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「根拠なき株価上昇」を正当化するヤバイ市場

10月14日(月)6時00分配信 東洋経済オンライン

ルイジアナ州で演説するトランプ大統領。「中国との貿易交渉が部分合意に達した」という株価に心地よい報道がなされているが、中国が重要な部分で何か譲ったわけではなさそうだ(写真:AP/アフロ)
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ルイジアナ州で演説するトランプ大統領。「中国との貿易交渉が部分合意に達した」という株価に心地よい報道がなされているが、中国が重要な部分で何か譲ったわけではなさそうだ(写真:AP/アフロ)
 アメリカの株式市場や米ドル市況は、先週も結局は「トランポリン相場」だった。トランプ政権の米中通商交渉の行方を巡って、諸報道による観測に一喜一憂し、トランポリンの上で飛び跳ねているような相場付きとなったからだ。

 特に先週末にかけては、米中間で「部分合意」(一部の項目だけに関する合意)が成るとの見方が支配的となり、先行して米株高や米ドル高が進んだ。それにより、日本株も押し上げられて、週末11日金曜日のシカゴ日経平均先物は2万2040円と、2万2000円台を回復して引けている。
■「米中部分合意」はそれほどの好材料と言えるのか? 

 最近の日経平均現物指数の戻り高値は、9月19日のザラ場高値2万2255円だったが、その時点と今との間の「配当落ち分」(約160円)を勘案すると、シカゴ先物は9月半ばの水準で言えば2万2200円程度に相当すると計算される。つまり、このまま行けば、日本国内の株価は連休明け(10月15日)は実質的にはちょうど9月のザラ場高値に近い水準まで戻りそうな状況だ(本稿は10月12日(土)に執筆)。
 だが、この「部分合意」とは、それほど株価が上昇するような材料なのだろうか? これまで当コラムで何度か述べてきたように、トランプ政権内の対中強硬派は、いわゆる「構造問題」(知的財産権の侵害、巨額の補助金、先端技術の移転の強要)の解決こそが最重要課題であり、それを含めた「全体合意」が望ましいと、繰り返し主張してきた。ドナルド・トランプ大統領も、概ねそれに沿った発言を行なってきた。

 しかし中国側は、「真の意味で」構造問題を解決する気はなく、そのためアメリカ産農産品の購入増という提案をし続け、それで何とかならないかと持ちかけてきたわけだ。
 もしこうして米中間で一切歩み寄りがない、という事態になれば、国益より自身の都合を優先するトランプ大統領としては、いつまで経っても成果を吹聴できないことになる。それでは自分の手柄を誇示できないし、一方では中国による農産品購入減で、アメリカの農家の間には、徐々にトランプ政権に対する不満が募り始めていた。

 そうしたトランプ大統領の足元をみた中国側の提案でもあったわけだが、その中国からの「エサ」に大統領が釣り上げられた、という事態ではないだろうか。政権内の強硬派が、そうした大統領の行動にあきれているのか、それともあきらめているのかは、知らないが。
 なお、そうした米政権内の動きは別として、実際にこの部分合意が、株式市場が大いに好感するほど素晴らしいものかと言えば、すでに述べたように、中国は本来重要な部分で大きな譲歩を行なったわけではない。実は部分合意とは具体的に何と何が合意されたのかは、まだよくわからない。両国間で、詳細はこれから詰めて書面化すると報じられている。

 一部の報道では、中国による農産品の購入増の他に、知的財産権や技術移転強要など、構造問題についても何らかの合意がなされたかのような伝えられ方がしている。だが本当の意味で構造問題についての合意がなされたかについては、はなはだ疑問だと考えている。
 これは筆者の推察に過ぎないが、以前中国側が、「中国内で活動しているアメリカの企業が、知的財産権の侵害や先端技術の移転強要があったと考える場合に、それを提訴できる外国企業専用の裁判所を作る」と提案していたフシがあった。

 そんな裁判所を設置しても、どうせ中国政府の肝いりだろうから、機能するかどうかは怪しい。この筆者の推察が正しければ、やはり中国が形だけの提案でトランプ大統領を釣り上げることに成功した、と解釈すべきだろう。
 こうした中国からの「エサ」に対して、アメリカ側が譲歩したのは、2500億ドル分の対中輸入について、10月15日から追加関税率を25%から30%に引き上げる予定であったことを、先送りした(英語では「delay」=「延期」と報じられており、「撤回」とは伝えられていない)ことだ。

 しかし、アメリカはこれまで課してきた追加関税を、遡って引き下げたわけではない。このため、さらなる米中通商交渉の悪化は避けられたという解釈はできたとしても、両国の経済にとって改善材料だ、とも言えまい。
 並行して、アメリカは中国のウイグル自治区の人権問題への非難を強めており、一時騒がれたアメリカの資金の対中投資規制についても、引き続き検討はされていると推察され、全く消えうせたわけでもない。こうした諸点を踏まえると、やはり週末の米株高、米ドル高と、それによる日経平均先物の上昇は、やり過ぎの感が強いと言える。

