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「空白県」奈良にJR直通特急のニーズはあるか

9月20日(金)5時00分配信 東洋経済オンライン

特急が9年ぶりに運行されるJR奈良駅の駅前広場。最近は外国人観光客の姿も目立つ(記者撮影)
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特急が9年ぶりに運行されるJR奈良駅の駅前広場。最近は外国人観光客の姿も目立つ(記者撮影)
 「大和は国のまほろば たたなづく青垣 山ごもれる大和し 美し」――。奈良盆地を望む奈良県桜井市の井寺池のほとりに、川端康成の筆による歌碑が立つ。この歌は倭建命(やまとたけるのみこと)が故郷を思って詠んだとされる。「国のまほろば」とは国の中でいちばんよいところ、という意味だ。

■臨時特急「まほろば」復活

 JR西日本が8月、この「まほろば」を冠した臨時特急を11月から12月上旬にかけ、3連休と土日に1日1往復運行すると発表した。新大阪駅から奈良駅までをノンストップで走り、秋の行楽シーズンの観光需要を取り込む狙いだ。
 奈良県内は、大阪難波・京都方面とを結ぶ近鉄の有料特急が頻繁に行き交う一方、沖縄を除く都道府県の中で唯一、新幹線を含めてJRの特急が通らない「特急空白県」だ。現在、大阪からは大和路線経由、京都からは奈良線経由の快速がいちばん上位の種別になっている。

 JR西日本は2010年に同名の臨時特急を運転したことがあり、今回、9年ぶりに奈良県内を走るJRの特急が復活することになる。

 前回の臨時特急は2010年4~6月に開催した「奈良デスティネーションキャンペーン」に合わせて運行した。国鉄時代の特急形車両を使い、新大阪からは特急「はるか」「くろしお」のように梅田貨物線、大阪環状線経由で天王寺駅へ。ここから大和路線で奈良まで走るルートだった。途中、王寺と法隆寺の両駅に停車した。
 2010年は平城京への遷都から1300年に当たり、現在はすっかり人気者になった奈良県のマスコットキャラクター「せんとくん」は、この記念事業をPRする公式キャラとして生まれた。

 今年、臨時特急の9年ぶりの復活を後押ししたのが、3月16日のおおさか東線の全線開業だ。2008年に先行して開業していた放出(はなてん)―久宝寺間に加え、新大阪―放出がつながったことで、東海道・山陽新幹線が発着する新大阪から奈良までの直通ルートが完成した。
■乗り換えなしの利便性

 おおさか東線の全線開業まで、新大阪から奈良へ向かう場合は、大阪環状線の大阪駅まで1駅乗って大和路快速、または大阪難波や鶴橋まで移動して近鉄線、といった乗り換えの必要があった。

 ただ、現時点でも新大阪―奈良間の「直通快速」が1日上下各4本走るほかは、新大阪―久宝寺間での普通列車の運行が中心になっている。

 開業当日、記念式典を開催した奈良駅で、JR西日本の緒方文人副社長は「直通快速でますます便利になる」と期待を示す一方「利用状況をみたうえでダイヤの拡充は考えていきたい」と述べた。
 さらに、同社の来島達夫社長は翌月の記者会見で「新大阪から奈良までの直通の本数は限られているが利用はある。いずれ観光にふさわしい列車を当然考えなくてはいけない」との考えを示していた。

 今回の臨時特急は「くろしお」などで運用する「287系」を使った3両編成。1・2号車が指定席、3号車は自由席で定員は合計178席。通常期の指定席特急料金ならば1730円(消費税改定後)だが、新幹線との乗り継ぎ割引が適用されると860円となる。
 JR西日本が新大阪―奈良に特急を走らせることで需要の深掘りを図るのが、山陽新幹線に乗ってやってくる観光客だ。臨時特急は山陽新幹線との接続を意識したダイヤを組んだ。上りは新大阪10時3分発で、博多を7時頃出発する「のぞみ6号」や「さくら540号」(熊本6時1分発)から乗り換えられ、奈良には10時53分に到着する。

 特急の到着に合わせて奈良駅では自治体や観光協会などがPRイベントを開催。訪日外国人向けの観光案内ブースも設けられる。11月の3連休には「まほろば」車内での「おもてなし」も予定する。
■九州・山陽方面からの利用に期待

 臨時特急の運行を発表した8月22日の記者会見で、同社の森川国昭大阪支社長は「博多、広島、岡山といった九州・中国エリアからのお客さまにとっては午前中に奈良に到着ができる。乗り換えも新大阪での1度だけ。おおさか東線の乗り場は、新幹線のホームにも近い」とアピールした。

