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2分の1の確率で遺伝する難病を持つ母・伊是名夏子さんが考える出生前診断

10月26日(土)11時00分配信 マネー現代

写真:現代ビジネス
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写真:現代ビジネス
(文 河合 蘭) 出産ジャーナリストの河合蘭さんによるFRaU Web連載「出生前診断と母たち」。現代の妊娠は、さまざまな事情から、親が、妊娠継続について重い決断をする場面も増えた。大切なのは、親が自分たちで考え、そして自分たちで決断することではないだろうか。

 今回は『ママは身長100cm』(ディスカバー・トゥエンティワン)の著書が話題となったコラムニストの伊是名夏子さんに聞いた自身の出産の時の話と、2分の1の確率で遺伝すると言われる難病の伊是名さんが考える出生前診断についてお伝えする。

身長100㎝、体重20kgの母

自宅でおもてなしをしてくれた伊是名さん 撮影/河合蘭
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自宅でおもてなしをしてくれた伊是名さん 撮影/河合蘭
 骨形成不全症という先天性疾患を持つコラムニスト・伊是名夏子さん(37歳)が自身の生い立ち、恋愛、出産と育児を綴った『ママは身長100cm』を読んだ。骨形成不全症とは、骨の発生や成長が上手くいかないために骨の形や構造に問題が起きる病気で、厚労省の指定する難病のひとつだ。

 現代では多くの女性が「もし妊娠して胎児に先天性の疾患があったら、どうしよう」という不安を感じているが、伊是名さんの場合は、通常のリスクに加え、自分の骨形成不全症が2分の1というとても高い確率で子どもに遺伝することがわかっていた。

 伊是名さんは身長がわずか100cm、体重は20kgととても小さいため、妊娠すると、正期産の時期まで妊娠が継続できない可能性も高かった。そうなると、子どもには、早産をしたことによる障害が残る心配も起きてくる。伊是名さん自身にとっても、妊娠は、子どものように小さな身体の中で子宮がどんどん大きくなっていくのだから「肺が圧迫されて息が苦しくなる」「あばら骨が押されて骨折する」など特別な心配がたくさんあった。

 しかし、伊是名さんには、小さいころから「とても楽しそう」と思ってきた子育てをあきらめるという選択肢はどこにもなかった。子どもの障害についても、葛藤も迷いもなく、ただ、その準備だけをしていたという。そう思えた理由は何なのだろうか。

「死なない病気」だとわかって、大喜びした両親

 伊是名夏子さんは、今も家族がお互いを大切にする風土が残る沖縄で1982年に生まれた。誕生日は4月。それなのに、伊是名さんの名前は「夏子」。そこには、当時、伊是名さんの両親が抱いた必死な思いが込められていた。

 伊是名さんは、誕生した時、両足の骨が骨折していて、頭の骨もほとんど作られていなかった。出産した病院の医師は病名がわからず、余命いくばくもないかもしれないと両親に告げ、両親は「せめて夏まで生きていて」という祈りの気持ちで愛しいわが子に夏子という名を贈った。その1ヵ月後、やっと骨の病気に詳しい専門医が来て、正しい病名は骨形成不全症であり、命に別状はないことを説明してくれた。伊是名さんは言う。

 「だから『ああ、骨形成不全症でよかった』というのが、私を育てた両親の育児の始まりだったんです。そのためか、私は、両親が、自分たちが障害児の親であることを苦に感じている様子は見たことがありませんでした」

 赤ちゃんはおむつを変えるたびに骨折しそうで、実際に数えきれないほどの骨折と入院を繰り返したが、やがて、歩けないことをものともせず、いつもやりたいことが一杯のエネルギッシュで利発な少女に成長していった。伊是名さんの太陽のような明るさは生来のものだろうが、家族や地域の人々がはぐくんだものでもある。伊是名さんの家族は両親とも、また階下に住んでいた祖父母も教師で、地域の子どもたちを集めて、ラジオ体操や盆踊りを催すような人だった。