■陰りが強まる日本国内企業の収益動向

 一方、目を日本の企業収益に転じると、予想以上に悪化が速い。
 足元では、小売・外食など内需系企業を中心とする、2月本決算企業の、2019年3~8月期の決算発表が峠を越した。現在本格的に業況が悪化しているのは(日銀短観の業況判断DIに表れているように)製造業が中心であり、「非製造業の収益悪化が本格化するのは、10月の消費増税以降だろう」、と考えていた。

 しかし、日本経済新聞の集計によれば、小売、外食、衣料品など消費関連企業65社の8月までの決算では、2半期(各6カ月ごと)連続で前年比マイナスだったとのことだ。これで消費増税の悪影響をかぶれば、一段と内需系企業の収益は悪化するだろう。
 こうした悲観的な展望を受けて、セブン&アイ・ホールディングスが人員削減計画を、高島屋が店舗閉鎖を、それぞれ発表している。また、外需を主体とする企業でも厳しい状況が明らかになりつつある。産業用ロボットなどの大手・安川電機は2月本決算であるため、他の多くの製造業企業に先駆けて決算を発表したが、会社側は今期(2020年2月期)連結営業利益予想を、46%も下方修正した。業界統計でも、日本工作機械工業会は10月9日に9月の受注額を前年比で36%減と発表、12カ月連続のマイナスとなっている。
 安川電機の11日の株価は、この下方修正を受けて軟調に推移したが、日本株全体については「これほど大きく下方修正したから、もう悪材料は出尽くしだろう」と都合のよい解釈をし、堅調な株価推移となった。しかし、今月後半から来月前半に予定されている、3月本決算企業の決算発表では、外需製造業中心に厳しい内容となることは必至であり、日本の株価が全般に安穏としていられるとは見込みがたい。

 筆者は米調査期間であるファクトセットが集計するアナリスト予想の平均値をみているが、下方修正の傾向が未だに強い。QUICK社による「QUICKコンセンサスDI」でも、下方修正が優勢なままだと報じられている。
 さて、これまで述べてきたことも含め、主要国の経済状況やさまざまな政治等のリスク(ブレクジットの行方、香港情勢、トルコのシリア北部のクルド人地区への侵攻やイランのタンカー爆発など中東情勢)、企業収益の悪化など、投資環境は暗さを増している。それに対して、株価ばかりが堅調に推移している。

 投資環境が暗いと判断している点(どんどん悪化していると考えなくても、少なくとも景気減速色が強い)については、筆者に対する異論はあまり聞かない。ではなぜそうした投資環境の不振にもかかわらず株価が下落しないのかと言えば、筆者は株価が誤った楽観にとらわれており、いずれ主要国の株価が大きく実態にさや寄せするだろう(株価が大きく下落するだろう)と予想している。
■「株価上昇を正当化する心理」に危うさ

 こうした筆者の見解に対しては、もちろん異論が多い。そうした異論のなかで、最も多い主張は、「足元の株価が堅調なのは、悪材料は全て織り込んでいるからだ」というものだ。

 その主張を踏まえると「悪材料を織り込み切ってしまっているのだから、今後の株価は上がる」、という見通しになる。ただこの考え方は、「株価が実態と乖離していることを、どのように正当化できるか」→「正当化できる理屈を考え出す」→「その理屈に沿って株価の先行きを考える」というロジックだ。つまり、これまで株価が上がったのだから、今後も上がるだろう、と言っていることに等しい。
 まるで平成バブルの辺りに、「企業が保有する不動産の価格が上がっているから、株価が上がってよい」という意味合いで、「Qレシオ」がひねりだされた時の心理と似たものを感じる。もちろん、今の日米等の株価水準は、バブルと呼ぶには程遠い状況だが、そうした株価上昇を正当化しようという心理は、バブルとも呼べる事態ではないだろうか。

 今の株価の堅調さは、暗闇の中を崖に向かって歩いているようだ。筆者はもっと早く崖から落ちると見込んでいたが、崖はもう少し先にあるらしい。きっと崖から落ちるまでは、どこに崖があるのかは、誰にもわからないのだろう。
 少なくとも今週はまだ崖から落ちるには早いのかもしれない。ただ、米中間の一部合意をはやした楽観は、すぐに剥げ落ちてもおかしくはない。そのため、今週の日経平均株価については、2万1300~2万2200円を予想する。
馬渕 治好 :ブーケ・ド・フルーレット代表、米国CFA協会認定証券アナリスト

最終更新:10月14日(月)6時00分

東洋経済オンライン

 

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