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市民の政治・政策参画がなかなか進まない根因

10月14日(月)6時10分配信 東洋経済オンライン

政治が果たさなければならない役割とは? 左から須賀千鶴氏、小林史明氏、鈴木寛氏らにお話を伺いました(撮影:今井康一) 
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政治が果たさなければならない役割とは? 左から須賀千鶴氏、小林史明氏、鈴木寛氏らにお話を伺いました(撮影:今井康一) 
今年6月から開始した連載「21世紀のシンクタンク・パワー」の特別編として、去る9月に東京大学本郷キャンパスで開かれた『日本の「代案」を探求する――政策コミュニティーとパブリック・キャリア』と題するシンポジウムの議論を3回にわたって再構成した。
特別編3回目は船橋洋一・アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)理事長がモデレーターとなり、須賀千鶴・世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター長、藤沢烈・RCF代表理事、鈴木寛・東京大学公共政策大学院教授、小林史明・自由民主党青年局長代理/行政改革推進本部事務局長 衆院議員(肩書きは取材当時、9月24日付で自由民主党青年局長)を招いて展開したパネルディスカッションの後編をお届けする。
 【2019年10月20日17時00分追記】初出時、小林史明氏の肩書きが取材当時のみの表記だったため、上記のように修正いたしました。

前編:「課題山積の日本でシンクタンクが育たない原因」

■規格外の官僚と政治家の熱意

 船橋洋一(以下、船橋):それでは須賀さん、お願いいたします。

 須賀千鶴(以下、須賀):私は経産省から出向し、世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター長をしている典型的な役人です。役人人生がどういうものかを知っていただくために、私が携わってきた仕事をご紹介します。
 私はもともと経済外交に興味があったので、最初の仕事はイラクとアフガニスタンの復興支援を手がけ、小泉改革の時代に政府系機関の民営化を検討するスペシャルチームに入りました。

 役所2年目の後半からは資源エネルギー庁で、気候変動交渉やポスト京都の議定書の交渉をするチームに入り、そこでG8サミットを1つのツールにして、国益も達成しながらグローバルに意味のある動きを仕掛ける枠組みを作っていくことを学びました。この時代が、パブリックなことに関わる仕事の面白さに魅了されるきっかけになりました。
 その後、資源外交でサウジアラビアなどの原産国に行って、商社の方と油田を売ってもらう交渉をしていた時代がありました。その後2年間はアメリカのペンシルベニア大学に留学し、戻ってからは最初に、チームリーダーとして国際課税改正に取り組みました。そして、2011年からはクールジャパン戦略の立ち上げを担当しました。

 出産を経て、コーポレートガバナンスとフィンテックなどの担当となり、併任で中長期的な政策の軸となる考え方を検討する「次官・若手プロジェクト」に参加し、『不安な個人、立ちすくむ国家』というリポートをまとめて書籍化しました。若手官僚の勉強会の走りだったと思っていますし、本はまったく売れませんでしたが、パワーポイント自体は150万ダウンロードという、経産省では歴史的、記録的なアクセスをいただきました。
 世界経済フォーラムは、ダボス会議を主催するグローバルな国際機関と、船橋さんのAPIと、経済産業省の3者が対等な関係で作った組織です。国費に頼らず、パートナー企業にファンディングをお願いしているので、非常に機動的に運営ができています。

 船橋:第四次産業革命の社会実装では、プラットフォーム、モバイル決済、あるいは5Gの分野でも、中国が先行しており、日本はどんどん遅れてしまうのではないかという危惧を感じますが、そこはどうお考えですか。
 須賀:私は経産省でフィンテックなどベンチャー支援の政策の担当をしたこともありますが、その経験を踏まえると、一般的なベンチャー支援策は必要ないと思います。伸びるベンチャーは国に頼ることを考える暇もなく、フロンティアを切り開いていきます。

