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副業解禁ムードのなか、あえて問い直すリスクと「本業でやれること」

9月12日(木)18時40分配信 ダイヤモンド・オンライン

副業解禁ムードが高まるなか、あえてその「落とし穴」を考えてみよう(写真はイメージです) Photo:PIXTA
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副業解禁ムードが高まるなか、あえてその「落とし穴」を考えてみよう(写真はイメージです) Photo:PIXTA
● 勤労者の副業への関心高まる 政府も副業の動きを後押し

 副業への関心が高まっている。総務省の就業構造基本調査によると、副業を希望する人はこの25年で少しずつ増え続けている。2017年には雇用者のうち副業を希望する人は約400万人、6.5%になった。実際に副業をしている人(会社・団体に雇用されつつ、他の会社・団体においても雇用される人)は、2017年に130万人弱、雇用者に占める割合は2.2%と、調査開始以来最高になった。

 本業では会社や団体に雇用されているが、副業としてはフリーランスや業務委託の形で仕事をするという人も少なくないため、実際に副業をしている人の数は、同調査の結果よりも多いだろう。リクルートワークス研究所の『全国就業実態パネル調査2017』では、正社員で「この1年間のうちに労働をともなう副業・兼業をした」と答えた人の割合が10.8%となった。

 副業への関心が高まり、実際に副業をする人も増えている背景には、安倍政権が「一億総活躍」や「働き方改革」といったキーワードとともに、副業・兼業を後押しする姿勢を見せていることがある。政府の思惑は、テレワークや副業・兼業などの柔軟な働き方を推進することで、これまで労働市場に参入してこなかった人の労働参加や、複数の場所で労働する人を増やし、人手不足の解消につなげたいというものだ。

 こうした動きを受けて、企業のなかにも副業解禁をうたうところが出てきた。サイボウズの青野慶久社長は、以前より(会社の就業規定などにおける)副業禁止規定の禁止を主張しており、自社従業員の副業(同社では「複業」と表現することが多い)を全面的に認めるほか、自社を副業先として選ぶ人を積極的に採用している。ロート製薬では、2016年から「社外チャレンジワーク」という兼業制度をつくり、社員の副業を解禁した。

 働く個人の中には、副業解禁の動きに全面的に賛成する人も少なくないだろう。しかし、副業解禁にはいくつかの落とし穴があることを認識しておく必要もある。
● 副業する人の「真の理由」 過重労働・健康被害のリスクも

 まず、実際に副業をしているのがどのような人であるかを確認しよう。総務省の『平成29年就業構造実態調査』によると、雇用者で副業をしている人(ここでは、副業が「雇用」の形でない人も含む)のうち67.3%は、本業の年間所得が299万円以下である。また年間所得299万円以下の人のうち、正規の職員・従業員は15.7%、非正規の職員・従業員が77.8%である(不明を除く)。

 この結果からは、副業をしている人の3分の2は、少ない収入を補てんする目的で副業している、と推察できる。リクルートワークス研究所の調査によると、副業をしている人の「副業をしている理由」は、「生計を維持する(生活費や学費を稼ぐ)ため」が48.4%でトップとなっており(複数回答)、こうした推察を裏付けるものとなっている。
 
 副業をすることで外部とのネットワークが広がり、社内にはない新たな知識を獲得でき、それが本業にも活かせる、などといった副業のメリットが注目されることが多いが、実際に副業をしている人や、副業をしたい人による副業をする理由が、所得を増やすという切実なものであることには留意が必要だ。本業だけでは生計を維持できないことが副業をする人が増えている理由であるならば、そうした社会は、過重労働や健康被害のリスクを抱えていることになる。

● 副業をする前に 雇用者が考えるべきこと

 雇用者は、副業をする前に、自分の本業で、自分に給与を支払ってくれる企業のなかで、自分がすべきこと、できることを本当にやり尽くしているのかを点検する必要がある。雇われて働く以上、企業が支払う給与に見合う貢献を自分がしているのかを確認し、「余力が本当にある場合に限り」「本業に支障が出ない範囲で」副業する、というのが雇われて働く者としての正しい態度だろう。

 たとえば上司や仲間に「自分のやるべきこともやらないで、副業があるので残業しませんなんて、ひどい奴だ」と思われているようなら、副業はやめたほうがいいだろう。また、会社のなかには、まだまだ自分の知らないすごい人や、やりがいのある仕事もあるはずだ。まずは、そういう人や仕事にアクセスし、社内で研鑽を積む、という道を模索したほうがいい。
● 副業を推進すべき? 企業のあるべき考え方

 企業にとっても、副業には肯定的な部分だけがあるわけではない。副業を解禁する企業が現れつつあるとはいえ、雇用を保証し、給与を支払い、OJT、Off-JTを通じて自社で能力を高めたはずの従業員が、自社ではなく、他社や他人のために労働することを、企業が積極的に推進する理由は、本来的にはない。

 従業員が副業を通じて学んだ知識やスキルを本業で生かす、などの理由で副業を積極的に推進する企業もある。だが、従業員が副業することからの還元(メリット)と、副業による従業員の自社への貢献の減少(デメリット)のどちらが大きいのかは、正しく検証する必要があるだろう。

 企業の中には、「意識の高い」若者を中心に、副業が熱烈に支持される働き方である以上、副業を認めない態度を示すことで、離職者の増加や入社希望者の減少といったリスクを感じるところもあるかもしれない。しかし、こうした考え方は本末転倒で、そのような企業は、従業員に対し、自社の仕事を通じて仕事の面白さや、仕事を通じた成長実感を与えられないことを問題視すべきだろう。なぜ自社の従業員が副業を希望しているかという理由を、きちんと分析する必要がある。

● 社会全体で考えるメリット 副業推進は全員には該当しない

 筆者は、副業を全面的に否定しているわけではない。労働力が減少する日本において、1つの企業が、従業員の能力を余すことなく活用しているのでない限り、それを占有することは社会全体にとって無駄であり、損失であると考えるからだ。

 前述した『平成29年就業実態調査』によると、本業の年間所得が1000万円以上で副業をしている人の割合は、6.4%と他の所得階層に比べて高い(所得階層で99万円未満の層の6.6%に並ぶ)。本業で1000万円以上の所得がある人は、なんらかの専門性を持つか、高いリーダーシップを発揮するなどの理由で、勤務する企業で貢献が評価されている可能性が高いと考えられる。こうした人々が、勤務先以外の場所でもその能力を発揮し、付加価値を創造すれば、社会全体の生産性が向上すると期待される。

 副業は、全ての雇用者・企業に推進されるべきものでもない。副業を希望する個人は、本業における貢献について思いを馳せるところから始めるといいだろう。多くの従業員が副業を希望するという企業は、従業員への期待、成長への支援、給与水準など見直すべき点を虚心坦懐に検討すべきだろう。
 
(リクルートワークス研究所 主幹研究員 石原直子)
石原直子

最終更新:9月12日(木)23時40分

ダイヤモンド・オンライン

 

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