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売買契約後に売主が失踪……買主の仲介手数料が2割引きに《楽待新聞》

9月15日(日)20時00分配信 不動産投資の楽待

(写真:iStock.com/takasuu)
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(写真:iStock.com/takasuu)
「任売物件」は、市場価格より安く入手できる可能性があって狙い目だと言える。ただ逆に、管理が行き届いていなかったり、残置物があったりといったリスクがあることも事実だ。

では、一般の不動産仲介業者から見た「任売物件」というのはどのようなものなのか。今回は、元不動産仲介業者である長野久志氏が、実際にあった事例を踏まえて任売物件について紹介していこうと思う。

■任売物件はお得なのか

「任売物件は一般の不動産売買よりも安く買える」というイメージを持っている投資家も多いだろう。実際、特殊な事情での売却のため売主がじっくりと売値を検討している余裕がなく、通常の取引価格よりも安く取得できる可能性が高いという面がある。

通常の不動産売却であれば、売主は「売りたい」という気持ちが強い。次の物件購入資金に充てるためだったり、親から相続した不動産を現金化するために売却に出していたりと、売却理由がポジティブだからだ。

一方、任意売却は、ローン返済が困難になってしまったためにやむを得ず売却に出しているケースがほとんど。売主も取引に対してあまり積極的ではないことがあり、場合によっては指値が通りにくかったり、引き渡しまでにかなりの期間を要したりすることもある。仲介業者にとって任売物件は扱いにくく、敬遠されることも多いのだ。

ただし、任意売却を専門に取り扱っている業者もいるので、全ての仲介業者が任売物件を敬遠しているわけではない。任売物件を扱う専門業者としては、相場よりも割安感のある物件価格になることで、売買契約を決めやすくなるといったメリットがある。

任売物件は、リースバック契約を利用すれば第三者に売却した後でも売主は賃借人として住み続けることができる。リースバックとは、第三者に買ってもらった不動産を、売主がそのまま買主から賃借して使用し続けること。正式名称はセル&リースバックという。任売物件の専門業者にとっては、売買契約後に売主のリースバック契約を仲介できる、というメリットがあるのだ。

■指値をされたら

任売物件は売却した後でもローン残債が完済できないケースが多いため、まず初めに売主は債権者(融資をした金融機関)と協議をしなければならない。債権者の合意を得ることができれば、協議をした売却価格で抵当権を抹消してもらうことができる。

では、例えば購入希望者(以下、買主)が指値をしてきた場合はどうだろうか。3000万円で任売物件として売却に出ていたところへ、2500万円での指値が入った場合。任売物件の債権者は「融資額の中から3000万円は回収できる」と期待して売主との協議に合意しているため、期待していた金額より下がると困ってしまう。

指値ありの買付が入ったときは、債権者は再協議を行うことがあるため、それだけ時間もかかる。仲介業者としては、できるだけスムーズに売買契約までもっていき、何事もなく決済と引き渡しを完了したいところだが、債権者の再協議で時間がかかってしまうとなかなか取引が終わらない。私も債権者の再協議だけで約2週間待たされたことがあった。

たいていの買主は値下げ要求や指値をしてくるので、元付け業者が債権者に指値額を伝えて協議をしなければならなくなる。どうしても通常の売買案件より手間と時間がかかってしまうのだ。

■任売物件で注意すべきポイント

任売物件の購入を検討している場合は、以下のポイントに気を付けておきたい。

・そもそも売主は物件を売りたいわけではないケースが多い
・債権者(抵当権者)が複数いる場合がある
・管理費、修繕積立金を滞納している場合がある

ローンの返済が困難になる理由はさまざまだ。例えば、夫婦収入合算で不動産を購入していたが、離婚したため一人だけでは返済がきつくなった。その他にも、サブリース会社の倒産によって家賃が入らずローン返済が困難になった、などがある。前述した通り、任売物件は売主が売買契約に対して消極的なことも多いため、取引自体がスムーズにいかないことがある。

