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ゼロ成長とゼロ金利が地銀を苦境に追い込むのはなぜか

10月13日(日)21時00分配信 LIMO

写真:LIMO [リーモ]
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写真:LIMO [リーモ]
地銀の苦境が伝えられていますが、その原因はゼロ成長とゼロ金利だ、と久留米大学商学部の塚崎公義教授は説きます。

地銀が苦戦中

地銀が苦戦しています。地銀というと、地方からの人口流出で苦しいとかAIなどに仕事を奪われそうだとか、色々言われていますが、これは将来の地銀の苦悩を予想したものです。

それに対し、現時点で地銀を苦しめているのはゼロ成長とゼロ金利です。ゼロ成長とゼロ金利は、今後も当分の間地銀を苦しめるでしょうから、問題は深刻です。

ちなみに、メガバンクも同じようにゼロ成長とゼロ金利に悩んでいますが、海外等々で稼ぐことができているので、苦悩の程度が地銀より軽い、ということは言えそうです。

ゼロ成長でビジネスが縮む

一般企業にとって、日本経済がゼロ成長であるということは、売り上げも利益も前年並みということですが、地銀にとっては違います。

一般企業は、ゼロ成長でも一定の利益を稼いでいますから、その中から配当を支払った残りを使って地銀からの借り入れを返済します。つまり、地銀としては、ゼロ成長だと融資残高が減ってしまうのです。

ゼロ成長でも、企業は既存の設備が古くなった分は更新投資を行います。しかし、その分の費用は減価償却で賄われてしまうために、銀行借り入れには繋がらないのです。この点については末尾の初心者向け解説をご参照ください。

ビジネスが縮むことを恐れて、地銀が貸出金利の引き下げ競争を始めると、これも地銀を苦しめることになります。一行だけが金利を引き下げれば、ライバルから客を奪うことができますから、利益は増えるかもしれませんが、各行が一斉に金利を下げると、顧客数が増えずに利ざや(貸出金利から預金金利等を引いた差)が縮小し、その分だけ利益が減ってしまうわけです。

牛丼の値下げ競争であれば、ラーメン等の他業界から顧客を奪ってきて、業界全体として顧客数が増えるという可能性もあるのですが、銀行業はそうした可能性が乏しいでしょう。

また、「金利が0.1%下がったから借金をして設備投資をしよう」という客もいないでしょう。銀行にとっては0.1%は利鞘の大部分かもしれないのに、借り手にとって0.1%の金利は多くのコストの中のごく一部ですから。

金利引き下げ競争がうまく行かないと、銀行が信用力の低い借り手にも貸そうとするかもしれません。これは危険なことです。優良企業向けの金利引下げであれば、利鞘が縮小するだけですが、信用力の低い借り手への融資に手を出すようになると、元本をそっくり失う可能性があるからです。

一部の地銀は信用力の低い借り手に対する貸出を証券化した商品に投資しているとも聞きますが、これは本当に危険です。証券化商品は流動性が低い(売買する人が少ない)ので、一度市場が下がり始めると、「売りたくても買い手がいなくて売れない」といったことにもなりかねないからです。

ゼロ金利で預金部門のコストがそっくり赤字に

銀行の利益を分析する時には、貸出部門と預金部門に分けて考えるとわかりやすいでしょう。預金部は預かった預金を経理部に市場金利で貸し出し、貸出部門は経理部から必要金額を市場金利で借り入れることにするのです。

そうなると、預金部門は悲惨です。わずかながら顧客には金利を支払い、経理部にはマイナス金利で貸し出す必要がありますから、経費はすべて赤字です。「そんなことなら預金部門など解散してしまおう」という考え方もあるのですが、そうも行きません。

将来、高金利時代が来た時には、預金が利益の源泉になるからです。預金金利は市場金利よりも変動幅が小さいので、高金利時代になってもそれほど上がらないからです。

今ひとつ、預金部があると、借り手の資金の動きが銀行から見えるという点も重要です。「売り上げ代金の入金が減って来ましたが、大丈夫ですか?」といったことに早めに気付ければ、万が一の時の銀行の傷が浅くなるかもしれませんから。

経営統合等々の大胆な生き残りが必要な時代に

ゼロ金利とゼロ成長が当分続くとすると、地銀は相当厳しい状況になるかもしれません。経営統合による過当競争回避やコスト削減等が必要になってくるかもしれませんね。銀行と銀行の合併に際しては、独占禁止法が問題となり得るわけですが、ここは是非緩く認めていただきたいと思います。

銀行が独占利潤を貪って借り手が困るというリスクは、相当小さいと思います。少なくとも、今後数年はないでしょう。その後も、可能性は小さいと思います。フィンテックなどが発達すれば、他県のライバルが容易に競争に参入してくるようになるでしょうから。

むしろ、経営統合を認めないことによって、銀行が過当競争によって疲弊し、必要な融資を行う力もなくなっていく、というリスクの方が大きいかもしれません。銀行は自己資本比率規制があるので、自己資本が減ってくると「貸し渋り」を余儀なくされますから。

更新投資は減価償却で可能(初心者向け解説)

企業が設備投資で100万円の機械を買ったとします。現金が100万円出て行きますが、決算の際には100万円の費用は発生しません。「10年かけて機械が磨り減っていくので価値が10万円ずつ減っていく」と考えて、毎年10万円の費用を計上します。これが減価償却です。

企業の利益が毎年ゼロだとします。「10万円で材料を仕入れて製品を作り、それを20万円で売ったが、減価償却の費用を計上したので利益がゼロだった」といった感じですね。

減価償却した後でゼロということは、減価償却分だけ現金が手元に残っているはずです。20万円の売り上げで、仕入れが10万円ですから。これが、銀行借入の返済に回ります。100万円借りて機械を買い、10年かけて返すわけです。

借り手が10社あり、毎年1社ずつが機械を新しく買い換えるとします。1社は100万円借りますが、10社から10万円ずつ返済が来るので、銀行の貸し出しは増えないのです。これが、更新投資の費用は減価償却で賄われてしまうために、銀行借り入れにはつながらない、という意味なのです。

本稿は以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。

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塚崎 公義

最終更新:10月13日(日)21時00分

LIMO

 

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