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海に漂う「プラスチックごみ」の深刻すぎる影響

9月22日(日)5時50分配信 東洋経済オンライン

世界で深刻化するプラスチックごみ問題。今後、私たちはどのような取り組みをしていくべきなのだろうか(写真:apomares/iStock)
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世界で深刻化するプラスチックごみ問題。今後、私たちはどのような取り組みをしていくべきなのだろうか(写真:apomares/iStock)
ここ数年、主要7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)や主要20カ国・地域の会議(G20)など国際政治の舞台に急浮上した海のプラスチックごみの問題。日本でも、来年4月からレジ袋を有料化することが義務付けられる。世界各国の取り組みが加速しつつある今、改めて、プラスチックによる環境汚染研究の第1人者、東京農工大の高田秀重教授にインタビュー、問題の本質を聞いた。世界の研究最前線から見えるのは、海の生物に健康への影響が現れはじめているという、恐るべき現実だ。
■海の生物がかわいそう、と関心高まる

 ――海のプラごみ問題は、クジラ、海鳥など海の生物が胃の中にプラごみをつまらせて死んでしまったり、ウミガメの鼻にプラスチック製ストローが突き刺さったりした例が知れ渡り、関心が高まったのがきっかけといわれます。

 私たちは、北海道大学の綿貫豊教授との共同研究で、海鳥ハシボソミズナギドリの調査を行っています。体重が約500gの鳥で、南半球のタスマニアから北半球のベーリング海の間を行き来する渡り鳥です。2005年にベーリング海で漁業用の網に引っ掛かって死んでしまった鳥について、合計12羽を解剖して胃の中を調べました。すると、胃の下部に砂嚢という器官があり、ここにプラスチックがたまっていました。砂嚢には砂や小石が入っていて、食べ物をすりつぶして消化を助けるのですが、1羽当たり0.1~0.6gのプラスチックが検出されました。
 鳥の体重500gを100倍すると、人間の体重50kgになるので、プラスチック0.6gの100倍、60gのプラスチックが私たちの胃の中にあると同じことになります。これはなかなか苦しいですよね。胃の中に60gのプラスチックがあると、本来の食べ物を十分消化できなくなったり、胃の中、腸の中が傷ついたりする恐れがあります。

 ――海のプラごみの中でも、長さが5mm以下のマイクロプラスチックは生き物の口に入りやすいですよね。
 プラスチックは、海を漂っているうちに、紫外線や波の力で劣化して小さくなっていきます。

 ですが、それだけではありません。1mm以下の球状のプラスチック粒、マイクロビーズは化粧品や洗顔料にスクラブ材(磨き粉)として配合されていますが、洗顔の際に排水に入り、下水道や河川を通じて海に入ります。ポリエステル、ナイロン、最近ではフリースといった素材を洗濯すると発生するくずもマイクロプラスチックになります。台所のポリウレタン製やメラミンフォームのスポンジやアクリルたわしも使っているうちに削られ、排水に入ります。
 もちろん、排水は下水処理場に集まり、他の粒子とともに除去、処理されます。しかし、雨が降ると雨水と一緒に排水が川や海に放流される合流式下水道もあり、現在の下水処理システムでは完全に取り除くことはできません。

 世界中の海に漂うマイクロプラスチックは、50兆個以上あるという推計もある。また、海底に沈む泥の中に相当量のマイクロプラスチックがたまっているのではないか、とも言われています。

人間が食べる魚がプラスチック、有害化学物質を含む可能性も。
 ――渡り鳥だけではなく、私たちが日ごろ食べている魚からプラスチックが検出された例があるのですか? 

 世界では、ベルギー産のムール貝やフランス産のカキからマイクロプラスチックが検出されたと報告されています。アメリカの研究者がアメリカとインドネシアのマーケットで魚貝を買い、調べたところ、いずれもマイクロプラスチックが検出されたという報告もありました。

■微量のプラスチックでも有毒な可能性が

 私たちは、日本ではどうかと、東京湾で釣ったカタクチイワシ(アンチョビ)を調べてみました。2015年に長さ10~12cmのイワシ64尾を調べました。釣った魚の消化管、胃と腸の中のものをアルカリで溶かして、溶けずに浮いてきたプラスチックを測定したところ、8割に当たる49尾から、1尾当たり2~3個、多いもので1尾から15個のプラスチックが検出されました。ポリエチレン、ポリプロピレンの破片やマイクロビーズなどです。検出されたものは長さ1mm前後で、このサイズであれば、人が食べても排泄されるので問題はないのですが、有害化学物質が含まれているかもしれないので心配です。
 ――海のプラスチックが有害化学物質を含むのですか? 

