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Eメールの時代は終わる?「Slack」の隠れた威力

11月14日(木)6時10分配信 東洋経済オンライン

スラックのスチュワート・バターフィールドCEOは「僕たちのミッションは、仕事や生活をよりシンプルに、快適に、生産的にすることだ」と強調する(撮影:佐々木 仁)
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スラックのスチュワート・バターフィールドCEOは「僕たちのミッションは、仕事や生活をよりシンプルに、快適に、生産的にすることだ」と強調する(撮影:佐々木 仁)
 Eメールの時代は終わりを告げるのだろうか。ビジネスチャットアプリを手がけるアメリカのスラック・テクノロジーズの勢いはそんなことも感じさせる。2014年2月にパソコンやスマートフォン向けにアプリの提供を始め、日本語版は2017年11月に始まった。今や世界で1200万人以上のデイリーアクティブユーザーを抱えており、このうち約5割はアメリカ以外だ。課金企業数は約10万社に達した。

 昨年8月までにソフトバンク・ビジョン・ファンドなどから約14億ドルを調達し、企業評価額は71億ドルに到達。評価額10億ドル以上の未上場企業、ユニコーンの代表格となっていた。そして今年6月にはニューヨーク証券取引所に上場。新株発行による資金調達をしない「ダイレクトリスティング(直接上場)」という手法を選び、注目を集めた。
■グループチャットが基本、多数の外部連携も

 スラックでのコミュニケーションは、基本的に「チャンネル」というトークルームで行われる。プロジェクトや部署などさまざまな単位でチャンネルが作られ、通常のチャットと同じようにやりとりが時系列で表示される。1対1で1通1通のやりとりになるメールと異なり、チャンネルのテーマごとに大勢でやりとりがしやすくなる。

 さらに1800を超える外部のアプリとも連携。ストレージサービスの「ドロップボックス」にあるファイルを直接スラックのチャンネルに送ったり、スラック上で簡単なコマンドを打てば、「NAVITIME」の乗り換え経路検索ができたりする。今年9月には「共有チャンネル」という機能の正式提供を発表。従来のスラックは社内でのやりとりが主だったが、この機能を使えば、取引先など社外ともやりとりができる。
 一躍世界的企業に成長したスラックを率いるのは、スチュワート・バターフィールドCEO(最高経営責任者)だ。バターフィールド氏は写真共有サービスの「Flickr(フリッカー)」を創業し、アメリカのヤフーに売却。その後立ち上げたゲーム開発のスタートアップで社内向けに作ったチャットアプリがスラックの原型だ。カナダ出身で、ヒッピーの両親に丸太小屋で育てられたという異色の生い立ちもある。

 一方、スラックの株価は上場以降、大きく値を下げている。今年9月に来日したバターフィールド氏に、スラックが目指す世界とその戦略、プロダクト開発の理念、上場の意義や株価に対する考えなどについて直撃した。前後編でインタビューをお届けする(後編は11月15日に配信予定)。
 ――スラックのサービスを通して解決したかった働き方の課題とは何でしょうか。

 僕たちのミッションは、仕事生活をよりシンプルに、快適に、生産的にすることだ。職場で愚痴をこぼすとき、多くはコミュニケーションに関わるもの。同僚とのコミュニケーションではっきりと理解できないと、不満がたまる。とくに違う部署との共同作業は非常に難しい。

 スラックはこれを改善できる。透明性を担保し、簡単に団結し、協力し合える環境を作り出せる。誰もが仕事場で多くの時間を過ごすわけだから、多くの人の幸せにとって大きなインパクトを出せると思う。
■部署異動してもすぐに状況を把握

 ――では、スラックで実現できることとは? 

 導入してくれる企業には、1対1のダイレクトメッセージよりも、チャンネルの活用を勧めている。企業の中では部署を異動したり、組織改編があったりして、人はつねに動き続けている。

 着任したばかりの部署や新たに参加したプロジェクトでも、そのチャンネルを見れば、これまでのやりとりがすべてそこで見られる。書類を見つけたり、競合企業、パートナー、あるいは顧客の名前で検索して情報をチェックしたりできる。コミュニケーションがどんどん蓄積され、アーカイブとしての価値を持つ。
 一方、Eメールは非常に重要なテクノロジーで、長年使われてきた。ただEメールは情報が時系列に並んでいるだけで、とくに社内のコミュニケーションには向かない。スラックのチャンネルならプロジェクトやトピックごとに固まっている。EメールはどちらかというとTo-Do(やること)リストのようなもの。チャンネルは、このプロジェクト、この顧客のことならすべてここにある、というものだ。

 ――とはいえ、メールより簡単にメッセージを送信し合えるので、やりとりが多すぎて圧倒される人もいると思います。
 確かに(チャットは)新しいカテゴリーだ。自動的に課題を解決してくれるわけではなく、行動を合わせていく必要がある。一方で僕たちはスラックをなるべく自然に使えるように努めている。新着メッセージの通知の方法や検索機能の改善など、ユーザーを圧倒せずに価値を感じてもらえるようにしなければならない。

