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中部空港に「飛行機遊園地」が生まれた理由

12月7日(土)5時20分配信 東洋経済オンライン

中部国際空港から徒歩数分のところにある複合商業施設「フライト・オブ・ドリームズ」。アメリカ国外初となるボーイングのオフィシャルストアも出店(記者撮影)
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中部国際空港から徒歩数分のところにある複合商業施設「フライト・オブ・ドリームズ」。アメリカ国外初となるボーイングのオフィシャルストアも出店(記者撮影)
 愛知県の中部国際空港は、2018年10月に開業した空港隣接の複合商業施設「フライト・オブ・ドリームズ」の年間来場者数が、目標を上回る160万人超になったと発表した。

 中部国際空港の犬塚力社長は「大変順調に推移した。(中部国際空港を)単なる旅行の通過点ではなく、楽しめるにぎわいの拠点にしたい」と開業初年度を振り返った。

■新感覚の飛行機テーマパークを標榜

 中部国際空港が直接運営しているフライト・オブ・ドリームズは地上4階建て。体験型コンテンツで航空機産業と航空業界について学べる有料の展示エリア「フライトパーク」と、レンガ造りやネオンサインなどの内装でアメリカ・シアトルの街並みを彷彿とさせる飲食・小売店エリア「シアトルテラス」からなる。
 標榜するのは「新感覚飛行機テーマパーク」だ。都内のテーマパーク「サンリオピューロランド」の入園者数が219万人、遊園地「よみうりランド」が191万人(いずれも2018年度)だったことを踏まえれば、愛知県に立地し、名古屋駅からも有料特急で30分かかる場所にあるフライト・オブ・ドリームズは高い実績を残したといえる。

 最大の目玉は、天井まで吹き抜けになった館内空間の大部分を占めるボーイング787型機の展示だ。至近距離から機材やコックピットを見学できるのはもちろん、2階にあるフードコートの一部座席では主翼を頭上に眺めながら食事を楽しめる。
 ボーイング787型機は2011年から納入が始まったボーイングの最新機種。低燃費かつ長距離航続が可能な性能を評価され、2019年10月までに世界のエアラインや航空機リース会社へ合計906機が納入された。展示されている機材はその飛行試験に用いられた787型の初号機で、ボーイングのみならず航空産業全体にとって歴史的、学術的な価値を持つ。

 そんな業界の重要財産が、なぜ中部国際空港の商業施設に収められているのか。その背景には、ボーイングと中部地方の深いつながりがある。
 中部地方は元来、日本における航空産業のメッカだ。戦時中の「零戦」開発に始まり、リージョナルジェットを開発中の三菱重工業や、中島飛行機が前身のSUBARU、川崎重工業などの航空関連工場や関連部品メーカーが戦前から集積している。

 中部経済産業局によれば、2018年の中部5県における航空機・部品生産の国内シェアは50%に上る。

 ボーイングの生産工程においても中部の航空産業はプレゼンスを高めている。ボーイング機における日系企業の生産分担比率は767型機で16%、777型機で21%と徐々に向上。最新の787型機では三菱重工業が主翼、SUBARUが両翼の中央部分、川崎重工業が前部胴体などを担い、生産分担比率は35%に達する。
■人材育成や教育に初号機を役立てる

 製造された主翼や胴体は当然、ボーイングの最終組み立て工場があるアメリカへ運ばなくてはならない。ただ、こうした部材は巨大かつ重量がかさみ、空港内で輸送機に積み込むまでの動線に専用の保管庫やトラック、陥没しない道路などが必要となる。アメリカへの部材輸送における玄関口となる中部国際空港は、シアトルのボーイング本体と話し合い、特殊なインフラを整備してきた。

 こうした中部地方全体の貢献があって、ボーイングは787型初号機を中部国際空港に無償で寄贈した。今年10月の会見時にボーイング ジャパンのウィル・シェイファー社長は「787は日本とボーイングのパートナーシップを象徴するもので、日本とともに作られている」と感謝の意を述べた。
 実はこの寄贈に併せ、ボーイングから中部国際空港へある要望がなされていた。787型初号機を次世代の航空業界を担う人材育成や教育に役立たせることである。フライト・オブ・ドリームズのプロジェクトを担当してきた中部国際空港の渡辺沙央里アシスタントマネージャーは「歴史的にとても価値のある飛行機で、私たちがもらっても『何ができる?』という不安はあった。機材が正式に寄贈された2015年7月時点でも、どうやって飛行機を使うかというコンセプトはまだ構想の最中だった」と振り返る。
 渡辺氏らは、ボーイングのおひざ元であるシアトルの航空博物館など世界の事例を調査した。ただ、日本は鉄道ファンに比べると、航空ファンの数は少なく、博物館にしても、コアな航空ファン層しか楽しめない施設になってしまいかねない。

