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トヨタ、「ヴィッツ」を「ヤリス」に改名する理由

10月16日(水)15時00分配信 東洋経済オンライン

2020年2月中旬から日本で発売を予定するトヨタの新型「ヤリス」(撮影:尾形文繁)
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2020年2月中旬から日本で発売を予定するトヨタの新型「ヤリス」(撮影:尾形文繁)
 「コンパクトカーの常識を越える性能を目標に開発してきた。軽さと小ささを生かした気持ちのいい走りと世界トップレベルの低燃費をお客様に提供する」。待望の新型車を前に、トヨタ自動車の吉田守孝副社長は強い自信を示した。

 トヨタは10月15日、コンパクトカーの基幹モデル「ヤリス」の新型車を世界初公開した。現在3代目の国内向けはこれまで「ヴィッツ」だったが、4代目への刷新を機にヤリスに車名を統一。2020年2月中旬に日本での発売を予定しており、その後、世界各国で順次販売していく(ガソリン車の4WDの国内発売は2020年4月を予定)。フルモデルチェンジは2010年12月以来で実に9年ぶりとなる。
 ヤリスの最大市場はヨーロッパだ。そのため、今回、トヨタは新型ヤリスのワールドプレミアを日本に加え、オランダでも開催した。2018年のヴィッツを含むヤリスの世界販売台数は33万7000台に上るが、そのうち3分の2をヨーロッパ市場が占める。

 一方、日本では同年に8万7000台を販売。ヤリスはヨーロッパと日本で9割以上を販売するというまさに“先進国向け”のコンパクトカーである。目指したのは、セカンドカーのみならずファーストカーとしても十分に使ってもらえる車としての高い基本性能だ。
■プラットフォームを大幅に刷新

 9年ぶりの刷新で何が変わるのか。一番大きな変化はプラットフォームだ。今回、コンパクトカー向けとしては初めて「TNGA」(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)を導入する。

 トヨタの新しい開発手法であるTNGAは、車のサイズやカテゴリーごとに車の基本構造であるプラットフォームを絞り込み、部品の共通化も進めることで、開発効率を引き上げることが狙いだ。新型プラットフォームの導入で、ハイブリッド車(HV)の場合、従来型に比べ車両重量を1100kgから1050kgへと50kg軽量化。ねじり剛性を30%以上強化し、重心高を15mm下げることで、安定した走りを実現したという。
 TNGAは2015年発売の4代目プリウスを皮切りに導入され、さまざまな新型車に拡大してきた。今回のコンパクトカー向けは「GA-B」と呼ばれ、これでエンジン搭載車向けのTNGA4種類が出そろったことになる。

 パワートレインにもこだわった。新型ヤリスでは1.5リッターHV、1.5リッターガソリン車、1.0ガソリン車の3種類を用意。1.5リッター向けには、「直列3気筒1.5リッターダイナミックフォースエンジン」を新開発した。
 HVはそのエンジンに最新のトヨタハイブリッドシステム(THS)を組み合わせた。モーター出力を30%引き上げて加速性能を向上させ、モーターのみで走るEV走行モードは最高時速を従来の70kmから130kmにレベルアップさせた。これにより電池残量などの条件を満たせば、高速走行時にエンジンを切り、ガソリンの使用量を減らすことが可能になった。

■HVの燃費向上がヨーロッパ攻略のカギ

 こうした取り組みにより、新型ヤリスのHVは国際的な新燃費基準であるWLTCモード燃費では現行ヴィッツのHVより20%以上の改善を目標にしているという(燃費は各グレードの価格とともに12月発表予定)。現在、市販車で最も燃費のいいプリウスは39.0km(JC08モード、Eグレード)だが、新型ヤリスのHVはこの数字を上回りそうだ。
 トヨタがHVの燃費向上にこだわるのはヨーロッパ、日本ともにHVが販売戦略上欠かせない商品だからだ。日本ではヴィッツのHV比率は4割弱だが、ヨーロッパ向けのヤリスでは6~7割を占めるという。ヨーロッパではディーゼル離れが進み、燃費のいいHVの人気が高まっている。

 その追い風を受け、トヨタのヨーロッパ販売は2018年に100万台を突破。このうちヤリスは21万9000台を占める。ヨーロッパ販売のさらなる強化にも売れ筋であるヤリスの商品力向上、特にHVの性能向上は欠かせないのだ。
 燃費だけではない。新型ヤリスのHVにはトヨタのコンパクトカーとして初めて電気式の4WDシステム「E-Four」を設定。モーターの小型軽量化が進み、ユニットを車両後部に搭載することが可能になった。雪道などの滑りやすい路面で走行が安定するため、「寒冷地のユーザーの需要にも応えられる」(開発担当者)という。

