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アップルのCEOが「表参道」に突如現れたワケ

12月9日(月)13時01分配信 東洋経済オンライン

12月8日、「アップル表参道」にティム・クックCEOが突如、来店した。その目的とは?(筆者撮影)
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12月8日、「アップル表参道」にティム・クックCEOが突如、来店した。その目的とは?(筆者撮影)
 師走、しかもボーナス後のアップルストアの光景は衝撃的だ。人がごった返し、また街ゆく人がひっきりなしに店に入ってくる。店舗の一角だけを観察していても、30秒に1台のペースでiPhoneが売れていくし、バックヤードからは5台ずつiPhoneの箱を運び出すスタッフが追いついていないほどだ。また思い思いのバンドを選んでApple Watchを手に店を出て行く人が絶えない。

 そんな大盛況の「アップル 表参道」で12月8日、どよめきが起きた。アップルのCEO、ティム・クック氏が突如として来店したからである。
■来日の目的とは? 

 今回のティム・クック氏の来日の目的はどこにあるのだろうか。アップルにとって日本には、いくつかの側面がある。

 決算からすれば、日本をアジア太平洋地域から切り離しており、1国の売り上げ規模としてはアメリカ・中国に次ぐ市場だ。ただし、売り上げについて言えば、アップルストアの店頭を見るに、活を入れるまでもなそうだった。

 日本以外では調達できない製品向けのパーツや技術を供給するサプライヤーも集中している。とくに昨今のスマートデバイスで重要なのはディスプレイだが、ジャパンディスプレイへの救済的な投資を決めたことも記憶に新しい。
 11月28日にジャパンディスプレイは次世代ディスプレー技術「マイクロLED」と「透明液晶」を発表し、これらの製品はApple WatchやiPhone、iPad、Mac、そして噂されるメガネ型デバイスの製品を特徴づける技術になることが目されている。

 また、日本はいわゆる「GAFA規制」を急速に強めている国の1つでもある。個人情報保護については、プライバシー啓蒙をむしろ進めたい立場のアップルからすれば「ぜひどうぞ」というところだ。しかし通信行政の域外適用やスマホ割引の制限、税制度の問題については、「GAFAに一矢報いること」が最重要課題のようになっている日本の霞が関に大いに反論したいと思っているはずだ。
 もちろんそうしたテーマについても報告があるかもしれないが、クック氏本人が精力的に動くのは「再会」というストーリーがあるようだ。

 ティム・クック氏が前回来日したのは3年前。写真家の三井公一氏とともに京都を訪れ、iPhoneで撮影した写真をTwitterに投稿したが、さっそく三井氏と再会したようで、アップル本社の六本木ヒルズからと思われる東京タワーを写した写真を投稿した。

 その後訪れた「アップル 表参道」で待ち構えていたのは、84歳と13歳の日本の女性エンジニアだった。2人ともクック氏に会うのは2度目となるが、誰に会うとは知らされておらず、「アプリの紹介をしてほしい」と打診されていたという。しかし2人ともクック氏との再会を予感していたという。
 1人は若宮正子氏。ひな飾りを正しく配置するパズルゲーム的なiPhoneアプリ「hinadan」を開発し、2017年にアメリカ・カリフォルニア州サンノゼで行われたアップルの世界開発者会議「WWDC」に招待され、基調講演の冒頭のスライドにも「世界最高齢アプリ開発者」として登場した。若宮氏は国連で講演をしたり、「人生100年時代構想会議」のメンバーとして活躍するなど、いつからでもプログラミングを学ぶことができることを自ら証明するエバンジェリストとして精力的に活動している。
 もう1人は13歳の菅野晄氏。クック氏が3年前に来日した際、同じアップル 表参道で出会っており、クック氏は一目見てその成長ぶりに感激していた。菅野氏は小学生の頃からプログラミングに取り組み、これまでに地方の特産品を当てるアプリ、石取りゲーム、百人一首読み上げアプリなどを開発してきた。アップルストアのプログラミングワークショップにも参加しながら、実力を付けてきた。

