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「ワケあり中学受験」に挑んだ12歳少女の結末

10月16日(水)5時20分配信 東洋経済オンライン

「ワケあり」中学受験に挑んだ娘を見守った母は…(写真:筆者撮影)
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「ワケあり」中学受験に挑んだ娘を見守った母は…(写真:筆者撮影)
 少子化と言われながら、年々加熱する中学受験。首都圏それも都心に暮らす親にとって、中学受験と無縁という人のほうが珍しいのではないだろうか。

 だが、その“リアル”を知る機会は少ない。受験雑誌をにぎわせるのは成功者の話ばかり。しかし家庭によっては文字どおり、茨の道であることも少なくない。中学受験をするかしないかは別として、受験をすると決めた家にとってはその道がどのようなものなのか、困難な状況も知ることは大事だろう。そして、“困難さ”にはさまざまな種類が存在する。
 夏、受験業界に詳しいある識者から「わけあり受験の子が増えている」と聞いた数日後、この連載宛てに届いたあるメールに目が留まった。そこに書かれていたのはまさに“わけあり”の親子の話だった。

 都内で暮らす中学1年生の柴田穂花ちゃん(仮名)。現在は好きな芸術系の科目が充実する女子校に通い、生き生きと暮らしている彼女だが、小学校時代は同級生のストレスのはけ口にされてしまった1人だった。

■直接手渡された、陰湿な手紙
 柴田さん親子の暮らす私鉄沿線沿いにあるこのエリアは、少子化と言われる昨今でも子育て世代からの人気が高く、小学校は満杯状態。穂花ちゃんの学年も4クラスと生徒数は多めと言える。

 公立中高一貫校を含め、クラスの半分くらいがなにかしらの形で中学受験をする状況に、地元出身の母親である多恵さん(仮名)は驚いていると話す。

 「私の時代は地元の中学に行くのが普通でしたけど、変わったなぁという印象です」。高学年になっても特段受験は考えずにいたという柴田家だが、ある事件をきっかけに、中学受験の道を選択することを決めた。
 日頃から男女分け隔てなく交友関係が広かった穂花ちゃん。意見もはっきりと言うタイプで、男子ともよく遊んでいた。だがこの活発さがあだとなったのか、あるとき、クラスのリーダー的存在の女子に目をつけられてしまった。

 理由は単純なものだった。その子が好きな男児生徒と穂花ちゃんが仲良くしていたのを見てムカつかれてしまったのだ。5年生の11月、「ちょっと来てくれる?」とクラスの女子2人が穂花ちゃんを呼び出した。連れていかれた先は女子トイレだった。なぜ呼び出されたのかわからずに立ち尽くす穂花ちゃんが手渡されたのがこんな手紙だった。
「柴田 穂花
穂花って頭悪いよね。しかもウザい。
ブスが!  もう、みんなにもきらわれるよ。」

 多恵さんが取っておいた手紙を見せてもらうと、紙には割と大きめの字で冒頭こう書かれていた。

 穂花ちゃんがその子たちに対して何か悪いことをした記憶はない。手紙には、上記の内容とともに仲良くしていた男子とのことをほのめかす文章も見られた。メッセージの意図は、もうその男子と仲良くするなというものだ。

 渡してきた女子のうちの1人は、普段から穂花ちゃんが仲良くしている友達だったが、リーダー格の女子が怖いのか、かばうそぶりは見られない。その後、リーダー格の女子の行動はエスカレート。穂花ちゃんはクラスでも陰口をたたかれる日々が続いていった。
 「自分は何も悪いことをしていない。自分が休む必要なんてない」と、穂花ちゃんは休まずに学校に通い続けた。

 母親はもちろん手紙のことを学校に報告。机の中や下駄箱に置かれていたのならともかく、相手は手渡しで渡してきている。状況は明白だ。だが、先生に呼び出された生徒は「やっていない」の一点張り、相手の親に連絡をしたものの、主犯格の子の母親は「すみません。でも、うちの子はやっていないって言っているんです」と、なかなか譲らない状況が続いた。
■見つけ出した答えは「学校を変える」

