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社会経済的ステータスは「居住地」次第で変わる

1月14日(火)5時55分配信 東洋経済オンライン

環境などの「外的要因」も人生に影響を与えるという(写真:nonpii/PIXTA)  
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環境などの「外的要因」も人生に影響を与えるという(写真:nonpii/PIXTA)  
「その人の能力のみならず、その人のステータスさえ置かれている『環境』によって決まる」と断言するのは、『FULL POWER 科学が証明した自分を変える最強戦略』を上梓したアメリカの組織心理学者ベンジャミン・ハーディ氏。

「外的要因」が個人にどのようにして影響を与えるのかについて、科学的視点から解説します。
 個人主義の現代では、「環境は自分から切り離されて存在する、自分とは別のものだ」と考える風潮がある。しかし、心理学者のティモシー・ウィルソンはこう話す。
 「人の行動は、その人の性格や考え方から来るものだと思われている。拾った財布を持ち主に返すのは『正直』だから。ゴミをリサイクルに出すのは『環境を気遣っている』から。カフェラテに5ドルも払うのは『高いコーヒーが好き』だから。

 しかし、多くの場合、それは周囲からのかすかなプレッシャーによって形作られている。けれども、私たちは、プレッシャーがかかっていることに気づかない。だから、自分の行動は自分の内側からやってきたものだと勘違いする」
 社会的通念は、個人の欲求よりもずっと強力に、人の行動をコントロールする。そして、これまでの人類史研究やサイエンス研究をたどっていくと、このプレッシャーをもたらす環境は「状況」「場所」「人間関係」に大きく大別されることが見えてくる。

■世界的な大歴史家が出した「シンプルな答え」

 歴史家のウィリアム・デュラントは、40年にわたって世界の歴史を研究し、その成果を11巻の書物に記録した大家だ。ここには人類が生まれてからの歴史がすべて網羅されており、デュラントは、人類史を決定づけた瞬間を取り上げただけでなく、世界で最も偉大かつ影響力を持った人たちについても研究した。
 膨大な年月をかけて研究し、慎重に資料を読み込んだ結果、デュラントはある結論にたどり着く。歴史とは、偉人たちによって作られるものではない、と。実は歴史とは、「偉大な人物」によって作られるものではなく、「困難な状況」によって作られる――これがデュラントの結論だった。

 「ヒーローとは、ヒーローという存在だから生まれた結果ではなく、『状況』が生み出したもの」と彼は答えている。個人が何を成せるかは、その個人が身を置く状況によって「必然的」にもたらされるというのだ。
 1982年に、車の下敷きになった息子を救おうと駆けつけた母親が重さ数トンのシボレーを持ち上げた事例が報告されている。これはまさに、「息子の危機」という状況が、母親の奥底に眠るスーパーウーマンさながらのパワーを引き出した例といえよう。

■「住んでいる州」が経済状況を規定する

 このデュラントの洞察は、歴史家の裏づけに乏しい臆測とはまったく異なる。「歴史を形作ってきたのは、その時々の状況である」という彼の洞察は、近年科学的にも確認されている。
 ハーバード大学のエコノミストであるラジ・チェティ博士とナサニエル・ヘンドレン博士が行った「機会均等プロジェクト」という研究がある。このプロジェクトは、「アメリカで人はどれだけ自分の経済状況を改善できるのか」という可能性を地図に落とし込んだものだ。

 結果は、残酷なまでに明確だった。人が社会経済的なステータスをどれだけ改善できるかは、住んでいる州、さらには住んでいる郡に大きく依存することが判明したのだ。
 努力次第で経済状況を改善できる州も一部存在するが、それ以外ではその可能性はゼロに近い。事実、私が養子として引き取った子どもたちの出生地は「収入を上げられる可能性が9%」という地域で、5歳の子は10まで数字を数えられず、7歳の子は字が読めないという状況だった。

 神経科学の研究によると、クリエーティブなアイデアが職場で浮かぶ確率は16%という試算が出ている。これは、職場という空間がパフォーマンスに及ぼす影響の大きさを物語る報告で、地理的環境が経済状況や労働生産性に見えない形で関与していることは明らかだ。
 環境には、地理的要素だけでなく、「人間関係」も含まれる。著作家のジム・ローンの言葉「人は、一緒に過ごす時間が最も長い5人を平均した人物である」ことが正しいと証明した研究は複数存在する。それどころか、人は5人の友達がそれぞれ一緒に過ごす5人の平均でもある。つまり、もしあなたの友達の友達が太れば、あなたの体重も不健康に増えてしまう可能性が急に高まるのだ。

