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通勤客が知らない、電車「混雑率」のカラクリ

11月19日(火)5時00分配信 東洋経済オンライン

東急田園都市線を走る車両。車種によって定員は異なるが、混雑率の計算には反映されている?(編集部撮影)
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東急田園都市線を走る車両。車種によって定員は異なるが、混雑率の計算には反映されている?(編集部撮影)
 鉄道の利用状況を示す指標は数多くあるが、とりわけ世間の関心が高いのが、国土交通省が毎年7月頃に発表する主要路線における最混雑区間の混雑率だ。中でも東京圏の混雑率の動向は発表されるたびに、大きなニュースになる。

 混雑率の算出式は「輸送人員÷輸送力」である。一定の時間帯に運行する列車の定員を合計したものが輸送力であり、実際の乗車人数が輸送人員である。輸送力や輸送人員の数字は混雑率ほど話題にはならないが、これらを注意深く見ていくと、混雑率だけ見ていてはわからない意外な事実が浮かび上がる。
 国交省が定義する東京圏の主要31路線に山手線を加えた32路線の混雑率、輸送力、輸送人員を見ていこう。

■他線に流れて混雑緩和

 2008~2018年度の10年間で混雑率を減らした路線を改善度の高い順に見ていくと、上位10路線中7路線が輸送人員の減少を主要因としている。

 混雑率改善度1位の山手線は2015年に開業した上野東京ラインに利用客がシフトしたため混雑率が減った。2位の京浜東北線は上野東京ライン開業に伴い、最混雑区間が上野―御徒町間から川口―赤羽間に変わったため連続性が途切れているが、上野東京ラインの影響を大きく受けていることは十分考えられる。
 4位のJR常磐線快速と6位の同・各駅停車は2005年開業のつくばエクスプレスに、7位の京成本線は2010年開業の成田スカイアクセス線に、8位の西武池袋線は2008年開業の東京メトロ副都心線に、乗客が徐々にシフトした結果といえるだろう。

 このように、競合路線の台頭が輸送人員減少の理由として挙げられる路線は多いが、9位の中央線快速には競合路線の登場という要因がない。車両も、2008年度には車体幅の広く輸送力の大きいE233系への置き換えがほぼ完了しており、混雑率の算出に用いられる輸送力は2008年度と2018年度で変わっていないので、統計上は輸送人員の低下が混雑率低下の要因のすべてだ。
 中央線沿線には立川、国立など人気の街がいくつもあり、神田―高尾間の平均通過人員は増加傾向にある。にもかかわらず、最混雑時間帯の乗客数が減っているのはなぜか。

 考えられる理由としては、最混雑区間を並走する中野→新宿間において中央線各駅停車に移行した、または、乗車時間帯をピーク時からずらす「ピークシフト」の動きが進んだ、といった要因が挙げられる。

 JR東日本は中央線快速の利用客を対象とした「早起き応援キャンペーン」を定期的に実施しており、ピークシフトを後押ししている。そう考えると、小池百合子東京都知事が打ち出した「時差Biz」は都民の間で浸透しつつあるともいえそうだ。
■輸送力増えても追いつかない三田線

 続いて、輸送力に着目してみよう。輸送力を改善した路線を上から順に見ていくとトップは小田急小田原線で25.5%。ピーク時間帯の運行本数が29本から36本に増えた結果だ。2018年3月の複々線効果が如実に表れているといえる。

 2位は都営地下鉄新宿線の20.6%。ピーク時間帯の運行本数を16本から17本に増やしたほか、笹塚駅の引き上げ線を改良したことで、1編成当たりの車両数が長い列車の本数を増やすことができた。
 一方で、3位の三田線はピーク時間帯の運行本数を18本から20本に増やして輸送力を11.1%改善したにもかかわらず、混雑率はむしろ悪化した。輸送人員の増加には追いつかなかったということだ。同率でやはり3位の横須賀線も同じ構図だ。

 輸送力を減らしている路線も結構ある。ピークシフトや競合路線へのシフトで輸送人員が減れば、それに見合うように輸送力を減らすのは当然だ。輸送力を減らした結果、混雑率が高くなっても混雑率の水準が低ければ許容できる。たとえば東武伊勢崎線は2008年度から2018年度にかけ輸送力が10.6%減ったが、混雑率は悪化したといっても150.0%だ。このように輸送力を減らした路線の多くにおいて2018年度の混雑率は高くない。しかし、東急田園都市線はいまだに混雑率が182%と高いにもかかわらず、10年間で輸送力が5.6%減ってしまった。ピーク時間帯の運行本数を29本から27本に減らしたのだ。
 同社によれば、「ホームドアの設置が進み、駅の停車時間が少しずつ長くなった」。その結果、運行時間が長くなり、最混雑時間帯を走る列車本数が減ってしまったというわけだ。ホームドアの設置によってホーム転落事故がほぼなくなり、安全運行につながっていると考えれば、本数の減少は仕方ないことかもしれない。

 田園都市線の輸送力では、気になる点がもう1つある。相互直通運転する東京メトロ半蔵門線の輸送力との比較だ。田園都市線の輸送力は4万0338人。半蔵門線の輸送力は3万8448人。両者の間には1890人の開きがあり、10両編成の列車1本の乗車人員くらいの違いがある。
■直通路線でも輸送力が違う「謎」

 ところが、両者の輸送力の算出根拠はどちらも10両編成×27本となっている。両者の最混雑時間帯と最混雑区間は田園都市線が7時50分~8時50分の池尻大橋→渋谷間で、半蔵門線が8時00分~9時00分の渋谷→表参道間。両者の間には連続性がある。では、なぜ輸送力が違うのか。

 その理由は計算に用いる列車が東急と東京メトロで異なるからだ。田園都市線と半蔵門線は東急、東京メトロ、東武の車両が乗り入れている。実態に合わせるなら、この3種類の列車の走行実績を輸送力の計算に用いるべきだが、東急、東京メトロともに自社の車両だけを計算根拠に用いている。
 東急は、「8500系24本、8590系2本、2000系3本、5000系(4ドア)3本など計47本の列車から先頭車の定員の平均、中間車の定員の平均を出して、1列車当たりの定員を1494人としている」と説明する。最近は1列車当たりの定員数が1526人で、8500系よりも50人ほど多い2020系が主流になりつつあるが、輸送力の算出には使われていない。

 東京メトロは、「主力車両である8000系の定員1424人を算出根拠に用いている」と説明する。実際には定員数1500人の08系も走っているが、やはり輸送力の算出には使われていない。
 そう考えると、混雑率の数字は必ずしも実態を表しているわけではないといえる。通勤利用者が一喜一憂する数字だけに、より正確な混雑率の開示を求めたい。
大坂 直樹 :東洋経済 記者

最終更新:11月19日(火)5時00分

東洋経済オンライン

 

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