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麻生氏「単一民族」発言がONE TEAMとは遠い訳

1月25日(土)7時50分配信 東洋経済オンライン

副総理の発言として適切と言えるのだろうか(写真:アフロ/AP、撮影:尾形文繁)
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副総理の発言として適切と言えるのだろうか(写真:アフロ/AP、撮影:尾形文繁)
 ラグビー・トップリーグが盛り上がっている。1月18日に行われた第2節「トヨタ自動車―パナソニック戦」では観客数が3万7050人を記録。トップリーグ史上最多の数字だそうだ。

 そんな中、麻生太郎氏がラグビーを引き合いに出しながらある失言をしたという。どういうことなのか。

 昨年はワールドカップが開催され、日本代表は悲願の決勝トーナメント進出を果たした(そのスコットランド戦のテレビ視聴率は瞬間最高で53.7%を記録)。日本人の多くは今回のワールドカップを通じて初めてラグビーの魅力に気づかされたのではないだろうか。
 かく言う筆者もにわかファンの1人だ。屈強な選手たちが全力でぶつかり合う迫力に魅せられたし、試合終了の笛が鳴れば敵味方なく讃え合う爽やかな精神にも引かれた。何より日本代表の強さと多彩な試合展開にワクワクした。トップリーグのシーズン中に1度は試合に足を運びたいし、次のワールドカップ・フランス大会はチャンスがあればぜひ現地で観戦してみたいとさえ思う。

■ラグビー日本代表に見た“新しい日本”

 2019年の年間流行語大賞には、ラグビー日本代表が掲げていた「ONE TEAM(ワンチーム)」が選ばれた。日本、韓国、ニュージーランド、オーストラリア、トンガ、サモア、南アフリカ共和国……。昨年のラグビー日本代表は招集された31人のうち、実に15人が海外にルーツのある選手だったからだ。
 キャプテンのリーチ・マイケル選手は、外国人選手もチームになじめるように、合宿の合間に、君が代の歌詞にもある“さざれ石”をチーム全員で見学しに行ったり、日本の歴史を勉強するなど、日本の文化を土台に「ワンチーム」になろうとしていたという。

 リーチ選手と交替でキャプテンを務め、決勝トーナメントでは母国・南アと対戦することになったピーター・ラブスカフニ選手は記者会見でこう断言した。

 「(私は)日本国民を愛しており、ここが新しい故郷。日本のみなさんに(われわれ日本代表を)誇らしく思ってほしい」
 このラブスカフニ選手の発言やラグビー日本代表の姿に、多くの人が多様性を認め合いながらバージョンアップしていく“新しい日本”を見たはずだ。

 一方で、ラグビーの話を引き合いに出しながらも、残念な発言をした政治家がいる。麻生太郎副総理兼財務大臣だ。1月13日に地元・福岡県の直方市で開かれた国政報告会でのことだ。

 「(日本代表選手の出身国は)ニュージーランド、韓国とか、どこか、いろいろな国がある。結果的にワンチームで日本がまとまってるでしょ。ぐおーんとやって勝ったわけ。『勝てっこない』と言われて(いる中で)勝って……、そして昨日からまたラグビーが始まったよ。観客動員数、今までの倍。いいことじゃないですか」
 トップリーグの観客が増えていることに触れ、続けて、外国にルーツを持つ選手たちの話になった。

 「インターナショナルになりながら、きちんと日本(代表)は日本を大事にし、日本の文化を大事にし、日本語をしゃべる。そしてお互いにがんばろう、ワンチーム。日本はすげーというのでやって、それで世界のベスト8に残った。いいことですよ。私はそういった意味では、ぜひ日本という国がこれからもインターナショナルな世界の中で、堂々と存在感を発揮して、やっぱり日本という国は偉ぇ……」
 この部分はほとんど同意できる。だが、問題とされているのは、以下の部分だ。

 「……やっぱり日本という国は偉ぇ。2000年の長きにわたって1つの国で、1つの場所で、1つの言葉で、1つの民族、1つの天皇という王朝、126代の長きにわたって1つの王朝が続いているなんていう国はここしかありません」

 古代史を学べば日本各地に大和民族以外の部族がいたことは明らかだし、その大和民族も文化人類学的に見れば北方や南方、さまざまなルーツの人たちの混血であることは母系DNAの研究からも明らかになっている。また、海外にルーツがある日本人も多いし、今や日本には300万人に迫るほどの外国人が暮らしている。
■飲み屋の会話レベルではスルーされるかもしれないが

 正直、日本民族単一論というのは、飲み屋の会話レベルではスルーされてしまうような話かもしれないが、現実を見れば決してそんなことはなく、すでに多くの外国人を受け入れている国の副総理の発言としてはいかがなものだろうか、と思うのである。

 それぞれの個性や多様性を認めながらワンチームになれた日本代表が「すげー」のであって、“日本すげー”の着地点を閉鎖的なファンタジーと結びつけてはいけない。まったく逆の話だ。
 私事になるが、筆者は大学生のときにニュージーランドにいたことがあって、ちょうどそのときにパブのテレビでラグビー日本代表対オールブラックスの試合を見たことを覚えている。

 1995年6月のその試合は、第3回ワールドカップの予選で、日本は17対145という歴史的な大敗を喫した。試合が行われた南アの街の名前をとって“ブルームフォンテーンの悲劇”と呼ばれているそうだが、店中のニュージーランド人に肩をたたかれて慰められたのは今となってはいい思い出だ。
 だが、この四半世紀で、日本代表は劇的に強くなった。皮肉なようだが、この四半世紀で弱体化した日本経済とは逆のベクトルだ。

■劇的にバージョンアップする日本

 日本代表が強くなったのは、海外にルーツを持つ選手と日本人選手が互いの長所を引き出しながら「ワンチーム」としてうまく融合したからだろう。

 ラグビーはほかの多くのスポーツが採用する「国籍主義」ではなく「協会主義」を採用している。ちなみに、以下のいずれかの条件を満たせば、その国の代表選手になれる。
①本人が当該国で生まれている
②両親、または祖父母のうち1人が当該国で生まれている
③本人が当該国に3年間以上住み続けている(2020年からは「5年間以上」に変更)
 ラブスカフニ選手は、2015年にイングランドで開かれたワールドカップでの日本の闘いに魅了されて日本に来たのだという。これからの日本が目指すべきは、ラグビー日本代表のように魅力を海外にどんどんと発信して、「日本で勉強したい」「日本で働きたい」と思った外国人たちが暮らしやすいような環境を整えることではないだろうか。
 日本の将来にとって、何より大切なのは、外国人と日本人が互いに歩み寄り、「ワンチーム」としてよりよい日本を作っていくことではないだろうか。

 もちろんチームが1つになる過程ではいろいろな摩擦が起こるだろうし、戦前の全体主義や国粋主義、言語統制のようなあり方と結びつけてもいけない。

 そのためにはさまざまな法整備をしていく必要がある。このあたりのことは拙著『となりの外国人』にも詳しく書いたが、多くの失踪者を出している技能実習制度は、制度の存続を含めてまだまだ議論が必要に思えるし、外国人や外国にルーツのある人たちの教育の問題もある。
 でも、大きな可能性があるように思えてならない。筆者自身、これからも、「となりの外国人」との関わり方を考えていきたいと思うし、ラグビー日本代表と同じように多文化共生の力で劇的にバージョンアップした日本も見てみたい。
芹澤 健介 :ライター、編集者、構成作家

最終更新:1月25日(土)7時50分

東洋経済オンライン

 

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