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「中小企業の改革」を進めないと国が滅びるワケ

9月20日(金)5時10分配信 東洋経済オンライン

「中小企業改革」とは、具体的に何を意味するのでしょうか(撮影:梅谷秀司)
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「中小企業改革」とは、具体的に何を意味するのでしょうか(撮影:梅谷秀司)
オックスフォード大学で日本学を専攻、ゴールドマン・サックスで日本経済の「伝説のアナリスト」として名をはせたデービッド・アトキンソン氏。
退職後も日本経済の研究を続け、日本を救う数々の提言を行ってきた彼が、ついにたどり着いた日本の生存戦略をまとめた『日本人の勝算』が刊行されて8カ月。生産性を高める具体的な方法を示した新著『国運の分岐点 中小企業改革で再び輝くか、中国の属国になるか』(講談社+α新書)が刊行された。
「中国の属国になる」とはどういうことか。それと「中小企業改革」はどのような関係があるのか。解説してもらった。
 9月21日、『国運の分岐点 中小企業改革で再び輝くか、中国の属国になるか』という本を世に出しました。

 おかげさまで、この本は発売前にもかからず非常に大きな反響がありました。まだこの本を読んでいない方たちには、サブタイトルの「中国の属国」という文言に対して「経済の話をしているのに論理が飛躍していないか」「幼稚な陰謀論だ」という印象を受けるかもしれません。
 そこで、本の内容を紹介させていただく前に、「中国の属国」という言葉に引っかかっている方たちに対して、なぜこのようなタイトルになったのかという真意を説明させていただきます。

■「日本が中国の属国になる」シナリオのリアリティー

 日本の人口動態を細かく分析していけば、生産性を高めるしかもはや道がなく、国も民間も真っ先に取り組まなくてはいけない最優先課題であるということは、これまで東洋経済オンラインの連載や著書、講演などでも繰り返し申し上げてきた通りです。
 この生産性向上を、過去に頓挫したさまざまな改革と同じく、「ほかにも方法があるはずだ」「生産性を急に上げることが現実的に難しい」「最低賃金を1000円に上げたら、企業の倒産は続出するぞ」などと先延ばしにすれば、日本社会に致命的なダメージをもたらし、後世に大きな負の遺産をもたらすのは間違いありません。そこで、今すぐに手をつけなくては手遅れになるという警告も含めて「国運の分岐点」としました。

 では、具体的に生産性を上げるにはどうすればいいか。わかりやすく言えば、「中小企業改革」です。今の日本の産業構造では、生産性向上はほぼ無理です。タブーとされてきた中小企業部門にメスを入れないと、どんなに技術とイノベーションで人口減少に対応ができると言っても、生産性は改善しません。
 その詳細については、この記事の後半で説明しますが、この中小企業改革は中小企業経営者からすれば、簡単に受け入れられるものではありません。現状にそれなりに満足をしている中小企業経営者からすれば、わが身を破滅に追い込むようなものであって、猛烈な反対が予想されます。

 しかし、先ほども申し上げたように、これを先延ばしにすればするほど、未来の日本の傷口が広く、深いものになってしまいます。これまでのように360万社ある中小企業を手厚く保護して、彼ら全員に元気になってもらおうという従来の優遇・猶予政策では、残念ながら日本全体は沈んでいくのです。
 そこで、ぜひとも日本の皆さんに、なぜ「中小企業改革」に取り組まないといけないのかを真剣に考えていただくため、もしこれに取り組まないとどのような最悪の未来が待っているのかということを考察した結果が、「中国の属国」なのです。

 もちろん、これは中国が日本に攻め入ってきて、支配されたり、主権を奪われたりという話ではありません。改革をしないままで人口減少して、国力がすっかりと落ちてしまった日本に、さまざまな形で中国経済が関与をしてくるという「経済的属国」です。
 その理屈は、次の通りです。社会保障負担がますます重くなる中、中小企業改革をしなければ、生産性は改善せず、国の財政がさらに悪化する。そのタイミングで、日本経済の特有なリスクである「首都直下型地震」か「南海トラフ地震」が起きたら、政府は復興のために海外に依存する必要があることを意味します。そのシナリオでは、中国に頼るシナリオが浮上します。

 中国は今や購買力調整で世界第1位のGDPを誇り、アフリカなどに「援助」の名目で経済的な支配力を強めているという事実もあります。このシナリオは論理の飛躍などと笑い飛ばせるものではなく、もはやいつ起きてもおかしくないかなり逼迫したものだということは、この連載の最後にしっかりとご説明させていただきます。
 生産性向上は痛みを伴います。大変な時代をもたらします。しかし、この最悪のシナリオを経済政策に結びつけているのは、決して机上の空論ではないことをご理解いただいたうえで、なぜ生産性向上の議論を命懸けで進めないといけないのかを痛感していただきたいからです。

