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Facebook「リブラ」に立ちはだかるマネーロンダリング対策

10月14日(月)7時00分配信 CoinDesk Japan

Facebook「リブラ」に立ちはだかるマネーロンダリング対策
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Facebook「リブラ」に立ちはだかるマネーロンダリング対策
要点:

リブラ協会(Libra Association)は、顧客確認(KYC)規制への「はしご式」アプローチを含め、一定地域における非銀行利用者層に手を差し伸べるために先鋭的なアプローチを検討している。マネーロンダリングに関する金融活動作業部会(FATF)は、デジタルアイデンティティの新しい形態を開発するためにリブラと協力することに抵抗はないと述べた。リブラは、チェイナリシス(Chainalysis)、エリプティック(Elliptic)、コインファーム(Coinfirm)といったブロックチェーン分析企業が、ウォレットプロフィールやトランザクション履歴を監視することで、「段階的KYC」を肯定する論拠を補強する役に立つことができると考えている。リブラ協会に参加するキヴァ(Kiva)のような非営利組織が、重要な役割を担う可能性がある。

ソーシャルメディア大手のフェイスブック(Facebook)によるステーブルコイン「リブラ(Libra)」の開発を率いるリブラ協会(Libra Association)は、世界中の非銀行利用者層を、提案するブロックチェーンネットワーク「リブラ」へとつなげるための様々なアプローチをまとめている。

そしてすべては、根本的な挑戦から始まる。

コーヒーを1杯買うためにカードや電話を使うと、その取引に伴って、あなたがその主張通り本人であることを確かめる複雑なルールのシステムが絡んでくる。

あなたがウガンダの郊外の村人で、地元のお店での10ドル(約1070円)の信用限度額を持っているとしよう。インフラがほとんど存在しない場で、同じ種類のいわゆる顧客確認(KYC)要件と呼ばれるものがどのように適用されるのかを考えるのは、困難を極める。

非銀行利用者層の身元を確認し、彼らを国際金融システムに包括するという課題に対処するためにデジタルツールを利用することは、リブラとその支持者が、プロジェクトがもたらす最大のチャンスであると主張するものだ。

そのミッションの大きさは、シリコンバレーに拠点を置くマイクロファイナンスプラットフォームであり、リブラ協会の創立時からのソーシャルインパクトパートナーの一員であるキヴァ(Kiva)の最高戦略責任者、マシュー・デイビー(Matthew Davie)氏が次のように説明してくれている。

「金融セクターの仕組みに体系的変化がもたらされる必要があります」とデイビー氏はCoinDeskに語った。

ブロックチェーン上でトランザクションを記録するデジタルウォレットを割り当てるためにバイオメトリクスを利用することを目指して、キヴァは先日シエラネオネ政府との連携を発表した。そのキヴァは、政府発行の紙媒体の身分証明書が十分に普及していない状況において、ユーザーの身元を確認するための最初のステップとしてデジタルな手段を利用することのできる、段階的KYCというコンセプトを検討している。デイビー氏は次のように述べた。

「先進諸国においては、必要がなかったために段階的KCYについて考えたことはあまりありませんでした。すべてのトランザクションは、銀行またはKYCチェック機能を持つものを通じて行われてきました。しかし、難民キャンプやウガンダの郊外の村に行ってみれば、トランザクションの約85%は1ドル未満です。そんなトランザクションをどうやってKYCできるでしょうか」

リブラ協会の政策・コミュニケーション責任者のダンテ・ディスパルテ(Dante Disparte)氏も、この難題への答えはここにあると考えており、あとはそれをただ広げていく必要があるだけだ。KYCの段階的アプローチに対する既存の規制当局の意見に言及し、それにブロックチェーンの透明性も組み合わせて、ディスパルテ氏は次のようにCoinDeskに語った。

「KYC要件という点では、口座のドルまたはリブラの規模に基づいて、はしご式のアプローチが考えられます。少額の口座ではハードルは少し低く、高額の口座ではハードルを高くするというものです」

これは、ブロックチェーンの追加によって大いに活性化されるコンセプトである、とディスパルテ氏は付け加えた。

「ブロックチェーンの機能と、トランザクションを承認するノードのネットワークを持つというところに戻るものです」と彼は述べ、次のように続けた。

「エンジン全体の耐タンパー性は、競合する銀行に依存するセルフレポートのネットワークに対して、リアルタイムでのリスクレポートの可能性を持つより高忠実度のモデルになるということを意味します」

ブロックチェーンは登場して10年の技術であり、ボーダフォン(Vodafone)のMペサ(M-Pesa)などのネイティブモバイルマネーがすでに、ファイナンシャル・インクルージョンに違いをもたらしたことを指摘して、ディスパルテ氏は次のように述べた。

「リブラがまとめるのは、もう科学実験ではありません。成熟したアプローチを、金融規制当局や政治家の直接の視線の先に置こうとしているのです。ファイナンシャル・インクルージョンと規制当局による監視は競い合うものではないと言っているのです。リブラは、世界に大規模に変化をもたらすための道筋を示してくれるのです」

しかし、これらはすべて野心的なものであることを覚えておくことが大切だ。誤解のないように言うと、リブラ協会のメンバーがフェイスブックのウォレット「カリブラ(Calibra)」を含めた独自のウォレットを開発した際には、ウォレットを提供する企業はアンチマネーロンダリング(AML)、テロリストへの資金供与防止(CFT)要件の遵守、そしてKYCチェックにおける最善の慣行を確実にしなければならない。

