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自動でレモン栽培、「広島流デジタル化」の勝算

12月11日(水)5時00分配信 東洋経済オンライン

広島県は特産のレモン栽培をドローンやセンサーを用いて自動化する実証実験を支援している(写真:広島県)
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広島県は特産のレモン栽培をドローンやセンサーを用いて自動化する実証実験を支援している(写真:広島県)
「デジタル社会に向けた変革で広島県は先頭でありたい」
10月中旬に開かれた家電・IT見本市「CEATEC2019」で、都道府県知事としては初めてとなる基調講演を広島県の湯﨑英彦知事が行った。
CEATECの基調講演では、ニューヨークで1900年と1913年に撮影された写真を紹介。1900年は道路を走るのは馬車だったが、1913年にはそれが自動車に代わっていた。「馬車だけでなく、馬の蹄鉄工や飼葉売りの仕事もなくなった。デジタル化は同じ衝撃をこれから社会にもたらす」と湯﨑知事は警告する。
広島県としても、IoT化によるインフラの保守管理やドローンの実証実験、センサーを用いたIT農業などの取り組みを始めた。通産省(現経産省)官僚や通信事業社のアッカ・ネットワークスの副社長も経験した湯﨑知事に、地方自治体がデジタルトランスフォーメーションをどう進めるべきかについて尋ねた。

■「サンドボックス」でデジタル人材を呼び込む

 ――広島県以外にもデジタルトランスフォーメーションに取り組む自治体がありますが、制度の構築や整備に苦労しています。広島県はどうでしょうか。
 昨年度から「ひろしまサンドボックス」(イノベーション促進のための、新たなビジネス実験場の仕組み)という、デジタルビジネスを実証実験するためのプログラムを開始した。その目的は、県内外の企業や人にデジタル技術を活用した地域課題解決に関わってもらい、デジタル技術のスキルや活用ノウハウ、デジタル人材を広島県に集積させることだ。

 【2019年12月11日12時05分追記】ひろしまサンドボックスに関する初出時の説明を修正いたします。
 広島県はデジタル人材が少なかった。デジタル時代に向けて、2019年7月、県庁にデジタルトランスフォーメーション推進本部を設置して、人材の層を厚くするためにもサンドボックスを大々的に打ち出している。広島県の取り組みをアピールし、「あの企業が参加するならうちも」という循環を生みたい。

 ――この構想はいつから始まったのでしょうか。

 この3~4年の話だ。当初はデジタル人材やスキルを広島県内に集積しようという取り組みはなかった。特に一極集中が進む東京と競争するのは大変だ。
 だが、ディープラーニングが普及し、5Gの見通しが出てきて、テクノロジーによる社会変革が本格化している。その中で、広島県の価値や競争力を維持するためにも、デジタル化に合わせて変わっていかなければいけないという問題意識が出てきた。

 ――地方の一つである広島県のプロジェクトに企業が参加するのはハードルが高いはずです。彼らにはどんなインセンティブがあるのですか。

 ひろしまサンドボックスは、「3年間で10億円用意するので誰も作ったことのないものを作ろう」という取り組みだ。広島県はデジタル化のプロジェクトに3年間で10億円を投資する。これは自治体の予算として大きい。これだけ大規模だと企業や人のネットワークも生まれ、行政のプロジェクトが単発で終わらないという安心感を民間企業も持てる。だから700を超える企業や組織がひろしまサンドボックス推進協議会に参画してくれた。
 行政の事業は民間企業に成果を求めがちだが、ひろしまサンドボックスでは失敗しても構わないというスタンスでやっている。

 2018年に実証プロジェクトの案件を公募し、すでに9件が始動している。例えば、育成状況を把握するセンサーを用いたレモン栽培の自動化や、ドローンなどを用いたかき養殖の支援などがある。

 【2019年12月11日12時5分追記】9件の実証プロジェクトに関する初出時の説明を上記のように修正いたします。
 ほかにも約200社が実証プロジェクトの提案や実施に関心を持っている。単にお金だけでなく、行政のサポートやネットワークづくりも評価されていると実感している。