 そうなんです。なぜかというと、1つには、添加剤としてもともとプラスチックに加えられているケースがあります。プラスチックを柔らかくするための添加剤や、紫外線があたってボロボロになるのを抑える化学物質も添加されます。燃えないようにするために難燃剤を加えることもあります。

 例えば、私たちがいろいろな国のペットボトルのふたを集めて分析したところ、半分くらいの国のペットボトルのふたからノニルフェノールという化学物質が出てきました。日本のミネラルウォーターのボトルのふたからは検出されませんでしたが、炭酸飲料のふたからは検出されました。酸化防止剤として添加されたものが分解したと思われますが、ノニルフェノール類には、内分泌かく乱作用があります。臭素系難燃剤の1つ、ポリ臭素化ジフェニルエーテル(PBDE)も海に漂うプラスチックから検出されています。PBDEも内分泌かく乱作用をもつ物質です。
注:内分泌かく乱作用を持つ物質は、環境ホルモンとも呼ばれる。生体内に入った際にホルモンの作用をかく乱する物質のことを指す。1996年、シーア・コルボーン著『奪われし未来』の指摘がきっかけとなり、化学物質による野生生物や人の生殖機能への影響が疑われる多くの事例が取り上げられ、懸念を広げた。ノニルフェノールは、魚の雌雄同体、人の子宮内膜症との関係が疑われている。
 もう1つは、海に漂うプラスチックは、周辺の海水中から有害な化学物質を吸着する、吸い寄せるという性質があるのです。
 私たちが20年前に東京湾で実験を行い、2001年にアメリカの科学雑誌に発表した例があります。新品のPE製ペレットを東京湾沿岸に浮かべて経時的に採取したものを分析したところ、プラスチック中のPCB濃度が日を重ねるごとに上昇していました。

注:PCBは、人の健康を損なう恐れまたは動植物の生息・生育に支障を及ぼす恐れがある化学物質による環境汚染を防ぐための「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」(化審法)が1973年に制定された契機となった物質。環境中で分解されにくく、油に溶けやすく、地球全体に広範囲に移動・拡散し、人の健康や生態系に有害な物質を規制するための「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約、2004年5月発効)」により、製造・使用・輸出入が原則禁止されている物質の1つでもある。
■海を漂うプラスチックごみの危険性

海のプラスチックごみは、有害化学物質の「運び屋」。有害化学物質が生物の体に取り込まれ、蓄積されると影響は深刻。
 ――海に浮かぶプラスチックはどうしてPCBを吸着するのですか。

 プラスチックは、石油という一種の油から作られているので、PCBのように油になじみやすい汚染物質がプラスチックにどんどんくっついてくるのです。

 海を漂うプラスチックごみに有害な添加剤が残っていたり、周りの海水中から残留性有機汚染物質を吸着したりすることで、海のプラスチックごみは、汚染物質を運ぶ「運び屋」になっています。生物の体の中に有害化学物質を運び込んでいるともいえます。
 ――しかし、生物が体の中からプラスチックを排泄してしまえば、問題はないのでは? 

 生物の体の中で、プラスチック中の有害化学物質が体の組織に取り込まれ、蓄積されていくとすると、生物の体に悪影響を及ぼす恐れがあります。

 ――プラスチック中の有害化学物質が生物の体内の組織に取り込まれ、蓄積されたケースは、研究で明らかになっているのですか。

 私たちが続けているベーリング海のハシボソミズナギドリの調査では、プラスチックから化学物質が消化液に溶けだし、それが肝臓や脂肪にたまってくることがわかってきました。
 さらに私たちの最近の研究で、ハワイ、ガラパゴス諸島、マリオン島などの海鳥についてもプラスチック添加剤の体組織への移行・蓄積が確認され、環境化学討論会で発表しました。

■プラスチックの生物への影響

 また、魚が食べたプラスチックから体内の組織への化学物質の移行・蓄積が確認されたとの報告もあります。

 さらに、オーストラリアの研究者が今年6月に発表した論文は、プラスチックを摂食することが多いことが知られているアカアシミズナギドリについて調べた結果、プラスチックが健康に悪影響を及ぼしている可能性があることがわかりました。プラスチックを多く取り込んでいる鳥は、血中の中性脂肪が高く、血中のカルシウムが減っていたのです。
 血中のカルシウムが減ると、骨やくちばしが弱り、卵の殻が薄くなり、個体数の減少につながります。血中のコレステロール濃度が高いのは、万病のもとです。