■2人のエンジニアに会いたい

 そんな2人のエンジニアに「ぜひ再会したい」とたっての希望を出したのが、クック氏だった。若宮氏は「まるで旧知の友人に東京で会ったようだ」と再会を表現した。世界中の人々が持つスマートフォンを作り席巻する企業のトップのすごみはまるでなく、柔らかで温かみのあるクック氏の人柄を感じさせる。
 若宮氏はクック氏にアプリ「hinadan」を披露してから、細かいアップデートを重ね、ついには他言語対応を果たしたという。その英語版をクック氏に披露して、感激を誘った。「これなら私も楽しめる」とうれしそうな表情を見せていた。

 また菅野氏は「写刺繍 Sha-Shi-Shu」というアプリを披露した。このアプリは、おばあちゃんが「刺繍の図案作りが難しく、いつも似たようなモノばかりになってしまう」という悩みを聞いて作ったアプリで、iPhoneで写真を撮ると、刺繍の図案に変換し、刺繍を施すための記号に変換したり、必要な刺繍糸の型番を表示してくれる。
 このアプリを見ていたクック氏は、言葉を失っていた。じっとそのアプリの画面を見つめながら、「なぜそんなことが思いつくのか?」という細部まで練られたアイデア、アプリそのものの完成度の高さについて思索を深めていたようだった。

 実際、菅野氏はアップルのプログラミング言語Swiftに加えて、Adobe Illustratorでデザインを行い、Adobe XDでユーザー体験の設計を行うなど、最新のアプリ開発フローでこのアプリを組み立てたという。
■クック氏の言葉に表れた「アップルの変化」

 ティム・クック氏は2人からアプリの説明を受けた後、次のようにコメントした。

 「日本の開発者は、本当にクリエーティブであることが強みです。想像を超えるほどに創造的で、とても革新的な開発者が日本にはおよそ60万人います。アップルはプログラミングのクラスを用意しており、子どもたちにコードを紹介する機会を増やし、もっと興味を持つ人々は増えていくでしょう。

 ソフトウェアエンジニアの仕事を選ぶとしても、選ばないとしても、多くの人がプログラミング言語の知識を持つことは世界をよりよく変えていくでしょう」(クック氏)
 また、日本では2020年、小学校からプログラミング必修化が始まる。そこで果たすアップルの役割を聞いた。

 「(プログラミング必修化は)とても喜ばしいことです。そしてとても重要なことだと思います。アップルでは『Today at Apple』セッションを通じて、どのようなプログラミングの学びが最適化を探求しており、子どもたちだけでなく教員向けのセッションも行っています。

 12月は2週にわたって、コンピューターサイエンスウィークを日本でも実施しており、数百を超えるセッションを通じて、子どもたちにより多くの学ぶ機会、考える機会を提供しています。これらのセッションを通じたカリキュラムが、日本のプログラミング必修化という新しい要件をうまく満たすと考えています」(クック氏)
 ここで、筆者はアップルの教育市場へのアプローチに、驚かされた。実際、クック氏は教育をテーマに話していた間中、いっさい同社の製品の名前を口にしなかったからだ。ここに、近年のアップルの大きな変化を見いだした。

 これまでアップルは、教育向けにハードウェア製品での提案を行ってきた。つい昨年までは、簡単に使えて性能が極めて高く、耐久性が高いハードウェアとしてのiPadを売り込みつつ、中学生頃から実際のアプリ開発ができるMacへ移行する、という「製品上の」ロードマップに当てはめようとしてきたはずだ。
 しかし、すでにアップルは変わっていた。iPadやMacを売ることから、子どもたちに提供するプログラミングやクリエーティブの体験の設計と、カリキュラムの提案を通じて、教育市場に変化を呼びかける存在へと変わっていたからだ。その拠点として、アップルストアを活用するようになっており、膨大に設定されるセッションは顧客との間で、「学びを通じた接点」として機能していた。

 世界で最も時価総額が高い企業だからこそ可能な取り組みと言うのは簡単だ。その企業が自らの価値を最大化するために売るものは、モノではなくなっている。その変化を見逃すべきではない。
松村 太郎 :ジャーナリスト

最終更新:12月11日(水)12時52分

東洋経済オンライン

 

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