■中小企業改革=中小企業の統廃合

 さて、タイトルの真意をご理解していただいたところで、今回は「中小企業改革」についてお話をしていきましょう。

 そのように聞くと、ほとんどの人が、日本のものづくりなどを支えている中小企業の強みをどうやって生かすのかという改善策、日本の中小企業がこれまで以上に元気になるためにはどうするか、というような方向性の話を想像することでしょう。しかし私が申し上げているのはそういう類の改革ではありません。
 人口減少という未曾有の危機に直面した日本が、この窮地を抜け出すためには、およそ360万社ある中小企業をどうすればいいのか。これまでよしとされてきた中小企業を中心とした産業構造がはたして今の日本に適しているのか。つまり、中小企業そのものを根底から変えるという「中小企業改革」なのです。

 簡単に言えば、中小企業改革とは、今の360万社弱ある中小企業を、200万社弱に統廃合することです。

 このような方向性の改革は、なぜか日本ではほとんど語られてきませんでした。「聖域」なのではないかと心配してしまうほど、中小企業そのものに苦言を呈する論調はないのです。
 事実、ネットで検索をしてみても、中小企業の働き改革や、中小企業の経営改革の記事は山ほどありますが、中小企業そのものを改革すべきというような記事はほとんど見当たらないのです。

 ただ、厳しいことを言わせていただくと、今の中小企業をすべて生かして、経営を改善する程度や、働き方を変える程度という、表面的な改革の議論をしているうちは、これから日本にやってくる危機を乗り切ることはできません。「中小企業改革」をすることなく、日本の明るい未来はやってこないのです。
 その中小企業改革の神髄は、中小企業の規模を大きくして、大企業と中堅企業を増やすことです。人口が減るので、それは結果として中小企業の数が減ることを意味します。

■なぜ中小企業の数を減らさなければならないか

 まず、企業の規模が大きくなればなるほど生産性が上がる、という経済の大原則があります。これは日本も例外ではなく、業種別・都道府県別の平均企業規模と、生産性は見事なほど一致しているのです。だから、生産性向上は企業の規模が拡大することを意味します。
 企業規模が大きくなれば分業ができますので、社員の専門性が上がって、一人ひとりが自分のスキルを最大限に発揮できるようになります。小さな企業よりも利益が集約されて、絶対額が大きくなりますので研究開発や人材開発などにも力を入れることができます。そして、中堅・大企業は体力があるので、生産性に大きく影響を及ぼす輸出をすることができます。

 日本の中小企業の中には大企業に負けない技術力を持っているとか、大企業の中にも生産性の悪い会社だってあるとか反論をする方もいらっしゃるかもしれませんが、それはあくまで個々の特殊ケースであって、国の経済全体を考えれば、カギが企業規模にあるのは疑いようのない事実なのです。
 中小企業だって頑張っている、技術レベルの高い労働者が犠牲となると言われますが、根拠がありません。合併をすれば、その労働者はより安定的な職場でより豊富な経営資源を活用して、中小企業で発揮できなかった自分の技術を最大限まで発揮できます。要するに、中小企業で働いていることによってスキルが高くなったという事実もなければ、中小企業で働かないといけないという事実もないのです。

 また、規模が大きくなれば社員の働き方にも余裕ができるので、有給休暇の取得率が上がります。当然、産休や育休の取得もハードルも下がりますので、女性活躍を促すことができます。
 要するに、政府が進める「働き方改革」というのは、企業の規模を大きくすることによって初めて可能となるものであって、それがなくしては、女性活躍や有給休暇に関する、どんなに厳しい規制をしても、どんなにPRをしてもそれほど効果はないということなのです。

 しかし、残念ながら日本では、経済学者、官僚、経営者という人々でさえ、ほとんど「企業規模」の重要性を理解していません。それをよく示しているのが、日本の製造業の生産性が高く、サービス業の生産性が低いことについての「俗説」です。
 この業種による生産性の「差」について、一般的には、「日本人はものづくりに向いているから製造業は生産性が高い」「日本のサービス業は損得を度外視した”おもてなしの文化”があるので生産性が低い」というような国民性をよくおっしゃいますが、これは何の科学的根拠もない思い込みです。むしろ、自分たちが理想とする国民性や文化をベースにした解釈という意味では「妄想」と言ってもいいかもしれません。

 では、そのような先入観を抜きに客観的、科学的に分析をすればどうなるのかというと、企業規模以外に答えは見つかりません。日本の製造業の企業規模は平均すると、サービス業の平均よりも2倍以上大きいのです。それだけです。国民性ではないのです。なぜ製造業は企業規模が大きく、サービス業は小さいのかということの理由は、次回詳しく検証します。
■「聖域」に踏み込むべき3つの理由

