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「自販機で消費税還付」はこうして封じられた

10月21日(月)11時00分配信 不動産投資の楽待

(写真:haku/PIXTA)
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(写真:haku/PIXTA)
今年10月に税率が10%となった消費税。一部食料品などに適用される軽減税率の制度が新たに導入され、大きな話題となった。一方、不動産投資の世界では「消費税還付」をめぐるスキームや法改正が度々話題に上がる。「自動販売機スキーム」や「金地金売買スキーム」などと呼ばれる手法だ。

これらのスキームは、投資家の間で広まっては当局から規制がかかるという「イタチごっこ」が続いてきたが、こうした状況はなぜ起こったのか。税理士の大野晃男さんに消費税還付スキームの歴史を振り返ってもらい、今後の動向についても予測してもらった。

■国税庁の「意見」は規制の布石?

令和元年(2019年)の税制改正では、消費税還付を直接規制するような変更は行われませんでした。ただ、国税庁から次のような「意見」が出され、話題となりました。

1.課税売上割合の計算に含めると事業者の事業実態からかい離することとなる場合には、当該資産の譲渡に係る売上高を課税売上割合の計算から除外する。

2.若しくは、事業者が算出した課税売上割合が事業実態からかい離する課税売上割合と認められる場合の事後的否認規定を措置する。
※税務通信3549号より

一言で説明すると、「大家さんの課税売上割合を計算する際には、金地金の売買を課税売上とは認めないようにするつもりですよ」という内容です。あくまでも「意見」の段階ですが、後述する「金地金売買スキーム」の規制を宣言しているように受け取ることができます。

今回は、そもそも大家さんの消費税還付スキームがなぜ生まれ、どのような経緯で規制されてきたのか、その変遷についてお話したいと思います。

■「不動産賃貸業は還付できない」という矛盾

消費税はその名の通り、最終消費者(最終的に食べた人や使った人)が税金を負担する仕組みになっています。

【1】AさんがBさんに自動車を110万円(税込)で販売
【2】Aさんは受け取った消費税10万円を納税
【3】今度はBさんがCさんに自動車を330万円(税込)で販売
【4】Bさんは受け取った消費税30万円から支払った消費税10万円を差し引いた20万円を納税
【5】結果としてCさんが消費税30万円を負担(【2】10万円+【4】20万円)

では、住宅を貸している大家さんの場合はどうなるでしょう?

上記のAさんを管理会社さん、Bさんを大家さん、Cさんを入居者さんに置き換えて考えてみてください。大家さんが管理会社さんに管理費を支払うときには、消費税10万円がかかります。管理会社さんは消費税10万円を納税します。しかし、大家さんが入居者さんから家賃収入をもらうときには、消費税30万円は発生しません。住宅の貸付けによる収入(家賃、礼金、返還しない敷金など)は社会政策的な配慮により非課税だからです。

消費税は最終消費者である入居者さんが負担するのが本来ですから、入居者さんが負担する消費税がないのであれば、そもそも消費税を国に納税する必要がありません。したがって、大家さんは支払った消費税10万円を国から還付してもらえるはずです。

ところが、実際には大家さんは還付を受けることができません。売上の中に「課税の売上」が含まれていなければ還付されない仕組みになっているからです。非課税の家賃収入しか発生しない大家さんは還付を受けられず、消費税10万円を負担することになります。残念ながら、大家さんは消費者だと見なされているのです。

実は、もともと家賃収入は課税の売上でした。平成3年度(1991年度)の改正で非課税となったのですが、その際に旧建設省の住宅局長は、当時の税率3%分の家賃をそのまま下げるのではなく「賃貸住宅経営に必要な資材の購入や役務提供のコストに含まれる消費税相当額(=今後大家さんが負担する消費税分)は家賃に上乗せしてください」と文書で述べています。

つまり、大家さんが消費税を負担することを前提にし、その負担分は家賃収入を値上げしてまかなってください、ということです。ただ実際には、消費税が上がったからといって、家賃を値上げするというのは現実的ではないですよね。

そうなると、支払った消費税をなんとか取り戻したいと考えるのが人情。そこで考え出されたのが、これから説明する「消費税還付スキーム」です。これまでにいろいろなスキームが生まれては、規制によって封じられてきました。では、具体的な内容について順を追って説明していきましょう。

■「自動販売機スキーム」の誕生

消費税還付を受けるには、「課税売上(消費税がかかる売上)」が必要です。大家さんの家賃収入は「非課税売上(消費税がかからない売上)」ですので、このままでは消費税還付は受けられません。そこで考え出されたのが、敷地内に自動販売機を設置してジュースを販売する、という「自動販売機スキーム」です。ジュースの販売による売り上げは課税売上です。大家さんは次のような流れで消費税還付を受けていました。

【1】消費税課税事業者選択の届出を提出して課税事業者となる
【2】自動販売機を設置して課税売上を発生させる
【3】決算間際のギリギリの時期に物件を購入する
【4】今期は家賃収入を発生させない(非課税売上を発生させない)
【5】消費税の還付申告を行う

会社設立1年目でジュースの売り上げが1万円だったとしましょう。家賃収入は0円ですので、課税売上割合は100%となります。課税売上割合が100%の場合、物件購入時に支払った消費税の還付も100%受けることができるというわけです。

