックス コーヒー」の国内店舗数は2位の「ドトールコーヒーショップ」に400店以上の差をつけ、運営会社・スターバックス コーヒー ジャパンの売上高は約1828億円(2018年度)。ドトールコーヒー(2019年3月期。約725億円)の2.5倍以上だ。
 1996年に日本に上陸して24年。アメリカから来た黒船は、今や地域の人気店だ。全国47都道府県に出店し、各地で親しまれている。看板商品のフラペチーノは20年近く人気が続く。東京都内では、江戸っ子の心のふるさと・浅草雷門脇に出店するなど進駐軍のような存在だが、独自の世界観を愛する人は多い。

 あえて、黒船や進駐軍と記したが、筆者は同社の活動を十数年取材し続け、ブランドイメージをほとんど落とさずに全国展開する取り組みはリスペクトしている。
 だが、どんな業界でも1社が突出しすぎると、中長期的には全体が衰退する。全国のカフェの中には、巨象・スタバの尻尾や足元に食らいつくような店もある。今回はその象徴的な存在を紹介し、中小企業が大企業に対抗する手法として考えたい。

 「サザコーヒー」という個人経営の店(個人店)がある。本店は茨城県ひたちなか市で、茨城県や東京都などに14店ある。コーヒー店開設は半世紀前の1969年という老舗だ。

 本拠地のひたちなか市では、同市内に2店あるスターバックスより人気が高い。JR水戸駅では駅ビルの中に双方の店があるが、サザの売り上げは時にスタバをしのぐ。近年のサザコーヒーはメディア露出が増えたが、とくに以下の「ヒト視点」が特徴だ。
(1) 2019年のJBC(バリスタ競技会)「ファイナリスト」6人のうち3人が所属
(2) 世界最高級のコーヒー豆「パナマ・ゲイシャ」を落札し続ける
(3) 参加・限定イベントで、独自の「コトづくり」を仕掛ける
(4) コロンビアで自社農園を20年以上運営、近年は品評会で入賞を果たす
 少し補足しよう。(1)のJBC(ジャパンバリスタチャンピオンシップ)で、サザのバリスタ3人(20代と30代)は3年連続で決勝進出者となった。ただし優勝はしていない。
 スターバックスのバリスタも2019年に初参戦したが、準決勝進出者に残れなかった。

 (2)の「パナマ・ゲイシャ」は、パナマ産・ゲイシャ豆で、語源は豆の発祥地・エチオピアのゲイシャ村から。近年はコンビニも同品種を扱うが、サザの豆とはレベルが違う。こうした高級コーヒー豆を入手できるのも、後述する親子2代にわたる人的交流の成果だ。

 (3)でも、国内外の競技会優勝者を含めた業界関係者や来店客と積極的に向き合う。
 その象徴が物件を紹介されて運営を始めた(4)だ。個人店が農園まで所有して味を追求する。

■半年以上続いた「カンブリア」効果

 2019年1月17日、テレビ東京系の経済番組「カンブリア宮殿」に、サザコーヒーの鈴木誉志男会長(創業者)と鈴木太郎副社長(長男)が出演した。個人喫茶店の登場はほとんど例がない。

 番組の反響はすごかった。もともと繁盛店の「サザコーヒー本店」には、さらにお客が殺到。1月28日に筆者が取材した際も、他県ナンバーのクルマがズラリと並んでいた。
 一方、それまで閑散としていた「サザコーヒーKITTE丸の内店」(東京駅前の商業施設「キッテ」)にも行列ができ、同店の売り上げは一時前年比5倍を記録。勢いは半年以上続いた。

 番組で「茨城のコーヒー王」と紹介された誉志男氏は、1970年代からコーヒー生産地に足を運び、良質の豆を買い付けてきた。食品のキーワード「トレーサビリティー(誰がつくっているか)」も早くから実践し、海外の農園主も茨城に呼んで交流を続ける。一方の太郎氏は、コロンビアの自社農園勤務を経て都内の店を軌道に乗せ、一風変わった仕掛けも行う。
 2019年6月15日、サザKITTE店で、『「パナマ・ゲイシャ ヌーヴォー」まつり』と呼ぶ試飲イベントが開催された。太郎氏が自ら産地で買い付けた高級豆を販売。来店客にも振る舞った。

 このイベントでは、先着7枚限定の「ゴールデンチケット」を用意した。さまざまなコーヒーオークションで優勝した希少豆が複数飲めるチケットで価格は1万5000円。高額に思えるが、提供する豆の価値からすれば格安で、チケットは開店して間もなく完売した。
 もともと太郎氏は、早くからゲイシャの魅力にとりつかれ、十数年、このコーヒー豆を購入してきた。価格が高騰しても落札を続けるのは、おいしさに加えて世界最高峰の農園技術を学ぶ思いもある。古参の国際審査員としても活動し、コーヒー豆の国際品評会「ベスト・オブ・パナマ」では、「最も有名な審査員」(業界関係者)と言われる存在だと聞く。

 「現在もゲイシャに特化したイベントを開催しますが、ここに来ると本物のゲイシャが買えるという日本人客や外国人客も多数来店され、手応えを感じています」(太郎氏)
 また、本記事発信後の2月3日(節分)には「サザコーヒー筑波大学アリアンサ店」(つくば市)で「コーヒー豆まき」を予定している。