 もちろん、悲しい思い出もある。幼稚園にも保育園にも、そして小・中学校の普通学級にも通うことを許されなかったのだ。

 「地元の小学校の校長先生が家に来たんです。そして、私を一目見て、すぐに『無理です』と決めてしまいました。そして今でいう特別支援学校に行くことになりましたが、そこでは普通の授業を受ける子どもは私一人しかいなかったのです」

 でも、伊是名家が大家族だったのは幸いだった。祖父母、叔父が日中遊んでくれた。父親も、伊是名さんの誕生を機に夜間学校に職場を変えていたので家にいてくれたし、母親は特別支援学校に異動した。

 きょうだいも2人いてその友達も遊びに来たし、英語にピアノ、習字などの習いごとも家族・きょうだいや近所の人がサポートし、時には抱っこをしてもらって通った。英語教師の父のおかげもあり、中学時代には高松宮杯全日本中学校英語弁論大会の沖縄県代表に選ばれ堂々と全国第2位を獲得した。高校受験では歴史ある県立首里高校の受験に合格し、念願だったクラスメイトのいる学校生活を満喫したあと、東京に出て、早稲田大学に進学した。

 こうした過去の話を、今まで、伊是名さんはあまりしてこなかった。
「話して、誰かに『あの人は恵まれていただけ』『自慢している』と批判されるのがこわかったんです」

 しかし、今回の著書で、伊是名さんは、あえて、事細かに自分の子ども時代のことを書いた――自分の両親が自分のありのままを受け容れ、地域とのつながりを作ってくれたことの意味が分かったからだ。骨折したって気にしないできょうだいたちと笑い転げ、家族や近所の人たちと暮らした子ども時代はどんなに楽しかったか。

 「私が『私は人と違ったところがあっても大丈夫』『自分は大切にされている』と思えるようになったのは育った環境の影響が大きいと思います。それなら、どの子にもこんな子ども時代があればいいのに。私はそのことに最近気がついてきたので、こんな家族もあるんだよ、ということを知ってほしくなったのです」

何でも、やってみなければわからない

第一子妊娠7ヵ月のとき、妊婦検診を受ける伊是名さん 写真提供/伊是名夏子
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第一子妊娠7ヵ月のとき、妊婦検診を受ける伊是名さん 写真提供/伊是名夏子
 妊娠についても、伊是名さんは、「自分は大事な3つのことに恵まれた」と言う。
「ひとつめは、いいロール・モデルに出会ったということです。私は、結婚前に、女性週刊誌で、自分と同じ病気を持ちながら出産した女性の記事を読んだことがありました。そして、その女性と、学生時代に、偶然にリアルで出会ったのです!」

 伊是名さんは、その「先輩ママ」が、骨形成不全症が遺伝したわが子を育てている様子を見ることで子育ての自信がついた。

 「そして、2つ目はいい医師と出会ったことです」

 その先輩女性は、伊是名さんに産婦人科も紹介してくれた。産婦人科に行くと、伊是名さんは「あなたは内診台に乗れないから診察ができない」と言われるなど、強い疎外感を感じることが多かった。ところが先輩ママの分娩を扱ったというその医師は、丁寧に伊是名さんを診察したあと、素晴らしい知らせをくれた。

 「その先生は『あなたは身体は小さいけれど、子宮は普通の女性と同じ大きさがありますから妊娠、出産は可能性はあります』と言ってくれたのです。飛び上がりたいほど嬉しい言葉でした」

 その後、その医師は家に近い大学病院の医師を紹介してくれた。そして、その紹介された医師も同じように伊是名さんの妊娠を温かく応援してくれた。

 「その病院では、先生たちはどんなリスクがあるかはきちんと説明してくれましたが、だめだと最初から決めつけることはせず、いつも『実際にどうなるかは、その時になってみなければわからない』と言ってくれました。私や夫が過剰な心配をしそうになると『赤ちゃんは急に大きくなることはないから、身体には慣れる時間があります』『危険な兆候があれば、すぐに対応します』と言って安心させてくれたのです」

