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● 米中摩擦激化によるリスクオフの円高を 日本の貿易収支悪化による円安が相殺
なぜ、これほど円の対ドルレートが動かない状態が続いているのか。
まず、米中貿易摩擦の激化などによるリスクオフや、日米金利差縮小で市場が円高に振れたときには、日本の貿易収支悪化と米国経済減速ペース緩和期待による円安圧力がその進行を抑制してきた。
5月5日にトランプ大統領が対中関税追加引き上げを表明して以降、市場は投資家がリスクを回避する方向に動くリスクオフの状態になった。リスクオフの状態になると、円は高くなるのがセオリーだ。
通常の状態であれば、円が他の通貨に比べて金利の低い通貨であるため、円で資金を借りて円以外の通貨の資産に投資するキャリー取引が行われている。
ここでは、投資家が為替リスクをとっている。リスクオフの状態になると、キャリー取引をしている投資家は、外貨の資産を売り、手にした外貨を円に転換し、借入金を返済してリスクを減らそうとする。それゆえ円が高くなる。
円の対ドルレートは、セオリー通り当初は110円を割ったが、108円台で円高の進行は止まった。
円高圧力を押し戻した大きな要因の1つが、日本の貿易収支の悪化である。2018年度上半期の貿易収支は1兆1245億円の黒字だったが、2019年度上半期は241億円の赤字となった。
米中貿易摩擦の激化による中国経済減速で対中輸出が減少していることが、貿易収支を悪化させている。
その悪化分だけ、円を外貨に換えて代金を支払うことになるから、実需ベースでの円安圧力が高まっている。それが、リスクオフでの円高圧力による円買いを吸収している。
海外からの配当や利息など、第一次所得収支の黒字で経常収支は黒字が続いているものの、外貨で受け取った配当や利息は必ずしも円に転換されるとは限らず、大きな円高圧力とはならない。
FRB(米連邦準備制度理事会)は7月、9月、10月の3度にわたって、政策金利であるFF(フェデラル・ファンド)レートを引き下げた。この間、日本銀行は追加緩和には動かず、日米の金利差は縮小した。これも円高要因となる。
ただ、FRBの利下げは一方で、米国経済の減速ペースを緩やかにする効果があり、それは市場にとってはリスクオンの円安要因となる。
すでに触れた貿易収支悪化による実需の円安要因も背景にあり、3度の利下げの前後で円の対ドルレートは大きく変動しなかった。
ここまでは、為替レートが円高に振れた場合に、その進行を抑制するメカニズムである。
投資家がリスクを積極的にとろうとするリスクオンの状態のときは、経路が正反対となる。低金利の円で資金を借りて海外に投資する動きが加速する。円をドルなどの外貨に換える動きが活発になるので円が売られて安くなるのが通常の動きである。
米中貿易摩擦に対する楽観的な見通しが浮上したり、米国経済の堅調さを示す経済指標が発表されたりすると、市場はリスクオンになり、円の対ドルレートはドル高円安方向に振れる。
5月から現在までの半年間、円の対ドルレートが108円から109円に下落したのはそういうときだ。
では、リスクオンで円安に振れた場合に、その進行を抑制する要因は何か。ここでは、日本の輸出企業のドル売り円買いが円安の進行を抑えている。
日本の輸出企業の多くは、社内レートを1ドル=108~110円に置いている。そのため、円の対ドルレートが110円に近づくと、輸出代金を円転するためのドル売り円買いを入れる。そのため、ドルの上昇がそこで止まってしまう。
今後も、こうした円高にも円安にも大きく振れない均衡状態は続くのか。
リスクオン・オフを左右する米中貿易摩擦に対しては、部分合意が浮上しているものの、完全合意までは見通せない。
米国が問題視する中国の産業補助金は、国家資本主義の根幹に関わるものであり、中国が妥協することは考えにくいからだ。リスクオフの要因としてくすぶり続けるだろう。
貿易摩擦が緩和の方向に向かわなければ、日本の貿易収支の悪化傾向にも歯止めはかからない。
現在の均衡状態が大きく崩れるとすれば、可能性は低いが米中摩擦が一転、完全合意となり、リスクオンとなるか、米中両国経済の減速に拍車がかかり、世界経済も減速し、リスクオフとなるケースだろう。
ダイヤモンド編集部/竹田孝洋
最終更新:11月15日(金)6時01分
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