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日露交渉「進展」は日本にデメリットでしかない

9月16日(月)6時00分配信 東洋経済オンライン

北方領土問題に関して、メディアはプーチン大統領や安倍首相を批判するが、なぜ「2島返還まで要求を下げた」ことが注目を浴びないのか?(写真:ロイター/アフロ)
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北方領土問題に関して、メディアはプーチン大統領や安倍首相を批判するが、なぜ「2島返還まで要求を下げた」ことが注目を浴びないのか?(写真:ロイター/アフロ)
 9月5日にロシアのウラジオストクで開かれた「東方経済フォーラム」で、安倍首相がプーチン大統領による27回目の首脳会談が行われた。予測どおり、北方領土問題については進展がなかった。

 これに対して日本のメディアは一斉に「領土交渉に進展がなかった」ことを強調して報道した。また日本のコメンテーターも進展がなかったことの理由について考察したり、プーチン大統領や安倍首相を批判したりした。

■誰にとっての「進展」「成果」「合意」か
 しかし、私はこのような言論のあり方に強い違和感を持っている。メディアも評論家たちも「領土交渉に進展がなかった」ことを一斉に批判するが、今の交渉における「進展」は、本当に日本にとってよいものだろうか。私はニュースを見るとき「領土交渉に進展なし」という見出しを見かけると安心する。

 なぜか。それは、今の交渉のやり方では、「進展」とは日本の一方的な大幅な譲歩という形でしかありえないからだ。ロシアは自分の意思で日本に領土を返還する気はまったくない。だから「進展」つまり、両国が統一の見解に近づいた状態というのは、日本は主張を下げて、譲歩したという意味なのである。今の交渉のやり方でロシアが譲歩するわけがない。
 日本の言論空間では「進展」や「成果」そして「合意」などの言葉は絶対善となってしまい、それが日本にとって悪いことかもしれないという可能性については、誰も言及しない。しかし、実際に重要なのは、進展や成果、合意そのものではなく、その内容である。

 つまり、その結果として日本はよくなるのか、ならないのか。またはその結果日本にとって利益があるのかないのか。キレイな言葉に惑わされてはいけない。言い換えると、重要なのは「形」ではなく、「中身」なのだ。
 さらに一部の言論人から「日本側は大幅譲歩して、事実上4島返還要求から2島返還要求まで主張を下げたのに、それでも交渉は進展しない。もはやロシアはまじめにこの問題を解決する気がない。日本政府もいったん交渉から引いて出直したほうがいい」といった主張を聞くことがある。これも非常に奇妙な議論である。

 ロシアを批判するのはいいのだが、ちょっと待って、「日本は2島返還まで要求を下げたのにロシアが……」という言い方に違和感を抱かないのか?  ロシアの行動はもともと論外(何せよ、74年間北方領土を不法占領し続けている無法国家なのだから)。それなのに、なぜ「2島返還まで要求を下げた」ことが注目を浴びないのか?  日本政府は、戦後最大の国益を損なう行為をしようとしていることに、誰も気づいていないのか? 
■2島返還論は最悪な売国政策

 2島返還論とは、最悪の売国政策なのだ。2島返還とは、言い換えるとほかの2島、つまり北方4島全面積の93%を占める国後島と択捉島をロシアに割譲するということを意味している。仮に「2島返還で平和条約」ということが合意されれば、それは国際的に領土問題が解決したことを意味する。

 一部の人は、とりあえず2島を返還してもらって、残りの2島について引き続き協議すればいいと提案しているが、これは非現実的だ。領土が返還された後、平和条約を結ばれたら、それは両国間の領土問題が解決し、両国はお互いの新国境を認めたことを意味する。
 その後日本が残りの2島を返還するよう求めることは、国際的に通用しない。この場合は、日本の要求が不当ということになる。国際法上、北方4島は日本領土である今の状況があるからこそ、日本は4島返還を求めることができ、日本の要求は正当である。平和条約を結べば、この状況が変わる。

 唯一の例外は、例えば平和条約の条文に「残りの2島の領土帰属については引き続き協議する」という文を入れることで(それでも今より格段に不利になるのだが)、この場合はまだ議論の余地がある。
 しかし、このような条文をロシアが平和条約に書かせるわけがない。ロシアは平和条約の条文を自分に有利なものにするだろう。だから2島返還で平和条約が結ばれた時点で、日本は事実上、残りの2島(北方領土全面積の93%)のロシアへの帰属を認めることになるのだ。

