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現役車両も登場…京都鉄博「攻める展示」の裏側

9月22日(日)5時00分配信 東洋経済オンライン

「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」が京都鉄道博物館に入る歴史的なひとコマ(筆者撮影)
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「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」が京都鉄道博物館に入る歴史的なひとコマ(筆者撮影)
 京都鉄道博物館で現在行われている企画が、鉄道ファンの間で話題となっている。「あなたはどっち系? ゴーパー? ヨンパー?」と名付けられたこの企画は、同館で展示されている「クハ489形」か「クハネ581形」のうち投票で“勝利”した1両を、期間限定でラッピングによりカラーリング変更するというものだ。全国にはさまざまな鉄道博物館があるが、こうした企画は極めて珍しい。

■投票結果で展示車両を“衣替え”

 「現在、『列車愛称進化論~名前から見る鉄道~』という企画展を開催しているのですが、それに連動させる形で考えついたのが、今回の企画です」と、その発案者であるJR西日本広報部鉄道文化推進室の主原靖麻(しゅはら・やすま)さんが教えてくれた。
 この企画展では、約200種類のヘッドマークなどを紹介。一部は実物を展示するのだが、「よりインパクトを与える形で展示するにはどうすればよいか」と考える中で、そのヘッドマークが取り付けられていた車両を再現しようと思ったのだという。

 現在、クハ489形とクハネ581形はいずれも「国鉄色」と呼ばれる製造当初のカラーになっているが、前者は1989年に登場した「白山色」、後者は1992年に登場した「シュプール&リゾート色」に変更する。ただし、前述のとおり変更されるのはどちらか1両のみ。主原さんは「投票という形をとることで、多くの方と一緒に盛り上げたいという思いがあります」と狙いを明かす。
 ちなみに、薄い藤色(水色)をベースとした「シュプール&リゾート色」は、わずか5年ほどしか見られなかった塗装で、その後はクリーム色をベースとしたカラーリングに再度変更され、2013年の引退まで活躍した。

 「近年まで見られた塗装よりも、がらりとイメージの違う『シュプール&リゾート色』に変更するほうが、より楽しんでいただけると考えました」(主原さん)

 20年以上前に消えたカラーリングということで、当時の資料を探すのには困難が予想されたが、意外なことに「リゾート&シュプール色」は色見本などがすぐ見つかったという。逆に、2002年ごろまで見られた「白山色」のほうは資料がなかなか見つからず、苦労したそうだ。
■展示車両の「衣替え」は珍しい

 JR東日本が埼玉県大宮市で運営する「鉄道博物館」をはじめ、鉄道展示施設の車両が途中でカラーリングを変更することはほとんどない。その理由はいくつかあるが、収蔵時にさまざまな検証が行われ、その車両にふさわしいカラーリングが選択されているという点も大きい。

 「展示車両は収蔵品であって“客寄せパンダ”ではなく、人気取りのために手を加えるべきではない」という意見もある。これに対して主原さんは「こうした企画を通じ、その車両のたどってきた歴史や背後にある時代の変化を知っていただくことで、鉄道への興味を持ってもらいたいと考えました」と語る。
 例えば「リゾート&シュプール色」はスキーブームを背景に登場しており、そうした説明も加えることで社会の流行について振り返ったり、鉄道がどういう役割を果たしてきたかについても来場者に伝えたいという。「もちろん、企画終了後は元の姿にきちんと戻せるよう、さまざまな対応をしています」(主原さん)。

 この投票は、9月1日から30日まで行われ、Web投票に加えてポイント数が10倍にカウントされる現地投票も実施。その結果をもとに、どちらか1両が10月14日から来年1月31日までラッピングされる。9月12日の中間発表では、クハネ581形が4863ポイント、クハ489形が4473ポイントと大接戦の状態だ。
 「正直、ここまで接戦になるとは想像していませんでした。それだけ、それぞれの車両とカラーに思い入れのある方が多いということを感じています。投票いただいた方々の熱意に応えるべく、10月14日には美しい姿でお披露目したいと思います」(主原さん)とのことだ。

■「現役車両」が入線できる

 ところで、京都鉄道博物館ではもう1つ、これまでの鉄道展示施設にはない取り組みが行われている。それは、「車両工場エリア」での車両特別展示だ。ここには営業中の線路につながる引き込み線があり、現役で活躍中の車両が入線できるようになっている。
開館から間もない2016年7月には保線に使われる軌道モーターカーを、翌8月には信号や軌道の状態を検測する「ドクターWEST」ことキヤ141系を展示して以降、これまで20車種以上を展示してきた。

 「観光車両はもちろんですが、近年は営業車両も予備車が少ないため、スケジュールの調整にかなり苦労することも多いです。さまざまな部署に協力してもらって展示にこぎつけ、多くの方の笑顔が見られたときには、そんな苦労も吹き飛びます」(主原さん)
 特に主原さんの印象に残っているのが、2017年11月に展示された103系。「当館にはクハ103形1号車を収蔵しており、また前月まで大阪環状線で走っていたにもかかわらず、予想を大幅に上回る来館者数を記録しました。中には『大阪環状線で見送りできなかったから、最後にもう一度会いに来た』という地元の方もおられました」(主原さん)。いかに103系が愛されていたのかがわかるエピソードである。

 最近は自社車両のみならず、JR貨物やJR四国の車両も“入館”しており、毎回好評を博している。「JR貨物さんとは、当館の開設にあたってもいろいろと協力してもらっています。2017年8月には、初めて当社以外の車両としてEF210形直流電気機関車を展示しましたが、これもJR貨物さんからの提案で実現しました」(主原さん)。
 このとき展示されたのは直前に竣工した新車で、本来ならすぐに営業運転につくところ、JR貨物の粋な計らいで展示車両として貸し出されたのだという。主原さんは「万が一にも傷をつけてはいけないと、いつも以上に気を使いました」と笑って振り返る。

 この成功を受け、後にJR貨物のEH800形とEF64形、さらにJR四国の「アンパンマントロッコ」も展示されることになった。

 「EH800形は遠く離れた北海道の所属であり、真冬の展示ということもあって、無事に到着するか気が気ではありませんでした」(主原さん)。回送当日は、ツイッターなどで鉄道ファンが投稿した回送列車の“実況中継”を見ながら、祈るような気持ちで待っていたという。
■アイデアでわかりやすく伝える

 「車両工場エリア」で行われているのは、特別展示だけではない。例えば、バラスト(砕石)を運搬するホキ800形貨車を展示した際には、バラストの代わりにボールを積み込み、散布する様子を再現。実はこれも、主原さんの提案だという。

 車両を見せるだけでなく、この車両がどんな役割を果たしているかを伝えることも、博物館の重要な使命だ。子供たちにも大好評で、わかりやすく伝わったに違いない。
 「これからも、いろいろな車両の展示をしていきたいと思っています。個人的には、いつかここで私鉄の車両も展示してみたいですね」(主原さん)

 そのほかにも、このスペースを生かした企画を検討中だという。これからも、京都鉄道博物館の“新たな挑戦”が続きそうだ。
伊原 薫 :鉄道ライター

最終更新:9月22日(日)5時00分

東洋経済オンライン

 

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