■ドローンが役立つ場面はたくさんある

 ――10億円の財源は税金ですが、「失敗していい」ということに批判の声はないのでしょうか。

 そういう声はあまりない。成果の定義の問題だ。ある問題を解決するために10億円使いますということだと、その問題が解決されなければいけない。今回のプロジェクトの目的は「これを使って新しいことに取り組んでみましょう」ということだ。
 2019年も20~30のプロジェクトが動き始めている。新しいことをやっていることを評価してもらいたい。

 ――国家戦略特区制度の活用も検討しているようですが、プロジェクトを進めるうえで規制の壁にぶつかることもあるのでしょうか。

 広島県は戦略特区でドローンの活用方法についていろいろな取り組みをやってきたが、規制を超えて何かをやりたいという提案はない。規制よりもルール整備の遅れに問題があるといえる。

 実際、ドローンが役立つ場面はたくさんある。広島県南東部にある尾道は坂が多く、住宅地でも車が通れない道がある。ドローンで荷物を運べれば荷物の配達はすごく楽になるが、家屋や人の上を飛ばさないといけないので、事業者の心理的なハードルも高い。ドローンをたくさん飛ばすためのルールが整備されていないということも、規制打破の要求が出てくるほど活用が進んでいない要因だ。
 ――行政が保有するデータを匿名で利用して事業者と新しいサービスを創出することも検討しています。

 行政が保有するデータを匿名にしてオープン化することで新しいサービスの創出を目指している。ひろしまサンドボックスの実証実験で得られたデータもあわせて、複数のシステムでデータを共有・利用できる「データ連携基盤」に蓄積することを検討している。

 ――プライバシー保護について県民の理解を得る必要はないですか。

 個々の実証実験や事業を進めていく中で課題が出てくるだろう。プライバシーの問題以外にも、もっと広い意味で、データ公開のルール作りが必要だ。
 例えば、自分の医療データについて、製薬の開発のために個人情報を隠す形でなら利用してもいいが、薬局が薬を売ろうとするのに使われるのは嫌という人がいる。また、利用はよいが、対価として金銭を支払ってほしいということも考えられる。

■データ提供者が主体性を持つ

 ――個人情報を預託する「情報銀行」のようなやりとりの中で、データを行政と市民がやりとりするというようなことは考えていますか。

 そのようなものも考えたが、情報銀行は大量のデータをどこかに蓄積しなければならない。それよりもまずはそれぞれの行政機関や医療機関ごとにデータベースが求められるだろう。そこで蓄積されるデータをどのように交換するかのルールや形式、やり方が重要になる。
 データ流通をいかに円滑にするかを考えると、国全体だと大きすぎる。どこかで区切ってやる必要がある。産業別だと従来とあまり変わらない。産業横断的にやろうと考えれば、どこかの地域の枠で切る必要がある。それが広島県がやろうとしていることだ。

 ――データというとGAFAのような大手プラットフォーマーがまとめるイメージですが、地域の課題は各地域ごとに解決していったほうが良いということですか。

 そうだ。それぞれのデータについてデータ提供者が主体性をもってやっていくということが根底にある。データの所有権は事業者のものではなく、データの発生源のものだ。
 GAFAはサービスを提供するかわりに、無料で利用者のデータを吸い上げている。われわれが目指しているものはそうではなく、個々のデータ提供者がデータを自ら利活用できる仕組みだ。

 個々人がデータの価値や使い方を判断するのは難しく、中間的な信託的なものが必要になるはずだ。まだデータを交換するだけのデータ量が生成されていないが、行政としてそういった存在になれるかを考えながら、地方自治体としてデジタル化を進めていく必要がある。
 ――1~2年後の具体的な目標やイメージはありますか。

 ひろしまサンドボックスそのものには数値目標はない。2020年度予算と2021年から実行する広島県の長期計画の中で、デジタル化による変革の進め方や目標について検討する。

 今後、デジタルトランスフォーメーションが進んでいくのは間違いない。広島県でデジタルビジネスをやってみたいと思ってもらえるようにしていきたい。
劉 彦甫 :東洋経済 記者/田中 理瑛 :東洋経済 記者

最終更新:12月11日(水)12時05分

東洋経済オンライン

 

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