 日本にとってこれは望ましいわけがない。北方4島は正当な日本の領土であり、他国に不法占領されているというだけの理由でこれらを占領者に割譲することはおかしい。完全な売国行為と言わざるをえない。
 それに、日本は領土を放棄してまで、ロシアとの領土問題を「今すぐ」解決する必要はない。領土問題は未解決のままという状態は今の日本にとってどの面(政治、経済、安全保障など)を見ても、何の不利益もない。だから領土を放棄してまで、「解決」する必要はないし、してはいけない。

■中露関係は何があっても崩せない

 一部の、安倍政権の対露外交を擁護する人たちは、安倍政権の対露政策を弁明するために中国を持ち出す。つまり彼らによると、「日本は中露を同時に敵に回せないから、形だけでもロシアと仲良くする必要がある」。
 では、日本がロシアに対して領土を割譲し、無償で技術を提供し、経済支援をしたとしよう。これでロシアの対日認識は変わるのか。変わるわけがない。この場合、ロシアは日本を「いいカモ」としか思わない。では、何らかの形で日中対立が起きたときに、ロシアは中立を保つのか。保つ可能性は極めてゼロに近い。

 なぜなら中国とロシアは非常に深い関係にあり、この関係は日本がロシアを支援しても変わらない。今の中露は事実上、日米同盟以上の深い関係にあるのだ。この関係は日本の支援だけで揺るがない。だから日中が対立した場合、ロシアが中立を保つか、中国側に参戦するかの判断材料は1つだけ、それは中国政府の意向のみである。
 つまり、中国はロシアに参戦を要請したら参戦するし、中立を保つよう指示したら中立を保つのだ。この場合、それまで日本がどれほどロシアを支援してきたのかはいっさい考慮されない。中国と対立した際、ロシアを中立にさせる術を日本は持っていないので、安倍政権の対露外交は中国の抑止にはまったく役に立たない。

 こうした理由から、今の日本メディアにおける、北方領土問題、日露交渉に関する報道(肯定的なモノだけでなく、批判的な報道も含めて)は完全に的が外れている。
 批判するのであれば、次のような問題提起があるのではないか。「安倍首相はなぜ領土を放棄してまで、平和条約を結ぼうとするのか」「なぜ領土返還という言葉を使わなくなったのか」「ロシアに配慮したら、ロシアが折れるとでも思うのか」「平和条約を結んだところで日本にメリットがないのに、なぜ条約締結にこだわるのか」「領土問題をなぜ自分の代で終わらせると宣言し、自分の手で日本の立場を弱くしようとするのか」――。

 こうした批判であれば、国民の北方領問題に対する認識はもう少し正常化したかもしれない。
■「国益に反した行為」を批判せよ

 安倍政権の対露外交は、完全に根本的なところから間違っている。これ自体大問題である。しかし、これに関する日本メディアの報道もまた、大きな問題なのだ。根本的な間違いを指摘せずに、間違った方針を容認したうえで、表面的で何の意味もない批判、間違った政府の方針の是正にまったくつながらない批判しかしていない。

 この程度の批判しかしないメディアは「第4権力」としての役割を果たしていると言えるのだろうか。政府が外交において譲歩する際、それを厳しく追及して、「この譲歩は本当に妥当なのか」「この譲歩は最終的に日本のためになるのか」ということははっきりさせなければならない。
 そして、もし政府による譲歩は長期的に日本の国益に反しているのであれば、それを厳しく批判し、政府は国益に反した行為をするという事実を伝えなければならないのだ。

 メディアの中でも、とくにおかしいと感じるのは普段から安倍政権を批判するメディアである。完全に間違っている対露外交に関する報道こそが反安倍政権メディアの腕の見せどころのはずだ。例えば筆者は、特定秘密保護法や集団的自衛権行使、安保法制、テロ等準備罪などは日本にとって必要な法律や決定だと考えているが、反政権メディアはこうした正しい決定は批判するのに対し、間違っている政策についてはまったく批判していない。
 日本にとってメディア報道の“正常化”はこれから大きな課題となるだろう。
グレンコ・アンドリー :国際政治学者、日本研究者

最終更新:9月16日(月)6時00分

東洋経済オンライン

 

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