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グーグルがアルバムを作ることの重大な意味

11月10日(日)5時25分配信 東洋経済オンライン

何かと便利なサービスではありますが…(写真はGoogleフォトのホームページより)
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何かと便利なサービスではありますが…(写真はGoogleフォトのホームページより)
昨今の経済現象を鮮やかに切り、矛盾を指摘し、人々が信じて疑わない「通説」を粉砕する――。早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問の野口悠紀雄氏による新連載をスタートする。

■何でもすぐに写真を撮るようになった

 研究会などでホワイトボードに書かれた内容を撮影するのは、ごく普通に見られる光景となりました。

 かつてのように重いカメラは必要ではなく、どこにでも持ち歩けるスマートフォンで簡単に撮影できるようになったことが大きな理由ですが、それとともに、写真をいくら撮っても、ほとんど無料で、事実上いくらでも保存できるようになったことの影響が大きいと思われます。
 これは、写真に対するこれまでの考えを大きく変えるものです。

 一昔前まで、写真は高価な情報保存手段でした。フィルム代、現像代、プリント代がかかり、それをアルバムに貼らなければなりません。このため、これまで写真を撮るのは、旅行や運動会などの特殊な場合でした。

 それが、「タダでいくらでも保存できる」ということになったのですから、写真に対する考え方は基本的に転換することになります。ホワイトボードの情報をメモするために写真を撮るというのは、その1つの表れにすぎません。
 問題は、保存した写真が大量になると、その中から目的のものを選び出すのが難しくなることです。

 同じ問題が、ウェブの情報について、20年ほど前に生じました。

 それを解決したのが、検索エンジンでした。極めて性能の高い検索エンジンを開発したグーグルが、その後急成長し、今やGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)と呼ばれる企業群の1つとしてアメリカ経済をリードする役割を担っていることは、よく知られています。
 ところが、これまで検索の対象にできたのは、デジタル・テキスト(文字や数字など)でした。写真などの画像を検索することはできなかったのです。このため、写真の数が多くなってくると、お手上げということになります。

 貴重な写真がたくさんあるのに利用できないで、情報洪水の中に飲み込まれてしまう「豊穣の中の貧困」です。

■個人でも、画像認識機能を使えるようになった

 ところが、この状況に最近大きな変化が生じつつあります。コンピューターが画像を識別できるようになったのです。
 例えば「写真に写っているのは猫であり、犬ではない」ということを判断できるようになりました。

 この技術は、画像認識といわれるもので、これまで、コンピューターが最も苦手とされてきたものです。われわれが学生の頃から、「夢の技術」といわれていました。

 画像認識は、さまざまな場面で応用されます。

 まず、自動車の自動運転には不可欠の技術です。完全自動運転が可能になれば、経済活動も生活のスタイルも大きく変わるでしょう。
 また、電子マネーの支払いが、QRコードではなく、顔認証で行えるようになりつつあります。これができれば、店舗の無人化が可能になります。

 このように、画像認識は極めて重要な技術ですが、ここでは、企業による利用ではなく、個人が画像認識機能を使えるようになったことについて述べたいと思います。

 個人が使える画像認識の第1は、「Googleレンズ」というサービスです。スマホのGoogleアプリでマイクの左横にあるボタンをクリックして起動したカメラで写真を撮ると、その対象物が何であるかを教えてくれたり、印刷された文字を読み取ってくれたりします。これは、1年ほど前から利用可能になったものです。
 最近では、写真の検索が可能になりつつあります。

 グーグルが提供する「Google フォト」というアプリでは、保存された写真について、いくつかの写真に写っている人物が同一人物か否かを識別します。そして、人物ごとのアルバムを作ってくれます。

 これはかなり正確な識別であり、幼児が成長しても、同一の人物であると識別します(なお、類似のサービスを、マイクロソフトも提供しています)。

 つい最近までは、人物以外の基準による識別は、不十分でした。ところが、最近、その能力が目に見えて向上しています。
 テキスト検索のように自由な検索はできませんが、適切な検索語を入れると、その関連の写真を引き出します。

 これで識別された写真をアルバムに入れるのは簡単な操作でできるので、写真の内容ごとにアルバムを作ることができます。こうして、素早く目的の写真を見いだすことができるようになりました。

