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軽減税率から外された外食産業、「客足減」を免れる3つの道

9月12日(木)6時01分配信 ダイヤモンド・オンライン

外食産業が10月1日以降も客足を途切れさせない方法とは? Photo:PIXTA
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外食産業が10月1日以降も客足を途切れさせない方法とは? Photo:PIXTA
 今年の10月から、いよいよ消費税が10%に引き上げられます。これまでの消費税アップと大きく異なるのは、一部の商品に軽減税率が適用される点です。具体的には、「酒類や外食を除く飲食料品」と「定期購読契約を締結した週2回以上発行される新聞」が消費税8%に据え置かれます。ここではその是非はいったん横に置き、ビジネス的な視点で、軽減税率の対象外となった外食産業に今回の増税がもたらす影響を考えてみましょう。(グロービス経営大学院教員 嶋田 毅)

● 軽減税率は日本だけのもの? 仏ではフォアグラ、トリュフにも適用

 さて、今回の消費増税で導入される軽減税率は批判も多い仕組みですが、世界を見渡すと割と一般的に導入されています。例えば、ヨーロッパなどではもっと軽減税率の差が極端かつ多様で、それがさまざまな政治的駆け引きを招き、消費者の行動にも影響をもたらしてきました。

 例えば、フランスでは輸入品であるキャビアは標準税率の一方、国内産をメインとするフォアグラとトリュフには軽減税率が適用されています。これはもちろん国内の生産者の声を反映したものです。その結果、世界三大珍味の中でキャビアのみが競争上、不利となっています。

 具体的には、両者の間に14.5ポイントの付加価値税(日本の消費税に相当するもの)の差がありますから、日本円にして1万円相当を購入すると、1450円分の差が出てしまうのです。これは人々の消費行動を変えるには十分な差といえるでしょう。

 今回、日本で導入される軽減税率と新たな消費税率の差はたかだか2ポイントですから、そこまで極端な消費行動の差にはつながらない可能性もあります。

 仮に年間の外食費がおよそ30万円の家庭があったとすると、今回の増税によって上がる金額は年間で6000円です。ただし、欧米ほど極端な差でないにせよ、心理的な影響は否定できません。また、将来的にはさらに消費税率と軽減税率の差が広がる可能性もあります。

 そこで今回は、2ポイントという数字に過度にこだわらず、軽減税率の導入や税率の差が広がることによる影響について、外食産業を題材に考察してみます。
● 外食産業の競争環境を 「5つの力分析」で見る

 さて、業界の競争環境、さらには「儲けやすさ」を分析するフレームワークに「5つの力分析」があります。これは、業界内に留保される利益を侵食する(奪い取る)力を5つの観点から示すものです。

 今回、外食産業が軽減税率の対象から外されたことによって、どのような影響がもたらされるのでしょうか? 5つの観点から分析してみましょう。

 まず、「業界内の競争」については、食材の消費税が据え置かれるとはいえ、少なからず業界が縮小する可能性があり、競争は若干厳しさを増しそうです。

 「買い手の交渉力(直接・間接的な値下げ圧力)」も少なからず強くなるでしょう。消費者には外食以外の選択肢がある中で、そのまま価格に転嫁できるとは考えにくいからです。価格据え置きのまま分量を減らすなどの工夫をする店もあるでしょうが、あまり露骨だと顧客の不興を買います。この面では外食産業は不利になりそうです。

 「売り手(食材メーカー、卸など)の交渉力」は、濃淡が分かれそうです。強いバイイングパワーを利かせられるのは一部の大手チェーンだけで、個人営業の外食店などは食材の値上げをのまざるを得ないでしょう。

 「新規参入の脅威」については、それほど変化はなさそうです。ただし「最大の参入障壁は業界に魅力がないことだ」などといわれることもあるので、多産多死の業界とはいえ、新規に外食店を始める人は多少減るかもしれません。

 最大の問題は「代替品」です。代替品にはいろいろな定義がありますが、端的に言えば「顧客の同じニーズを満たす別の商品」です。外食の第一義的なニーズを「食事をすること」だとすれば、食材を買って家で調理したり、中食を買ってそのまま食べたりすることなどが代替品となります。

 外食には、その他のニーズもあります。懇親などは分かりやすい例です。ビジネス上の接待や会社の懇親会などは、これらにはあまり代替されないでしょう(ただし回数は多少減る可能性があります)。また、ハレの日の祝いなども、お金に糸目はつけない傾向がありますから、急に代替品にとって代わられることはないかもしれません。
● 外食産業にとって 「真の脅威」とは?

