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グーグルスマホ新機能が日本で「使えない」理由

10月19日(土)5時20分配信 東洋経済オンライン

グーグルの最新スマートフォン「Pixel 4」は10月24日に発売される。黒、白、オレンジの3色展開で、側面はすべてのモデルで黒いラバーバンドが施されている(撮影:尾形文繁)
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グーグルの最新スマートフォン「Pixel 4」は10月24日に発売される。黒、白、オレンジの3色展開で、側面はすべてのモデルで黒いラバーバンドが施されている(撮影:尾形文繁)
 日本上陸から早1年、アメリカのグーグルは10月16日、自社開発スマートフォン「Pixel 4(ピクセル4)」を発表した。第4世代となる今回の新製品でも、同社が強みとするAI(人工知能)などのソフトウェア技術を活用した新機能の満載ぶりをアピールする。

 アップルのiPhoneなど、多くのスマホがデュアルカメラを採用する一方で、ピクセルはこれまでシングルカメラを貫いてきた。ただ今回から望遠レンズを加えて2つになり、離れた場所からでも画質が粗くならないズーム写真を可能にした。
■カメラや半導体が進化、AIの強みを発揮

 また第3世代から採用された、暗い場所でも明るい写真を撮影できる「夜景モード」がさらに進化し、「天体写真機能」が加わった。夜間の星空の撮影も可能になり、天気がよければ天の川も撮影できるという。

 従来は写真撮影の機械学習処理に使われてきたピクセル専用の半導体チップも進化し、つねにクラウドで処理せずとも、より多くの処理をスマホ上で完結できるようになった。例えば、音声AIの「グーグルアシスタント」や今回加わったボイスレコーダーアプリの自動文字起こし機能(現在は英語のみ)など、音声認識や自然言語理解はすべてスマホ上で行われる。
 5.7型の有機ELディスプレイを採用した「4」、一回り大きい6.3型の「4XL」の2機種をそろえる。日本では4が8万9980円から、4XLが11万6600円から。10月24日に発売する。グーグルのネット通販サイトのほか、通信会社ではソフトバンクのみが販売する。

 多くの新機能が加わった第4世代のピクセルだが、発売時に日本だけで使うことのできないものがある。レーダーセンサー技術を用いた「モーションセンス」と呼ばれる新機能だ。内蔵した小型センサーが発するレーダーが手の動きを感知し、画面に触れずともスマホの操作が可能になるという画期的なものだ。
 手を伸ばすだけで前面のカメラが起動して顔認証でロックを外したり、端末のそばを離れた際に画面が消えたりする。さらにスマホの前で手をかざしてアラームを止めたり、手を素早く振って音楽の曲送りをしたりできる。運転や料理、入浴などの最中であったり、ほかのアプリを使っているときに便利だ。

 ピクセル4は北米、ヨーロッパ、アジアの12カ国で発売されるが、この中で唯一日本だけが発売時にモーションセンスを利用できない。スマホにレーダーのチップが搭載されているにもかかわらずだ。背景には電波法の規制がある。
 「Soli(ソリ)」と名づけられたレーダーセンサー技術は、グーグル社内にある先端技術の研究開発部門「ATAP(Advanced Technology and Projects)」で開発された。

 航空管制や潜水艦など、大型の物体を検知するために過去数十年間使われてきた技術を、5年の開発期間を経て、1つの小さなチップに落とし込んだ。画面の上に埋め込まれたセンサーとアルゴリズムにより、ジェスチャーを理解したり、ユーザーがスマホの近くにいるかどうかを検知したりする。
■今のままではSoliが技適を取得できない

 ソリで使われているレーダーの周波数は57~64GHz(ギガヘルツ)帯。細かなものを検知するレーダーには広帯域の周波数が必要で、数GHz単位の帯域を確保するには60GHz前後のミリ波が適している。

 こうした電波を一般に使えるようにするには、技術基準適合証明(技適)を取得する必要がある。60~61GHzという狭い帯域では自動車の自動ブレーキに活用されているミリ波レーダーがあるが、電波の規制を管轄する総務省が制定する技術基準では現在、ソリのような指の動きなどを検知する広帯域のレーダーセンサーは認められていない。
 そこで昨年末、グーグルは総務省に、ソリのような60GHz帯の新たな無線システムを導入するために必要な技術基準を検討するよう持ちかけた。とはいえ、グーグル1社のためだけに技術基準を改定することは現実的ではない。

