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FRB、ECB、日銀の9月政策決定から先行きを占う

9月23日(月)6時10分配信 東洋経済オンライン

黒田総裁は「4 つのオプションとその組み合わせで、金融緩和の余地は十分ある」というが(写真:ロイター/Toru Hanai)
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黒田総裁は「4 つのオプションとその組み合わせで、金融緩和の余地は十分ある」というが(写真:ロイター/Toru Hanai)
 注目された日米欧三極の金融政策決定会合が終わった。最後に実施された日本銀行金融政策決定会合は予想通りの無風ではあったが、あえて言えば、『経済・物価情勢の展望(展望リポート)』を公表する次回10月末の決定会合に向けて「経済・物価動向を改めて点検していく」との一文が加えられたことが耳目を集めた。

 この点、「次回会合以降での追加緩和(おそらくはマイナス金利の深掘り)が示唆された」との解釈もあるようだが、そもそも経済・物価動向を点検しない会合などありえず、深読みは禁物だ。7月会合で「躊躇なく」とのフレーズを挿入したことで何らかの前進姿勢を見せねばならなかったという経緯があり、苦肉の策として付加した一文だと筆者はみている。
 日銀の政策反応関数において最重要の変数であるドル円相場が、直近では高値圏(ドル高円安)にある以上、カードの少ない日銀が動く必要はなく、これは10月以降も基本的に変わらない方針のはずである。

 輸出企業の採算レートは内閣府の『2018年度企業行動に関するアンケート調査』によれば99.80円、企業の想定為替レートは日銀短観6月調査で109.40円である。こうした調査を踏まえれば、当局の目線から見て、「99.80~109.40 円」ならば企業部門の収益を過度に心配しなくてよい。
 今後、1ドル=100円を割り込んで定着するような地合いでもないかぎり、マイナス金利深掘りのような副作用もある政策を思い切って決定することはないと考えられる。さらに、1ドル=100円を割り込むようなドル安が進んでいる最中にマイナス金利を深掘りしたところで、その潮流が変わるかどうかは別の話である。

■FOMCメンバーの半数近くが「2020年利上げ復帰」

 一方、日銀会合の前日に行われたFOMC(米連邦公開市場委員会)からは今後が非常に読みづらくなってきた。マイナス0.25%ポイントの利下げ(誘導目標「2.00~2.25%」→「1.75~2.00%」)は想定どおり。これに対するトランプ米大統領の悪態、「パウエルは臆病者」といったツイートなども予想どおりの反応だった。だが、政策メンバーの金利見通し、いわゆドットチャートはかなり割れてしまった。
 FF金利の先行き2019年から2022年の各年末水準の見通し(中央値)は「1.875%→1.875%→2.125%→2.375%」であった。つまり、連続利下げの可能性は視野に入っていない。人数構成を見ると、2019年末は1.625%(1回利下げ)が7名、1.875%(現状維持)が5名、2.125%(利上げ)が5名でおおむね3分割された。これが2020年末になると1.625%が8名、1.875%が2名、2.125%が6名、2.375%が1名と変わる。
 要するに、現状のFOMCでは2020年にかけて「利下げはあっても残り1回」という意見集約が進んでいる。今回の「保険的な利下げ」の効果もあって先行きは利上げ軌道に復帰できると考えているメンバーが半数近くにのぼる。今回の利下げは「あくまで貿易摩擦を中心とするリスクへの『保険』であって、本丸であるアメリカ経済は頑健である」という建前で行われているため、連続利下げは正当化できないということだろう。現に2名が利下げに反対票を投じた。
 その一方で、長期的に望ましい政策金利(いわゆる中立金利)の水準は中央値こそ2.50%と前回から不変だが、その分布が明らかに下がっていることも見逃せない。具体的には3.25%が2名から1名へ、3.00%も2名から1名へ減少している一方、2.25%が0名から1名へ、2.00%も0名から1名へ増加している。

 つまり、目先の利下げ回数については必要性を見込むメンバーが減っているものの、利上げ復帰後の着地点についてはより低い目線を持つメンバーが増えているということになる。したがって、今回のドットチャートをタカ派的と決めつけるのは必ずしも正しくない。
■「QE再開」があっても、景気刺激のためではない

 また、パウエル議長の会見もドットチャートの内容ほどタカ派色の強いものではなく、バランスを取りに行ったような印象を受けた。会見では下方リスクが明確になれば連続利下げに至ることも示唆され、資産購入を早期に再稼働させる可能性にも言及した。アメリカ経済を堅調とする一方、「世界景気は減速し続けている。私は7月の会合時より弱まったと思う」などと警戒を怠っていない。
 ちなみに資産購入(QE)の再稼働は最近の短期金融市場の金利急騰を受けたテクニカルな措置というのが正確な理解に近い。報道されているように、FRBが想定した以上に短期金融市場の資金需要が逼迫しやすくなっている。これは、短期金利の上昇が始まる準備預金の水準が想定以上に高かったためであり、言い方を変えればバランスシートを縮小しすぎて金利が上振れてしまったことが問題化したものだ。

