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「英語力」は入社後の環境と努力で何とでもなる

1月22日(水)9時01分配信 東洋経済オンライン

英弘精機が製造する気象計測機器は世界中で使われている。広帯域分光放射計でシェアトップのグローバル企業だが、入社前の英語力はあえて問わない(写真:英弘精機)
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英弘精機が製造する気象計測機器は世界中で使われている。広帯域分光放射計でシェアトップのグローバル企業だが、入社前の英語力はあえて問わない(写真:英弘精機)
 英語が得意でなくても、将来英語を使って仕事をしたり、海外で働いてみたりしたい、という学生は少なくない。こうした学生は就活を始めてから「英語だけでも勉強しておけばよかった」「留学すればよかった」と後悔し、結局はグローバル企業を受けることを諦めてしまう事が多い。

 しかし、学生時代の英語力が低いと、グローバル企業に入社できないのだろうか。たとえ入社したとしても、グローバルな業務を担当することはできないのだろうか。
 今回は英語力に関係なく新卒採用し、社員をグローバルなビジネスマンに育てあげている英弘精機について、就活間近の学生3人が取材した。

■TOEICのスコアは採用基準に入っていない

 英弘精機は太陽の日射を計測する「日射計」、赤外放射や紫外放射を計測する「放射計」などの気象計測機器を、製造・販売している。ニッチな分野だが、世界シェアトップの企業だ。アメリカの気象庁にあたるアメリカ海洋大気庁(NOAA)に日射計が納入されているのをはじめ、気象計測機器は世界中で使用されている。
 近年では太陽光発電分野にも注力しており、太陽光発電パネルの発電効率や動作状況を評価する機器の開発などにも取り組んでいる。こうした機器の需要は世界中で高まるばかり。英弘精機はオランダや香港、インドに拠点を抱えるグローバル企業なのである。

 英弘精機では新卒採用時に英会話の堪能な学生を採用しているわけではない。TOEICのスコアは採用基準に入っていない。が、ほとんどの社員が日常的に英語を使い、仕事をしている。留学経験もなければ、英語が得意でもない学生を、いかにグローバル人材に育成しているのか。取材したのは、就職活動を控えた明治大学政治経済学部3年の杉森奈々子さん、同大学商学部3年の大亀雅秀さん、同じく商学部3年の松元誠悟さんだ。
 社内で英会話クラスを開講したのは2010年。週に1回で2時間、定員6人の少人数クラスだ。基本的な日常会話を学ぶ初級クラスと、実践的なビジネス英会話を学ぶ中級クラスとの2クラスで構成されている。授業を担当しているのはネイティブの講師である。

 新入社員は全員が受講することになっているが、そのほかの社員に関しては希望者を対象としているため、受講者のモチベーションは高い。講師は生徒の目的、希望を酌んだカリキュラムを作成しているが、とくに目新しい内容ではない。
 まず、英語教育への取り組みについて、英弘精機の長谷川壽一社長を学生3人が直撃した。

 松元:社内に英会話クラスを開講する契機は何だったのでしょうか。

 長谷川社長:海外との取引が増えていくにつれ、このままではまずいな、と思ったのがきっかけでした。英語力向上そのものを目的としたのではなく、英語を学ぶきっかけ作りとして位置づけていました。

 杉森:社員の英語力はどのように伸びていったのですか。

 長谷川社長:週1回の英会話のクラスでは完全に話せるようになりません。だから仕事に対して興味を持ってもらい、その仕事の中で英語力を高めることが必要です。英語を使わなくてはいけない状況がないと、一生懸命学ぼうという姿勢は生まれません。スポーツと同様、現場という試合に出るようになり初めて、緊張感の中で自然と実力がついていくのです。
 学生記者たちは、英弘精機の社内でスパルタ式か、何か特別なレッスンが行われていることを想定していたが、そうでなかった。社内グローバル化が成功した要因は、英会話クラスを始めとした社員研修だけではなかったのだ。

 実践する現場があってこそ、初めて自分のものになる。「やらなくては」という危機感があってこそ、英語の実力がアップする。英弘精機は強制ではなく、社員が英語を自然と勉強する雰囲気を作り出している。