 となると、外食産業にとってやはり脅威になるのは、普段の食事を家で取ろうとする人が増えることです。例えば独身のビジネスパーソンが、それまで外食で済ませていたものを、弁当や総菜といった「中食」に変えてしまう行動は非常に大きな脅威になりそうです。

 特に昨今は多少の賃上げはあったものの、可処分所得は減っています。いまや生活必需品であるスマホ代は削りたくはないけど、食費に回すお金は削ろうと考える人は多いでしょう。

 実際に、日清食品やJTなどを筆頭に、多くの食品メーカーがここにきて製品開発を加速させています。いままで以上に調理しやすいもの(電子レンジに入れるだけ)や、調理時間が既存のものより短くて済むものなどがどんどん市場に投入されています。また、単身家庭が増えたことから、1人向けの食材も充実してきました。

 同様の試みはコンビニエンスストアなどでも加速しています。もともとコンビニは弁当や総菜のPB開発に熱心でしたが、10月の軽減税率を意識して、さらに消費者に受け入れられる商品開発を進めています。一方で、近年進めていたイートインスペースの拡充は外食扱いになるため、いいことばかりではないようです。

 ちなみに、コンビニ側にはイートインスペースを単なる「休憩所」扱いにし、一律に軽減税率を適用するというアイデアもあったようですが、これは外食業界からの反対で見送りになったといいます。

 ここまでの考察から、今後の外食産業の行方を推測した結果をまとめたのが下図です。一目瞭然、外食産業の競争環境は厳しさが増すと考えられます。今後、軽減税率と消費税率の差が広がれば、その傾向はさらに高まるでしょう。

 今回の消費税率アップとは直接リンクしていませんが、外食産業にはここ数年、人材不足によるアルバイト確保の難しさや、外国人店員の教育といった課題にも直面しています。消費税率のアップは、こうした厳しい状況に置かれた外食産業に、より追い打ちをかけることになるでしょう。
● 外食産業が取るべき 3つの対応策とは?

 では、外食産業としてはどのようなアクションを取ればいいのでしょうか。将来的にさらに消費税率と軽減税率の差が拡大することも念頭に置き、小手先ではない本質的な対応を中心に3つ紹介します。

 第一の方向性は、王道の路線で、自社にしか提供できない差別化を実現するものです。顧客にとって好ましい差別化で、かつライバルが容易に模倣できないようなら、数%の価格転嫁は受け入れられるでしょう。これは老舗の料亭やブランド力のある高級店であれば、比較的取りやすい方向性です。

 一方、大衆的なチェーン店がこの方策を取るのは必ずしも容易ではないかもしれません。多少のメニューの差別化などはすぐに模倣されてしまう可能性が高いからです。サイゼリヤや日高屋といった構造的に圧倒的に安価を実現できるチェーンや、世界の山ちゃん(手羽先で有名)のようなニッチャー以外は、かなりの工夫を要することになるでしょう。

 第二の方向性は、代替品を取り込んでしまうことです。ビールメーカーがビールの代替品である発泡酒や、ノンアルコールビールを自社で手掛けたようなものです。具体的には、持ち帰りコーナーを併設したり、総菜店を別途立ち上げたりする方法が考えられます。

 ただし、前者については、ただでさえ人材不足の状態なのに、人員の採用・育成が間に合うかという問題があります。後者についても、競争が決して楽ではない中で、自社のブランドを生かせるのかという課題をクリアする必要があるでしょう。

 第三の方向性は、業界の再編もにらんだ事業の多角化です。すでに過当競争にある外食業界の中で、差別化もできずにこれ以上疲弊するのは得策ではありません。より高い視座から、業界の再編を促すことも必要かもしれません。

 かつてワタミは介護ビジネスに進出し、結局それを損保ジャパン日本興亜ホールディングス(現・SOMPOホールディングス)に売却しました。こうしたシナジーの効きにくいビジネスはやや難しいかもしれませんが、それでも成長初期にある、分散事業的な色合いが強い事業なら、やり方次第で地位を築ける可能性はあります(例えば外食事業での成功事例をもとに飲食コンサル事業を手掛けるなど)。そうした業界を目ざとく見つけるのも一策です。

 あるいは、もともと「食」と関連しており、しかも後継者難や自然環境に左右されやすいなど課題の多い第一次産業なども、工夫次第で参入のチャンスはあるでしょう。

 外食産業が軽減税率の適用対象外になったことは、長い目で見たとき、業界が変わるきっかけになる可能性も秘めているのです。

 (グロービス経営大学院教員 嶋田 毅)
嶋田 毅

最終更新:9月12日(木)6時01分

ダイヤモンド・オンライン

 

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19年9月21日号
発売日9月17日

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