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中韓鉄道メーカー、「欧州本格展開」への高い壁

1月25日(土)6時10分配信 東洋経済オンライン

中国中車にとって初めての欧州向け車両となる、ハンブルクSバーン向けハイブリッド式入換用機関車。これを足がかりに欧州への進出が果たせるか(筆者撮影)
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中国中車にとって初めての欧州向け車両となる、ハンブルクSバーン向けハイブリッド式入換用機関車。これを足がかりに欧州への進出が果たせるか(筆者撮影)
 オーストリアの民間鉄道会社ウェストバーンは2019年10月30日、現行車両の置き換え用車両について、スイスの鉄道車両メーカー、シュタドラーと再契約したことを発表した。新しい契約では、6両編成15本の製造だけではなく、メンテナンスを含んだ契約となっており、その総額は3億ユーロ(約365億円)となった。

2019年5月18日付の記事(「中国製」に食指、ヨーロッパ新興鉄道の思惑)で既報のとおり、ウェストバーンは世界最大の鉄道車両メーカーである中国中車(CRRC)と交渉を行っていることが報じられたが、同社は最終的にシュタドラーを選択、中国中車は失注してしまった。
■ビッグ3をあっさり抜いた中国

 鉄道先進国がずらりと並ぶ欧州では、各国それぞれに本拠地を構える鉄道車両メーカーが国鉄と手を組んで、鉄道車両の研究開発および製造を行ってきた。しかし1990年代以降、主導権はメーカーが握る方向へシフトし、各鉄道会社は複数のメーカーから提案された仕様を比較検討して最適なメーカーと契約する、というスタイルが主流となった。

 この流れに伴って業界の再編が加速し、より力を持ったメーカーによって各国の小規模メーカーは次々と吸収合併されていった。業界での生存競争は、そのまま国力の差としてはっきりと表れ、いつしかドイツを拠点とするシーメンスとボンバルディア、フランスを拠点とするアルストムが、鉄道業界のビッグ3と呼ばれる時代になった。
 ビッグ3は欧州のみならず、世界においてその存在感を示し、鉄道車両のメーカー別シェアは、一時期3社の合計が過半数を超えたこともあった。

 だが、そのビッグ3も長くは続かなかった。他国の技術を吸収し、自国の高速鉄道建設ラッシュに乗じて売り上げを伸ばした中国メーカー2社が、ほとんど自国向けの生産だけだったにもかかわらず、あっさりとビッグ3をシェアで抜いてしまったのだ。

 さらに2015年には、その中国メーカー2社が合併、中国中車というモンスター企業が誕生することになった。しかしアジアのメーカーには1つの壁があった。高い技術力が要求される、欧州市場への参入である。
 数字だけを見れば、今や中国中車は欧州系メーカーを完全に凌駕する売上高を誇る。ただ、それは全体の90%以上を占める国内需要によるもので、他国、とりわけ欧州で評価を得て、世界全体で売り上げが高まったわけではない。

 中国は、要求水準が高い欧州での評価に価値があることを理解しており、売り込みに必死だ。同社は、オーストリアのウィーンに欧州拠点を置いて営業活動を続けており、ベルリンで2018年に開催されたイノトランス(国際鉄道見本市)では、これまでアジアメーカーとしてはなかった車両展示を初めて実現させるなど、積極的な営業活動を行っている。
 展示されたのは2両で、1両は同社の念願だった欧州向け鉄道車両の第1号であるハンブルクSバーン向けハイブリッド式入換用機関車、もう1両は参考出品で持ち込まれたカーボン製車体のコンセプト車両CETROVOだ。両車は会場で最も注目を集めた展示車両だったのは間違いなかった。

■技術力アピールに努力

 その後、同社は欧州のTSI(The Technical Specifications for Interoperability/相互運用性の技術仕様)に準拠した新型電気機関車バイソン(BISON)を開発、試作した機関車2両をハンガリーの貨物運行会社レイルカーゴ・ハンガリーへ4年間リースする契約を交わしている。
 この契約には、期間中のフルメンテナンスの費用なども含まれており、試運転を兼ねたリース期間中の開発費用は中国中車が負担する。契約期間満了後はリースを延長するか、鉄道会社側がそのまま車両を買い取るかの選択が可能で、20両の追加発注オプションも含まれているという。

 ここまで手厚いサポートをする目的は、同社の技術力を欧州各国に認知してもらうことにほかならないだろう。同社はその間にもドイツ・フォスロー社の入れ換え用機関車部門を買収するなど、欧州での地盤を着実に固めてきた。
 だからこそ、今回のウェストバーン車両更新案件の失注は、同社にとってことのほか残念だったに違いない。

