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「2050年日本の破局」を防ぐ持続可能シナリオ

9月20日(金)16時00分配信 東洋経済オンライン

人口減少問題をどう乗り切ってゆくべきか、「地方分散型」に焦点を当てて解説する(写真:Mochio/PIXTA)
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人口減少問題をどう乗り切ってゆくべきか、「地方分散型」に焦点を当てて解説する(写真:Mochio/PIXTA)
1000兆円を超える借金、格差の拡大、社会的孤立の進行。「人口減少」を続ける日本は、これらの問題にどのような処方箋を用意すべきか。そして、どうすれば生き残ることができるのか。
このたび、『人口減少社会のデザイン』を上梓した広井良典氏が、「2050年日本」の持続可能性を論じる。

■AIは未来予測に活用できるか

 近年、あらゆる場面で「AI(人工知能)」という言葉を見聞きするようになりました。

 AIによって人間の仕事ないし雇用の大半が取って代わられ大量の失業が生まれるといった話題も繰り返し論じられていますが、中にはAIの能力をいささか過大評価しているような議論も多く、「AIができること」については少し冷静な視点が必要と思われます。
 一方、AIの活用について、実はまだ十分に論じられていないのが、それを未来社会の構想や公共政策に活用していくという可能性です。

 『人口減少社会のデザイン』の冒頭において、本全体の議論の出発点となる未来シミュレーションとして示したのは、そうしたAI活用に関して私たちの研究グループが近年行ってきた試みです。

 研究の出発点にあったのは、「2050年、日本は持続可能か?」という大きな問いです。

 現在の日本は、財政赤字が拡大し、莫大な借金をこれから生まれてくる将来世代にツケ回ししています。またとくに90年代半ば以降、貧困世帯が増加し、格差が拡大し、とくに若い世代は雇用や生活が非常に不安定で、これが少子化そして人口減少の大きな背景の1つにもなっています。
 一方、国際比較調査を見ると、現在の日本社会は先進諸国の中でもっとも社会的孤立度が高い国になっており、家族や集団を超えたつながりが希薄な社会になっています。

 さらに、地方都市ではいわゆるシャッター通りが増え、街の空洞化が進み、高齢化が進む中で買い物にも困難をきたす層が600万人ないし700万人存在するといった調査結果も出されています。

 先ほど「2050年、日本は持続可能か?」と記しましたが、いま述べたような状況を踏まえれば、現在のような政策を続けていけば、未来の日本社会は「持続可能シナリオ」というよりもむしろ「破局シナリオ」に向かってしまうのではないか。
 こうした問題意識から出発し、それでは日本の未来が持続可能なものとなっていくには何が必要かを、AIを活用して探っていこうというのが私たちの研究の基本的な関心でした。

 具体的には、京都大学に2016年6月に設立された「日立京大ラボ」との共同作業として研究を進め、2017年9月に第1次の研究成果をまとめました。

 その内容は、財政赤字、少子化、環境破壊など約150の社会的要因からなる因果連関モデルを作り、2050年の日本社会が取りうる約2万通りのシナリオを分析し、日本が持続可能となるためにはどのような対応が必要かを明らかにするというものでした。
 出てきた結果は、未来の日本の持続可能性にとって「都市集中型」か「地方分散型」かという分岐が最も本質的であり、その分岐は今から6~8年後に生じる蓋然性が高く、かつ人口や地域、格差や健康、幸福といった観点からは「地方分散型」のほうが望ましいという内容でした。

 また、地方分散型シナリオへの分岐を実現するには、環境課税、再生可能エネルギーの活性化、地域公共交通機関の充実などの政策が有効であることも明らかになりました。さらに、地方分散型シナリオにいったん進んだ後も、それが十分に持続可能か否かの分岐が約15~18年後に生じる可能性が大きく、持続可能な方向に導くためにはさまざまな政策の継続的な実行が必要であることが示されました。
 こうした試みは他にあまり例がないものであったため、公表以降、政府関係機関や地方自治体、企業等から多くの問い合わせをいただき、例えば長野県庁や岡山県真庭市とは同様の研究を連携して進めています。こうした「AIを活用した社会構想と政策立案」に関する試みは、まだ試行錯誤の未開拓のものですが、今後も発展していくと思われます。

■「地方分散型」社会:若い世代のローカル志向

 ところで、先ほど日本社会の持続可能性にとって、「地方分散型」という方向が望ましいという結果が出たと言いましたが、現在の日本は一極集中が顕著であるため、そのイメージがつかみにくいという人が多いかもしれません。
 この点をもう少し具体的に明らかにするため、本書の中でくわしく論じている内容ですが、海外の事例や動向をここで少し見てみたいと思います。

