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酒をやめた「大酒飲み」から見えた衝動の抑え方

12月11日(水)8時10分配信 東洋経済オンライン

酒を必要としない生き方とは? (左)町田康さんと(右)武田砂鉄さんに話を伺った(撮影:塚本 弦汰)
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酒を必要としない生き方とは? (左)町田康さんと(右)武田砂鉄さんに話を伺った(撮影:塚本 弦汰)
4年前、30年間飲み続けた酒をやめ、しらふで生きたくなったという作家の町田康さん。その顛末を描いた『しらふで生きる 大酒飲みの決断』が話題です。できるかぎりお酒を飲まないというライターの武田砂鉄さんと、酒を必要としない生き方について語り合います。「酒が飲めない人には理解しがたい酒飲みの発想」(2019年12月10日配信)に続く対談後編をお届けします。

■酒飲みは酒の力で毎日をリセットしたい

 武田 砂鉄(以下、武田):毎日お酒を飲む人は、今日も終わった~プシュ! と飲むわけですね。
 町田 康(以下、町田):そうですね、今日もお疲れ~っていう感じで。

 武田:そもそも生きるうえで、1日ごと、24時間という単位で物事を考えたりリセットしたりする必要があるんでしょうか?  嫌なことがあったとして、1週間だろうが1カ月だろうがずっと引きずっていくわけにはいかないんでしょうか?  夜ムカついていて、朝起きてもムカついている。ストレスだから心身にはよくないかもしれないですけど、あえてその日に薄める必要性ってないのではないかとも思うんですが。
 町田:一里塚みたいなものでしょうね。長編小説を書いてるときに、今日はここまでいったな、といったんリセットする。精神的にも肉体的にも、寝て起きて、疲れを取らないとまた稼動できない。僕も含め、普通の人の感覚では、ずーっと引きずることには耐えられないんですよ。

 武田:今日1キログラムの負債があったら、酒を飲んでなんとかそれを減らしたいと思うわけですね。

 町田:酒飲みは小商人なんです。商品を仕入れて売って何百文になったから、家賃払って米買って酒買って終わり。次の日はまた元手から始める。普通の人はそうやって1日ずつ必死で生きてるから、ため込むと倒れちゃうんですよね。体力、資本がある人は借金もできるけど、普通の人は精神がもたないんです。
 武田:僕は仕事中、ここまでやったら1回休もうというときに柿ピーを使います。仕事部屋から離れたところに柿ピーを置いておいて、ここまでやったら食べられるんだぞ、と思うと、これ、なかなか頑張る動機になるんです。普通の味と梅味があったら、今日はどっちを食べようかな、と考えながら原稿を書いている。お酒じゃなくても、そんなふうに動機づけしたり、リセットするためのアイテムが必要なのかもしれません。

 町田:逆に、柿ピーを仕事場に置いて、そこへ行けば、仕事をすれば食べられるという形にはしない? 
 武田:柿ピーの存在が本格化してくるのは、仕事が中盤くらいになって滞ってきたときなんです。なんとか踏ん張ろうとしたときに、ゴールにある柿ピーを思い浮かべるという、そんな認識になっているんです。町田さんは、お酒をやめてから、新たに浮上してきた欲望はあるんですか? 

 町田:前は全然食べなかったまんじゅうとかチョコレートとかを食べるようになりました。そう考えると、やっぱり完全に乗り越えてはいないというか、自分に報酬を与えたいという気持ちは消えてないですね。まぁまんじゅうを食べることの弊害はあんまりありませんけども。
 武田:いつか自分への報酬を望まなくなる日が来るんでしょうか。

 町田:いやぁ、来ないんじゃないですかね。

■酒がない中で感情を整える方法

 武田:何かに腹が立ったり、感情が整わなくなったりしたとき、断酒されてからはどうやって抑えていらっしゃるんですか? 

 町田:僕ももう歳をとってきたんでね、怒りが浮上してきたときは即座に怒るんじゃなく、その原因を考えていく。そうすると、ああこれは自分の人間的なダメさ、あるいは思考の型や世の中の見方が原因になっているな、と思うようになりました。わかったうえで結局怒ったりもするんですが(笑)。
 武田:え、わかったのに怒ってしまうんですか? 

 町田:理解できたから怒りがなくなるなら、それは悟りですよ。人間である以上、怒りや悲しみ、ねたみ、そういうネガティブな感情から免れることはできないと思います。でも原因を考えることはできる。考えたうえで腹を立てるか、相手に言うか言わないか、言わないにしろ何らかの行動をとるか、あるいは虚構化するか。それはケース・バイ・ケースですね。

 武田:その探索にはどれくらい時間がかかるものなんでしょう。割とすぐたどり着けるものなんですか? 
 町田:ムカッとなって瞬間的にそれを出してしまうと、もうそれ以上のことは考えられなくなる。でもいったんコーヒーを淹れるとかね、チャンネルを切り替えてみてから改めて考えると、自分に原因があることに気づくんです。5分かかるか1時間かかるかはわかりませんけど、別のバイパスを通ることによって自分にたどり着くことが多いですね。

 でも、そういう考え方をするようになったのも、酒をやめてから。酒をやめてから起きた思考の変化ですね。そうは言っても、今でも時々は運転中に、「こいつなに考えとんねん。もしかしてどアホなのか」と呟いたりしていますけど。
■かつて酒はアウトサイダーになるアイテムだった

 武田:町田さんのお酒デビューはどんな感じだったのでしょう? 

 町田:登山部の先輩にビール飲めって言われて飲んだのが最初ですね。パンクロッカーになってからはかっこつけてウイスキーを飲んだりしていました。「俺はアウトサイダー!」って、ロッカーのパブリックイメージをまねして飲み始めて、気づいたら好きになっていました。あの頃は、そんなことが一人前の証しでしたから。はっきり言ってアホです。
 武田:アウトサイダーになるためのアイテムだったと。勝手な印象ですが、今の若い人はあまりアウトサイダーになろうとしませんし、酒にしろタバコにしろ、みんなと違うことをやりたがる人は少ないかもしれません。

 町田:武田さんの場合は、周りと同じことはやりたくないっていう意識だったんでしょ? 

 武田:大学生や社会人になった頃は酒飲むのが普通でしたから、そうですね、あえてベクトルを変えていたところはありますね。もう15年くらい後に生まれていたら、逆に酒飲みになっていた気がしなくもありません(笑)。
 (構成:鳥澤 光)
町田 康 :作家/武田 砂鉄 :フリーライター

最終更新:12月11日(水)8時10分

東洋経済オンライン

 

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