しかし、実はこの自動販売機スキームには制約がありました。大家さんが物件を購入した後の3年間通算で、課税売上の割合が大きく(50%以上)減少した場合、還付を受けた消費税を税務署へ返納しなければならないという制度です。

たとえば2年目と3年目のジュースの売上が1万円で、家賃収入が100万円だった場合、課税売上割合は約1%となります。1年目が100%、2年目が1%、3年目が1%となれば、3年間の通算課税売上割合は約1.5%となり、課税売上割合が50%以上減少していますので、還付された消費税を税務署へ返納しなければなりません。

ところが、この制約は簡単に回避することができました。実は3年目で課税事業者になっていなければ、制約を受けずに済んだのです。

そこで、2年目の間に課税事業者の選択を取りやめる届出をします。そうすると3年目は免税事業者となり、還付された消費税を返納しなくてすみました。そのため、自動販売機スキームは大ブームになったのです。

たとえば決算の直前に5000万円の物件を購入したとしましょう。税率が10%だとすると消費税額は500万円です。この500万円から、ジュースの売上1万円にかかる消費税1000円を差し引いて、499万9000円が還付されるということになるわけです。

■「3年縛りルール」が登場するも……

自動販売機スキームについて、平成20年(2008年)に会計検査院がサンプル調査したところ、消費税還付を受けた大家さんの約85%がこのスキームにより返納していないということが分かりました。そこでこのスキームを防止するための税制改正が行われます。

具体的には、課税事業者選択の届出をして課税事業者となってから2年間に、100万円以上の固定資産を購入した場合、購入後3年間は課税事業者の選択を取りやめることができなくなりました(課税事業者3年縛りルール)。これにより3年目に免税事業者になって返納を回避することができなくなったのです。

しかし、この3年縛りルールも回避するスキームが考え出されました。具体的には、「課税事業者選択の届出後、2年間は物件を購入せず3年目に購入する」というもの。こうすれば、課税事業者となってから2年以内に物件を購入していないため、3年縛りのルールは適用されないのです。

他にも、課税事業者選択の届出をせず、他の物件を売却して課税売上を1000万円超発生させるという抜け道もありました。課税売上が1000万円超あれば強制的に課税事業者となる、という制度を利用するのです。そうして2年後に自動的に課税事業者となるタイミングで物件を購入すれば、そもそも課税事業者選択の届出をしていないため、やはり3年縛りルールは適用されないことになります。

こうした「3年縛りルールの回避スキーム」が存在したことから、さらなる税制改正が行われました。課税事業者(簡易課税を除く)が1000万円以上の固定資産を購入した場合には、購入後3年間は免税事業者になることが完全に禁止されました。これにより3年縛りルールを回避することは不可能となったのです。

■自販機から「金地金売買」へ

そこで今度は、免税事業者になる方法ではなく、購入後3年間で課税売上割合を大きく減少させない方法が考え出されました。それが冒頭でも触れた「金地金売買スキーム」です。

課税売上割合を大きく減少させないためには、年間の家賃収入(非課税売上)と同額以上の課税売上が必要です。これを自動販売機のジュースの売上だけでまかなうのは不可能です。多額の課税売上を短期間で生み出すには、単価が高いもの、必ず売れる流通性が高いものが最適です。そこで注目されたのが金地金(金塊)の売買でした。

設立1年目で、金の売上が1万円、家賃収入が0円の場合、課税売上割合は100%となります。2年目、3年目の家賃収入が100万円の場合、100万円以上ずつ金の売上を行うことで、課税売上割合が大きく(50%以上)減少しないことになります。現在は消費税の還付を受けた後、金地金売買により課税売上を維持する方法が主流となっています。

■イタチごっこの行く末は

ここで、冒頭に紹介した国税庁の「意見」に触れておきましょう。「大家さんの課税売上割合を計算する際には、金地金の売買を課税売上とは認めないようにするつもりですよ」という内容でしたね。

もしそうなってしまうと、先述したケースでは1年目の課税売上割合は0%となり、消費税の還付は受けられません。仮に1年目に金以外の課税売上1万円を上げて還付を受けたとしても、2年目、3年目に金以外のもので年間家賃と同額以上の課税売上を上げるのは至難の業です。

そもそも不動産賃貸業の本来の目的は、手もとに残るキャッシュを増やすことだと思います。無理やり課税売上を生み出すには余計なコストがかかりますし、還付申告にかかる税理士報酬が高額になる可能性があります。それらを考慮して、将来のキャッシュフローがどうなるかを検討したうえでの判断が必要でしょう。



消費税還付については、いろいろなスキームが考え出されては、それを防止するため改正されるというイタチごっこを繰り返してきました。その本質は、本来は家賃を値上げして大家さんに消費税を負担してほしいという理想をかかげる課税当局と、「便乗値上げだ!」と言われ退去のリスクから自腹を切らざるを得ない現実をかかえる大家さんとの戦いの歴史でもあります。

消費税率が改正され、ますます複雑化していく消費税の制度に備えるためにも、まずは消費税の基礎を知っておく必要があると思います。
大野 晃男

最終更新:10月21日(月)11時00分

不動産投資の楽待

 

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不動産投資の楽待

不動産投資の楽待

株式会社ファーストロジック

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