 ――ユーザーの利用パターンは非常に興味深いです。1日のうち、スラックにつないでいる(ログインしている)時間は平均9時間、実際に使っている時間は平均90分というデータがあります。それだけ仕事のインフラとして使われていると。
 職場にいる皆の注目を1つの場所に集約することは、大きな価値を生む。例えば何か仕事上の質問をしたいとき、誰に聞けばよいかわからないことが多い。そんなとき、その質問に関係しそうなチャンネルに行けば、多くの情報を得られる。

 さらに、企業は従業員が使うソフトウェアに年々多くのお金を使い、従業員はより多くの時間をさまざまなソフトウェアに使い、仕事をこなすようになっている。マーケティング分析など、スペシャリストのツールはどんどん増えている。
■スラックが仕事の基盤になる

 それらがすべてスラックと連携すれば、(同僚と)コミュニケーションやコラボレーションをしながら、より多くのことをこなせる。同僚の間の団結が強くなり、考えは鮮明になる。スラックのように社内の多くの人がやってくる場所では、外部連携は重要だ。

 今は1800のアプリとつなぐことができるし、導入企業各社では開発者が社内システムとスラックをつなげるための開発をしている。ドロップボックスのリンクを貼れば簡単にファイル共有できるし、ツイッターのリンクを貼ればツイートがそのまま表示される。グーグルカレンダーの通知や招待も、スラック上でできる。
 ――アクティブユーザー数や課金企業数、さらには1人当たりの利用時間など、事業成長を表すさまざまな指標があります。最も重視しているものは何ですか。

 指標はとてもたくさんあるし、ビジネスのどの部分を見るかによって変わってくる。ただ顧客の「姿勢」は重要で、それを表すのが継続的なエンゲージメントだ。1日でスラックを何分使って、いくつのメッセージを送っているか、ということよりも、1週間当たりで何日使っているかが重要だ。
 ある週の火曜にメッセージをチェックして、その次の週の火曜にまたチェックするというのでは、スラックを使っている意味がない。毎日使ってもらうことが重要。とはいえ、われわれはフェイスブックではない。皆がスラック上に長い時間滞在したからといって、収入が増えるわけじゃない。

 ――これまではスタートアップや社内のエンジニアチームといった、小規模な使われ方が多かったと思いますが、足元では万単位の従業員を抱える大企業への導入も増えています。事業展開はどう変わりますか。
 使う人が増えれば、プロダクトに求められる要件も複雑になる。8人しかいない職場だったら何の苦労もなく使いこなせる。それが8000人になったら、そうはいかない。そこで大企業向けの「エンタープライズグリッド」というプランを作った。

 通常は1つの組織において、1つの「ワークスペース」を作る。そのワークスペースの中にいくつものチャンネルが作られる。ただ大企業向けの場合は、企業の中に複数のワークスペースを設けることができる。ワークスペースの間を「共有チャンネル」でつなぎ、実際の組織を模したような構造がスラック内にも作れる。
 さらに規制への対応も必要だ。金融機関であれば従業員がメッセージを削除したとしても、すべて保存しておかなければならない。ヨーロッパの企業であればヨーロッパ域内にデータを保管する必要がある。

■「共有チャンネル」機能の強み

 ――導入の作業も大がかりになりそうですね。

 そのとおり。例えばアメリカのオラクルが5万人の社員にスラックを導入した。最初は1000~2000人が使い始め、わずか8カ月で5万人規模に広げなければならなかった。「カスタマーサクセス」という顧客への導入を支援するグローバルのチームが入り込み、会議室でまず管理職の人たちに教え込む。その後に各人が自分の部署に持ち帰り、広げていく。
 ――これまでは社内のコミュニケーションが中心だったスラックにとって、「共有チャンネル」機能の展開は大きな意味を持つのでしょうか。

 スラックを使うメリットが、より大きな円で広がっていくと期待している。Eメールを丸ごと取り替えてしまうものではない。新たに物を売り込む営業はチャットよりもメールが適している。とはいえ、緊密な連携が必要なパートナー同士にはスラックが最適だ。

 業界や企業ごとに異なる理由で使われることになると思う。シリコンバレーにある法人向けソフトウェアを手がける企業では、プレミアムなカスタマーサポートを提供するために使われている。ソフトウェアベンダーと顧客をつなぐ手段になっている。
 共有チャンネルができる前は、スラックの監査人であるKPMGにはゲストアカウントを割り当てていた。KPMG側の責任者であるパートナーは毎年同じだが、部下として働く会計士は変わる。けれども監査で聞くことはあまり変わらない。チャンネルがあれば、過去にどんな質問をして、経理部がどう答えていたかの記録が残り、管理がしやすくなる。これはメールではできないことだ。
中川 雅博 :東洋経済 記者

最終更新:11月14日(木)10時53分

東洋経済オンライン

 

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