 一方で、イノベーションが出てきているのはアメリカと中国だという事実があります。共通するのは、それに関して国が何もやっていないということです。けれど、日本が国として何もやらないというのはありえないので、政府が先を見通して、正しい政策を打ち出すことが重要だと思います。
 単に規制緩和ということではなく、全体最適のために、強化すべきルールもあると思いますが、強化すべきところと口を出すべきではないところを正しく見極めて変わり身早く変化していく、本当の意味で賢い政府が必要とされています。それに気づくのに、例えば20年かかってしまったら手遅れです。

■政治の役割を変える

 船橋:それでは、最後になりましたが小林さんお願いいたします。

 小林 史明(以下、小林):私は政治の役割もそろそろ変化したほうがいいと考えています。
 これまでの政治モデルは、地元の要望をタスクとしてこなしていくというスタイルで、戦後からまったく変わっていません。役所にお願いして予算をつける。それがすべてです。もしくは、何かしらフワっとしたスローガンを考えて、あとは官僚があげてくる政策を頑張って実現するのが役割だったのだと思います。そんな政治が続いてきた中で、投票率が上がらない、人々が選挙に関心を持たない世の中になってしまいました。

 人々が選挙に関心を持つには、政治に参画して街や暮らしを変えたいとか、社会を変えたいという思いが必要です。しかし、政治家はそうした思いを醸成するような活動をしてきませんでした。それが、今までの政治の間違いだったんではないかと思います。
 右肩上がりで世の中が明るかった時代は、むしろそれでよかったのかもしれません。が、そろそろ役割を変えて、普段から市民の皆さんに政治に参画をしてもらえるような場を作り、一緒に問題を解決して、成功体験を共有していただく。そういう役割が政治に求められてきていると、私は考えています。

 私の地元では、街づくりは自分たちの力でという考えの下、私が市民団体を作り、さまざまなアイデアを考えています。地方の悩みは若者が町を出て帰ってこないことです。私の地元では、働く場所も教育も医療もあるのに、なぜ人口が減ってしまうのか、それが課題でした。
 私はエンターテインメントがないことが、その原因の1つだと考えました。そして、遊べる場所を作ろうじゃないかということでプロジェクトを始めました。

 そこに180人ぐらいの大学生が集まり、社会人も集まってくれています。そこから政策提言し、市と国が予算をつけ、新しいバーベキュー場やスケボーパークなどができました。そして、そこに関わった人材が新しいプロジェクトを始めています。それは、今までの政治家陳情モデルとはまったく違います。
■政治と行政はパートナー

 一方で、政治と行政の関係も変わっていくべきです。行政の政策を待っているだけの政治家でよいのか、ということです。そして、優秀である官僚の皆さんが、本来の能力を発揮できない環境になっていることも問題です。働き方ですね。あまりにも忙しすぎます。

 私は昨年まで総務大臣政務官を務めさせていただきましたが、本来、5年後、10年後の社会を考えなければならない官僚の皆さんの両手が目の前の仕事でいっぱいになっていました。が、働き方改革をスタートしたところ、今般、話題になっている携帯電話市場改革や、放送での新規参入などのさまざまな政策を作り出すことができました。
 政治は行政のパートナーであり、そこを丁寧にマネジメントする責任があると思います。やることは簡単です。「やめる」ことを決めればよいだけでした。例えば、総務省では水を買うのに5つもハンコをもらうことが必要でした。そこに、政治が目を向けていなかったんです。

 官僚の人事制度にも問題があります。それを改革したいと思っています。例えば、1度退職しても、霞が関に戻ってこられる仕組みに変えたいと考えています。官僚の皆さんの熱意や能力をそいでいるのは選択肢の少なさだと思うからです。
 1度入省したら辞めるまで出られない。辞めたら二度と戻れない。そうした制度では、組織にいる人は上司に従うばかりでリスクを冒さなくなります。結果、組織は硬直化して改革は起こりません。ですから、政治が行政マンの選択肢を用意したいと考えています。