 そこで、実際に働いている現場社員の声を知るべく、インタビューした。
■「今やらないとマズい」がモチベーションに

 最初に話を聞いたのは、入社6年目で海外営業部の男性社員Aさんだ。海外支社の販売・広報支援や製品の不具合への対応、海外支社社員や関係者の来日対応などで、日常的に英語を使っている。同期の社員からも頼りにされるほど英語力が高い。

 実はAさんは法学部出身で、大学時代に英語を熱心に学んでいたわけではなく、TOEICを受けたこともなかったと言う。ではどのようにして、実践的な高い英語力を身に付けていったのか。
 松元:普段はどのような場面で英語を使われていますか。

 A:メールのやり取りや資料の作成などの場面が多いですね。メールは日によりますが、1日必ず10通はやり取りをしています。多いときは30~40通になります。そのほか、取扱説明書のない製品の英文資料を作成したり、海外支社社員が来日したときはその対応をしたりします。トラブル対応の際には、電話やスカイプで会議をすることもあります。

 大亀:英会話クラスのほかに個人的にどのような勉強をされていますか。
 A:英会話クラスの復習として、授業中に習った使えそうなフレーズを何度も反復し、それを業務の中に活用しています。そのほかオンライン英会話を毎日続けています。1回25分ですが、2年間続けた結果、だいぶコミュニケーションが取れるようになってきたと感じています。オンライン英会話の中で、業務で使う英文資料の添削をしてもらうこともあります。

 杉森:精密機器メーカーとして、普通の英語学習にはないような専門用語が多いと思いますが、その習得はどうされていますか。
 A:取扱説明書の日本文と英文を照らし合わせて、単語を確認して覚えました。会社から特別な支援があるというわけではなく、どの社員も自分で工夫しながら勉強していると思います。

 杉森:かなり勉強されていますが、継続して英語を学習するモチベーションは何でしょうか。

 A:とにかく「今やらないとマズい」という気持ちです。業務中に英語を使わなくてはいけない場面が多いので、危機感を持って勉強しています。アウトプットする環境があったからこそ、英語力が定着していったということです。
 大亀:今まで英語を使った業務の中で会心のものは何ですか。

 A:2019年10月にオーストラリアで大規模な太陽光発電システムを納入しました。製品の取引だけでなく、現場への設置も担当したので、大きな仕事でしたね。かなり前から仕様について細かく打ち合わせており、入社当時から比べると、格段に英語力が向上したと思いました。

 次に話を聞いたのは、国内営業を担当する入社5年目のBさん。大学での専攻は生命科学だった。Bさんは自社で生産している製品と海外メーカーからの輸入製品を国内販売する業務を担っている。国内営業担当ではあるものの、海外メーカーと頻繁に英語でやり取りしなくてはならない。
 Bさんも学生時代に英語の勉強に力を入れていなかったし、海外旅行すら行ったことがなかった。そもそも英弘精機がグローバル展開しているから入社したのではなく、太陽光発電などの新エネルギーに興味を持って入社したのだった。

 杉森:国内営業ですが、どのような場面で英語を使いますか。

 B:英弘精機は日本における販売代理店になっているので、海外メーカーとのやり取りが多いです。基本的にはメールで、製品仕様の打ち合わせをしたり、在庫の確認をしています。日本国内のお客さんの質問を英訳して海外メーカーへ提出、回答の英文を和訳するといったこともします。
松元:実際に外国人と話す機
会はありますか。

 B:海外支社の社員も参加する社員集会では英語でプレゼンします。また、仕入先の海外メーカーの社員が来日したときは食事の時間も含めて、英語で長時間アテンドします。

 最近、海外出張に初めて1人で行ってきました。ドイツに24か国、30近くの代理店やメーカーが集まり、報告や発表をしましたが、すべて英語で対応しました。英語でコミュニケーションするとはいっても、ビジネスの場合は話すテーマが明確ですし、使用する用語もある程度決まっているので、それほど困難ではありません。むしろ日常生活での会話のほうが難しいかもしれません。
 杉森:社内の英会話クラス以外に、どのような勉強をされましたか。

 B:とくに追加で勉強はしていません。英会話クラスは過去に2回受講していますが、あとは仕事をしながら覚えています。専門的な言い回しや単語に関しては、製品のマニュアルなどから習得しています。中学時代の英文法の教科書を読み返すといった感じの勉強はしていません。