 「悪い友達と付き合うと悪くなる」というのは、科学的にもあながち間違いではないといえる。
 実際、私も研究者としてこれまで数限りない事例を耳にしてきた。そのうちの1つが、幼少期、壮絶ないじめを経験したある青年にまつわる話だ。

 彼は、大人になると軍隊に入所する。厳しい訓練を乗り越えたくましく成長した彼は、軍隊のリーダーを務めるまでになり、まさしく「別人」のようになった。そんな彼が子どもの頃を過ごした街に戻った途端、故郷の人たちは彼の変化に気づかず、昔と同じように扱おうとした。

 驚くべきは彼の反応で、なんと彼は、昔に戻ったかのようにそれを受け入れた。消極的で不満だらけの青年に戻ったのだ。そしてこれは、状況が変わらないかぎり永遠に続く。
 これと似た現象は、さまざまな形で現れる。例えば、ある業界で長く経験を積んでいる人たちほど、新規参入者の新しい考え方に拒絶反応を起こし、「わかっていない」と結託する。これは、古参者の間で習慣やルールが無意識のうちに形成されているためであり、それに反する者はどんなに優秀でも受け入れられないのだ。

 それでは、他人とのつながりを絶って影響を弱めたほうがいいのかと問われると、決してそうではない。事実、他人との健全な関わりが人間のパフォーマンスを引き上げることは、数多くの研究で報告されている。
 一方で、現代社会はテクノロジーの面では人とつながりやすくなっているのに、実際には関係性は希薄になっているというジレンマに陥っている。環境問題専門家のビル・マッキベンは、「私たちは隣人がいない生活スタイルを発達させてきた。50年前に比べ、家族や友人と一緒に食事をする機会が平均で半減し、親しい友人の数も同様に半減している」と述べている。

 しかし、人とのつながりを見直すべき科学的根拠は確かに存在する。心理学者マーシャル・デューク博士とロビン・フィバッシュ博士が行った調査では、家族の歴史を知ることの大きな影響について言及されている。
 ことの発端は、心理学者でデューク博士の妻だったサラ氏が話した「自分の家族についてよく知っている子どもたちは、困難に直面したときうまく対処できる傾向がある」というエピソードだった。

 デューク博士とフィバッシュ博士がその真偽を確かめようと調査に乗り出したところ、「家族の歴史(親の出自や病歴、サクセスストーリーなど)を知っている子どものほうが、自分の人生をコントロールする能力がはるかに高い」ことが判明した。
 そして、2001年の世界同時多発テロ後に同様の調査を行ったところ、ここでも「自分の家族についてよく知っている子ほど回復力があり、つまりはストレスからの影響を和らげられる」ことが確認された。

■環境は人生のあらゆる面を作り出す

 人間は「社会的動物」であり、共存しながら生きていく本能を備えている。この点を踏まえると、他者との関係を絶って生きるのではなく、自分にとって「いい影響」をもたらしてくれる人とつながるほうがはるかに有益といえるだろう。
 1970年代、カナダ人心理学者のブルース・K・アレクサンダー博士は小さなおりにネズミを入れて実験を行った。

 おりの中には水の入ったペットボトルが2本入っており、1本は通常の水、もう1本はヘロインやコカインを混ぜ込んだ水だ。すると、ほぼ100%、ネズミは麻薬が入った水に死ぬまで夢中になる。

 博士は麻薬漬けになったネズミの環境を変えることにした。ネズミが楽しめるおもちゃや走り回れるオープンスペース、そして何より「一緒に過ごせるネズミ」がたくさんいるおりに入れたのだ。そこにも前の実験で使った水を2本入れたところ、ネズミは麻薬入りの水をほとんど飲まず、通常の水を好んだ。
 つまり、「いいおりに入ったネズミは、いいネズミになる」という結論が導き出されたのだ。

 環境は、人生のあらゆる面を作り出す。「収入」から「価値観」、それに「ウエストの太さ・細さ」に至るまですべてだ。

 積極的に環境を変えない限り、自分が生まれ育った環境が、残りの人生に多大な影響を直接的に及ぼすことは明らかだ。ビンの中のノミのように、ほとんどの人は集団思考の教義の下で動いている。しかし、それでは決して正しくはないのに、社会的な文化が勝ってしまう。
 われわれはそろそろ、環境の影響を認識したうえで行動を取っていく時期に入っているのではないだろうか。
ベンジャミン・ハーディ :組織心理学者、著作家、起業家

最終更新:1月14日(火)5時55分

東洋経済オンライン

 

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