 私はNTTドコモという通信の会社で働いていましたが、多くの人を幸せにできると思った通信の世界で規制にぶつかり、ルールを変える側に回りたいと思って政治の世界に入りました。ですから、私はテクノロジーの社会実装で、個人を自由にし、社会をケアすることを政治信念としています。
■市民、政策起業家、官僚をつなぐハブとなる

 船橋:今、小林さんから官僚の人事制度改革の話がありましたが、元官僚でもあり、元政治家でもある鈴木さんは、どうお考えですか。

 同期がいて、いったん辞めて外でなんか楽しそうなことをやって帰ってきたら、中で頑張ってきた人より出世しちゃったとか、難しい問題もありそうですが。実現できると思われますか。

 鈴木寛:私は改革はルールだけでは駄目で、ルール、ロール、ツールの3つが大事だと言い続けています。そして、人事は肝ですね。
 私は大学に3回行きました。学生時代と官僚を辞めた後と、そして今です。霞が関も3度です。通産省の官僚として、副大臣として、そして大臣補佐です。シンクタンクを含む大学と霞が関を行き来してきたことが、次の仕事の準備にもなり、さまざまな課題をゼロベースで考え直すきっかけにもなり、人脈を作り直すことにもなりました。

 外で学んだことや培ったこと、もらったアイデアを霞が関に戻って実現するというサイクルが有効で、そういうことをやる人が霞が関の官僚の、とくに管理職人材の3分の1ぐらいになると相当面白いと思います。それができるのは政治です。
 船橋:小林さんからは市民の政治参画、政策参画と、霞が関の働き方改革などの必要性を指摘されました。これには、当然、政治の果たす役割も重要です。

 小林:まさにそのハブの役割を政治が担わなければならないと思います。鈴木さんはメディアの問題を指摘されましたが、私は政治家として、われわれ政治家が伝える努力をやりきっていないことが問題だと思っています。

 政策の背景や目的をしっかりメディアの皆さんに伝えることができていません。なぜできないのか。それは政治家がそうしたことができるプロフェッショナルな人材を雇用できる体制にないからです。今、公設秘書は3人雇用できますが、400万円、600万円、800万円というのが、一般的な年収構成です。
 私の事務所では、広報の運用をプロフェッショナルに手伝ってもらっています。それでプレゼンスが上がり、伝えたいことが伝わっていきます。

■社会保障改革を世代間闘争にしてはいけない

 船橋:最後にもう1つだけ、小林さんに伺います。年金と医療といった世代の公平に関わる問題です。選挙への無関心の問題を指摘されましたが、高齢者のほうが圧倒的に数も多いし、投票率も格段に高いという事実があります。それが自民党の岩盤支持者でもあります。改革のために、いちばん難しいのは、そういった支持層なのか、政治団体なのか、あるいは議員グループか、官僚組織そのものなのか。どうお考えですか。
 小林:1つは政治家だと思います。現場に足を運んでしっかり説明すれば、世代間公平が必要であることをわかってくれる方々がこの国にはいると確信しています。そういう意味でも、説明しきる、伝えきる努力が足りないと思っています。

 もう1つ、高齢社会でどのように社会保障を実現するのか、明確なビジョンを国民の皆さんに提示できていなかったことも問題です。ですから、小泉進次郎さんと一緒にやってきたことですが、私たちは「人生100年」という言葉を提示したわけです。人生80年を前提に考えてきた社会保障を、人生100年を前提に作り直すのだというビジョンです。
 それによってあらゆる考え方が変わります。支えられる側と支える側の境界を65歳で固定していいのか。年齢、性別に関係なく活躍したい人が活躍し、高齢であっても能力のある人は自由に支える側に回る、そのほうが持続可能社会になりませんかという提案もしています。

 女性とシニアの社会参画が進めば、消費税数%分の税収が見込めます。それをしっかり進めていけば、社会保障の問題は乗り越えられると考えています。

 そういうことをきちんと伝えることができれば、世代間で闘争するということではなく、支え合う社会を作っていけるのだと思います。
東洋経済オンライン編集部

最終更新:10月20日(日)17時09分

東洋経済オンライン

 

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