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「弱腰アメリカ」笑うサウジ攻撃の本当の黒幕

9月18日(水)14時00分配信 東洋経済オンライン

ドローンによる攻撃を受け、燃え上がるサウジアラビアにある石油処理施設(写真:ロイター)
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ドローンによる攻撃を受け、燃え上がるサウジアラビアにある石油処理施設(写真:ロイター)
 14日未明に起きたサウジアラビア東部にある石油施設への攻撃では、サウジの日量生産能力の約半分が一時的に失われ、原油相場が高騰して日本の市民生活への影響も予想される事態となった。

 隣国イエメンのイスラム教シーア派系フーシ派が、ドローン(無人機)10機による攻撃だと犯行を認めたが、この主張を額面通りに受け取る専門家はほぼ皆無だ。フーシ派を支援するイランが深く関与しているとの見方が強い。

 イランは、サウジが介入するイエメン紛争を隠れ蓑に、原油相場を容易に高騰させる能力を誇示。イラン核合意をめぐるアメリカとの駆け引きを有利に進める狙いがありそうだ。
■フーシ派の主張と整合性取れない

 アメリカによるイランへの「最大限の圧力」により、イランの7月の原油輸出量は日量約10万バレルと、2018年のピーク時の約20分の1にまで激減。もはや失うものがないところまで経済的に追い詰められたイランは、通常戦力が大幅に異なる主体間の「非対称戦争」に持ち込み、アメリカの圧力緩和を引き出そうとしている。サウジの原油生産の中枢に打撃を加えることで、世界経済も「人質」に取れる攻撃能力を示しており、イラン側もアメリカに非対称戦争で最大限の圧力をかけた格好だ。
 アメリカ政府が公開した衛星写真によると、アブカイクで17カ所、クライスで2カ所の計19カ所が攻撃を受けており、フーシ派が主張する10機のドローンによる攻撃という主張とは整合性が取れない。小型の弾頭を搭載した自爆型ドローンとみられているためだ。

 また、フーシ派による従来のドローン攻撃と比較して、航続距離や精度が格段に向上しているほか、複数の標的をほぼ同時に狙うという手口は、外部勢力の関与がなければ実行できない複雑な作戦と言える。17日記者会見したサウジのアブドルアジズ・エネルギー相によると、備蓄の放出で全体の供給量は回復したものの、攻撃前の水準まで産油量を回復させるのには9月末までかかるという。
 フーシ派はイエメン紛争に介入して空爆を繰り返すサウジに反発し、5月にサウジの首都リヤド西方の石油パイプライン2カ所をドローンで攻撃して操業停止に追い込んだり、弾道ミサイルをリヤドに撃ち込んだりしてきた。さらなる攻撃を予告しており、今回の攻撃も一連の軍事行動に沿ったものとも言える。

 7月には、サウジ主導の連合軍の中軸を形成してきたアラブ首長国連邦(UAE)がイエメン駐留部隊の縮小を表明。フーシ派は、サウジへの攻撃を激化させ、軍事介入の停止を誘おうとしている。
■フーシ派を積極的に支援するイラン

 戦略国際問題研究所(CSIS)アンソニー・コーズマン上級研究員は、フーシ派は航続距離が最大で1500キロ、全地球測位システム(GPS)を使った精度の高い飛行が可能なドローンを獲得していることが知られていると指摘。クライスで約800キロ、アブカイクで1000キロ超の飛行は可能であり、フーシ派による犯行の可能性は排除されないとの見方を示す。

 ただ、「ほぼ同時に遠方の複数の標的を攻撃するという複雑な作戦を遂行する能力があるかは疑わしい。イランの支援なしにフーシ派が実行できたかどうかは極めて疑問だ」と分析する。
 さらに、アブカイクの石油施設攻撃では、石油生産に重要な工程を担う施設が標的となっており、石油産業にも十分な知識を持った勢力が犯行に関与しているのは間違いない。イエメンも産油国だが、やはり石油関連の人材豊富なイランの関与を疑う材料になっている。極めて燃焼性の高い施設がピンポイントで攻撃され、原油相場への打撃が大きくなった。

 イエメン紛争に介入するサウジ主導の連合軍は16日、石油施設攻撃に使用されたドローンがイラン製だったと発表。フーシ派がイランから武器を供与されたり、技術移転を受けてきたことは既成事実だ。焦点は、ドローンがどこから飛来してきたかだ。
 イエメンから出撃したとのフーシ派の主張に疑問が投げ掛けられる中、サウジの石油施設の打撃が北西方面であることを根拠に、アメリカ側には、イラクやイランが出撃地点だったとの主張もある。イランの明確な関与を立証できれば、非対称戦争という相手の土俵ではなく、同盟国による攻撃を理由に、アメリカは通常戦力による報復も可能となる。

 だが、ドローンが旋回して出撃地点をあざむくのは簡単なことだろう。アメリカのポンペオ国務長官とイラクのアブドルマハディ首相が15日に電話会談し、「イラクから実行されてはいないことが、アメリカの提供した情報で確認された」とイラク首相府が発表した。一方、クウェート上空で無人機の目撃情報もある。
 アメリカのCNNテレビは、アメリカとサウジの捜査当局がイラク国境に近いイランの基地からドローンや巡行ミサイルが発射された可能性が極めて高いと結論付けたと伝えた。