 総務省側が同様のシステムの需要を調査したところ、インテルやクアルコムといったアメリカの複数の半導体メーカーなどから必要性が指摘され、今年5月から有識者などによる検討会が始まった。そこで同じ周波数帯のほかの無線システムとの干渉などについて検討が行われ、すでに問題がないことが確認されている。
 今後は省令改正に関する意見募集が行われ、電波を管轄する審議会に諮問するなどのプロセスを経て、「諸々の手続きが終わるのが来年1~2月になるだろう」(総務省担当者)。

■来年の春ごろには使えるようになる

 実際グーグル側は、モーションセンスの日本での提供開始が2020年春ごろになると述べている。日本法人のピクセル事業を統括する埜々内ルイ氏は、「チップ自体はピクセルに搭載されており、春ごろにソフトウェアのアップデートにより使えるようになる」と説明する。
 なぜ日本だけが技術基準で対応していなかったのか。総務省担当者は、「日本だけが規制が厳しいといったことではない。アメリカはあくまで特例措置でソリを認めており、何か悪い影響が出れば許認可を取り消す可能性を排除していない」と話す。

 そのうえで、「日本で(60GHz帯のセンシングについて)これまで顕在化したニーズがなかった。グーグルがきっかけで調査をしたら、他社からの需要もわかったので検討を始めたというのが実情。とはいえ検討開始から1年も経たずに省令改正にこぎ着けたのはかなり早いほうだ」との認識を示した。
 モーションセンスはジェスチャー、グーグルアシスタントは音声による操作を可能とした。スマホが普及して以降、コンピューターのインターフェースの主流はタッチパネルだったが、AIなどのソフトウェア技術の進歩により、操作方法が広がった。こうした変化を受け、今回グーグルが打ち出したのが、「アンビエントコンピューティング」という概念だ。

 アンビエントは「周囲の」「ぐるりと取り巻く」という意味。グーグル日本法人のハードウェア部門でパートナーシップビジネスを統括する織井賢氏は発表会見で、「人が意識することなくコンピューターを使えるということ。これまではスマホが中心だったが、これからは人を中心にテクノロジーが寄り添うようになる」と説明した。コンピューターがより生活環境に溶け込むようなイメージだ。
■発表製品からわかるグーグルの戦略

 今回ピクセルと同時に発表された製品を見ると、その戦略はより浮き彫りになる。来年発売される予定のワイヤレスイヤホン「Pixel Buds(ピクセルバッズ)」は、極小の筐体の中にマイクや機械学習処理用のチップを備え、音声で音楽プレーヤーを操作したり、メッセージや予定を確認したりできる。

 また、日本での発売日は未定だが、Wi-Fiルーターの新製品「Nest WiFi」は、ルーター本体と電波の拡張ポイントの2つを発表。機械学習を活用して家の中全体でネットにつながりやすくしているという。拡張ポイントはマイクとスピーカーを備え、スマートスピーカーにもなる。家の中で気軽に音声でコンピューターにアクセスするには、ネットにつながらない場所をなくしたいという考えが背景にある。
 一方でネットにつながらない場所でもAI機能の恩恵を受けられるように、ピクセル4には先述のように独自の半導体チップを改善し、クラウドにつながずともデバイス上で今まで以上に多くのAI処理を可能にした。これには近年グーグルを取り巻くプライバシーに関する批判に配慮した面もある。

 アンビエントコンピューティングに可能性を見いだしたのはグーグルだけではない。アマゾンも今年9月、音声AI「アレクサ」を活用できるイヤホンやメガネ、さらに指にはめる指輪のようなデバイスを発表。マイクロソフトも来年、日本で音声操作が可能なイヤホンを発売する。
 グーグルの描くコンピューティングの世界が日本でも広がるかは未知数だ。本国アメリカに比べ音声操作が普及していないうえ、ハードウェアビジネスの規模も小さい。ピクセル4はアメリカの主要な通信会社が扱うことが発表されたが、日本では3で取り扱いのあったNTTドコモが外れ、ソフトバンクのみになった。

 スマホ市場に詳しいIDCジャパンの菅原啓アナリストは、「ピクセル3は高価格帯の割にシングルカメラモデルで苦戦したが、(廉価版の)3aは一定の地歩を築きつつある」と指摘する。デュアルカメラとなった4には期待がかかるが、販売網の面で懸念は残る。
中川 雅博 :東洋経済 記者

最終更新:10月19日(土)5時20分

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