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2020年、この「不安定な株式相場」を見抜くヒント

1月20日(月)8時00分配信 マネー現代

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(文 小出 フィッシャー 美奈) ----------
相場の予想は、たとえプロであっても難しい。見えない未来ー不確実性とリスクーを前にして、投資家たちは一体どのように考え、行動に移すのが正解なのか? 米国の投資運用会社で働いた経験があり、『マネーの代理人たち』の著書もある小出・フィッシャー・美奈氏による、2020年の不安定な株式相場をとらえるヒント。
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「未来」を見る方法

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 年末年始には「新年の株価大胆予想」というのが、沢山出てくる。

 今年はオリンピック・イヤーでもあり、強気予想の方が多い。

 テクニカルには昨年からの流れに乗って日経平均が2万6000円程度まで上がるという見方が平均的のようで、中には3万円近くまで上がるという強気派もいる。

 もちろん2万円以下に下がるという弱気派もいるが、どちらかというと少数派のようだ。

 でも、昨年も年明けすぐの2万円割れを予想できた専門家は少なかった。今年も年明け早々から中東情勢を受けて市場は不安定だ。

 筆者のささやかな個人的見方は記事の最後に回すとして、「それにしても株の予想というのは何故こうも当たらないのだろう」と思われる読者の方も多いのではないだろうか。

残念ながら、三次元に生きる我々には未来が見えない。

 株式の歴史は、この見えない未来を何とか見ることは出来ないものかという人々の熱い願望に貫かれてきた。

 もし他人に見えない未来が自分だけに見えれば、それはものすごいアドバンテージだからだ。

 アービトラージ(裁定取引)と言われるが、未来が見えればこれから下がる株を市場より先に売り上がる株を市場より先に買う「サヤ抜き」で、100%確実に儲けることが出来る。

今では古典となった映画「バック・トゥー・ザ・フューチャー」始め、タイムマシンに乗った欲張りな人間がまずやろうとするのも、馬券を買ったり株を買ったりすることだ。

 見えない未来―不確実性とリスクーに対して三次元に住む人間が取ってきた方法としては、三つの形がある。

 一つはリスク分散、二つ目は力ずくで自分の望む方向に未来を変えてしまおうとする努力、そして三つ目は過去から学んで未来を推測すること。

 一つ目のリスク分散は、将来の出来事が自分が望む方向に動かなかった場合を想定し、それが現実となっても耐えられる状態にしておくことだ。

もともと株式会社というものは、リスク分散の発想から出発している。

 株式会社の原型は17世期大航海時代のオランダ 東インド会社に遡るが、当時の船はしょっちゅう沈んだり、海賊に遭遇した。

 船が無事に戻れば巨大な利益を生むが、沈没すれば全てが無に消える「高リスク・高リターン」な投資プロジェクトだったわけだが、それを小口に分けて大勢で資金を出し合えばリスク分散できる、と考えたところから株式が生まれた。

0.000001秒先の「未来」

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 二つ目は、未来を予測できないのなら、自らの行動によってそれをなるべく望ましい方向にコントロールしてしまおうというアプローチだ。

 例えば、今では完全に違法な「風説の流布」。証券の歴史の中では、古今東西、デマや噂を意図的に流して自らに有利な方向に株価操作を企む輩が絶えなかった。

 また、投資顧問業法の施行や株式市場のグローバル化で影をひそめたが、80年代までの日本では、特定銘柄を狙い撃ちして株を買い占め価格を吊り上げる「仕手筋」も多く暗躍した。

見えないはずの未来を金で買って可視化し利益を上げようという手法では、新しい手合いも出てきている。

 最近オンライントレードの手数料完全無料化が話題になっている。

 米国ではロビンフッドというスマホ証券のベンチャー企業が手数料無料化で旋風を巻き起こし、チャールズ・シュワブなどの大手が追随を余儀なくされた。

 日本でもSBI証券などが手数料無料化の方針を打ち出している。

 喜んでいる個人投資家も多いと思うが、ちょっと待った。タダほど怖いものはない。なぜ証券会社が「タダ」でもやっていけるのか、考えた方が良い。

一つは、手数料無料で勧誘しておいて個人投資家を信用取引に誘い込み、そこで金利収入を上げるというのが証券会社の目論見だ。

 だがもう一つは、証券会社や証券取引所が投資家の売り買い注文(オーダーフロー)情報を、ミリセカンド(千分の一秒)やマイクロセカンド(百万分の一秒)単位のコンピュータ取引、HFT(High Frequency Trading)を行うヘッジファンド(*)に売っているケースもあるのだ。
*参考記事:「人間VS人工知能」投資の世界ではトンでもないことになっていた

