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グレタさんで注目、「飛び恥」が鉄道に追い風

12月13日(金)6時01分配信 東洋経済オンライン

世界経済フォーラム(WEF)参加のため、チューリヒに列車で到着したグレタ・トゥーンベリさん。「気候のための学校ストライキ」と書いたプラカードを掲げている=2019年1月(写真:EPA=時事)
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世界経済フォーラム(WEF)参加のため、チューリヒに列車で到着したグレタ・トゥーンベリさん。「気候のための学校ストライキ」と書いたプラカードを掲げている=2019年1月(写真:EPA=時事)
 ヨーロッパを中心として、最近頻繁にメディアで取り沙汰される環境問題。とりわけ二酸化炭素排出量増加に対して、ヨーロッパの多くの国は危機感を募らせている。

 そんな中、2019年9月23日にアメリカのニューヨークで開かれた気候変動サミットにおいて、今や連日メディアをにぎわすスウェーデンの若き環境活動家、グレタ・トゥーンベリさんが、集まった各国政府首脳らに対し、改善が進まない環境問題に対して厳しい口調で非難したことが世間の注目を集めた。グレタさんは、12月13日までスペインのマドリードで開かれている第25回気候変動枠組み条約締約国会議(COP25)でも演説し、地球温暖化対策の加速を訴えている。
■環境対策で鉄道に補助金

 彼女の行動は立派であると賞賛する声もある反面、16歳の少女が各国要人を相手に厳しく糾弾する、学校を休んで抗議のストライキを行う、という話題性を利用しようとする大人たちへの疑念の声もないわけではない。

 とはいえ、現実問題として環境破壊に歯止めがかかっていないという紛れもない事実があるので、各国政府としては彼女の声を完全に無視するわけにはいかない。また、個人ができる範囲の中で少しずつ行動を起こしていくことについても、否定すべきことではない。
 こうした一連の動きに対して、ヨーロッパ各国は具体的な行動を見せ始めている。

 オランダ運輸省運輸国務長官のスティーチェ・ファン・フェルトホーフェン氏は10月11日、3年前の2016年12月に廃止されたオランダ国内への国際夜行列車を今年12月15日の冬ダイヤ改正から復活させるため、財政的な支援として670万ユーロの補助金を供出すると発表した。

 列車はオーストリア鉄道とオランダ鉄道の2社が運行し、アムステルダムを起点としてミュンヘンとウィーンとの間を結ぶことがアナウンスされている。
 オランダは、鉄道会社側の事情で夜行列車の運行が取りやめられたという経緯があり、もともと需要が無かったわけではないが、Flygskam(飛び恥)運動をきっかけとして鉄道需要が増加したことが、政府主導による復活を後押しする結果へとつながった。

 実際、この夏のオランダ国内における鉄道需要は、対前年比で13%も増加したことが調査で明らかになっている。

 今後は、これまで航空便に頼っていた国際長距離区間の夜行列車拡充と、昼行列車で所要6時間までの区間を鉄道へ誘導するため、インフラ基盤の整備を行うとしている。
 ドイツは、サミットでのグレタさんの発言より3日前の9月20日、気候変動の影響を緩和するという名目で政府が540億ユーロを支出すると発表しているが、これらの大半は鉄道へ投資されることがわかっている。

 また、鉄道の利用を促進するため、50km以上の長距離鉄道利用にかかる付加価値税率を現在の19%から7%へ大幅に引き下げることを決定した。これは実質、ドイツ鉄道の運賃を約10%引き下げることと同じであり、その一方で減税分を補うため、航空業界には税負担額を増やすことも検討されている。航空業界にとっては、非常に厳しい局面を迎えたことになる。
■交通機関の選択はわかりやすい環境活動

 こうした各国の動きを見ても、公共交通機関の選択というのは、一般市民にとって最も手を出しやすく、かつわかりやすい環境活動の1つと言えるのではないだろうか。

 なぜなら、同じ区間を移動する場合、乗客1人当たりが排出する二酸化炭素の量は自動車や航空機に比べて鉄道は数分の1で済む、という数字が明確に示されているからだ。

 移動時間や料金などに大きな差がないのであれば、なるべく環境に優しい交通機関、すなわち鉄道を使おうと考える人が増える可能性が高い。それに加えて、減税のため値下がりするとなれば、利用客が鉄道に流れることは当然の結果と言える。
 ただ、こうした行動は1人ひとりが無理のない範囲でできるものでなければ、決して長続きしないだろう。