 ところで、こうした操作をしていると、画像に関連したデータをグーグルに提供していることになります。以下では、このことの意味を考えたいと思います。
■グーグルが大量の学習データを得る

 Google フォトは、写真に写っている人物を識別し、個人別のアルバムを作ってくれますが、その人の名前までは知りません。それは、利用者が入力するしかありません。

 利用者としては、名前を入力しておくと何かと便利なので、入力します。

 すると、Googleは、写真の人物の名前を知ることができるわけです。こうしてGoogleは、今や世界中の何億人という人物について、名前と顔を関連付けられるようになっているのです。
 これには、いくつかの問題があります。

 第1に、こうした方法で大量のデータを収集できる企業は、世界でごくわずかしかないということです。現在では、グーグルとマイクロソフト、それにフェイスブック程度ではないでしょうか? 

 また、中国の電子マネーであるアリペイは、顔認証による決済サービスを提供しているので、それを通じて顔の情報を入手することができます。

 しかし、それ以外の企業は、こうしたことができません。
 ところで、AIの能力を向上させるには機械学習が必要であり、そのためには大量のデータが必要です。そのデータを得ることができる企業がごく少数のものに限られてしまうということは、高度の画像認識能力を開発でき、それを活用できる企業が、ごく少数の企業に限られてしまうことを意味します。

 われわれは、この状況をどう考えるべきでしょうか?  日本の企業は、このことの意味を真剣に考える必要があります。

 問題はそれだけではありません
 以上のような方法によって個人の顔の識別が可能になった場合、それがどう利用されるかです。

 顔認識ができるようになれば、それはAIによるプロファイリング(大量のデータから、個人の属性・所得・嗜好などを推測すること)に使われます。写真に写った個人が誰かを判別できるようになるのです。

 この利用は、電子マネーの決済だけではありません。

 最近では、タクシーの中にある広告パネルが乗客の顔を認識し、その人にあった広告を流すようになっていると報道されています。「画像パネルに自分が誰かを把握されてしまうのは気持ちが悪い」と考える人は多いでしょう。
 それだけならまだしも、国家による管理に用いられる可能性があります。

 これは、中国ではすでに現実の出来事となっています。警察官が顔認識機能を持つ特殊なゴーグルを装着し、それによって犯人を検挙しているというのです。1万人が集まったコンサートでたった1人の指名手配犯を見いだし、検挙したというニュースが報道されました。

 こうなると、ジョージ・オーウェルが小説『1984年』で描いたビッグブラザーよりもはるかに強力なデジタル支配者が現れ、究極の管理社会が実現される可能性があります。中国は、そういう社会に向かっていると考えることもできます。
■個人情報を提供しなければ仕事ができない

 こうした事態に対処するため、EU一般データ保護規則(GDPR)は、「プロファイリングされない権利を認めるべきだ」としています。

 しかし、これで問題が解決されるでしょうか? 

 Google フォトの例を思い出してみると、われわれは、この利用から大きなメリットを受けています。だからこそ、進んで個人情報を提供しているのです。

 「プロファイリングされるのは嫌だから、こうしたサービスは用いない」とは言えない状況になっています。
 これは、写真に限ったことではありません。検索、メール、マップなどのインターネットサービスについて、等しくいえることです。

 われわれはすでに、こうしたサービスを利用しなくては、仕事をしたり生活をしたりすることができなくなっています。すでに、トロイの木馬を城の中に引き入れてしまったのです。

 そうしたことを考えると、GDPRが提案していることは、およそ見当違いと考えざるをえません。

 日本では、公正取引委員会が、独占禁止法によってGAFAなどを規制しようとしています。しかし、問題は価格支配力ではないので、これが問題解決のための方向であるとも考えられません。
 個人のプライバシーを守りつつ、利用価値の高いインターネットサービスを使うにはどうしたらよいのか? 

 この問題は、どうしても解決されなければならないものです。しかし、今までわれわれが経験したことのない極めて難しい問題です。
野口 悠紀雄 :早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問

最終更新:11月20日(水)9時52分

東洋経済オンライン

 

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