 そのうえで、定期列車化については「今回の臨時列車の運行の状況を十分に見て今後の課題として考えていきたい」との方針を示した。
 このところ山陽新幹線の利用者が増加していることは追い風だが、9年前の臨時特急は「6両編成で5割程度の利用だった」という。復活した「まほろば」の成否がおおさか東線の観光路線としての行方を占うことになる。

 JR西日本がPRに力を入れる「まほろば」はもう1つある。奈良から南へ、桜井を経て高田まで伸びる「万葉まほろば線」(桜井線)の活性化だ。この路線の愛称も、臨時特急と同じく2010年にデビューした。

 同線と和歌山線では従来、国鉄時代の通勤形電車「105系」が主力だったが、今春に新型車両「227系」が運行開始。9月末に28編成計56両の投入が完了する。
 奈良公園周辺には、東大寺の大仏や春日大社、約300年ぶりに中金堂が再建された興福寺などの見どころが集中しており、外国人観光客や修学旅行の学生たちが押し寄せている。一方、県中南部の万葉まほろば線沿いには、まだまだ潜在的な観光需要がありそうだ。

 同線沿線には日本最古の神社の1つで三輪山を「ご神体」とする大神(おおみわ)神社をはじめ、社寺や古墳が連なる古道「山の辺の道」があり、歴史好きに人気となっている。大神神社の占いで卸値が決められるという「三輪そうめん」は県を代表する名物だ。
■新型車両で利用促進

 森川大阪支社長は万葉まほろば線について「長期的に利用が減少傾向にあって今後も厳しくなることが見込まれているが、227系導入を機に鉄道の利用促進と地域活性化を図っていきたい」と力を込める。

 JR西日本は、おおさか東線の全線開業に続き、臨時特急「まほろば」や新型車両227系の運行を契機に奈良エリアの観光需要をテコ入れする考えだ。だが、現在、一大観光地で宿泊施設も多い京都や大阪市内から、追加料金がかかっても快適に移動したいというのであれば、近鉄特急を使うしかない。
 近鉄は大阪難波と京都から近鉄奈良への直通特急を走らせている。より座席が広い「デラックスシート」を備えた「伊勢志摩ライナー」や「アーバンライナー」、2階建ての「ビスタカー」の車両で運行する特急もある。しかも、JRの奈良駅に比べ、近鉄奈良駅は市中心部に近いというアドバンテージがある。

 こうした近鉄特急が圧倒的な優勢の状況で、JR西日本は1日1往復の臨時特急で挑もうとしているのか、と言えばそうではない。
 同社はおおさか東線の全線開業を記念し、今年3月16日から6月末まで奈良を舞台にしたキャンペーンを展開。世界文化遺産に登録された法隆寺、春日大社、興福寺、元興寺、東大寺の5社寺で特別企画を実施した。

 その一環で設定した「奈良満喫フリーきっぷ」(大人3200円)は、来年3月末まで販売している。ネットサービスの「エクスプレス予約」「スマートEX」「e5489」での予約などJR利用者に対象を限定したオプション商品で、奈良を中心として大阪・京都の決められた区間で普通列車が3日間乗り降り自由になる。兵庫県の尼崎や三重県の伊賀上野、和歌山県の橋本までもカバーする。
■JR券なのに近鉄乗り放題

 最も特徴的なのは、JRと奈良交通バスだけでなく、近鉄線も大阪難波や京都、吉野を含む広い範囲で乗り放題とした点だ。めったにない新線の開業記念とはいえ、ずいぶんと太っ腹な印象があるが、JR西日本のある担当者は「いまや競争ではなく、相互に連携しながらエリアを活性化させていく時代だ」と語る。

 森川大阪支社長は8月の記者会見で、奈良へのJR線の観光利用について「第一級の観光スポットがたくさんあるにもかかわらず活用できていなかった」と振り返った。JRのアクセス向上をきっかけに近鉄、バスをうまく組み合わせながら県内を周遊してもらえれば、各エリアのにぎわい創出や混雑の分散につながる。
 おおさか東線の全線開業で、新大阪から聖徳太子ゆかりの法隆寺がある斑鳩(いかるが)エリアへも直通快速1本で行けるようになった。一方、万葉まほろば線の桜井駅では、近鉄と乗り換えて長谷寺や橿原神宮、飛鳥などへ足を延ばすこともできる。

 聖徳太子没後1400年記念事業や大阪万博の開催など、これからも商機の多い奈良。交通事業者がうまく協調しながら周遊の利便性を高め、誘客拡大を図るためには「和をもって貴しとなす」の心がますます重要になってくると言えそうだ。
橋村 季真 :東洋経済 記者

最終更新:9月20日(金)15時17分

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