今年9月21日付の記事(「欧州で伸びる鉄道利用、理由は『飛ぶのは恥』」)において、北欧を中心に航空機の利用客が徐々に鉄道へシフトしていることをお伝えしたが、その中で紹介した、スウェーデンのビジネスマンが出張のためロンドンまで24時間以上かけて鉄道で移動したという話はかなり極端な例だ。

 環境のためと言えば立派な話ではあるが、効率や生産性を考えれば意味のある行動とは言いがたい。この場合、鉄道と航空機のどちらがより現実的な選択肢であるかは明白だ。
 近年業績を伸ばしてきたLCC(格安航空会社)も、航空業界への逆風によってさぞや青息吐息かと思えば、その多くは過去数年間、搭乗者数が前年を下回った年はない。最大手のライアンエアーやイージージェットなどは、航空業界への風当たりなどどこ吹く風だ。

■航空とはすみ分けが重要

 LCCの場合、もともとフラッグキャリアが飛ばさないような地方都市間などが主戦場で、そういう都市間は高速列車など鉄道の脅威が薄いようなところが多い。もちろん、鉄道では歯が立たないような中距離路線も、彼らにとっては重要な収入源である。
 オーストリア鉄道CEOのアンドレアス・マッテ氏は、会見の中で「ある程度の長距離路線における航空機の優位性は変わらない。私はウィーンからミュンヘンやインスブルックへ向かうとき列車を使うが、(アイルランドの)ダブリンへ行くのには飛行機を使う」と述べており、両者はすみ分けてきちんと共存すべきとの姿勢を示している。

 スカンジナビア航空のように、環境問題を航空業界に結び付け、悪者のような扱いを受けることに不快感を示す航空会社もある。だがヨーロッパの多くの航空会社は、今後の航空業界のあり方について、この先どう進んでいくべきかを真剣に考えている。
 KLMオランダ航空は、不必要に航空機を飛ばすことは環境悪化につながるとして、区間が重複するアムステルダム―ブリュッセル間の路線を順次、高速列車タリスへ置き換えていくと発表している。

 すでに同様のサービスを行っているルフトハンザやエールフランスも含め、こうした流れが今後ますます加速していくことが予想される。

 環境問題は、この先何十年、何百年先のことを考えれば、決して目を背けてはいけない問題だが、まずは可能なところから進めていこう、というのが今のヨーロッパにおける流れだ。
■危機感が違う日本と欧州

 ひるがえって日本を見てみると、環境のことを考えて公共交通機関を選んでいる人はほぼ皆無ではないだろうか。中には「これまでさんざん環境破壊をしてきて、今さら大騒ぎをするのはおかしい」など、ヨーロッパにおける一連の動きに対して、むしろ否定的な声が多く聞こえてくる。

 一個人にとって、目に見えず現実味の薄い環境問題よりも、自分たちが今利用しやすい交通機関を使うだけというのが、今の日本人の一般的な考え方なのだろう。また、仮に自分1人が本来利用するつもりの航空機や自動車などを利用しなかったところですぐに環境問題が改善されるはずもなく、それならどうして自分1人だけが損をしなければいけないのか、というさめた考えも根底にありそうだ。
 何より、ビジネスにおいては業務効率と生産性こそが最優先され、環境について考えるのは二の次となる。

 だが、例えばかつてその場所にあったはずの氷河がすっかり無くなっているスイスや、高潮で水没する回数が年々増加し、先日は死者まで発生したベネチアなど、ヨーロッパの人々は地球温暖化による脅威を実際に目の当たりにしている。16歳の少女に言われるまでもなく、十分現状に危機感を抱いている、と言えるのかもしれない。
橋爪 智之 :欧州鉄道フォトライター

最終更新:12月13日(金)6時01分

東洋経済オンライン

 

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