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シチズンがクラファンで1億集めた意外な方法

9月12日(木)6時15分配信 プレジデントオンライン

蔦屋家電+の様子 - 写真提供=蔦屋家電エンタープライズ
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蔦屋家電+の様子 - 写真提供=蔦屋家電エンタープライズ
シチズンが秋に発売する時計型デバイスで「クラウドファンディング」を行い、目標の60倍を超える1億円を集めた。異例の大成功の裏には、「売ることを目指さない売り場」への出店があったという。小売り現場の最新動向を報告する――。

■新しいものには新しい売り方を

 シチズンの「Eco-Drive Riiiver(エコ・ドライブ リィイバー)」は、クラウドファンディングで目標の60倍を超える1億630万円を集めた(8月31日で終了)。Eco-Drive Riiiverは、アプリと連動して個々人のライフスタイルにあわせた機能を付加できる時計型デバイスだ。

 老舗時計メーカーのシチズンが従来の時計の枠組みに捉われず、ユーザー自身が新たな機能を開発できるマイクロ・コミュニティサービスと連動した商品の開発に着手した背景には、顧客の嗜好の変化があったとシチズン時計営業統括本部オープンイノベーション推進室室長の大石正樹氏は語る。

 「これまで時計は時間を表示する道具として使われてきましたが、現代はスマートフォンさえあれば簡単に時間を知ることができます。また宝飾品としての時計に関心がない若年層にも時計というデバイスに興味を持ってもらうための商品として開発しました」

 しかし、これまでの商品ラインナップとは一線を画す商品を従来の流通網で販売しても既存顧客にしか届けることができない。新しいものをつくったからには、売り方も新しい手法を用いなければならない。そこで目をつけたのがクラウドファンディングGREEN FUNDING(グリーンファンディング)の活用だった。

 ここを通じて事前販売を行う一方で、実際の商品を見てもらうために、同クラウドファンディングと同じCCC系列の蔦屋家電の次世代型ショールーム、蔦屋家電+(プラス)に出展した。そこでは興味を持った顧客は売場に設置してあるQRコードからGREEN FUNDINGのページへと遷移して決済を行うことができる。

 こうしたオンラインとオフラインの相互活用が、目標金額の60倍以上の支援を集めるという大成功につながった。
シチズンのスマートウォッチ、Eco-Drive Riiiver。クラウドファンディングで1億円を集めた。 - 写真提供=CITIZEN
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シチズンのスマートウォッチ、Eco-Drive Riiiver。クラウドファンディングで1億円を集めた。 - 写真提供=CITIZEN
「小売りはメディア化する」と予言したダグ・スティーブンス氏も蔦屋家電に注目している。ダグ・スティーブンス(著)、斎藤栄一郎(翻訳)『小売再生 リアル店舗はメディアになる』(プレジデント社)
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「小売りはメディア化する」と予言したダグ・スティーブンス氏も蔦屋家電に注目している。ダグ・スティーブンス(著)、斎藤栄一郎(翻訳)『小売再生 リアル店舗はメディアになる』(プレジデント社)
■「買わなくてもいい場所」のコミュニケーション機能

 大石氏が蔦屋家電+に出展を決めた理由は、このショールーム(兼売り場)のコミュニケーション機能に着目したからだ。

「時計は高額商品でもあり、購入の意思がないお客様が販売スタッフに声をかけるのを躊躇(ちゅうちょ)してしまうという点にずっと課題を感じてきました。しかし蔦屋家電+は『買わなくてもいい場所』という雰囲気をつくっていることで、お客様が気軽にコミュニケーションを取りやすいところがポイントだと考えています。また時計に興味がない方にもアプローチでき、そこからいただいた声は今後製品の改良や開発にも生かしていく予定です。今後こうした売場がもっと増えていってほしいですね」 最近はシチズンのように大手企業でも一般販売前にクラウドファンディングで先行発売する事例が増えてきているが、実物を見たり試したりする場を持たずに購入を促すのはハードルが高いというデメリットもあった。

 蔦屋家電+では実物を見られるだけではなく、現場の販売員が顧客との会話を通して得られた商品への反応を逐一フィードバックしているため、購入に至らなかった顧客の声もすくい上げることができ、改善に生かすことができる。「売る」という小売店の役割を超えて、メーカーのものづくりに貢献するための情報を集める場へと進化を遂げようとしているのだ。

■並べた扇風機「5000円より2万円の方が売れる」

 「これはどんな商品なんですか? 」

 通常であれば販売員から声をかけられるのを嫌がる顧客が多いものだが、二子玉川蔦屋家電の一角にある蔦屋家電+では、むしろ顧客側がスタッフへ積極的に声をかける姿が見られる。