 アジアのメーカーは、なにも中国中車だけではない。日本のお隣、韓国のヒュンダイ・ロテムも、世界シェアでは日立に次ぐ7位に位置する業界大手だ。同社は中国中車と同様、自国向け車両を中心に、南北アメリカやオーストラリア、アジア諸国へ車両を供給してきた。

 欧州ではそれほど多くの実績はないが、EU加盟国ではないものの、比較的実績が多いのがトルコだ。路面電車や近郊電車などの旅客用車両に加え、2010年には汎用電気機関車を80両受注し、2015年から順次納入している。
 ほかには2005年にアイルランドの近郊用気動車、2009年にギリシャのアテネ地下鉄向け車両、2010年にウクライナ向けインターシティ車両などの受注があったが、これまではいずれも小規模な案件ばかりだった。

■欧州初の大型案件を獲得

 ところが2019年2月8日、ポーランドのワルシャワ市交通局が低床式路面電車213本(オプション契約分を含む)の優先入札者にヒュンダイ・ロテムを指名したと発表、6月に正式契約を結んだ。落札額は18億5200万ズウォティ(約533億円)で、一部にEUから調達した資金が使用される。
 共に争っていたペサ(ポーランド)、およびシュタドラー(スイス)/ソラリス(ポーランド、現在はスペインCAF傘下)のコンソーシアムは、いずれも交通局側の想定する予算額をクリアできなかった。

 ワルシャワ市交通局では、もともと2017年8月に行われた入札で、チェコのシュコダが最高得点を獲得したものの、交通局が定める予算額を上回る金額(予算上限23億ズウォティに対し3億8700万ズウォティのオーバー)だったことから、この入札はキャンセルされ、2018年9月に再入札が行われていた。
 ワルシャワ市交通局の発注数は、85本の33m両運転台仕様と18本の33m片運転台仕様、それに20本の24m片運転台仕様の3タイプ合計123本で、33m車は90本のオプション付きだ。

 まず2022年10月末までに123本が納入される予定で、交通局は状況を見ながらオプションを行使するかどうか決定するとしている。今回のワルシャワ市交通局との供給契約は、ヒュンダイ・ロテムにとって欧州初の大型案件獲得だったと言っても過言ではないだろう。
 日本も、多くのメーカーは中韓と同様、これまでは一部のアメリカ向けやアジア向けを除いてほぼ国内需要に終始していたが、日立はあえて欧州へ渡り、技術力と信頼性を武器として徐々に評価を高めていった。

 最初はイギリスに進出し、その後イタリアのアンサルドブレダ社を買収して大陸側にも工場を持ったことで、欧州で確固たる地位を築きつつある。イギリスのEU離脱問題についても、イギリス側と大陸側の両方に工場を持つ同社は影響を最小限に抑えられるだろう。
 では中韓メーカーが、鉄道先進地域である欧州市場へさらなる進出を果たすために、何が必要となってくるのか。

 当然だが、これまで欧州系メーカーが納入してきた車両と同水準の技術と信頼性がなければ話にならない。だが客観的に見て、中国や韓国といった、日本以外のアジア系メーカーの車両や部品の精度、および技術力や信頼性については、現状ではまだ日欧メーカーの域に達していない。

■「安さ」以外に売りを磨けるか

 唯一勝っているのは価格だ。日欧メーカーよりかなり格安であることから、現時点で市場へ入り込む隙があるとすれば、低予算でしか車両の調達ができない経済基盤の弱い国や会社へ売り込むということになる。
 ワルシャワのケースがまさにこれで、欧州では比較的価格が安いとされる中欧メーカーのシュコダやペサ、ソラリスすら価格面でかなわなかった。中国中車が狙っていたウェストバーンの案件も、あと一歩で受注を獲得できるというところまで到達した。

 ただ、こう言えば中韓の両メーカーからは心外だと抗議されるかもしれないが、これまで欧州の各鉄道事業者が本格的に採用していない、という点に、現状での両社の製品に対する認識が現れている。
 両社が欧州市場へ進出するためには、これまで欧州や日本のメーカーが何十年もかけて積み重ねてきたのと同じだけの努力を必要とする。技術力も信頼性も、一朝一夕で身に付くものではない。

 とはいえ、とりわけ中国中車は他国の技術をうまく吸収し、急激な成長を遂げている途上で、しかも今では約3万kmにも及ぶ高速鉄道網へ車両を供給するメーカーとなった。この世界最大の高速鉄道網で、毎日得られる膨大な量のデータや、それに基づく知識や経験は、やがて彼らの技術力および信頼性向上の大きな糧となることは間違いない。
日欧メーカーは、現状に満足してあぐらをかいていれば、彼らが競争力を付けてきた際に追い越される可能性も否定できない、ということを肝に銘じなければならない。
橋爪 智之 :欧州鉄道フォトライター

最終更新:1月25日(土)6時10分

東洋経済オンライン

 

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