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全世代型社会保障、今後何を議論すべきか

9月23日(月)6時20分配信 東洋経済オンライン

9月20日、全世代型社会保障検討会議で発言する安倍晋三首相(右手前から2人目、写真:時事通信)
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9月20日、全世代型社会保障検討会議で発言する安倍晋三首相(右手前から2人目、写真:時事通信)
 子供たちからお年寄りまで、すべての世代が安心できる令和の時代の新しい社会保障制度の在り方を大胆に構想していくーー。

 9月の内閣改造で初入閣した西村康稔・経済財政再生相に担当大臣を兼務させ、安倍晋三首相は「全世代型社会保障検討会議」を新たに設けることを表明した。

■民間有識者の顔ぶれから読み解く議論のゆくえ

 9月20日に検討会議の第1回会合が開催された。検討会議は、今年末に年金や介護を中心とした中間報告、来年夏に医療を含めた最終報告をまとめる予定としている。メンバーは、主要閣僚7人と民間有識者9人、計16人から構成される。
 政府には、社会保障改革について議論する会議がすでにいくつか存在する。それなのに、新たな会議を設けて何をするのか。既存の会議の存在をないがしろにするつもりなのか。そんな声もある。しかし、民間メンバーの構成をみると、今後の議論の展開が占える。

 民間有識者は、遠藤久夫・国立社会保障・人口問題研究所所長、翁百合・日本総合研究所理事長、鎌田耕一・東洋大学名誉教授、櫻田謙悟・経済同友会代表幹事、清家篤・慶應義塾前塾長、中西宏明・経団連会長、新浪剛史・サントリーホールディングス社長、増田寛也・東京大学公共政策大学院客員教授、柳川範之・東京大学大学院教授である。
 このうち、中西、新浪、柳川の3氏は経済財政諮問会議の民間議員、翁、櫻田と中西の3氏は、成長戦略の決定に影響力を持つ未来投資会議の主要メンバーである。西村大臣は、経済財政諮問会議の司会進行役と未来投資会議の副議長を兼ねている。このことから、今後の社会保障改革の議論は、厚生労働省の会議だけで議論するのではなく、経済財政諮問会議と未来投資会議と密接に連携していこうとしていることがうかがえる。

 そのスタイルは、小泉純一郎内閣における社会保障改革の詰めた議論が、経済財政諮問会議で行われたことを思い出させる。
 とはいえ、より専門的な内容を検討するとなると、厚生労働相の諮問機関である社会保障審議会や労働政策審議会で議論しなければならない。検討会議のメンバーである遠藤氏は、社会保障審議会長であり、増田氏は同会長代理である。鎌田氏は労働政策審議会長である。だから、社会保障審議会や労働政策審議会の議論を無視するわけではないだろう。

 また、第2次安倍内閣以降の社会保障改革は、内閣官房に置かれた社会保障制度改革推進会議でも議論してきた。検討会議のメンバーである清家氏は、同会議の議長、増田氏は同議長代理である。
 さらに、経済産業相の諮問機関である産業構造審議会は、中西氏が会長で、増田氏が会長代理、柳川氏は同審議会の2050経済社会構造部会長である。加えて、増田氏は、財務相の諮問機関である財政制度等審議会の財政制度分科会長代理でもある。

ちなみに、検討会議の第1回会合に配布された基礎資料には、産業構造審議会2050経済社会構造部会の配布資料にあった図表や、同部会や未来投資会議の議論を経て今年6月に閣議決定された「成長戦略実行計画」の引用が盛り込まれている。
■国民の負担増伴う増税論議には踏み込まず? 

 他方、政府税制調査会の会長や会長代理は、検討会議のメンバーとはならなかった。政府税調は総理大臣の諮問機関であり、格の高い政策会議だが、その主要メンバーが検討会議のメンバーにならなかったことから、検討会議は国民の負担増に直結するような増税論議には踏み込みたくないという意図が見え隠れする。

 こうしてみると、検討会議の議論の展開が見えてくる。検討会議は、民間メンバーが兼務している審議会などと連携して、論議を組み立てていくことになるだろう。検討会議の議長は安倍首相だが、ただでさえ多忙な首相が出席する会合で、2時間も3時間も議論を続けるわけにはいかない。
 首相が臨席するほかの会議同様、検討会議も改革内容のすべてを決めるのではなく、検討結果を首相をはじめとするメンバーに報告し、方針について了承し、安倍首相がさらなる指示を出すという展開が予想される。

 そして、検討会議で示された方針や意向を受けて、民間メンバーが兼務する審議会などでさらに議論を深め、細かい制度設計を固めてゆく。最終的には、そうして固められた政府の原案を与党に諮って決めることになるのだが、その政策決定過程の中で、検討会議に新たな役割が与えられることになるだろう。
 検討会議は、その名の通り「全世代型社会保障」のあり方を検討する場となる。では、どのような議論をしていくのだろうか。

 社会保障というと、年金、医療、介護などを想起するが、これらの恩恵を受けるのは主に高齢世代で、若年世代に恩恵はあまり及ばない。その印象を変えるため、若年世代にも恩恵が及ぶ「子ども子育て支援」も社会保障の枠内に含めることにした。「全世代型」とは、待機児童解消や幼児教育無償化も含んでいる。
 消費税率10%の増税財源は、待機児童解消や幼児教育無償化などに充当した。今はその成果を見届けている最中で、対策をただちに追加しなければならないわけではない。したがって、検討会議で、子ども子育て支援の追加策がどんどん出てくるとは考えにくい。

■若年世代に恩恵が及ぶ社会保障改革は何か

 すると、議論の焦点は、改善が求められる年金、医療、介護に集中するかもしれない。

 しかし、そうなると、検討は高齢世代に恩恵が及ぶものと見られてしまう。看板倒れにならないようにするには、若年世代に恩恵が及ぶ案件も検討しなければならない。
 社会保障制度の中で、若年世代に「給付増」という形で恩恵が及ぶものはあまり残されていない。逆に「負担減」という形でなら、恩恵が及ぶものが残されている。

 例えば、医療で75歳以上の患者負担が原則1割となっているのを、今後75歳になる人から順次、原則2割負担とするという改革だ。若年世代が払う医療保険料の多くは、高齢者の医療費の財源に回っている。世代間の助け合いとしては美しいが、度が過ぎては若年世代の重荷となる。若年世代の医療保険料負担の増加を放置したままでは、若年世代を苦しめる。
 だから、75歳以上の患者負担割合を引き上げることで、若年世代の医療保険料の負担増を抑えることができる。これは、若年世代にも恩恵が及ぶ社会保障改革となる。他方、75歳以上の患者負担割合の引き上げは、高齢者や医療界に根強い反対がある。

 「全世代型」というからには、高齢世代だけでなく若年世代にも恩恵が及ぶ社会保障改革に着手することが求められる。検討会議はその名のように、全世代型の改革を提起できるのだろうか。
土居 丈朗 :慶應義塾大学 経済学部教授

最終更新:9月23日(月)6時20分

東洋経済オンライン

 

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