 先生を交えた話し合いの末、やっとリーダー格の子どもの口から「ごめんなさい」の一言が聞かれた。だがこの翌日、穂花ちゃんがそのリーダー格の子から言われた言葉を聞いた母親は耳を疑った。

 「私がなんで謝ったかわかる?  早く終わらせたいからだよ」

 古来、言霊という考えがあるように、「ごめん」の言葉がその子自身の内面に宿り、気持ちを変化させてくれることもあるだろう。だが、このときの首謀者女子のこのコメントには残念ながらその様子は見えない。
 なぜ、陰湿ないじめを続けてしまうのか。まるで本人すら気がつかない闇へと落ちてしまったかのように、その後も状況は改善されず、穂花ちゃんにとっては苦しい日々が続いていった。多恵さんは学校に再度報告、だが、担任からは「手紙くらいで心配しすぎだ」と言われたと話す。

 「いじわるをするグループ以外の子で仲良くしてくれる友達がいたので、なんとかやっていけていたのだと思います」(多恵さん)。穂花ちゃんが「受験したい」と言い出したのはそんないざこざのあった頃だった。
 「あの子たちと同じ学校には上がりたくない。お母さん、受験させて!」。休むことなく学校に通い続けて立ち向かっていた穂花ちゃんが見つけた1つの答えが「学校を変える」ということだったのだろう。5年生の冬。こうして穂花ちゃんは中学受験塾の門をたたくことになる。

 学校での成績はまずまずの穂花ちゃんだったが、学校の成績と中学受験のスコアは別物だ。穂花ちゃんの入塾当初の模試の偏差値は30台。高校受験や大学受験では考えられないような数値だが、中学受験の場合、5年生の冬まで何も受験対策をしていなかった子のケースとしては、ありえない数字ではない。
 入ったのは日能研。この連載でもたびたび登場しているが、クラスも席も成績順という塾だ。穂花ちゃんの通う校舎は1クラスの人数も多く、20人以上が在籍。学年は3クラス編成となっていた。王道の3年生2月から通っている子も多く、入塾テストの結果、穂花ちゃんは容赦なく1番下のクラスに所属することになった。

 「すでに歴史などの勉強は終わっている時期でしたから、挽回させるためにと家庭教師もつけました」(多恵さん)
 遅れを取り戻そうと頑張った結果だろうか、6年生になると順位はみるみる上がり、塾のクラスも真ん中あたりに。小学校でのクラス替えではいじめを考慮されてか、いじめていた集団とは違うクラスになった。

 それでも、穂花ちゃんの心の傷が癒えたとはいえず、「受験をしてほかの学校に行く」という穂花ちゃんの気持ちは強く固まっていた。母親の多恵さんもそれを受け入れて応援した。「1度決めたことだから、最後まで頑張ってみよう」。親子でその気持ちを確かめ合い、受験勉強を続けていった。
 「穂花だけに頑張らせてはいけない」。多恵さんは、娘の塾のテキストはもちろん、試験問題についても自ら解いて娘に伴走、励ましながら過ごす日々を送っていた。いじめで傷つくわが子と向き合い、時間を割いて寄り添う行動は親だからこそできる苦労といえるが、心労が絶えないことは容易に想像がつく。

 だが、「それはご苦労でしたね」と話すこちらに対して母親の多恵さんは「つらかったけど、幸せでしたよ。娘と一緒に全力で取り組めましたから」と柔らかな笑みを浮かべた。このまま穏やかな日々が続くかと思いきや、いじめの矢はまた別の弓から放たれてしまう。
■出る杭は打たれる

 穂花ちゃんの猛進に気持ちをヤキモキさせ始めたのが、仕切り屋で有名なクラスメートの女子だった。どこの学校にもこうした児童は見受けられるが、彼女の自己中心的な仕切りぶりはもはや女子の中での独裁者のようだったという。

 クラスの中で彼女が決めたことに異を唱える生徒はいない。例えば修学旅行の班決めは、すべてこの女子が独断で決定。穂花ちゃんは不運にもこの独裁女子と塾もクラスも同じだった。

