ここから本文です

「深夜急行」は1日1本、京阪電車の種別の秘密

12月3日(火)5時10分配信 東洋経済オンライン

伝統の「鳩マーク」を付けた京阪特急(写真:のりえもん/PIXTA)
拡大写真
伝統の「鳩マーク」を付けた京阪特急(写真:のりえもん/PIXTA)
 日本国内の列車種別は鉄道事業者によってさまざまだ。一般的な「普通」「快速」「急行」など、運行する列車の停車駅によって変わってくるものや、「回送」「試運転」などそもそも営業サービスを行っていないことを表す種別、はたまたかつての小田急「多摩急行」や20周年を迎える阪急「日生エクスプレス」という、地名や街の名前までを冠した種別・愛称も存在する。そんな数多く存在する列車種別の中で、京阪電車の種別はひときわ異彩を放っており、その種別数は11種類と私鉄随一の多さを誇っている。
■日本唯一のレアな種別

 淀屋橋駅0時20分発という、深夜帯に運行され、この列車のためだけに用意されている行先幕の英語表記は「Midnight Exp.(ミッドナイト エクスプレス)」。あのノンフィクション作家・沢木耕太郎氏の名作『深夜特急』を知ってか知らずか、深夜の旅に出かけようと言わんばかりの、何とも心地のいい響きだ。

 この列車は2008年10月19日の中之島線開業に伴い誕生したが、実は「深夜急行」と「通勤快急」は停車駅が同じなのだ。なぜ、このようなややこしいことになっているかというと、通勤快急が大阪方面であるのに対し、深夜急行は京都方面となる。停車パターンは同じであれ、運行する時間帯・曜日も「通勤」とは離れているのでこのような珍しいネーミングになったとも考えられる。
 「深夜急行」という冒険心をくすぐるような、ロマンあふれるネーミングの列車だが実際の中身はというと、京阪沿線の乗客の利便性確保のために作られており、終電間際まで働く疲れたサラリーマンやキタ・ミナミで呑んできた酔っ払いたちを夜な夜な送り届けるという、何とも生活に密着した列車だ。

 一般的な鉄道利用者は準急より急行が格上である認識が強いと思う。しかし、京阪の「区間急行」は、準急よりも格下の立場で、準急の通過駅にも律儀に停車する。平日朝の下り列車を見ると枚方市発7時31分の準急は淀屋橋着7時56分で所要時間は25分。一方、枚方市発7時33分発の区間急行は、淀屋橋着が8時11分で所要時間は38分。両者の差は13分もある。
 さらに、区間急行という名前にもかかわらず複々線区間の緩行線側を走行し、途中「通勤準急」に追い抜かれるという、どこか屈辱的な場面もある。いっそ「区間準急」という名前でもいいのではないかとも思うが、40年近くこの「区間急行」という名前で沿線に浸透している。

 そのほかにも、京阪の優等列車種別・愛称は紆余曲折の歴史がある。かつての京阪といえば、京橋―七条間のノンストップ運行が名物であったが、2000年の中書島・丹波橋、2003年の樟葉・枚方市の特急駅格上げをしたことで、その印象も年々薄れていった。この頃から京阪の種別については迷走を始めるのだが、同年に「K特急」、さらに交野線直通のK特急「おりひめ」「ひこぼし」、2008年の中之島線開業による快速急行の登場と、さまざまな試行錯誤が繰り返されてきた。
 近年はもともと限定的な運行であった「快速特急・洛楽」の定期運行により、かつての「ノンストップ特急」を彷彿とさせるような停車形態をとった。ただし、一度特急停車駅へ格上げした駅を再び格下げすることは沿線住民から非難囂々であるから、その上をゆく種別を作り上げ、「種別のインフレ」状態となったのだ。結果的に現在の京阪特急系種別は「ライナー」「快速特急・洛楽」「特急」など収拾のつかない事態になっている。

■「鳩マーク」の伝統
 そんな京阪にも、譲れない美学がある。私鉄特急の中ではただ急行よりも停車駅が少ないだけのものも少なくないが、京阪における特急とは、伝統の「鳩マーク」の冠のもと他種別とは一線を画した存在となっている。古くは「テレビカー」や「ダブルデッカー」、近年では「コンフォートサルーン」などの存在を見てわかるとおり、運賃のみで利用できる特別なサービスというのは京阪の歴史に色濃く残る。

 ただし2017年の「プレミアムカー」導入に際し、京阪も特急有料化に踏み切った。ただし全面的に有料化しわけではなく、プレミアムカーの6号車以外とライナーを除いて特急料金が不要である。その乗り心地は、料金がかからないことが信じられないほどのハイレベルであり、京阪の特急へのこだわりを強く感じる。
 このように多種多様な種別・愛称が混在している京阪電車であるが、それではなぜこんなに種別が多いのだろうか。1つの理由としては、京阪は「特別停車」「特別通過」を設けていない点が挙げられる。

 特別停車、特別通過とは、特定の曜日や時間帯に限って停車したり、通過したりするという仕組み。この仕組みを用いれば、深夜急行は急行に統合できる。しかし、京阪は特別停車や特別通過を設けていないため、現在のように数多くの種別が存在するという自体になってしまったのだ。
■種別増は新駅の代わり

 2つ目の理由は、種別を細かく分けること自体を売りにしているところだ。大阪―京都間は全国屈指の激戦区間であり、この区間を直通運行する事業者はJR・阪急・京阪である。それぞれ最速はJR、最安は阪急となっている。速達性・価格面だけではない。始発駅が関西最大のターミナル駅・梅田ではなく、少し離れた淀屋橋・中之島である。これだけ見れば他2社にかなわない。

 だからこそ、これだけ多くの種別を駆使して停車パターンを増やし工夫を凝らしてきた。快適な「京阪特急」も他社との差別化という意味合いがある。
 21世紀以降、大阪―京都間の様相は大きく変化しており、JR京都線の桂川駅、島本駅、JR総持寺駅、阪急の洛西口駅、西山天王山駅など次々と新駅が開業してきた。これに対して、京阪は、種別へのオリジナリティをもって、利便性を高めてきたというわけだ。

 加えて、同社は洛楽・特急・それ以外の種別に上り下りごとに駅発車メロディを変えている。しかもそのメロディは有名音楽家・向谷実氏による制作というこだわりよう。「種別が多くてわかりにくい」という声ももちろんあるだろうが、京阪の種別というのはもはや「停車駅の分類」というだけの枠組みを超えて利用者のためのアイデアがそこかしこに凝らされている、唯一無二のサービスへと昇華させたのだ。
西上 いつき :鉄道アナリスト・IY Railroad Consulting代表

最終更新:12月3日(火)5時10分

東洋経済オンライン

 

【あわせて読みたい】

【PR】Yahoo!ファイナンスからのお知らせ

Yahoo!ファイナンスからのお知らせ

平均年収ランキング

1. (株)キーエンス 2,110万円
2. GCA(株) 2,063万円
3. (株)三菱ケミカルホールデ… 1,738万円
4. ヒューリック(株) 1,636万円
5. 三菱商事(株) 1,607万円
6. TBSホールディングス 1,586万円
7. 伊藤忠商事(株) 1,520万円
8. 日本商業開発(株) 1,501万円
9. ソレイジア・ファーマ(株) 1,460万円
10. 三井物産(株) 1,430万円
もっと見る

【PR】Yahoo!ファイナンスからのお知らせ

ヘッドライン