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「1台1億円」乗り鉄も興奮する鉄道の大きな魅力

9月16日(月)6時30分配信 東洋経済オンライン

立山トンネルトロリーバス「バックヤードツアー」について紹介する立山黒部貫光株式会社の早川忍さん(記者撮影)
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立山トンネルトロリーバス「バックヤードツアー」について紹介する立山黒部貫光株式会社の早川忍さん(記者撮影)
富山・長野両県を結ぶ「立山黒部アルペンルート」は、さまざまな乗り物で移動しながら北アルプスの風景を楽しむことができる国内屈指の山岳観光地である。
「乗り鉄」の知人に聞くと、「乗り換えの連続に胸躍る。まるで回転寿司店か遊園地にいるみたい」とのこと。そこで「バスや電車をもっと間近で見たい」という声に応えて今秋、「バックヤードツアー」がスタートした。普段立ち入ることのできない整備工場や指令室を現地スタッフの案内でめぐるツアーの魅力とは? 
 立山黒部アルペンルートとは?  標高3000メートル級の北アルプスを臨み、ルートの総延長は37.2キロ、最大高低差は1975メートルである。ほぼ全区間が中部山岳国立公園内にあり、立山黒部の雄大な大自然を満喫できる。

 富山県の立山駅から東へ30.5キロメートル、長野県側の大町市扇沢駅から西へ6.1キロメートル離れた位置に黒部ダムがあり、同ダムを造るために北アルプスを貫いて築いた道を、昭和40年代に整備したのが立山黒部アルペンルートである。立山駅から扇沢駅まで、立山ケーブルカー・立山高原バス・立山トンネルトロリーバス・立山ロープウェイ・黒部ケーブルカー、関電トンネル電気バスを乗り継いで移動する。
 ちなみに同ルートの主要運輸会社である「立山黒部貫光」の社名は、「観光」ではなくあえて「貫光」とされた。「日本国土の中央に横たわる中部山岳立山連峰の大障壁を貫いて、富山県と長野県とを結ぶ」という創業者の思いを社名に託したそうである。

■「バス」のようで実は「鉄道」

 このたび、立山トンネルトロリーバスのバックヤードツアーに参加した。このバスは立山トンネル内を軌道とし、室堂駅(標高2450メートル)と大観峰駅(同2316メートル)の3.7キロを約10分で走る。同トンネルの開通は1971年で、1995年まではディーゼルエンジンバスが運行されていた。しかし、排気ガスによる自然への悪影響を避けるため、1996年にトロリーバスへと切り替えた。
 トロリーバスは一見、バスのように見えるが法令上、鉄道の扱いとなる。鉄道事業法では「レール(軌条)がない電車」という意味で、「無軌条電車」と呼ばれる。架線から電気を得ながら走るバス、つまりレールのない路面電車のような乗り物なのである。「乗り鉄」ならずとも、「どんな仕組みで走っているのか?」と興味が湧いた。

 トロリーバスはかつて、全国で運行されていた。しかし国内では現在、立山トンネルでしか走っていない。立山黒部アルペンルートの関電トンネル内を走っていた関電トンネルトロリーバスが2018年11月末で、電気バスに更新されたためである。
 立山トンネルトロリーバスの発着地である室堂駅は、日本一高い場所にある駅でもある。そこで立山黒部貫光は「立山トンネルトロリーバスに乗れば、日本一を2つ味わうことができる」と同バスの存在価値をアピールしている。

 これらトロリーバスと、立山黒部アルペンルートの歴史を踏まえてバックヤードツアーに参加した。案内役は、立山黒部貫光株式会社運輸事業部運輸課室堂運輸区区長代理の早川忍さん(46)。まず、切符売り場横にある運転指令室へ。軌道内の要所の映像がモニターで表示され、信号監視制御盤では8台のバスの動きがひと目でわかった。
■目を奪われる重厚な動力装置