FATFの影響

しかし、KYCの段階的アプローチに関するリブラのアイディアは、マネーロンダリングに関する金融活動作業部会(FATF)の理論上の取り組みと一致する。リブラ(特にカリブラ)を差別化するのは、潜在的に数十億人のユーザーを伴って、その理論を実践へと移すことのできる規模にあるのだ。

FATFの上級政策アナリスト、トム・ネイラン(Tom Neylan)氏はCoinDeskに対して次のように語った。「もちろん、リブラと交渉をすることに抵抗はありません」

しかしネイラン氏は、次の通り、はっきり指摘した。

「他にもステーブルコインの提案や、暗号資産を提供する企業が存在しているのに、リブラを特別な事例のように取り扱うことはしたくありません」

ディスパルテ氏の発言を引き継いでネイラン氏は、実際の法定通貨を伴う従来型の金融サービスにおける段階的顧客デューディリジェンス(CDD)は、数カ国で実行されているだけのものであると述べた。「デジタルの文脈における段階的CDDは将来的に検討する必要のあるものですが、まだそれには至っていません」とネイラン氏は説明した。

10月中にデジタルアイデンディティについてのガイダンスの草稿を発表する予定のFATFは、メキシコ、ウルグアイ、インドでの実例を含むCDDとファイナンシャル・インクルージョンについてのガイダンスを発行した。

段階的CDDに含まれるものは、一定期間に特定額の事業、例えばひと月にXドルの取引を行うことができ、国際取引はできない限定口座や、合計貯蓄額への制限といったものである、とネイラン氏は説明した。

そのような基本的な口座には、必ずしもパスポートや住所は必要ないとネイラン氏は述べ、次のように続けた。

「段階的CDDに含まれるものは、国によって異なっていました。書類が存在しない場所では、村の年長者があなたの身元を保証してくれるかもしれません」

ここにおける前提は、ユーザーが規則を破らないことを確かにするために、機能性の低い場合には継続的な監視が伴うということで、それはブロックチェーンが得意と考えられているものだ。そうしてユーザーは、時間をかけて金融プロフィールを築き上げていくことができる。

「時には、良好な金融プロフィールを構築することで、CDDを通じて多くのことができるのです」とネイラン氏は語り、次のように続けた。

「そのためこれが、デジタルの世界でも同様に単純に適用できるモデルかもしれません」

ブロックチェーン分析企業の意見

ここで大きなチャンスを見出しているデジタル世界のもう1つのセクターは、チェイナリシス(Chainalysis)、エリプティック(Elliptic)、コインファーム(Coinfirm)といったブロックチェーン分析企業である。

この文脈におけるブロックチェーンを基盤としたKYCの再考については、エリプティックのCEO、ジェームズ・スミス(James Smith)氏が次の通りにまとめている。

「たった2ドルのトランクザクションを行おうとしているときに、あなたについてすべてを知る必要はありません。エリプティックが行ったのは、それを転換させて、『その人たちが誰であるかを必ずしも知る必要はありません。我々は彼らが犯罪を行なっているのかどうかを見極め、その場合には防止しようとしているのです』と言ってみるということです」

コインファームの共同創業者兼CEOのパーヴェル・クスコウスキ(Pawel Kusukowski)氏によれば、個人のブロックチェーンベースのトランザクション履歴と簡単にマッチできるフェイスブックのプロフィールや、それと同様なものを組み合わせることは、魅力的なソリューションになる。

「個人を適切に身元確認し、氏名、住所といった一定の重要なデータポイントを獲得する必要があります。フェイスブックは、このような種類の情報源としては素晴らしいです」とクスコウスキ氏は述べた。

「事実、(十分に吟味された)フェイスブックのプロファイリングは、市場に現在存在する最高のKYCよりもずっと優れたものになるでしょう」

リブラがどのようにデジタルアイデンディティにアプローチするかという疑問にはまだ答えが出ていない。しかしホワイトペーパーには、「リブラ協会の追加目標は、オープンアイデンディティの基準を開発、促進することである」という、簡潔だが極めて重要な文言が含まれており、「分散型でポータブルなデジタルアイデンティティは、ファイナンシャル・インクルージョンと競争の前提条件となるものだ」という言葉も添えられていた。

このような文言によって、デジタルアイデンティティの専門家は、政府発行の書類が不十分な特定の非銀行利用地域において、フェイスブックのプロフィールのようなものを伴った、デジタルアイデンディティやKYCへのまったく新しい見解をリブラが持っているのではないかと疑問に思うことになった。

こういった場合にはいつでもそうであるように、落とし穴は細部に宿っている。プロフェッショナルサービス企業のダン&ブラッドストリート(Dun&Bradstreet)のデータイノベーション担当グローバル責任者のサリーム・カーン(Saleem Khan)氏は、フィジカル(物質的なもの)とデジタルの間に架け橋が必要だとして、次のように締めくくった。

「ブロックチェーンやリブラ自体が『この人は本当に主張通り本人なのだろうか』という疑問を解決することは決してありません。それは物理的な証明がない限り起こり得ません。非銀行利用者であっても、その人が実際に、主張する人物であるということを知る必要があるのです」

翻訳:山口晶子 | 編集:T. Minamoto | 写真:Jakarta, Indonesiaimage via Shutterstock | 原文:How Anti-Money-Laundering Rules Hinder Libra’s Mission to Reach the Unbanked | 執筆協力:Brady Dale
CoinDesk Japan 編集部

最終更新:10月14日(月)7時00分

CoinDesk Japan

 

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