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低金利の「前提」崩壊? 日銀の利上げ転換シナリオは

9月27日(金)17時45分配信 THE PAGE

 物価上昇率「2%」目標の達成に向け、日本銀行が続けている「マイナス金利」などの大規模な金融緩和政策。2%実現の兆しが見えない中で、日銀が利上げに転換するなら、どんなシナリオが考えられるのか。第一生命経済研究所の藤代宏一主任エコノミストに寄稿してもらいました。

物価「2%目標」の実現は無理?

[写真]日銀は大規模な金融緩和政策を転換するのか。市場の注目が集まっている(ロイター/アフロ)
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[写真]日銀は大規模な金融緩和政策を転換するのか。市場の注目が集まっている(ロイター/アフロ)
 日銀は「2%の『物価安定の目標』の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、『長短金利操作付き量的・質的金融緩和』を継続する」としています。これは、短期金利をマイナス0.1%、長期金利を0%程度に誘導しつつ、同時に長期国債やETF(株式)を買い入れる政策です。

 こうした大規模な金融緩和策は、実施から6年超が経過しています。しかしながら、現時点の物価上昇率は、ひいき目にみても0%台後半で、2%の物価目標の達成ははるか遠くにあります。筆者を含め圧倒的大多数のエコノミストは、半永久的に2%目標には届かないと予想しています。したがって、日銀の主張を額面通りに解釈するならば、大胆な金融緩和が半永久的に続くことになります。

 2%目標の達成が見通せない中、日銀の金融政策に関する予想は現在のところ、(1)現状維持、(2)マイナス金利深掘りの2択になっており、金融緩和の「出口」を予想する向きは皆無に等しい状況です。

 とはいえ、こうした政策が10年も20年も続くのかというと、それもまた疑問です。そこで本稿ではやや視野を拡大して、日銀が将来のどこかの時点で(2%の物価目標が達成される前に)利上げ方向に舵を切るシナリオを検討してみます。

低金利が常態化、景気刺激効果は消えた?

 日銀が利上げ方向に傾斜するには、それを正当化するための理論的根拠を示す必要があります。そこで考えられるのが「現在の日本の状況では、金利の引き下げが実体経済にプラスの影響を与えない」という見解を日銀が示すことです。

 そのシナリオを説明するにあたって、そもそもなぜ、金利の引き下げが景気刺激効果を持つかを理解する必要があります。そこで抑えておくべきは、金利の引き下げが有効とされる前提に「プラスの代替効果>マイナスの所得効果」という状況が想定されていることです。ここでいう代替効果とは、金利低下による貯蓄動機の低下が投資・消費動機を高めること。たとえば「低金利環境で預金は旨みがない、むしろ借入をして高額消費をしよう」といった前向きな行動です。所得効果とは、金利低下による利子所得の減少、或いはそれを予想することです。「金利が下がるので利子がもらえない、その分、節約しよう」という具合です。

 確かに「プラスの代替効果>マイナスの所得効果」の状態では、金利引き下げが実体経済(設備投資・消費)を刺激することで景気が勢いづくと考えられます。しかしながら、現在の日本のように超低金利が20年も続いている状態では「代替効果」が食い尽くされ、この前提が崩れている可能性があります。名目金利が下がった場合、人々がそれを一時的現象と見なせば、これを好機と捉え、投資・消費に前向きになると予想されますが、低金利が当たり前になった現在の日本に、そうした行動パターンがあるとは思えません。この期に及んで金利が下がっても、人々の行動を刺激する効果は限定的な印象です。

将来不安が増幅し、節約意識強める?

 他方、マイナスの所得効果は案外強く効いている可能性があります。それを象徴したのは、2016年のマイナス金利導入時や年金2000万円問題の過熱です。国民の声として「金利が低くて資産形成ができない」という不安・批判が上がったことは、利子所得が見込めないことが将来不安を増幅し、それが節約意識を強めている可能性を浮き彫りにしました。利子所得が豊富に見込めた時代、人々は貯蓄に励んだ一方、その利子所得が後ろ盾となり、将来不安が抑制されていた印象ですが、現在の日本はそうした状況にありません。

 このように代替効果が薄く、負の所得効果が作用する状況下では「プラスの所得効果>マイナスの代替効果」となっている可能性があり、そうであれば金利引き下げは逆効果になってしまいます。

 金融緩和は景気にプラスの影響を与えると日銀が主張してきたこれまでの経緯を踏まえると、近い将来、利上げ方向に傾くとは考えにくいのは事実です。あまりにも急進的な論理変更だからです。ただし、より長期でみた場合、政権(首相)交代や日銀総裁任期満了(2023年)をきっかけに、そうした流れが変わってくる可能性はあるでしょう。
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※本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

最終更新:9月27日(金)18時47分

THE PAGE

 

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