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侮れない指標「工作機械受注」が示す景況感改善の予感

11月21日(木)7時02分配信 THE PAGE

 代表的な景気の先行指標である工作機械受注統計は、決して派手な経済指標ではなく消費者から縁遠いものでもあります。この受注額は下落が続いていますが、別の視点を加えると見え方が少し変わってくると第一生命経済研究所・藤代宏一主任エコノミストは指摘します。藤代氏の解説です。

OECD景気先行指数とも連動性示す

[グラフ1]工作機械受注とOECD景気先行指数
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[グラフ1]工作機械受注とOECD景気先行指数
 日本工作機械工業会によれば、2018年の工作機械受注額は約1.8兆円です。これは日本の製造業売上高のわずか0.4%を占めるに過ぎない数値ですが、興味深いことにその受注動向は先進国経済の景気循環を忠実に映し出します。それは世界景気の代表的指標として広く知られているOECD景気先行指数(OECD=経済協力開発機構)との連動性をみれば一目瞭然でしょう。

 工作機械とは自動車、スマートフォン、家電製品、デジタル機器、時計などに使われる主に金属製の精密部品を削ったり切断したりする際に用いられる機械です。いわば部品を作るための機械ですから、消費者から最も遠い存在といえ、製品最終ユーザーが工作機械メーカーの製品を目にすることはまずありません。

 一見すると、地味な存在に思えるかもしれませんが、経済の文脈ではこうした「資本財」と呼ばれるモノの動向が極めて重要になります。一言でいえば、景気の波を作り出す企業の設備投資動向を反映するからです。消費者から最も遠いところにいる資本財は、裏を返せば、生産活動の最も初期段階にいるということです。したがって、その受注動向は景気の最先端を走ります。

目下の基調判断は「悪化」が妥当

[グラフ2]工作機械受注額の推移
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[グラフ2]工作機械受注額の推移
 こうして考えると、景気予測(株式市場)にあたって工作機械受注の動向を見極めることが、いかに重要であるかが分かります。そこで工作機械受注額の水準をチェックすると、直近の値は好不況の目安とされる1000億円を割り込み、2015~16年の中国経済減速局面(チャイナ・ショック)すら下回り、2014年当時の水準まで落ち込んでいます。

 企業の設備投資は、省力化投資が依然として旺盛な需要を保つ一方、米中貿易戦争に対する不透明感などを背景に、先行きの慎重姿勢が強く、全体として抑制気味です。報道によれば、最近は次世代通信規格である5G関連需要が増加の兆しをみせている反面、自動車や精密機械などで弱さが続いている模様です。直近のグラフの波形を見る限り、目下の基調判断は「悪化」が妥当でしょう。

「前年比」でみると下げ止まり感

[グラフ3]前年比でみた工作機械受注
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[グラフ3]前年比でみた工作機械受注
 次に、工作機械受注の前年比グラフを作成すると、少し違った姿が浮かんできます。目下の前年比伸び率は40%近いマイナスを記録していますが、一方で前年比減少率のカーブは直近ではフラット化しつつあります。基調が反転した2018年前半頃は垂直的な落ち込みを示していましたが、19年入り後は減少ペースが徐々に緩やかになっています。

 細かい数値を見ると、前年比減少率は19年6月に▲37.9%を付けた後、7月は▲33.0%、8月は▲37.0%、9月は▲35.5%、10月は▲37.4%と良くも悪くも横ばいにとどまっています。前年比で評価した場合、目下の基調判断は「下げ止まり」、「下げ止まりの兆し」といった表現がなじみます。

「前年の裏」横ばいでも伸び率改善

 さて、ここからが本題ともいえるのですが、このような大幅な落ち込みを記録した後にしばしばみられるのは「前年の裏」という現象です(ベースエフェクトともいいます)。一般論として、市場関係者は企業収益やマクロ環境を分析する際、前の年との比較でその伸び率をみますが、比較対象となる前年実績が極端に強かったり弱かったりすると、足もとの前年比伸び率が過大・過小評価され、景況感の形成に歪みが生じます。もちろん、そうした「前年の裏」要因は本来、除去して分析するべきですが、現実の世界では人々の景況感が改善することはよくありますし、またそうした状況で受注額が上向けば前年比の数値は非常に強くなります。
[グラフ4]工作機械受注額を1000億円水準と仮定して延伸したグラフ
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[グラフ4]工作機械受注額を1000億円水準と仮定して延伸したグラフ
 そこで工作機械受注額が(直近の実績値である)1000億円弱で不変と仮定してグラフを延伸すると、前年比減少率は急激に縮小し、半年後には1桁に落ち着きます。これは現在の比較対象が1500億円超のペースだった18年秋頃であるのに対して、先行きは比較対象となる前年実績が18年10~12月期の1350億円強、19年1~3月期の1200億円強と急激に低下していくためです。このまま設備投資意欲が回復せず、実績値が横ばい圏で推移したとしても、「前年の裏」に助けられる形で前年比伸び率は改善します。

 当然のことながら、こうした前年比伸び率の縮小は見せかけの改善にすぎません。ただし、上述のとおり錯覚的だったとしても、人々の景況感が改善する可能性は十分にあります。工作機械受注に限らず、向こう半年程度は幾つかの製造業のデータが強めに出る可能性があるため、株式市場では製造業セクターを中心に業績底打ち感が意識されやすい時間帯になる可能性があります。
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※本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

最終更新:11月21日(木)16時59分

THE PAGE

 

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