 いじめの対象というと、大人はとかくおとなしめの子を想像してしまうのだが、実際はそうとも限らない。穂花ちゃんは決して弱いタイプではなく、男子ともドッジボールで遊ぶほど活発な女の子だが、ささいなことをきっかけに、またもいじめられる側へとなってしまう。
 「ねぇ、どこを受けるの?  今偏差値いくつ?」

 独裁女子の穂花ちゃんへの視線がきつくなり出したのは、塾で穂花ちゃんが下のクラスからはい上がってきた頃からだ。偏差値や志望校を執拗に聞きかれ始めた。受験校や成績についてはあまり友達に話さないようにと、母親からアドバイスを受けていた穂花ちゃんは、はじめは聞き流すようにしていた。

 だが、クラスも席も成績順の日能研の場合、子ども同士でもお互いの成績がある程度はわかる。後から入塾した穂花ちゃんに成績を抜かされたのが気に入らなかったのか、穂花ちゃんへの攻撃が塾でも学校のクラスでも始まっていくことになる。
 ある日のこと、その独裁女子がやっていた行動をまねした低学年の子が、学校の備品を壊してしまった。もちろん、その場に独裁女子は取り巻きを従えていたのだが、「この子が勝手に壊した」と言い張ると、見ていた同級生男子から「お前もやってたじゃないか」と声が上がった。

 そう言ったのは男子だったにもかかわらず、怒りの矛先はなぜか、男子の後ろに立っていた穂花ちゃんに向けられた。

■人間関係に疲れ心理カウンセリングに通うように
 始まったのは5年生のときと同様の無視攻撃。給食の配膳の列に並んでも、穂花ちゃんだけ給食を配ってもらえない。遠足では「女子みんなでお弁当を食べよう」と独裁女子が呼びかけて招集、穂花ちゃんだけは輪に入れてもらえずに、1人でお弁当を食べることになった。

 家庭科や理科の実験など、グループで進めるワークのときにも穂花ちゃんにはいっさい作業をさせないという徹底ぶり。独裁女子がクラスの子たちに「無視するように」とお触れを出していたのか、まるでその場に存在しないかのような扱いを受け続けた。
 しつこくいじめを続けるグループの子から、ある日穂花ちゃんの携帯にLINEが入る。「わたしの悪口言ったでしょ」。発見した多恵さんは、思わずこのLINEに返事をした。

 「穂花の母です。〇〇ちゃん、穂花は今、疲れて寝ています。〇〇ちゃんは穂花のことよく知ってるよね。穂花、悪口を言うような子かな?」。返ってきたのは「あ、ごめんなさい」というコメント。「おばさんでよかったら相談にのるから、何かつらいことがあるなら話してね」。そうコメントして返信すると、こうした類のLINEはこなくなった。
 こんなことをすれば、また「すぐチクる」と娘が陰口をたたかれるかもしれないと思いつつ、多恵さんは人間関係に疲れていく娘を前に、口を出さずにはいられなかった。眠れない日も続き、親子は心理カウンセリングにも通い始めた。

 多恵さんは絶えず娘を励まし続けた。「出る杭は打たれるなら、打てないくらい出っ張ってやったらいい」。いじめをバネに大人になってきた有名人の話を伝えるなど、穂花ちゃんが自信を失わないように努めたと振り返る。
 受験シーズンは冬のため、風邪を引かないようにとマスクをつける子も増える。だが穂花ちゃんがすると、それすらも悪口のネタとなった。

 「マスクして気持ちわる」

 「あいつすぐお母さんに言うよね」

 中休みも遊ぶ相手はいなくなり、下の学年の子どもたちと遊ぶように。その後、この独裁女子の暴走は学校のクラスだけでなく塾でも止まらなくなっていく。

 塾の授業中にもかかわらず、隣や後ろの席の子と大きな声で話す始末。講師が話をしている言葉を遮り授業を妨害することも毎回のように起こっていた。
 この状況に他の保護者からも苦情が上がり、塾としては異例のことだが、講師2人体制で授業が進められることになった。塾側には弱みもある。傍若無人な生徒であろうとも、塾にとっては高額な月謝を払ってくれるお客様だ。とくに大手の塾の場合、生徒側から「辞めたい」と言うか、その校舎の責任者がよほど確固たる信念を持って運営していない限り、問題を起こす生徒でも退塾させることはまずない。