 写真は、ドイツのエアランゲンという、人口約10万人の地方都市の中心部の様子です。印象的なこととして、ドイツのほとんどの都市がそうですが、中心部から自動車を完全に排除して歩行者だけの空間にし、人が「歩いて楽しむ」ことができ、しかもゆるやかなコミュニティ的つながりが感じられるような街になっているという点があります。ベビーカーを押す女性や車いすに乗った高齢者がごく自然に過ごしている様子がわかります。
 加えて、人口10万人という規模の都市でありながら、中心部が活気あるにぎわいを見せているというのが非常に印象的で、これはここエアランゲンに限らずドイツの中小都市に広く言えることです。残念ながら、日本での同様の規模の地方都市はいわゆるシャッター通りになり空洞化しているのがほとんどという状況です。

 一般に、ヨーロッパの都市においては1980年代前後から、都市の中心部において大胆に自動車交通を抑制し、歩行者が“歩いて楽しめる”空間をつくっていくという方向が顕著になり、現在では広く浸透しています。このような都市や地域のあり方が、先ほどの「地方分散型」の豊かさのイメージにつながると思います。
■「地方分散型」につながる若い世代の意識

 一方、AIシミュレーションが示した「地方分散型」という点に関してもう1つ重要なのは、人々の意識や行動、価値観に関することです。

 これは私にとって身近な話となりますが、ここ10年くらいの傾向として、ゼミの学生など若い世代を見ていて、「ローカル」なものや地域、地元といったことへの関心が確実に強まっていることを感じてきました。

 例えばある学生は、「自分の生まれ育った街を世界一住みやすい街にすること」をゼミでの研究テーマにしており、別の学生は地元の農業をもっと活性化させることを最大の関心事にしていました。また別の学生は「愛郷心」を卒論のテーマにし、それを軸にした地域コミュニティの再生を掘り下げていました。
 あるいは、もともとグローバルな問題に関心があり、1年間の予定でスウェーデンに留学していた女子の学生が、やはり自分は地元の活性化に関わっていきたいという理由で、留学期間を短縮して帰国したという例もあり、こうした事例は枚挙にいとまがありません。

 私はこうした若い世代の意識のあり方は、先ほどの「地方分散型」という方向とつながると同時に、これからの社会の1つの潮流を示していると思います。

 時代の大きな流れを振り返りますと、下の図に示されているように、明治の初め以降の日本は、急激に人口が増加し、経済の規模も大きくなっていきました。この人口増加の時代とは、ほかでもなく「すべてが東京に向かって流れる」時代であったと言えるでしょう。中央集権化がどんどん進んでいった時代とも言えます。
 それが、2000年代後半から日本は人口減少社会となり、これまでとは大きく異なる動きが進んでいくことになります。先ほど述べた若い世代の意識や行動は、こうした新たな時代の流れを先取りしているとも考えられます。

■「人口減少社会のデザイン」が令和時代の中心テーマ

 思えば、今年は元号が令和に代わった年でもあります。

 振り返れば、「昭和」の時代とは、人口や経済が「拡大・成長」を続け、また人々が“集団で1本の道を登る”時代だったと言えます。
 「平成」の時代は、その間に日本の総人口は増加から「減少」に転じ、かつ“失われた〇〇年”ということが語られ、さまざまな社会的変化が生じた時代でもありましたが、しかし経済社会の基調をなしたのは、明らかに昭和的な「拡大・成長」志向の発想ないし価値観でした。

 高度成長期の、ジャパン・アズ・ナンバーワンとまで言われた“成功体験”の残り香がそれだけ強固だったのです。

 このように考えていくと、令和という時代の中心テーマは、ほかでもなく「人口減少社会のデザイン」ではないでしょうか。
 そこでもっとも基本となるのは、昭和(~平成)的な「拡大・成長」志向そして“集団で1本の道を登る”発想から抜け出し、あるいはそこから自由になり、「持続可能性」や個人の創発性に軸足を置いた社会のあり方に転換していくことです。

 そうしたテーマについて、具体的な政策対応から、超長期のタイムスパンにわたる人類史的な視座あるいは原理的な考察までを包含する形で、私なりに論じたのが本書の内容となっています。

 現在の日本では、かなり大胆ないし異端と思われるような提言も記していますが、冒頭の「2050年、日本は持続可能か?」という問いに象徴される、日本の現状への強い危機感から『人口減少社会のデザイン』を書きました。読まれた方々からの忌憚のないご意見を期待しています。
広井 良典 :京都大学こころの未来研究センター教授

最終更新:9月20日(金)16時00分

東洋経済オンライン

 

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