 また、「車両サイズのヒエラルキーにとらわれず、最新の先進安全技術の導入にこだわった」と吉田副社長が語る通り、「トヨタセーフティセンス」(TSS)はほぼすべてのグレードに標準装備される。
 新型ヤリスに搭載されるTSSでは今回トヨタとして初めて、交差点を右折する際に前方から来る対向直進車や、右左折をした後の横断歩行者も衝突被害軽減ブレーキの検知対象とした。こうした安全装備を車両のサイズに関係なく導入するのは、サイズの大きい車から乗り換える「ダウンサイザー」の取り込みも狙っているからだ。「コンパクトカーだからこの程度でいいという妥協はしない」(吉田副社長)というのがトヨタの流儀だ。

■新型ヤリスで新しいスタートを切る
 他方、これまで日本でなじみのある「ヴィッツ」という車名を「ヤリス」に変えたのはなぜか。新型ヤリスの開発責任者を務める末沢泰謙チーフエンジニアは「社内には葛藤もあったが、お客様の常識を覆したものを提供していくとの思いが勝った。初代ヴィッツからすれば4代目、20年の節目になり、新しい車名で新しいスタートを切ろうと考えた」と語る。

 新しいスタートは2つを指す。1つはコンパクトカー向けの新型プラットフォーム「GA-B」を採用したこと。トヨタは、今後はこの「GA-B」をベースにファミリーの車種を展開していくという。もう1つは2020年5月から始まる国内販売店の全車種併売化だ。
 従来、国内市場ではトヨタ車は「トヨタ」「トヨペット」「ネッツ」「カローラ」という4チャネルで販売されてきた。「クラウン」はトヨタ店、「カローラ」はカローラ店、「アルファード」や「ハリアー」はトヨペット店のようにチャネル固有の専売車種もあったが、2020年5月以降はどのチャネルでもすべての車種を販売できるようになる。

 現行ヴィッツは「スターレット」に代わる世界戦略車として1999年に初代が誕生して以来ずっとネッツの専売車種だ。ネッツチャネルは旧オート店が1998年にネッツ店に改名して誕生し、2004年にビスタ店と統合し現在の姿に至っている。 
 「ネッツの歴史はヴィッツの歴史と重なるだけに、車名の変更と併売化は複雑な思いだ」と関東のネッツ系販売会社の社長は語る。20年の歴史を誇るヴィッツの累計販売台数は約222万台。全国のネッツ店にはヴィッツの分厚い顧客基盤があるが、今後はトヨタ店やトヨペット店、カローラ店とも競合することになる。

 新型ヤリスの発売は2020年2月中旬。併売化は同年5月。ネッツ店が独占的に新型ヤリスを販売できる期間は正味2~3カ月間だけだ。西日本のカローラ系販売会社幹部は、「ネッツ店の先行販売目標は6万台と聞いている」と明かす。
■フィットやノートなど競合ひしめく

 売れ筋車種とはいえ、2~3カ月間で6万台を達成するのは簡単ではなさそうだ。なぜなら、新型ヤリスが属するBセグメントのコンパクトカーにはホンダの「フィット」、日産の「ノート」、そして同じトヨタのHV専用車「アクア」と競合がひしめき合うからだ。

 トヨタコンパクトカーカンパニーの新郷和晃エグゼクティブ・バイス・プレジデントは「実はアクアが一番のライバル」と苦笑する。実際、全チャネルで併売するアクアは2019年1~6月の登録台数は6万台と、ノート(6万8000台)に次いで国内登録車で3位だった。一方、ヴィッツとフィットは4万5000台でほぼ拮抗する。
 前出のネッツ系販社社長は「新型ヤリスの一番の対抗は新型フィットになる。フィットの新しいハイブリッドが気になる」と語る。フィット(ヨーロッパなどでは「ジャズ」)はホンダのグローバル戦略車で、ヤリスに対抗して開発された経緯がある。

 現行の3代目は発売から6年が経ち、10月24日に開幕する東京モーターショーで4代目となる新型車のワールドプレミアを予定している。新型車にはi-MMDと呼ばれる2モーター方式のハイブリッドシステムが搭載される見込みで、燃費性能と加速性能では新型ヤリスと真っ向勝負になりそうだ。
 吉田副社長は「競合とは切磋琢磨してBセグメントの市場を活性化していきたい」と余裕を見せる。1999年にトヨタが投入した新型ヤリスは優れた走行性能と広い室内空間を両立させてコンパクトカーの世界標準を作り、競合他社を本気にさせた。ヨーロッパのカー・オブ・ザ・イヤーを初めて受賞したのもヤリスだった。期待を一身に背負って登場する4代目ヤリスは、重圧をはね返して初代に匹敵する革新を起こすことができるか。
木皮 透庸 :東洋経済 記者

最終更新:10月16日(水)16時43分

東洋経済オンライン

 

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