売主によっては「売りたくて売っているわけではない」という気持ちが強い人もいて、内見希望者がいるのにいつまで経っても物件の中を見せてくれなかったり、売買契約までの期間をできるだけ後に延ばそうとしたりする場合もある。投資家としては、例えば「売主さんが抱えている問題の早期解決に向けて手助けしたい」といったように、売主が置かれている状況や心情を酌んだうえでアプローチしていくことが有効なケースもある。

■複数抵当権の場合は時間がかかる

任売物件に限らないが、不動産には複数の抵当権が設定されていることがある。売買契約の際はすべての抵当権を抹消してもらうことが条件になるため、任意売却を行うのであれば、複数の抵当権者(債権者)の合意を得なければならない。もし任売物件に1番~3番抵当権までついているのであれば、3人の債権者から合意を得る必要があるのだ。

例えば、3番抵当権までついた任売物件を購入するときに指値を入れると、3人の債権者が協議を行うことになる。3つの銀行が協議するとなると、日程調整や価格の取り決めなどで時間もかかる。任売物件に投資をするときは、抵当権がいくつ設定されているのかもチェックしておきたい。

任売物件がマンションやアパートであれば、売主は管理費や修繕積立金を滞納している可能性も考えられる。滞納された管理費・修繕積立金は、売買時に買主が精算することを条件とされる場合もあるので、滞納の有無や金額などを事前に確認しておく必要がある。仲介業者を通して、マンションの管理組合や管理会社から発行された「重要事項に関わる調査報告書」などの書面を見せてもらえば、滞納金額を確認できる。

■契約後に売主が消えた

任売物件に売主が居住している場合は、なかなか出ていこうとしないケースもある。売主によっては、心とお金に余裕がないことで次に住む場所を探す気力もなく、問題を先送りにしていつまでも住み続けようとする人もいる。こんなときは、前述したリースバックを売主に提案することで問題が解決できる場合がある。

筆者が客付け業者として実際に関わった任売物件の売買で、契約後に売主が突然消えてしまった事例を紹介したい。

夫婦収入合算でローンを組んでいた売主は離婚によって返済が困難になり、任意売却を選んでいたのだが、売却にはかなり消極的だった。家族が出て行ってしまったことと住む家がなくなることの二重のショックからか、やや心身に支障をきたしていたようで、内見時から買主とは一切言葉を交わすことがなかった。

築1年の二世帯住宅で売却価格は2800万円。周辺の不動産相場と同じくらいだったが、買主はかなり気に入っていて「どうしても買いたい」ということだった。

任売物件には1番抵当権と2番抵当権がついており、2行の銀行が債権者として任意売却に合意していた。ところが、銀行同士がお互いの回収できる取り分についてモメだしてなかなか協議が終わらないため、売買契約に進むことができない。

■売主と連絡が取れない

売主のローン残債は4000万円程度だった。銀行は、不良債権とはいえできるだけ融資をした分を回収しようとするため、債権者が複数いる場合はどうしても協議に時間がかかってしまう。買主は、協議が終わるまで2週間以上も待たされることになった。

銀行同士の協議が終わったあとも、売主の都合が合わず売買契約の日程もなかなか決まらなかったのだが、ようやく契約を終えた後になって、元付け業者から「売主と連絡がとれない」と電話があった。決済と引き渡しの日が近づいてきたので、私は何度も元付け業者に電話をしたが、「売主が見つからない」の一点張りだった。

買主に報告しないのもまずいので、事情を説明したところ、「どういうことですか。ちゃんと取引できないと困ります。売主さんが見つかるまで待ちますが、そのぶん仲介手数料は安くしてください」などと叱られた。

■売主は見つかったが……

それから数日が過ぎ、私は元付け業者も信用できなくなってきていたころに「売主さんが見つかりました」と連絡があった。話を聞くと、売主は足の怪我で入院しているということだった。真相を確かめるため、元付け業者を連れて病院へ行ったところ、本当に入院をしていた。怪我の程度はよく分からなかった。

その後も「まだ引っ越し先が決まらない」といった理由で売主は物件の引き渡し日を先延ばしにしようとしてきたが、さすがに買主が怒るので、ひとまず売主には、勤めていた不動産会社の賃貸事業部経由で家賃6万円程度の賃貸物件を紹介し、住んでもらうことにした。費用は売主負担。「家具や荷物が入りきらない」と売主が言うので、レンタルボックスも紹介した。