 イランはこれまで、フーシ派という“代理人”の使用や、犯行に対する否認性といった非対称戦争の教科書が教える見本のような戦術を展開し、アメリカを翻弄してきた。度重なるタンカーへの攻撃でアメリカ軍はペルシャ湾で警戒態勢にあるほか、アブカイク東方のバーレーンには、アメリカの第5艦隊が司令部を置き、カタールにもアメリカのアルウデイド空軍基地がある。
 ペルシャ湾のみならず、イラク上空を経由してサウジにドローンを飛ばす場合も、駐留アメリカ軍に探知される恐れがあり、イランにとってリスクが大きい。CNNの報道が事実とすれば、イランによる非対称戦争が新たな段階に入ったことを意味し、イランの行動が一段と先鋭化してきたと言えよう。

■トランプ大統領の弱腰見透かす

 非対称戦争において、犯行主体や攻撃の詳細が判明することは少ない。安倍晋三首相がイラン訪問中の6月に起きた日本のタンカーに対する攻撃も、犯行主体は今もって特定されていない。
 言えるのは、世界最強の軍隊を中東地域に展開するアメリカに対して、イランはすでに非対称戦争で迎え撃っているという事実である。一連のタンカー攻撃にイランが関与したかどうかは別にして、攻撃により、イランが警告するようなホルムズ海峡の封鎖が現実的な脅威となった。

 また、サウジの石油施設への攻撃は、アメリカのミサイル防衛網の導入など数兆円の軍事費を1年間で費やすサウジの軍事装備をもってしても、1機1万~2万ドルとされる安価なドローン攻撃を防げず、世界経済を左右する原油相場を人質に取ることが容易であることが浮き彫りになった。
 アメリカの軍事専門家は、「アメリカもレーザーなどを使った無人機迎撃システムをようやく発表している段階にあり、ドローン攻撃から石油施設を守る技術は存在しない」と話す。中東の石油業界関係者は、「サウジ石油施設への攻撃で無人機の脅威の大きさが示された形であり、原油相場はリスクとして織り込んでいくだろう。原油相場が高止まりしかねない」と指摘する。

 イランとしては、影で暗躍することでアメリカやサウジとの直接対決は避けながらも、アメリカをじわじわと追い詰める戦略だ。トランプ大統領は、ホルムズ海峡で7月にアメリカの無人機が撃墜された事件で、直前に対イラン攻撃を撤回した。今回も「臨戦態勢」としながらも、「戦争は望んでいない」と表明しており、イランはトランプ大統領の弱腰姿勢を見逃さないだろう。
 世界最強の軍事力を誇るアメリカでも、イランとの非対称戦争に本格的に突入すれば、米兵の犠牲は避けられない。2020年11月に大統領選挙を控えたトランプ氏がイランとの軍事対決に踏み込みにくい手詰まり感を見透かし、イランは圧力を徐々に強めている。

 9月の国連総会に合わせて、トランプ大統領はイランのロウハニ大統領との会談を模索する中、9月10日、対イラン強硬派のジョン・ボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)を解任したとツイッターで発表した。
■今後想定される「攻撃」

 緊張緩和の可能性が一転して出てきた中でのサウジへの攻撃は、イランの保守強硬派で精鋭部隊の革命防衛隊が主導しているのは間違いない。革命防衛隊は、イエメンやレバノン、シリア、イラクなどの武装勢力を支援するが、アメリカとの対話が始まれば、こうした活動に焦点が集まることになる。

 ただ、今回のサウジ攻撃は「規模や標的の重要性から考えてイラン指導部の許可なしには実行できない」(イラン人ジャーナリスト)との見方がある。イランの現在の戦略は奏功しており、現時点ではアメリカとの対話に乗り出す必要はなく、非対称戦争による脅威を引き続き高めてくる可能性が高いだろう。
 実際、イランの最高指導者ハメネイ師は17日、「(アメリカとの交渉に応じれば)要求を押し付けられ、アメリカによる最大限の圧力を成功させてしまう」として、会談を拒否する考えを示している。イランは、アメリカやその同盟国が耐えきれないまでに、非対称戦争による世界経済への影響を拡大させ、アメリカをイラン核合意に引き戻したい考えだ。

 今後想定されるのは、サウジ石油施設への継続した攻撃や、 サウジの発電所、淡水化施設など市民生活に直結するインフラを標的にした攻撃だろう。フーシ派を代理人として攻撃を仕掛け、ムハンマド皇太子の強権支配が続くサウジの国民の不満を高め、体制の動揺を誘うことは、原油供給の安定を損なうことにもつながる。
 トランプ氏は、大統領選に向け交渉巧者としてイランとの対話を実現し、有権者にアピールしたいのが本音だ。だが、イランの振る舞いによっては軍事行動を取らざるをえない状況に追い込まれかねない。アメリカ側の情報では、イランによる攻撃との見方が強まっており、トランプ大統領は革命防衛隊の基地など、大規模な軍事衝突に発展しない程度のイランへの限定的な攻撃を命じる可能性もある。アメリカとイランの双方が譲歩を狙う危険な駆け引きは、なお続きそうだ。
池滝 和秀 :中東ジャーナリスト、中東料理研究家

最終更新:9月18日(水)14時00分

東洋経済オンライン

 

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