 渡辺氏は「私たちに課された役目は、広く次世代の子供たちに『飛行機ってかっこいい』『航空機に関わる仕事がしたい』と思ってもらうこと。航空ファンだけが大興奮の施設ではなくて、むしろ飛行機にあまり乗ったことがなければ興味もない人に『飛行機って実はかっこいい」って思ってもらう施設にしたかった」と話す。
 通常の博物館とは毛色の違う施設を造っていくうえで、渡辺氏の頭に浮かんだのは、同氏がファンである人気デジタルアート集団・チームラボの招聘だった。売れっ子のチームラボへの連絡は当初なかなか取れなかったが、粘り強くコンタクトを試み、2015年末ごろからコンセプトを話し合うに至った。

 そのチームラボがプロデュースしたのが、体験型エリアのフライトパークだ。787型初号機を幻想的な映像と音声で彩るショー「フライ ウィズ 787 ドリームライナー」はもちろん、立体的な映像演出で飛行機の製造工程を体感できる「ボーイングファクトリー」、紙飛行機の飛距離で変わる演出を目当てに飛行のメカニズムを試行錯誤する「奏でる! 紙ヒコーキ場」など、親子連れが楽しんで学べるコンテンツを複数用意している。
■16店舗はすべてシアトル関連

 店舗エリア・シアトルテラスにはマーケティングのセンスが光る。地方空港は地場の土産や飲食店で店舗を固めるのが一般的だが、「日本全国からわざわざ足を運びたい施設にするために、787型初号機を生かすというコンセプトを徹底し、強いブランドの構築を狙った」(渡辺氏)。

 ボーイング機と世界観をそろえるため、全16の店舗はスターバックスなど、すべてシアトル発のブランドかシアトル風の食事やグッズを扱っている。このうち5店舗は日本初出店の現地店舗だ。
 出店交渉ではシアトル市が地場店舗との間を取り持った。地元企業であるボーイングとの深い関係性はもちろん、フライト・オブ・ドリームズがシアトルのイメージやブランド力を高めれば、シアトル観光の促進につながるからだ。

 「今までさまざまな日本の百貨店からのオファーを断ってきたチョコレートの有名店は、シアトル市の後押しを受けて『そんなすばらしい施設ができるんだったら』と特別に出店してくれた」(渡辺氏)

 初年度の動員数160万人超には、航空ファンだけでなく、親子連れやカップルも客層に取り込めているという。犬塚社長は2年目の目標値を明言しなかったが、「今の成長線に沿うようにしたい」と述べている。
■インバウンド客で旅客数はV字回復

 愛知万博が開催された2005年の開港時に1235万人を記録した中部国際空港の年間旅客数は、リーマンショックや東日本大震災の影響で尻すぼみとなった。その後、インバウンド客の増加を追い風に、2011年度の年間889万人から2018年度は1235万人とV字回復を見せている。

 中部国際空港の課題は、国内のほかの主要空港との差別化だ。インバウンド客が訪れるのは東京や富士山、大阪・京都を結ぶ通称「ゴールデンルート」で、中部国際空港はその線上に位置する。インバウンド客が主に利用するのは、周辺都市に観光の魅力がある羽田や成田、関空だ。
 2018年度の国際線乗降客数は成田が3393万人、関空も2280万人とその背中は遠い。さらに今年10月から成田で滑走路の運用時間が延長され、2020年3月には新飛行ルートの適用による羽田の国際線増便も控える。

 一方、リピーターとなったインバウンドの間で中部・北陸の広域観光モデルが盛んになり、海外の航空会社がゴールデンルート外である北陸へ直行便を就航するケースも増えてきた。中部国際空港はフライト・オブ・ドリームズの「離陸」に胸をなで下ろすのではなく、さらなる空港の魅力底上げと中部・北陸地方の玄関口としての独自色が求められる。
森田 宗一郎 :東洋経済 記者

最終更新:12月7日(土)5時20分

東洋経済オンライン

 

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