 私たち人間の場合、血液検査でコレステロールが高いと言われたら、食べ物に気をつけるでしょう。それと同じで、鳥も血中のコレステロールが高ければ、食べ物に気をつける、つまり、食べ物にプラスチックが混じらないようにするべきなのです。

マイクロプラスチック問題が深刻なわけ
 ――プラスチックに化学物質が添加されていたとしても、溶出しないように設計されているので、安全という話を聞きます。

 確かに溶け出さないように設計されているので、プラスチック製品の中にとどまっています。ところが、さっきお話ししたように、海洋に漂う間に細かく砕かれ、マイクロプラスチックになれば、表面積が増えて、中に含まれる物質が溶け出しやすくなりますよね。プラスチックが生物の体内に取り込まれ、プラスチックに含まれる有害化学物質が生物の消化液の中で溶けだし、肝臓や脂肪組織などにたまる。食物連鎖を通して、結局人間の口に入るかもしれません。それがマイクロプラスチック問題だと私は思っています。
■マイクロプラスチック汚染で起こるカルシウム不足

 ――オーストラリアの研究者の研究で、プラスチックを摂取した海鳥の血中カルシウム濃度が減っていることがわかったとおっしゃいました。生物の健康への影響がすでに出ているということですか。

 血液検査で異常が出ているわけですから、健康への影響が顕在化しつつあると思います。アメリカのレイチェル・カーソンが1962年に世に出した『沈黙の春』で述べていたこととまさに同じことが起きてしまうことが心配されます。DDTにより、カルシウムの代謝がおかしくなり、アメリカの国鳥・ハクトウワシが減っているという、カーソンの「告発」がDDTの使用規制につながりました。その後、多くのワシ類の卵の殻が薄くなることはまれになってきました。
日本の陸地もプラごみの流出源、使い捨てプラの削減を
 ――サイエンス誌2015年2月号は、陸上から海洋に流出したプラスチックごみの発生量(2010年推計)の国別ランキングを掲載しました。1位中国、2位インドネシア、3位フィリピン、4位ベトナムとアジアの国が続き、日本は30位。ごみの収集・処理体制が整っている日本は、海にプラごみを流出させている訳ではない、体制が整っていない途上国を支援することでこの問題に貢献できる、という指摘を聞きます。
 日本は廃棄物の収集・処理やリサイクルが進んでいるので、海に出て行くプラごみは少ないと思われるかもしれないですね。しかし、そんなことはありません。東京の荒川河川敷の写真を見て下さい。2016年5月28日に私が撮影しました。見えるものの大半は、ペットボトルですよね。ペットボトルの回収率は大変高く、2015年で88.9%、回収されなかったのは11.1%でした。

 それでも年間のペットボトル消費量は225億本もあるので、未回収のものは年間25億本にのぼります。荒川で河岸清掃をしているボランティア団体が1年間に拾うペットボトルは4万本を超えると聞きました。リサイクル率が高くても100%でない限り、大量に使えば大量に排出され、環境を汚染してしまいます。海に流れ出れば、海流や風の流れに乗り、何千kmも運ばれます。
■プラスチックの消費をどうやって抑えるか

 ――私たちは、どうするべきなのでしょうか。

 まず、レジ袋、ペットボトル、コンビニの弁当箱、プラスチック製ストローなどの使い捨てプラスチックをなるべく減らしていくことを基本に据えるべきです。

 国連環境計画(UNEP)によると、容器包装に使われた使い捨てプラスチックの廃棄量をみると、日本は世界第2位。アメリカに次いで多い。

 レジ袋の有料化などの規制、マイボトル用の給水器の公共施設への設置、量り売りの促進、過剰包装の見直し、食品包装用のプラスチックのバイオプラスチックへの置き換えなど、業界、市民、行政が取り組める対策はたくさんあります。
 政府は「レジ袋」「ペットボトル」「ストロー」「使い捨て弁当箱」などの使い捨てプラスチックは環境負荷が高いので、使用を減らしていくべきであるという考え方や指針の表明を行うべきです。

 ――大阪でG20が出した「ブルーオーシャンビジョン」は、2050年までに海へのプラスチックの新たな流入をゼロにする、としていますが、不十分ですか。

 どうやってゼロにもって行くのか示しておらず、プラスチックの使用削減に踏み込んでいません。昨年カナダで開かれたG7が出した海洋プラスチック憲章では、日本とアメリカは不参加でしたが、「使い捨てプラスチックの削減が第一」と述べられています。大量消費はそのままで、大量リサイクル、大量焼却では持続性はないし、海への流入を減らすことはできても、温暖化が進んでしまうと思います。
河野 博子 :ジャーナリスト

最終更新:9月22日(日)5時50分

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