 さて、このような「企業規模」の重要性を訴えても、「聖域」である中小企業のこれまでのあり方を変えたくないという反発が予想されますので、日本が国として中小企業改革を断行しなくてはいけない、3つの本質的な理由を挙げておきましょう。

1. 社会保障の負担が増える一方なのに、それを担う生産年齢人口が42.5%も減少するから
2. 日本は他の生産性の高い先進国と比べて相対的に、小さな規模の企業が非常に多いから
3. 人口減少が進行して、生産性の低い企業の割合が自然に減っていかないから
 まず、1に関してはこれまでの著書や連載でもたびたびお話をしているので、詳しい説明は不要でしょう。負担が雪だるま式に増える社会保障の費用を捻出するためにも、GDPを縮小させてはいけません。そして、GDPというのは人口×生産性ですので、人口が減るならば、生産性を上げるしかありません。かけ算を習っていれば、小学生でもわかる簡単な理屈です。
 そして、生産性を上げるには企業規模を大きくするということが、最も確実で最も効果のある方法なのです。

 次の2に関しては、アメリカがわかりやすいでしょう。かの国の労働人口は49.8%が大企業で働いていて、20人未満の小規模事業者で働く労働人口は全体の11.1%にすぎません。つまり、企業規模の大きな会社で働く人の割合が多いので、生産性が高いという、経済の原則通りの現象が起きているのです。

 これに対して、日本はどうかというと、大企業で働く労働人口は全体の12.9%で、87.1%の労働人口が中小企業で働いています。また、20人未満は20.5%とアメリカの2倍近い水準なのです。
 これだけ小さい規模で働く人の割合が多いということは、どんなに大企業の生産性を上げても、その効果がほかの先進国に比べるとかなり小さく、限定的になるということです。それは裏を返せば、どんなに大企業が賃金を上げて生産性を高めたところで、問題の根幹である「中小企業」の生産性を上げないことには効果がないということなのです。

 最後の3は、世界一の技術大国だ、ものづくり大国だと言いながらも、なぜ日本からアップルやグーグルなど、ベンチャーから世界的大企業へ成長する会社が現れないのか、ということが大事な視点です。
 ベンチャー企業というのは、人口が増えている国で多く誕生します。世界的に見れば、新しい企業というのは、起業する時点の技術などをベースにしているので、その国の平均生産性よりも高い生産性を最初から実現していることが多いです。つまり、人口が増えれば増えるほど、産業構造の中で、生産性の高い企業の割合がどんどん増えて、生産性の低い企業による悪影響が希薄化されるのです。

 かつての日本のように人口が右肩上がりで増加している国というのは、国が上手な中小企業支援策を実施すれば、ソニーやホンダのようにベンチャーから成長を遂げた大企業が増えて、国全体の生産性も向上していくのです。
 しかし、残念ながらこれからの日本ではそのような好循環は期待できません。人口が減るので、新しい企業も減ります。生産性の低い企業による悪影響は、希薄化されるどころか顕在化していくのです。

 以上の3つの理由を突きつめれば、結局のところ、問題は日本に非常に小さな規模の企業、つまり中小企業が他の先進国よりもあまりに多すぎるということに集約します。日本経済を客観的に俯瞰すれば、中小企業が多いことで、産業構造が非効率となるなどさまざまな弊害をもたらしているのは明らかです。
■「中小企業神話」を打ち破れ

 ただ、中小企業改革に強固に反対するような人々は、日本が高度成長してから、世界第2位の経済大国にまで発展したことと、同時発生的に小さな規模の会社が増えたことをあたかも因果関係があるように、混同しているだけです。それが日本の中小企業神話の根源です。

 実はもともと日本は中小企業が多かったわけではありません。それがいつかをたどっていくと、日本の人口が右肩上がりで増えていた1964年というタイミングを境にして、中小企業の数が爆発的に増えているのです。
 ここから日本は世界でも有数の「中小企業大国」となって、産業構造がどんどん非効率になって、現在のような先進国でダントツに生産性の低い国となる道を歩み始めるのです。人口増加時代の下、その問題は表面化しなかっただけで、今となって、人口減少によって表面化しています。

 なぜ1964年に中小企業が爆発的に増えたのか。いったい何がこのあたりにあったのか。次回ではこの日本の命運を大きく変えた「1964年体制」というものがなぜつくられたのか検証することから始めていきましょう。
デービッド・アトキンソン :小西美術工藝社社長

最終更新:9月20日(金)5時10分

東洋経済オンライン

 

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