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新幹線に近鉄…座席で喫煙できる列車が消える

1月23日(木)5時05分配信 東洋経済オンライン

新幹線N700系の喫煙ルーム(写真:時事)
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新幹線N700系の喫煙ルーム(写真:時事)
 「すいません、ちょっとたばこを吸ってもいいですか?」

 見知らぬ人から「気遣い」とも言える言葉を聞かなくなったのはいつだろう? 

 筆者はたばこを吸わないので気づかなかったが、最近、喫煙可能な公共の場所がずいぶん少なくなった。鉄道の世界もしかりで、ここ30年くらいで駅での禁煙が当然のこととなり、喫煙可能な列車は激減して列車内の禁煙は当たり前となった。

 新幹線をはじめとする特急列車でも、座席でたばこを吸うことができる喫煙車両は次々と消え、東海道新幹線では700系の引退により喫煙車両がなくなるほか、大手私鉄でも近畿日本鉄道で喫煙車両の設定をやめることになり、国内から喫煙車両が消えるといっていいだろう。
■近鉄で喫煙室の設置が一気に進む

 近鉄では、2020年2月1日から特急列車の座席はすべて禁煙となり、喫煙が許された車両の座席に座って一服することができなくなる。といっても、列車の中でたばこが吸えなくなるわけでなく、列車の中に喫煙室があるので、そこに行って吸えばいいわけだ。

 東海道・山陽・九州新幹線でも喫煙ルーム付きの列車があるが、近鉄では2003年から名古屋と大阪の間(現在の近鉄名古屋―大阪難波間)で営業運転に就いた“アーバンライナーNext”という車両(21020系)から座席を禁煙にして喫煙室を設けている。この車両を手始めに、ほかの車両もリニューアルに際して喫煙室の設置が進められ、2015年からは汎用特急と呼ばれるオレンジと紺色の車両にも喫煙室の設置が一気に進んだ。
 近鉄の特急で喫煙室がないのは大阪阿部野橋・吉野間の観光特急「青の交響曲(シンフォニー)」くらいで、最新型の「ひのとり」(80000系)でも喫煙室を設けるという徹底ぶりだ。

 ちなみに、汎用特急に喫煙室の設置が始まった頃から近鉄特急の塗り替えも行われたが、喫煙室の取り付けと塗り替えの順序がバラバラで、近鉄電車好きの間では、「この車両は新塗装に塗り替えたのに、喫煙室がない」など、都度話題にして盛り上がったものだ。喫煙室の設置と塗り替えが終わったのが2019年のことで、先に喫煙室の設置が完了した大阪阿部野橋・吉野間の特急については2016年6月20日から全席禁煙で運用されている。
 さて、近鉄の場合では、喫煙室ですら地下区間の大阪難波―大阪上本町間や近鉄奈良・近鉄名古屋といった地下駅、大阪上本町・京都・大阪阿部野橋の停車中にはたばこを吸うことができなくなる。愛煙家から見れば何のための喫煙室か? と考えたくなるが、これは健康増進法という法律の改正が根拠になっている。

■健康増進法の改正が契機に

 健康増進法は、2018年7月に一部を改正する法律が成立し、2020年4月1日から全面的に施行されることになっている。望まない受動喫煙の防止を図るというのが趣旨で、たばこの煙で健康被害を及ぼさないように、大勢の人が利用する施設で受動喫煙対策を強化するものだ。
 厚生労働省の受動喫煙対策のサイトが詳しいが、改正健康増進法では、鉄道は原則屋内禁煙となり、「喫煙のみの喫煙専用室内」でのみ喫煙が可能となる。これを近鉄のケースに当てはめると、列車内の喫煙室で喫煙が可能だが、地下区間や地下駅・屋根で覆われた駅は屋内の扱いとなるので喫煙ができないということになる。

 列車内に喫煙室があるではないか? と不思議に思う人もいるだろうが、駅や地下区間に列車内の喫煙室から排出された煙が出るというので、喫煙室があっても喫煙できない、ということであろう。
 JRでは先の新幹線のほか、在来線ではJR四国の特急電車(8000系)や関西空港に向かうJR西日本の「はるか」(281系)で喫煙室を設けたこともあったが、時勢の流れで喫煙室を廃止している。近鉄で「たばこが吸える列車」が喫煙室の形で辛うじて残ったのは、愛煙家の利用が根強くあることが根底にあるようだ。

 今でこそ禁煙が当たり前となったが、昔はたばこが吸えるほうが当たり前で、鉄道では禁煙車が設定されて分煙化が始まり、時代が進むにつれて禁煙車の割合が増えていった。国鉄・JRでは1976年8月から東海道・山陽新幹線の「こだま」で禁煙車が導入されて、1980年に「ひかり」にも拡大、その後は在来線の列車にも拡大していった。
 ちなみに、喫煙室は大正時代に作られた寝台車や食堂車で見られるので、歴史はもっと長い。

 分煙になったことで、喫煙できる車両に愛煙家が集まったのだが、たばこの煙は愛煙家ですら敬遠したがるというくらいで、喫煙車両だけたばこの煙で車内が曇っていたのを覚えていらっしゃる方もいるのではないだろうか。JRをはじめとする各鉄道会社でも、喫煙車両に空気清浄機を設置するなどの対応を行っていたが、同時期に喫煙車両の設定自体をやめて全面禁煙とする流れとなっている。
■意匠と思ったら「ヤニ汚れ」

 全面禁煙としたのを嫌煙家としては歓迎するべきかもしれないが、ここで困ったのがヤニの臭いだ。禁煙車と喫煙車両の車内を比べると、喫煙車両では内装が薄茶色となっていたことが多く、これがデザインかと思いきや、実はヤニ汚れだったという笑えない話もある。

 ヤニ汚れは清掃すれば消えるが、元がたばこの煙である以上、細部まで染み込んでしまうのが実情で、列車を全面禁煙にしたにもかかわらず、車内に染みついたヤニの臭いが苦情の種となる。ある鉄道会社では、内装をいったん剥がしてまで徹底した清掃を行ったが、完全にヤニ汚れが取り切れなかったようで、かすかな臭いで苦情になってしまったという。
 先の近鉄では、喫煙室の設置や新塗装への塗り替えの対象にならなかった車両(12200系)があり、全面禁煙後も使用されて一部の車両は喫煙車両だったものを禁煙車として使用することになるが、喫煙席として使用していた車両は2020年3月中旬までに順次整備を行う予定で、それまでは切符の発売をしないという。整備をした後も、先の「ひのとり」80000系の導入によって2020年度までに引退が予定されている。

 たばこを吸わない筆者のような人間でも、昔はたばことの関わりがあって、アルバイト先で先輩のたばこを買いに行ったり、先輩や同僚が使った灰皿を掃除したりすることが自然だったと思っている。だが、同じアルバイト先の後輩は、「たばこが嫌いでたまらず、灰皿の掃除など考えられない」と話していた。たばことの関わり方は人それぞれだが、「ちょっと一服」が相当やりづらい時代になったことは確かであろう。
柴田 東吾 :鉄道趣味ライター

最終更新:1月23日(木)5時05分

東洋経済オンライン

 

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