 こうした状況に対し、今回会合では超過準備への付利(IOER)を1.80%へ、翌日物リバースレポ金利(ON RRP)を1.70%へ、それぞれ0.3%ポイントずつ引き下げることで、FRBを運用先として使うインセンティブを低くし、市中で取り引きされる流動性を拡大させ、短期金利を低く抑えることを図った。これらはひとえに「適正な所用準備の水準」が読みづらくなっていることへの対策であって、景気刺激を狙った利下げではない。
 同様に、今後、仮にQE再開による流動性供給が決断されたとしても、それは景気刺激ではなく、あくまで「準備預金の水準を復元し、短期金利の落ち着きどころを探る」といったテクニカルな文脈で読み解くべきものである。

 だが、仮に再開された場合はトランプ大統領のFRB批判や根強い緩和期待も相まって、「景気刺激策としてのQE」という「誤解」が支配的となり、アメリカの金利やドルの一段安を招く可能性が高いだろう。結果的に、それでトランプ政権の歓心が買えて、株式市場も喜ぶのであれば、FRBとしても悪い話ではない。
 8月上旬に米中貿易摩擦が混沌とし、1ドル=104円台が定着しかかっていた際には、9月の日銀会合は欧米緩和に挟撃され修羅場を迎えると、市場関係者の多くはみていた。しかし、9月に蓋を開けてみれば、ECB(欧州中央銀行)は材料出尽くしで逆にユーロ買いを招き、FRBも利下げはあと1回という限定性を示して、ドル安は進まなかった。結果的に日銀は次回会合以降の「点検」を強調するだけで済んだというのが現在の整理になる。9月については首尾よく逃げ切ったという印象である。
 とはいえ、世界的に金融緩和の潮流が続くかぎり、為替市場では誰かが「通貨高の按分」を引き受けなければならない。すでに新興国では昨年に利上げした糊代を使い果たす国もあるので、それら通貨の「売り」に対する受け皿が必要な状況である。名目実効為替相場の今の動きを見ると、円・カナダドルそしてドルがこの役割を果たしていると言えそうだ。

 円はドルに対して年初来では強含みを見せているが、大まかに言えば「円高でありドル高である」という状況が続いているため、値幅が出ないというのが実情である。とはいえ、緩和余地の乏しさや頑健な対外経済部門を理由として、円相場が実効ベースで上昇しやすいという構造は簡単には変わらないだろう。
■FRBやECBには緩和余力がありそう

 実際にFRBやECBはまだ緩和を続ける余力がある。

 FRBに関しては、ドットチャートで強気を示したところで、米中貿易摩擦が完全解決に向かうまでは金利を上げる方向で調整するのは難しい。「残り1回で利下げが終わる」という想定はあまり信じられない。年4回利上げした翌年に年2回利下げしているくらいなのだから、今想定されている利下げ回数も相応に幅を持ってみるべきであろう。むしろ市場参加者は「あと7回利下げできる」とみたほうがよい。
 他方、ECBについては「預金ファシリティ金利のマイナス0.50%からの引き下げ余地は乏しい」という意見が多そうだが、10月31日から運用が開始される階層化システムの詳細を元に加重平均されたユーロ圏無担保翌日物平均金利(EONIA)を試算してみると、現在のマイナス0.45%からマイナス0.25%へとむしろ上昇するとの見方も多い。だとすれば、副作用を顧みずにさらなる引き下げが検討されても不思議ではない。
 なお、9月19日にはECBよりもさらにマイナス幅の低いマイナス0.75%を採用するスイス国立銀行(SNB)が政策金利の据え置きを決定しつつ、マイナス金利の適用除外残高を拡大した。ジョルダン総裁は「近い将来に金利がプラス圏に戻るとは予想していない」と述べている。「階層化システムを通じマイナス金利の拡張可能性が確保される」という考え方が流行していくのだとすれば、ECBもまだ利下げを追求することがありうる。
 こうした状況では、9月こそ無事に切り抜けたが、「日銀は何ができるのか」が問われる局面は再び到来する。だからこそ今後、柔軟に動けるように「点検」を強調したと考えられる。とはいえ、もともと低い市中金利が災いしマイナス0.10%の時点でリバーサルレート化して(金融システムの悪化を通じて逆効果すら出る水準に来て)いるのが実態である。日銀がマイナス金利を複数回にわたって深掘りする展開は現実的ではない。FRBやECBなど海外中銀に比べて「手札が少ない」というのはいかんともしがたい事実である。
 為替市場の先行きを考える上では、そうした緩和余地の乏しさが円買いの動機になりやすい時間帯が当面続くと、みておきたい。

 ※本記事は筆者の個人的見解であり、所属組織とは無関係です
唐鎌 大輔 :みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

最終更新:9月23日(月)6時10分

東洋経済オンライン

 

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