これは、マイケル・ルイスの「フラッシュ・ボーイズ」に描かれた世界だが、ロビンフッドは売上の半分近くをシタデルやツー・シグマなどの大手HFTヘッジファンドへの情報提供で稼いでいる。

例えばある株に300円で大きな買い注文が入りそれが間もなく株価を300.01円に押し上げると見通すことができれば、超高速回線を有するヘッジファンドはマイクロセカンドの差で市場のトレードを出し抜いて300円でそれを買い、300.01円で後から来た買い手に買わせることが出来る。

つまりHFTファンド側から見れば、その株が売りなのか買いなのか、100万分の数秒先の「未来」が見えるのだ。

顧客の注文情報の販売(Payment for order flow)自体は合法だが、HFTファンドが一般投資家をいわば食いものにしてその取引コストを上げているわけだから、市場の公平性の観点から大きな批判も上がり、集団訴訟も起きている。

こうした世の批判を受けて証券取引所の中には近年、「スピードバンプ」と呼ばれる取引速度の制限を設けて、他の投資家をHFTから保護する動きが広まっている。

 ただし、近年は取引所を通さない「ダークプール」と呼ばれる証券会社間の私設市場での取引量が増えており、こうした規制がどこまで有効なのかはまだよく分からない。

過去から未来を読む

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 三つ目は、本来見えない未来の「近似値」を過去のデータを分析して想定する方法。

「チャート」によって過去の株価の波動から未来を占うテクニカル分析もその一つだが、このアプローチは確率論と金融工学の進化によって飛躍的に向上した。

 一つの強力なツールは「ベル・カーブ」と呼ばれる、鐘の形をした正規分布曲線だ。

 “Standard deviation diagram.svg” by Mwtoews is licensed under CC BY 2.5

 くじ引きで一等が当たる確率にせよ、ある人が100歳まで生きる確率にせよ、世の中の個別の事象の予測は困難だが、その現象についての膨大なデータを積み上げていけば、サンプルが大きくなるに従ってそれは正規分布に近づいていく。

これに従えば、「17歳の男の子の身長が180センチを超える確率は5%」だとか、「沖縄県で6月22日の前後1週間に梅雨明けする確率は68%」だとか、「絶対」ではなくとも未来の「近似値」を推し量ることが出来る。

金融の世界では、この正規分布を前提としてオプション価格を計算するブラック・ショールズ・モデルが生まれ、デリバティブ(金融派生商品)が花開いた。

 またロケット工学を専攻した数学者や物理学者がウォール街に流れて、確率・統計学やコンピューターを駆使したデータ解析を行うクオンツファンドの台頭につながった。

 今ではクオンツファンド同士の競争も混み合ってきたので、AIを駆使して一歩リードしようとするファンドも現れている。

何故、株と天気の予報はあたらないのか

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 しかし、技術が発展したからと言って株の予測が当たるようになる、と思うのは早計ではないだろうか。

 例えば、天気予報。衛星や航空機、船舶から大量の気象データを取り込み最新のスーパーコンピュータを駆使して高度な数量計算を行なっても、天気予報が当たるのは、せいぜい1週間先まで。

 その後は当たるも八卦当たらぬも八卦、下駄を投げるのと変わらなくなる。こんなに技術が進歩したのに、何故当たらないのだろう。

 天気予報が外れる理由を説明した理論に、エドワード・ロレンツの「カオスの論理」がある。

 「南米で蝶が羽ばたくと2週間後のセントラルパークの天気が変わる」というイカした比喩から「バタフライ効果」とも呼ばれるが、初期データ入力のわずかな誤差が時間と共に拡大してしまい、予想を困難にする現象だ。