 続いて、バスの乗降場を通って整備工場を見学した。車体は全長約11メートル、高さ約3.3メートル、幅約2.5メートル。座席の下にはバッテリーなどさまざまな機器が装備されており、早川さんは車体側面の扉を次々と開いて、機器の名称とそれぞれの役割を解説した。なかでも目を引いたのは車体後部のVVVFインバータ装置である。600ボルトの直流電源を交流電力に変換する。大がかりな装置に目を奪われた。
 車体を下からも眺めてみた。整備工場の床面には深い溝が掘ってあり、ここに潜るとバスの心臓部であるモーターを見ることができる。うっかり腰を上げると頭を打つため、ヘルメットを着用。低い姿勢で、そろりそろりと歩きながらの見学となった。

 車体の下にはびっしりとさまざまな動力装置が取り付けてある。しゃがんで顔を上に向ける苦しい体勢にもかかわらず、金属の重厚感や複雑な構造に、思わず見入ってしまった。

 早川さんによると、トロリーバスは1台、1億円するという。内訳は本体が6000万円で、備品が4000万円。美女平と室堂を結ぶ立山高原バスの4000万円という金額と比較し、貴重な乗り物であることがわかった。だからこそ、整備は入念である。
 「4日、1カ月、1年、3年と定期的に点検するほか、運転士から異音や不具合などの情報が入れば、すぐに対応します。『大事に至る前に修理する』という危機感を持っており、高い電圧の電気を扱っているので安全にも気をつけています。これから先も15年、20年と使い続けられるようにせねばなりません」

 丁寧に整備する理由がわかった。車体には傷一つなく、車体の下の見えにくい部分でもほこりは付いていなかった。バックヤードツアーを通じ、立山トンネルトロリーバスに対する社員の責任と愛着を感じ取ることができた。
■運転士に必要な資格とは

 車内に移動し、運転席に座ってVR(バーチャルリアリティー)ゴーグルを着用、運転士の目線を体験した。2分間の映像は、実際に運転士の頭部にカメラを載せて撮影した映像を編集したとのこと。「運転士になった気分」をリアルに体験できる。ところで、運転士にはどうやったらなれるのだろうか? 

 「立山黒部貫光に運転士の資格を持つ社員は18人おり、そのうち2人は女性です。18人のうち5人は、整備士も兼ねています。必要な資格は『大型二種免許』と『動力車操縦者運転免許』。社内の研修を経て先輩の指導を受けながら独り立ちしていきます」
 「鉄道という扱いでありながらバス」というトロリーバスの特殊な位置づけが、取得すべき免許から理解できる。早川さんによると「運転で難しいのは、すれ違うとき」とのこと。幅約6.5メートルのトンネル内で、最多では4台が連なったバスが行き交う場合に、ミラーがぶつからないかと慎重になるそうである。

 また、「雷が鳴っていると停電しないか心配になる」と話した。確かに停電は怖そうだ。架線からの電力供給、信号、電気ブレーキなどすべてが機能しなくなる。ヘッドライトを頼りに、バッテリーのみで走行し、止まるときはエアブレーキ。トロリーバスの運転士の腕が試されることになるのだろう。
 「ここにしかない乗り物の運転と、整備をすることに誇りを感じます。乗るだけでなく、見ていただきたい」と話す早川さん。

■見どころ満載「バックヤードツアー」

 そして、「ユニークな部品や機器を目の当たりにして、立山黒部アルペンルートを楽しんで探検してください」と、バックヤードツアーへの参加を呼びかけた。

 立山トンネルトロリーバス「バックヤードツアー」は9月14日(土)、10月6日(日)、同19日(土)にいずれも1日2回、午前10時からと、午後1時から実施される。料金は1500円。予約は3週間前に締め切られ、定員15人。参加者は抽選で決まる。
 また、立山ロープウェイ「バックヤードツアー」も9月28日(土)、10月5日(土)に実施予定で、ロープを支える巨大な車輪を間近に見ることができる。

 秋の観光の目玉は自然だけではない。乗り物、指令室、整備工場から見える光景にも注目……である。
若林 朋子 :フリーランス記者

最終更新:9月16日(月)6時30分

東洋経済オンライン

 

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