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大流行「サブスク」ビジネス、トヨタがあえて「参入」した本当のワケ

9月20日(金)15時00分配信 マネー現代

サブスクの「真実」

写真:現代ビジネス
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(文 鈴木 貴博) 近年、月額定額制でサービスを楽しめるサブスクリプションというビジネスモデルのサービスが増えてきました。

 そもそもこの定額制のブームは、デジタルコンテンツの分野から広がりました。月額定額で雑誌が読み放題になるdマガジンや、アマゾンのMusic Unlimitedのように6500万曲以上の音楽を聴き放題といったサービスがそれです。

 このサブスクリプションサービス、ないしは略してサブスクなどといいますが、最近では飲食やファッション、自動車などリアルな商品の分野にも広がり始めています。しかし、その意味するところは何なのか、経済にどのような影響を与えるのかについては「真実」がきちんと語られていないような気がします。

 そこで今回はリアル分野のサブスクビジネスというのはどうなっているのか、本当に可能性はあるのかということについて見ていきたいと思います。

 飲食店で月額定額で食べ放題のサービスが話題になったのは、私の知っている限りでは2017年に月額8600円の定額サービスをはじめた『野郎ラーメン』が最初です。

 関東地方に15店舗を展開するチェーン店で、条件としては利用は一日一回まで。スタンダードメニューの豚骨ラーメンなら月に12回食べると元がとれるという内容です。

 他にも話題になったお店を挙げると、2018年に六本木のステーキ店『ザ・ステーキ』が高級なステーキの定額パスポートを発行した例があります。

 月額6万4800円で定価3700円のステーキを一ヶ月食べ放題。こちらは18日通うと元がとれ、一ヶ月31日なら4万9900円お得というものです。

損はしない

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 このふたつの会社のサービスは何度もメディアにとりあげられています。

 しかし注意すべきところはサブスクリプションモデル、つまり月額定額制を導入したといって取り上げられる飲食店はいつもこのふたつの例に集中していること。つまり同じサービスを追随する飲食店が少ないのです。

 やはり飲食店でサブスクというのは難しいのでしょうか? このふたつの例をみるとある共通点に気づきます。

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1 月額代金がそこそこ高く一ヶ月の半分くらい通わないと元がとれない
2 食べ放題ではなく一日一食分が定額になる
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 詳細を解説する前に、実はサブスクリプションとはいえないのですが、よく似たサービスで私が毎回利用するものがあるのでそちらを紹介しましょう。

 それは吉野家がはなまるうどんとコラボして年2回くらいのペースで発行する定期券です。

 この定期券を300円で購入すると一ヶ月ちょっとの期間中、吉野家のメニューは80円引き、はなまるはてんぷらが100円引きになるのです。

 吉野家ファンの私はこの定期券が発売されるたびに購入していて、仕事が経済評論家だということもありいつもその費用対効果を計算しているのですが、この定期券を買っている時期は約1ヶ月で平均して12回ぐらい吉野家とはなまるを利用していました。300円で買った定期券で1000円ぐらい得する計算です。

 これは実は野郎ラーメンと同じメカニズムのビジネスモデルだと私は分析しています。

 ファンの場合、一ヶ月で12回通いつめるというのは、実は努力をしなくても比較的達成可能なハードルです。

 でもお店のほうはどうなのかというと、じつはこのやり方ならば損をすることにはならないのです。

 というのも飲食店の原価率というのはだいたい30%程度なものですから、吉野家の場合は80円割り引いても原価割れにはならないわけです。

 野郎ラーメンも同じで一ヶ月通いつめても31食でそのうち12食分(39%)が定額制料金で回収できている段階で原価割れにはならないわけです。

 さらにこのサービスだと、大食いが目当ての人はやってこない。

 つまり大食いで元をとりたいような人はむしろ食べ放題・飲み放題のお店に行くわけなので、ターゲット層が違ってくる。月額定額のサブスクリプションモデルは、飲食の場合は基本的にファンが何度もやってくるサービスなのです。

飲食店サブスクの「致命的弱点」

 しかしこのサービス、経営として考えると致命的な弱点があります。

 というのは飲食でも物販でもビジネスというものはファンが一番お金を落としてくれるものなのです。

 ところがサブスクリプションにしてしまうとその部分の利益が定額になってしまう。これがあまり多くの飲食店がこのサブスクモデルに追随してこない理由です。

 ではなぜこれらのお店はサブスクに踏み込むのでしょうか。プラスアルファのメリットがあるからとすれば、その理由は広告宣伝でしょう。他にやってくるお店が少ないので、サブスクを導入しているとそのことがお店の宣伝になるわけです。

 吉野家でも定期的に期間を限定して定期券を発売することで話題を生み出すわけです。ここにデジタルコンテンツではない商品・サービスのサブスクビジネスモデルのポイントがあって、単純な月額定額だけではビジネスモデルが成立しない、だからそれに加えて広告宣伝効果のようなプラスになるものを考えないとうまくいかないというハードルがあるわけです。