ロレンツは初期入力で捉えようとする大気は非線型に動いているので、その運動を説明する物理法則がいくら正しくとも、1ヶ月を超えるような予測は不可能だと結論づけた。

健全に見える市場が突然クラッシュするような現象を説明するのに「カオスの論理」は有効かもしれない。

 最近AIによる株価予想の精度がメキメキ上がってきたと言われるが、市場を構成する一つ一つの要素は大気のように非線型のカオスだ。

 1年先というような期間では、モデルで捉えきれない誤差が大きな読み間違いにつながることは容易に想像できる。

特にリーマンショックのような「アウトライヤー」と呼ばれる標準分布の外(上の図で3σの外側)で起きる現象、つまり滅多には起きないが起きたら壊滅的なダメージをもたらすような出来事を、そのタイミングを含めて的確に予見することは、いくらAIに過去のケースを学習させても極めて難しいと思われる。

2020年を占う上で考えるべきこと

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 さて過去との対比で2020年の株式市場を見ると、強弱・相反する特徴があって、実に悩ましい。

 まず、歴史的にも類稀な長期上昇サイクルが続いていること。

 世界の株式市場の趨勢をリードする米国株はリーマンショック後、2018年を除いて毎年上昇してきた。

 配当を加味すると、S&P500指数は昨年33%も上がり、戦後のブル・マーケットの最長記録を更新中だ。

 しかし、過去の株式市場の体験からは、株が一直線に永遠に上がり続けることはない。上がったものはどこかで下がるのが常だ。

 次に市場の「バブル度合い」を測るのによく引き出される借金のレベルが、すでに過去の危険水域に達していること。

日本の不動産バブル崩壊前の民間債務(金融機関を除く民間企業と家計の債務)はGDPの2倍を超えていたが、今の中国や香港は、シャドーバンキングなどを含めないBIS(国際決済銀行)の公式データでも、それぞれ209%、298%に達している。

 米国民間企業の債務(金融機関を除く)もGDPの75%と、リーマンショック前の水準を上回っている。

 特にリスクの高いハイ・イールド債券の比率が高く、クオリティーが良くない。

クレジット(信用)サイクルの観点からは、すでにパンパンに膨らんだ状態なのだ。

一方で、金融当局の政策は選挙の年でもあり、株に優しいものとなっている。

米国連邦準備制度(FRB)が昨年7月、政策金利の引き下げに方針転換。さらに10月には資産購入も再開した。

 それまでFRBは、リーマンショック後のQE(量的緩和)で購入した財務省証券などを満期が来たら更新しないことによってバランスシートを縮小させ、実質「引き締め」してきたが、この転換によって資産量を一定量に保つことにしたわけだ。

 つまり、市中で投資に回る資金は基本的にまだ潤沢なのだ。過去の経験則からは、お金が潤沢に市場に回っている時は、株にはポジティブである。昨年秋からの市場の動きもそれを物語っている。

 日本株のバリュエーションも、予想PER(株価収益率)14倍程度、PBR(株価純資産倍率)1.2倍と割高感はなく、過去のバブルのような水準にはなっていない。

 しかも、今は低金利だ。

 投資家から見たときに、リスクフリーレートと呼ばれる国債の利回りと株の利回りを比べれば、リスクフリー資産の投資利回りが下がっている(=確実にリターンが返ってくると考えられる安全資産が値上がりしている)分だけ、株の投資リターンは相対的に魅力的となっているから、過去より高いPERやPBRが許容されても理にかなう。

 バリュエーションの面からは、株式相場にはもう一段の高値はあるかもしれない。

ただ、クレジットが膨らんだままマネーフローだけで株が上がり続けるようなら、バブルを心配しなければならない。

 機敏に動けるトレーダーならともかく、著者は上がったところから追いかけるのは得意ではないので、個人的には今はあまり積極的に投資したいとは思わない。

 ポジションを絞ってキャッシュを多めに持ち、市場に何らかの調整が起きて次の機会が来るまでじっくり待ちたいと考えている。

 長い繁栄を享受する市場の落とし穴として、オーストリアの経済学者ハイマン・ミンスキーは、リスクに麻痺して企業や投資家が過度な負債を背負いこんでしまうことを警告した。

 それが「ミンスキー・モーメント」と呼ばれるレベルに到達すると、あらゆる投資資産の価値崩壊が始まるのだが、ファンダメンタルから乖離した投機的な期間が長くなるほど、その調整は過酷なものになるという。

 今回はそんな相場にならなければ良いが、と思う。
小出 フィッシャー 美奈

最終更新:1月20日(月)8時00分

マネー現代

 

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