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三セク「しなの鉄道」が黒字を出し続ける秘訣

10月14日(月)5時00分配信 東洋経済オンライン

ずらりと並んだしなの鉄道の車両(写真:メリシャル/PIXTA)
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ずらりと並んだしなの鉄道の車両(写真:メリシャル/PIXTA)
 2019年6月、しなの鉄道社長に春日良太氏が就任した。前任の玉木淳氏が東京海上日動火災保険から出向していたなど、これまで歴代社長の多くが民間出身者だったが、春日氏は元長野県職員だったことが注目された。新幹線開業に合わせJRから切り離された並行在来線を運営する各地の第三セクター鉄道会社が経営面で苦戦する中、しなの鉄道は黒字を維持している。しなの鉄道は今後どのような経営戦略で進もうとしているのか。春日社長に聞いた。
 なお、本インタビューは10月4日に実施した。このたびの台風19号では、しなの鉄道および周辺地域でも影響があった。被害を受けた方々にお見舞い申し上げたい。

■既存の計画を着実に

 ――これまでの社長の多くが民間出身でしたが、春日さんは長野県職員出身です。会社の方向性が変化したのでしょうか。

 変化ではない。むしろ、これまでの計画を承継して発展させていくことが、最大株主の長野県から求められている。県職員から4年前にしなの鉄道に入社した。玉木前社長が任期中に始めた事業を専務として共にやってきた。その路線を着実に実行し、発展させていくことを託されたと考えている。公務員時代の知識と経験を生かしながら、民間のアイデアやスピード感を取り入れてやっていきたい。
 ――しなの鉄道はどのような経営状況でしょう。

 営業損益は黒字を保っている。県内で人口が1位の長野市、3位の上田市が沿線にあり、通勤・通学の利用者が多いことに加え、軽井沢を中心とした観光地に県内外の人が訪れる。これらが会社の優位性となっている。

 しかし、2040年までに沿線人口は2割減少すると見込まれており、それは利用者数の低下につながるだけでなく、当社の働き手の不足も予測される。現在社員の平均年齢が約35歳で、今後人件費が上がっていくことも確実だ。また、新型車両や今後老朽化する設備の更新投資による減価償却費も重荷になる。
 ――それに対して、どのような経営計画を立てていますか。

 2018~2022年の第4次中期経営計画では、①鉄道運賃のみでなく関連事業収入を増やす、②経費削減、③社員ひとりひとりの生産性向上、の3点によって地域鉄道としての使命を果たそうとしている。そのために車両の更新と軽井沢事業という2大プロジェクトを打ち出し、進めていこうとしている。それが、長期的な経営の安定につながっていく。

 ――車両はどの程度のスパンで入れ替えるのですか。
 現有車両は59両。そのうち3両は2014年から運行を開始した観光列車の「ろくもん」専用車両なので、そのまま使用する。そのほかはJRから引き継いだ115系で、約40年経過し老朽化は避けられない。営業距離が短く運行本数も少ない路線ならもう少し使い続けるという判断もあるが、当社の路線の状況では更新せざるをえないと判断した。2019年度を初年度として、2026年度までの8年間をかけて、52両を置き換える計画だ。
 1両当たり約2億円の費用がかかるので、総額は約100億円。3分の2を国・県・沿線市町からの補助金、3分の1が自己資金の計画。しかし、新しい車両は技術革新の結果として省エネ性能が高く、検修頻度も低いため、大幅なコスト減というメリットが期待でき、SDGsにも合致する。

■有料ライナーが「復活」

 ――今年度から新型車両が導入されるのですか。

 2019年度は6両が導入される計画だ。3月に納車され、試運転を行った後、2020年7月頃から営業運転が開始できる見込みだ。この6両は有料ライナーとして運用する。かつて169系で有料通勤快速を組んでいたが、使用車両を廃車した際に有料通勤快速も廃止してしまった。初年度の6両はライナー車両ということで、進行方向に直角に配置するクロスシートと横壁面に平行のロングシートとに転換可能なデュアルシートになっている。
 平日朝は小諸―長野間のライナー、夕方は長野―上田間のライナー。土・日曜、祝日は観光用有料快速として、軽井沢―妙高高原間に2両、長野―軽井沢間に2両(2両は点検等)を運行する。また、そのほかの時間帯には普通列車(無料)にも使用する。デュアルシートの機能も駆使して、マルチにフル回転させていきたい。

 リンゴをデザインしたシートや木目調の床、Wi-Fi、コンセント、カップホルダーを設置するなど、便利さと快適さを備えているので、利用者にも受け入れられ、収益も上げられるものと期待している。
 
――2020年度以降に入る車両はどのようなものですか。

 すべて一般車両。ライナー車両の外観は「沿線に爽やかな新風を」をコンセプトにロイヤルブルーの配色としたが、一般車両は「地域に寄り添い、その先の未来へ」というコンセプトで、コーポレートカラーの赤が基調となる。2020年度は8両入れる予定だ。