 これら一連のことが起こっていたのは6年生の秋から冬にかけてのこと。この時期は、夏休みの猛勉強で夢の第1志望に「手が届く!」と自信をつける生徒がいる一方で、成績の伸び悩みから諦めの気持ちとともに、成績に見合った現実的な学校へと志望校を変えなければならない時期。
 親から「なんでできないの!」と責められる子もいれば、親の希望で「やらされている」と感じている子どもからしてみれば、希望の押し付けと自分の実力に差を感じ、嫌気がさすこともある。

 それぞれに状況はあるものの、子どもたちの心にストレスがかかることは間違いない。そのはけ口としてスケープゴート的に「いじめ」が起こる場合がある。そして、その苛立ちは学校の先生に向く場合もあれば、同級生に向くケースとさまざまだ。
 「お母さん、私、もう疲れちゃった。学校も塾も行きたくない」

 休んだら負けだと頑張っていた穂花ちゃんだったが、ついに登校拒否となり、塾も学校も行かなくなった。だが、受験勉強はやめていない。彼女の心を支えたのは受験して、あの子たちとは違う学校に入るんだという気持ちと、いつでもそばで支えてくれている母親、多恵さんの存在だろう。

 入塾当初から続けていた家庭教師を続行、受験直前には偏差値も50台に乗り、まずまずの状況となっていく。
■陰湿女子に振り回された子が出したまさかの決断

 これだけ女子特有の陰湿ないじめに振り回された穂花ちゃんだが、第1志望として最終的に決めたのはまさかの女子校だった。それは、すでに受験を終えていた近所に住む仲良しのお姉さんからのアドバイスだった。

 「穂花ちゃんがいつもいざこざに巻き込まれるときは、必ず男子のこと絡みだよね。女子校なら男子がいないから、そもそもそんな好きだのなんだののいざこざに巻きこまれることもないし、女子校のほうがサバサバしていて気楽だよ」
 もともと芸術系の科目が好きだった穂花ちゃんは、芸術系の科目に力を入れている都内の女子校の受験を決めた。

 上に大学のついていない進学校の場合、大学受験に関係のない科目だからと美術や音楽、ダンスといった芸術系の科目の時間を減らす学校がある一方で、いやいや、情操教育として芸術科目は必要だと、力を入れる学校も首都圏にはいくつか存在する。

■いじめと決別する切符を見事手に入れた

 美術の授業で本格的な油絵まで経験できる学校や、ダンスの授業にバレエを取り入れている学校など、特徴はさまざま。穂花ちゃんは文化祭で訪れたその学校の雰囲気が気に入り、第1志望として据えると黙々と勉強を進めていった。家庭教師と母親に励まされながら迎えた受験日。穂花ちゃんは歯を食いしばり耐えてきた“いじめ”と決別する切符を、見事手にすることができた。
 「いじめは絶対に許しません」。合格した中学の入学式で校長先生から伝えられたこの言葉に「この学校に来てよかった」と親子共々励まされたと話す。そして、穂花ちゃんは母親にこんな言葉を投げかけた。

 「私、受験してよかった。それから、お母さんありがとう。お母さんがいなかったら、私、死んでいたかもしれない」

 いじめに遭った生徒にとって、受験という選択は、これまでの人間関係をリセットするチャンス。首都圏ではこうした「わけあり」で受験を選ぶ家庭が少なからずある。
 希望となる中学受験があるのも確かだが、いじめを引き起こす1つのきっかけ、子どものストレスを引き起こしているのも中学受験とも言える。

 人生は矛盾だらけだ。ストレスを抱え、いじめをせずにはいられない子。いじめの闇のもとを見つけなければ、いじめを止めることはできない。いじめと真っ向から勝負を挑んで頑張った穂花ちゃんの学校生活が穏やかに過ぎることを切に願う。

本連載「中学受験のリアル」では、中学受験の体験について、お話いただける方を募集しております。取材に伺い、詳しくお聞きします。こちらのフォームよりご記入ください。
宮本 さおり :ライター

最終更新:10月16日(水)5時20分

東洋経済オンライン

 

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