 「節分にまく豆を調べると、地域によって大豆と落花生に分かれるが、とくに決まってもいない。それなら使えないコーヒー豆をまき、終了後は堆肥にしたいと考えました」(同)

 「コーヒーへの情熱と蘊蓄(うんちく)はすごい」(女性編集者)という同氏の行動は、柔軟で時に奔放だ。コーヒー豆まきは、スターバックスの関係者も興味を持っていた。
■テナント不振だった「大洗」で気を吐く

 茨城県大洗町に「大洗シーサイドステーション」という商業施設がある。旧施設名は「大洗アウトレットモール」だったが、テナントの退店が相次ぎ、一時は存続も危ぶまれた。

 施設内には「サザコーヒー大洗店」もある。東日本大震災後の津波で被災した同施設関係者に懇願されて出店後、人気店となったが、上記の理由で売り上げも下降していた。

 その苦境を脱した追い風が、当地が舞台の人気アニメ「ガールズ&パンツァー」(ガルパン)だ。戦車同士の模擬戦「戦車道」の全国大会で優勝を目指す女子高校生の物語でコアなファンも多い。かつて大洗はアンコウで知られたが、今やガルパンのほうが有名になった。
 太郎氏は、登場人物の1人「マリー様」がモンブランケーキを食べるシーンにヒントを得て、独自に製作した笠間栗のモンブランケーキで訴求。ツイッターでも情報発信を続けたところ人気が沸騰。これを食べるために、開店前から4時間待つ人もいたという。

 さまざまな取り組みをする太郎氏の活動は、父の誉志男氏譲り。かつては徳川慶喜家にちなんだ「徳川将軍珈琲」を開発し、看板商品に育て上げた。

 この商品は、江戸幕府15代将軍・徳川慶喜直系のひ孫で、コーヒー通の徳川慶朝氏(2017年死去)が太郎氏と一緒に豆を選び、サザで焙煎技術を学んで共同開発した。江戸幕末に飲まれたであろうフランス風珈琲を現代風に再現し、インドネシア・スマトラ島の最高級「マンデリン」を中心にブレンドしてある。焙煎は深煎り(フレンチロースト)だ。200グラム・1500円(税込み)のコーヒー豆が驚くほど売れる(数字は非公表)。
 大切なのは、奇想天外に見える一連の取り組みも「飲食」を追求していること。カフェ事業の軸足を踏まえ、“飛び地”ではないのだ。その思いを太郎氏はこう話す。

 「次の時代に生き残るには、おいしさだけではダメ。コーヒーの味は好みもあり、コンビニコーヒーで十分という人もいます。高級豆も価格のたたき合いになりかねません。おいしさを追求し、楽しめることを考えながら自社は変身する。そして業界全体を盛り上げたい」

 もう1つの同社の持ち味は、徹底的な試飲だ。昭和時代から折に触れて、高級コーヒーを惜しみなく振る舞う。「飲んでみないとわからない」からだが、地元ではサザコーヒーならぬタダコーヒーと呼ばれる。無料で飲んで、味が気に入った人は顧客になっていく。
■「茨城」と「東京」で、何を強みとするか

 表面上は順調に見えるサザコーヒーだが、筆者は「正念場」を迎えたと思う。

 近年は「茨城で有名な老舗店」が、「東京でも注目される店」となった。だが、スターバックスの100分の1の規模にすぎない。個人店のぬくもり感を訴求し続けるのが望ましい。

 創業者夫婦である誉志男氏が会長、妻の美知子氏が社長を務めるサザコーヒーは、昭和の「喫茶店マスターとママ」の出世頭。それでも本店でお客が殺到すると、夫婦そろってカウンターに入り、皿洗いに精を出す。常連客ほど、その行動をよく見ている。
 東京を中心に訴求する高級豆も正念場だ。長年の人脈や信用で入手してきた希少価値の「ゲイシャ」は、ますます競争が激化する。コーヒーは嗜好品なので、浅煎りで酸味が強いゲイシャの味を好まない人もいる。例えば昨年12月、かつて人気を呼んだシングルオリジン(単一銘柄)の「NOZY珈琲」(東京都)が自己破産した。消費者は時に移り気だ。

 それでもサザコーヒーの強みは、飲食の味と品質、そしてコーヒー愛を語る従業員の多いことだ。実は同社の人気バリスタにも引き抜きの声がかかるが、チームの結束は固い。バリスタ自ら生産地に出張して農園主や栽培者と向き合う「川上×川下」一体化も特徴だ。
 かつてドトールコーヒー創業者の鳥羽博道氏は、スターバックスのアメリカ本社幹部から「アジアの喫茶店の革命者」と評されたという。鳥羽氏がセルフカフェの「ドトールコーヒーショップ」を浸透させた功績は評価するが、日本の喫茶文化は、特定の人物ではなく、それぞれの時代の各店主やスタッフの創意工夫で発展してきた――と筆者は考えている。

 その意味でも、茨城と東京で奮闘する個人店の活動に引き続き注視していきたい。
高井 尚之 :経済ジャーナリスト、経営コンサルタント

最終更新:1月26日(日)5時30分

東洋経済オンライン

 

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