「病気」とは逃れることはできない、共存するもの

第一子出産直後 写真提供/伊是名夏子
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第一子出産直後 写真提供/伊是名夏子
 伊是名さんにとって重要だった3つのポイントの最後は「NICU(新生児集中治療室)がある病院で出産すること」だった。骨形成不全症が遺伝している赤ちゃんを産むことを想定していたからだ。幸い、紹介されたのはNICUがある大学病院だったので、この点でもよかった。

 「病気を理由に妊娠を中断する」という選択肢はまったく考えていなかった伊是名さんは、骨形成不全症の出生前診断についての情報は特に探さなかった。

 「私は、病気というものは完全になくすことはできなくて、『いつかかるか』というタイミングの問題でしかないと思っているのです」
「出生前診断で赤ちゃんに病気が見つかったら産まない」という考え方は、伊是名さんにとって非常に理解し難いものだった。
「『健常な赤ちゃんなら、産む』という人には、私は『生まれた時だけ病気でなければ、それでいいの? 』と聞きたくなってしまうのです」

 伊是名さんは、31歳で無事に男の子を出産した。妊娠当初は「妊娠が、少なくとも27週(通常の妊娠期間は37週~40週)を超えるまではお腹で赤ちゃんを育てられるようにがんばりましょう」と言われていたところを、なんと妊娠35週まで持ちこたえることができた。帝王切開の傷は通常の帝王切開より大きいものとなったが、生まれてきた第1子は2160gあり、骨形成不全症の遺伝はなかった。

そして第二子の女の子も同じ週数での帝王切開となったが、不思議なことに、この子は第一子とまったく同じ体重で生まれてきた。それが伊是名さんの身体にちょうど良い大きさで、子どもたちがそれをわかっていたみたいだ。この子にも、骨形成不全症の遺伝はなかった。今、伊是名さんはヘルパーさんやボランティア、ファミリーサポート、ママ友、近所の方などたくさんの人に育児と自分の生活を助けてもらっている。

助けてもらう力

第二子妊娠中の伊是名さん母子 写真提供/伊是名夏子
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第二子妊娠中の伊是名さん母子 写真提供/伊是名夏子
 後日、第一子を出産した大学病院で最初に伊是名さんを担当した産婦人科医の塩田敦子さん(香川県立保健医療大学教授)にお話をうかがうことができた。

 伊是名さんが調べていなかった出生前診断についてお聞きすると、骨形成不全症の出生前診断はケースによるという。
「形の上で目立つ変化があれば、超音波検査で『その可能性が高い』とわかるようになってきています。ただ、一般的に言って正確な検査はまだ難しい段階です」

 塩田さんにとって、伊是名さんは後にも先にもただひとりの骨形成不全症の妊婦さんだった。やはり、この病気の女性の出産例はとても少なく、文献にあたっても国内での報告はわずかしかないそうだ。そんな貴重な女性との出会いを振り返って、塩田さんはこう言った。

 「伊是名さんは、いつも上手に人に助けてもらいながら生活されている様子が印象的でした。助けてもらうということは、難しいことだと思います。ご自身に、自尊心や人を信頼する心がなければできません」

 私は、伊是名さんが書いてくれた子ども時代の事を思い出して、やはり、伊是名さんが育ったような家族環境が急激に減っていることは、不安な妊婦さんが増えていることとつながっているのだろうと思った。
「そして今の妊婦さんは『助けて』ということが苦手な人が多いのです。障害をもちながら出産する方には、きっと、何か役割がおありなのでしょうね」
河合 蘭

最終更新:10月26日(土)16時35分

マネー現代

 

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