最終的には無事に引き渡しができたのだが、買主の仲介手数料は、元付け業者と客付け業者の双方が1割ずつ負担し、合計で2割引きすることになった。

売買契約後に売主が忽然と姿を消す、という事例はあまりないかもしれないが、物件からなかなか出ていこうとしない売主は多い。都合が悪いといった理由をつけて内見希望を断ってきたり、契約日や引き渡し日を決めようとしなかったりで、いつまで経っても取引が完了しないのだ。

任売物件を内見するときは、物件の現況だけではなく、売主の状況もしっかり確認しておきたい。任売物件になった理由や状況などは、仲介業者を通じて確認することができる。

■任売と競売は何が違う?

任意売却は一般の不動産売買が可能なのに対して、競売は裁判所での取り扱いになるため強制的に売却されてしまう。任意売却は、不動産相場と同じくらいの価格で売却できる可能性があるが、競売は入札によって最終的な価格が決まるため一般的な相場より低くなってしまうこともある。

競売を専門にしている業者もおり、競売に参加して不動産を格安で買い、リフォームやリノベーションを施して利益を乗せて転売する。こうした業者は競売がメインなので、営業マンは血眼になって裁判所へ足を運ぶ。

任意売却には公的な強制力はないが、競売は、居住者や物件占拠者に対して不動産引渡命令や強制退去の執行が可能になる。任意売却は、銀行と協議しながら売却価格を決めることができるし、物件を引き渡す時期も相談できる。

任売物件よりも競売のほうが価格は低くなる印象だが、物件によっては競売でも高く売却されることもある。必ずしも任意売却のほうが高く売れるというわけではない。不動産競売物件情報サイトの売却結果を確認してみると、不動産鑑定士が鑑定評価した「売却基準価額」よりも実際に売却された価額のほうが高くなっている物件が多く見られる。

■悪質な任売業者に要注意

ローン債務者は心にもゆとりがない場合が多く、そこにつけ込む悪質な任売業者もいる。例えば、任売相談を受けただけで手数料を取ろうとしたり、「任意売却のほうが競売よりも高く売れる」という誘い文句だけで任売に持っていこうとしたりすることがある。

また、買い手の投資家として注意しておきたいのが、任売物件を強引に買わせるやり方の悪質業者。例えば、エリアに問題があって空室が多く、利回りが低い任売物件を仕入れておいて、「いまは管理会社の客付けが悪いだけ。管理会社を○○に変更すればすぐに満室になる」などと投資家に持ちかけて強引に買わせようとする。業者の言葉を鵜呑みにせず、物件の謄本やレントロールを取得して管理会社を訪ねるなど、自分でチェックするように心がけておきたい。

■メリット・デメリットを理解する

任売物件は、売主の判断だけで売却価格が決められているのではなく、債権者の合意のうえで成り立っている。売主によっては契約日や引き渡し日がなかなか決まらないこともあり、取引が長引く可能性もあるため、購入日程には余裕をもたせておくことが大切だ。また、買付時に指値をするときは、債権者の協議も必要になる場合があるので注意したい。

任意売却は一般の不動産市場で売却に出せるとはいえ、売主はじっくり売却価格を検討している余裕はない。どちらかといえば債権者のほうに主導権がある場合が多く、指値をする際は、仲介業者を介して売主だけではなく債権者と交渉をすることになる。交渉のたびに債権者が協議を行うため時間を要するのがデメリットだが、余裕がない売主よりも交渉はしやすくなる可能性が高い。

任売物件の情報は、所有者から相談を受けた仲介業者や、任売物件を専門に扱うサイトから得ることができる。また、「任売物件を探している」と仲介業者にあらかじめ相談しておくことで、任売物件が出たときに優先して資料を回してくれる場合もある。任売物件の専門業者だけでなく、一般の仲介業者にも相談だけはしておきたい。
長野 久志

最終更新:9月15日(日)20時00分

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株式会社ファーストロジック

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