 ――もう1つのプロジェクト、「軽井沢事業」とは何でしょうか。

 軽井沢駅は水戸岡鋭治氏に総合的なデザインを依頼して、レトロな旧駅舎を駅機能や駅ナカ店舗に活用したり、1・2番線ホームと旧1番線ホームの間をデッキでつないで「森の小リスキッズステーションin軽井沢」として、鉄道とも親しめる遊園地にしたりで、駅で楽しめる仕掛けを作った。さらに、JRから引き継いだ軽井沢から東側に広がる約2ヘクタールの細長い土地を活用しようというのが、軽井沢事業だ。
 軽井沢駅では、長野新幹線開業前の1995年、駅南口に「軽井沢・プリンスショッピングプラザ」が開業したこともあり、従来からの軽井沢の歴史・文化の魅力も相まって、今では840万人を超える観光客が訪れる現状を見ると、この遊休地にも大きなポテンシャルがあると考えられる。

 そこで、軽井沢らしさの発信と新しい駅の魅力づくりをしながら、安定的な収益を確保できる施設を開発していきたい。当社にはそうしたノウハウが不足しているため、三菱地所株式会社をパートナー企業とし、2019年度から2年をかけて基本構想を策定しているところだ。まだどのようなものにするのかは固まっていないが、今後長期的な旅客外収益として大きなものを見込んでいる。2021年以降で早い時期の開業を目指していきたい。
■地域と鉄道が共に活性化を

 ――ほかに注力すべきことはありますか。

 玉木前社長が積極的に推し進めていたことを引き継ぎ、沿線地域を応援して活性化することで、当社の利益にもつなげていきたい。例えば、長野県では「NAGANO WINE(長野ワイン)」を推進し、ブドウ栽培からワイン醸造、原産地呼称制度などバックアップしているが、沿線地域も「千曲川ワインバレー」として近年、ワイン生産をたいへん伸ばしている。9月21日にも「シャトー・メルシャン椀子(まりこ)ワイナリー」が開業し、しなの鉄道でもバスとセットにした企画きっぷを発売した。
 20年以上ワイン醸造に取り組み、多くの新しいワイナリーにも影響を及ぼしているエッセイストの玉村豊男氏も東御市で活動している。ワインを飲むと車の運転ができなくなるので鉄道との親和性があり、またインバウンドの関心も高い。

 ――軽井沢には訪日外国人客が多いですが、鉄道利用に結びつけられますか。

 長野県全体の観光客の入込数は、国内からは微減しているが、外国人は2014~2018年の県内外国人延べ宿泊数が2.3倍増と大きく伸びている。とくに台湾とオーストラリアからの来訪が多い。台湾人は軽井沢に数多く来ているので、そこから上田地区に足を運ぶ人を伸ばしたい。またオーストラリア人は野沢温泉や妙高高原のスキー場を目指してやってくる。それを沿線観光に結びつけたい。
 当社には台湾出身の女性職員がいて、SNSを通じて彼女の視点で積極的に発信している。台湾鉄路管理局と友好協定も結んでいて相互交流もあり、PR活動も行っている。観光列車「ろくもん」は海外にも通用する優れたコンテンツであり、2018年には235人の外国人利用客があった。今後も、主に東南アジアやヨーロッパに向けて積極的に展開していきたい。

■通勤客の掘り起こしで収入増狙う

 ――沿線人口が減っていく中で、旅客運輸収入の見通しは? 
 少子化ということもあり通学利用の減少はやむをえないが、通勤利用についてはマイカーから電車への転換を図っていきたい。働き方が変化すれば、時間が不規則でマイカーでなければ対応できない状況が改善され、環境に対する意識が高まれば鉄道に目が向けられるだろう。

 2018年に通勤実態調査を行ったところ、駅から800mを分岐点に、鉄道を利用するかしないかが分かれるということがわかってきた。今後は、駅から800m以内の企業に働きかけて、鉄道通勤を促進していきたい。
 5年前、北陸新幹線が金沢まで延伸され、並行在来線の長野―妙高高原間もしなの鉄道が運営主体となり、北しなの線として運行している。この線は豪雪線区であるうえに人口減少が県内他地域より一層進み、経営が厳しい。

 しかしそれを沿線の行政がよく理解して、駅周辺にある自治体所有の駐車場を無料にするなどで鉄道利用を促している。ボランティアが3歳児らの集まるイベントを実施している三才(さんさい)駅、ヤギ駅長の牟礼(むれ)駅など、地元のほうの取り組みも盛んだ。
 ――観光列車「ろくもん」は好調ですね。

 「ろくもん」は水戸岡氏デザインの車両空間と、食事を楽しんでいただくことに特化している。軽井沢から出発するのは洋食、逆の長野発は和食。月1~2回、夜に「信州プレミアムワインプラン」も運行している。また、日本三大車窓の1つ姨捨駅へ乗り入れる「姨捨ナイトクルーズ」では、善光寺平の夜景を楽しんでいただいている。

 「ろくもん」はスピードを出さず、時間をかけて列車を楽しむ。また休日に運行する新車両のライナーは、速く快適に移動して、目的の観光地で楽しんでもらう。明確に目的を分けて運用していく。
 現在は、2大プロジェクトをはじめとしたさまざまなアイデアを仕上げていくステージに入っている。新たに何かを始めるというより、着実に実現していくことに注力したい。その主役となるのは、社員一人ひとり。社員が自分で考えて動いていけるよう、経営者として環境を整えていきたい。
柳澤 美樹子 :りゅう文章工房代表

最終更新:10月14日(月)5時00分

東洋経済オンライン

 

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