 杉森:これまでで大きな仕事はどのようなものですか。

 B:最近ある大学の研究室に海外メーカーが製造した高機能の検査機器を販売することができました。大学に対して詳細な説明が必要だったので、海外メーカーと頻繁にメールで連絡し合い、製品仕様を詰めました。販売金額が数億円規模の大きな仕事でした。
■英語は業務を通じて覚えるのが一番

 最後に話を聞いたのは開発担当のCさん。入社6年目で前出のAさんと同期入社だ。大学生時代は農学部に所属し、気象計測機器を利用していたことから、英弘精機になじみがあったという。大学院では理学部へ進み、現在は気象計測機器の開発部門に所属している。新製品の開発や試作機の評価が主な業務である。Cさんも入社するまでは海外に行ったことがなく、とくに英語の勉強に力を入れた経験もなかった。
 松元:開発だとあまり英語を使うイメージがないのですが、実際業務で使うことはあるのですか。

 C:弊社の製品の多くは海外向けなので英語は必要です。海外支社との連絡は英文メールですが、会話が行き詰まった際や緊急事態が発生した際には、スカイプを使用して英語でやり取りします。

 杉森:英語は入社してからの学習で身に付けたのですか。

 C:そうです。社内の英会話クラスにも参加しています。ただ業務を通じて覚えるのがいちばん有効だと思います。専門的な用語などもありますからね。英会話クラス以外に、自費でオンライン英会話を月8回コースで続けていますが、あくまでサポート的な位置づけです。語学力向上のために意識していることは、目の前の業務に全力で取り組むことです。
 松元:Cさんにとって会社内の英会話クラスはどう役立っていますか。

 C:基本的なことはそこで学びます。そのほかはモチベーション維持です。教室で同僚たちのレベルの高さを見ると、頑張らなくてはならないと思います。同期のAさんもかなり努力したのだろうと思います。もう通訳くらいできるレベルになっているかもしれません。

 大亀:日頃からかなり努力されているようですが、その努力が大きな成果につながったことはありますか。
 C:入社してからずっと携わっていた製品が最近ようやく世に出たことですね。製品企画や試験をずっとやってきていました。英語で仕様を決めなければならないことなどもあって、結構苦労しました。しかし、努力を継続していると語学を含めて、できることが増えてくるので、やりがいを感じます。

■他社からのヘッドハンティングも多い

 英弘精機の入社選考では、TOEICのスコアは関係ないし、逆に英語能力だけをPRするような学生は採用しない。入社後にTOEICのスコア上昇を義務づけることもないし、高スコア獲得による報奨金制度もない。英語に関してムチもアメもないのだ。総務担当者は「自然に英語を頑張る環境がありますし、先輩が後輩にていねいに教える社風です」という。
 また、海外営業にいきなり1人で行く、ということはない。まずは海外拠点や仕入先の海外メーカーの展示会や研修会に参加する。ここで英語も含めた経験を積み、業務全般を担当できるようになってから、海外営業を担う。英語学習は自主性が重んじられているものの、業務に関しては育成のためのプロセスがある。

 今回、社長以外の社員の氏名を掲載しなかったのは、最近他社からのヘッドハンティング攻勢が激しくなっているからだ。記事に氏名が出ると、他社から強引な転職勧誘が行われる可能性があるため、顔写真も掲載しなかった。ヘッドハンティングが多いということは、英弘精機が優秀なグローバル人材を育成している証明でもある。
 入社試験においてTOEICスコアで足切りをしたり、入社後は強制的に英語研修を課す企業が少なくない。だが、長谷川社長は「英語を使って仕事をしたい人ではなく、科学に関心があり弊社の業務に興味がある人を採用したい」という。業務が重要なのであって、英語は業務遂行のための道具にすぎない。大学に入学する英語力があれば、あとは環境と努力で何とかなるようだ。

 グローバル企業といってもいろいろな企業がある。もし、入社したいグローバル企業があるのならば、現在の英語力や留学歴の有無を気にすることなく、チャレンジすべきだろう。
田宮 寛之 :東洋経済 記者

最終更新:1月22日(水)9時01分

東洋経済オンライン

 

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