サブスク「だけ」では儲からない

 実は月額定額のサブスクリプションモデルをうたうサービスの中には、実質的にリースと同じ、ないしはレンタルと同じというケースも多々あります。

 事務所に絵画を月額定額で飾るサービスとか、ブランドバッグを月額料金でとっかえひっかえできるサービスがこのモデルになります。

 いつも同じバッグだと嫌だとか、毎月同じ絵画だと新鮮味がないという方が、レンタル的な料金でこういったサービスを利用する。提供する側も年間を通じて使ってくれる固定客なので一週間レンタルよりは低い金額で商品を提供できるというものです。

 ただこのような単純なリースやレンタルだけだと儲かりにくいわけで、サブスクを導入するこれらの会社の中には、広告宣伝効果以外にも何らかの付加価値を加えるビジネスモデルが登場してきています。

 たとえばファッションのジャンルで、専門家が毎月コーディネートを提案して洋服を送ってくれるコンサルタント的な付加価値や、ワイシャツを一週間分アイロンがけして送ってくれるクリーニングの付加価値のついたサブスクサービスがこの考え方です。

 飲食店の場合は、会員が他のお客さんを連れてきてくれるというところに期待をするビジネスモデルもあります。

 月額定額で飲み放題の定期券を発行する居酒屋の場合、おひとりさまで飲みにくる使い方以外に、その人が仲間と飲むときにもなるべくそのチェーンを使いたくなるという行動に期待するわけです。

 さて、このように飲食やファッションなどの世界でのサブスクモデルは、原価を割り込まないように工夫をしながら、ただの販売の付加価値だけではない別の収益源になる何かを加えて成立するところにビジネスモデルとしてのポイントがあるわけです。しかしここでもうひとつ、背景に業界の大きな転機があるサブスクモデルを紹介したいと思います。

 それがトヨタのサブスクサービスのKINTOです。

トヨタが「サブスク」を始めたワケ

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 トヨタでは3年間、1台の車に月額4万2660からの料金で乗れるKINTO ONEと、3年間で6種類のレクサスに乗り換えられる月額19万4400円からのKINTO SELECTというサービスを始めました。

 なぜトヨタが月額制のサービスを提供するのでしょうか。

 実はヨーロッパの自動車業界ではこのような乗用車のサブスクサービスが先行して始まっています。私が観察していた限りでいえば、まずドイツ車メーカーが最初にこのようなサービスを本格的に試行しはじめたように思います。そしてその背景には世界の自動車業界がある転換点に来ているという共通の事情があるようです。

 なぜ乗用車でサブスクサービスが始まるのでしょうか。そこには「これからの数年間で乗用車はその性能が大きく変わってしまう」という要因があります。

 実は私もこの春、これまでの車を新車に買い替えました。新しい車が到着してみると実感するのですが、最近の車は以前にはない安全性能が満載されています。自動ブレーキや周囲を見回す内臓カメラはもちろんのこと、先行車に追随して半自動運転をするオートクルーズといったドライブアシスト機能が搭載されています。

 実はこの新しい装備はこれからの5年間で、最終的に完全自動運転が実現するところまで発展することになります。それ自体は非常に便利でいいことなのですが、消費者にとって困ることはその進化によって中古車の価値が大きく下がるリスクがあることです。

 覚えていらっしゃる方も多いかもしれませんが、1990年代からゼロ年代初期にかけてのパソコンがまさにこういう時代で、パソコンの性能が半年単位でものすごく大きく向上していく結果、古いパソコンの価格や価値はどんどん下落していきました。性能向上のスピードが速いということは、商品の陳腐化のスピードも速いということなのです。

 それと同じことがこれからの乗用車の世界にもおきるリスクがあります。

不利益を乗り越えて

 中古車のマーケットでも今はまだそのような現象は起きていないかもしれませんが、そのうち自動ブレーキやオートパイロットのない車が不良在庫になってしまい、仕入れたときのような価格では売れなくなってくるかもしれません。

 さらにいえば時代の最先端でもあるレベル3の自動運転機能をもった車、つまり高速道路で手放しをしても自動運転してくれる最高機能の車を購入した人の場合でも、これが5年後、下取りに出そうとしたところ、その時代にはレベル5の完全自動運転車が主流になっていますから、少なくとも富裕層はレベル3の自動運転車などには見向きもしなくなるかもしれません。

 これは自動車メーカー、消費者双方にとって不利益です。

 そしてこのリスクを解消するひとつの方法として自動車を購入するのではなくサブスクリプションで提供するという選択肢が登場した。そのように時代の流れをとらえることができるのです。

 トヨタのサブスクがまずはレクサスの市場で始まったというのは、きわめて象徴的な入り方です。この意味に富裕層が気づくかどうか、そしてそのことにより乗用車のサブスクが主流になるのかならないのか。私はサブスクの新しいビジネス適用の可能性に注目しています。
鈴木 貴博

最終更新:9月20日(金)15時00分

マネー現代

 

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