 さらにスマートペンや特殊素材を用いた靴など一見使い方がわからない商品も多いため、顧客側が販売員に質問したりデモンストレーションに見入ったりしているケースも多く、1人あたりの接客時間も一般的な店舗に比べてはるかに長い。

 蔦屋家電+の発案者でもあり、家電量販店での勤務経験もある蔦屋家電エンタープライズ商品企画部の木崎大佑氏は、「店舗というよりも美術館のような感覚で楽しんでいただいているように感じます」と語る。

 2015年5月、二子玉川にオープンした蔦屋家電は書店とカフェを融合させた蔦屋書店の新業態として大きな注目を集めた。これまでの蔦屋家電と同じく書店とカフェを主軸にしながら、一般的な家電量販店では扱っていないユニークなデザイン家電を中心に販売し、感度の高い顧客層から支持されている。

 女性客が全体の6割を占め、購入単価も通常の家電量販店に比べて2~3倍高い。家電以外の商品を扱っていることで「ついで見」を誘発していることがこうした数字の背景にあると木崎氏は話す。

 「これまではデザインにこだわった家電を作っても店頭で他の安い商品と並べられてしまい、商品の魅力を伝えてくれる売り場が少ないということが家電メーカーの大きな悩みでした。デザイン性の高い2万円の扇風機が5000円の扇風機の隣に置かれていたら前者を売るのは至難の技です。しかし、蔦屋家電では前者の方が売れるのです」
蔦屋家電+に展示された、Eco-Drive Riiiver。その場で予約することもできる。売り場の声は販売員を通じてメーカーにフィードバックされる。
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蔦屋家電+に展示された、Eco-Drive Riiiver。その場で予約することもできる。売り場の声は販売員を通じてメーカーにフィードバックされる。
■美術館のように楽しめる売場

 オープン当初から家電業界に新たな風を吹き込んできた蔦屋家電が今年の4月にオープンしたのが蔦屋家電+という新たな売場だ。

 これまで家電業界は小売店が買い切り型で仕入れるのが一般的だったが、蔦屋家電+ではメーカーに出店料として一定金額を支払ってもらうことで、店舗で販売をせずとも収益が上がるモデルに挑戦している。

 メーカーは蔦屋家電の売場に商品を陳列できるだけではなく、売場に設置されたAIカメラを通して顧客の年齢や滞在時間といったデータを取得したり、販売スタッフが接客を通してヒアリングした情報を受け取ることができる。

 商品説明が表示されたモニターとともに商品がズラリと並べられた売場は店舗というよりも珍しいものが並ぶ美術館のような造りになっており、QRコードからネット通販サイトやホームページに飛べることはもちろん、その場で購入もできる。

■「売る」がKPIではないからこそ売れる

 蔦屋家電+が生まれた背景には、これまでのビジネスモデルでは販売スタッフの接客が「売るためのコミュニケーション」に終始してしまい、結果的に販売につながらないという課題があった。

家電量販店に限らず、小売店は仕入れた商品を売ることがもっとも大きな収益源であり、販売スタッフの売り上げノルマが厳しいと噂(うわさ)されるブランドや小売店も少なくない。 しかし売ることを目的としたコミュニケーションは顧客に不信感を植え付け、接客を嫌う顧客がオンラインに流れていってしまうという現象も起きている。

 そこで売ることをKPIにせず、顧客が商品を体験しそのよさを感じてもらうことを最優先にした売り場として生まれたのが蔦屋家電+だ。

 今年の4月に実験的に始まった売場は想像以上に顧客からの反応がよく、手応えを感じたことから2カ月後の6月には2階のイベントスペースから1階の一等地に移設を決定。現在蔦屋家電の顔ともいえる場所で顧客を出迎えている。
6月から蔦屋家電+に登場した「紙に書くだけでデジタル化され、保存・共有・再生することができる」というデジタル文具「Neo smartpen M1」を販売員が使い方を説明する様子。
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6月から蔦屋家電+に登場した「紙に書くだけでデジタル化され、保存・共有・再生することができる」というデジタル文具「Neo smartpen M1」を販売員が使い方を説明する様子。
蔦屋家電の二子玉川店1階に移動した蔦屋家電+はメディアとしての小売りを体現している。 - 写真提供=蔦屋家電エンタープライズ
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蔦屋家電の二子玉川店1階に移動した蔦屋家電+はメディアとしての小売りを体現している。 - 写真提供=蔦屋家電エンタープライズ
■「語ること」で結果的にモノが売れる

蔦屋家電+は「売ることを目的としていない売場」だが、その場で商品の販売も行っている。通常の売り場よりも圧倒的に長い接客時間を通して顧客ニーズを掴(つか)み、売り上げのためではなくその商品の面白さを販売スタッフが自身の言葉で語ることで、結果的に想像以上の売り上げにつながっているという。 「メーカーによっては、固定の出店料をペイできるほど売れているところもあります。蔦屋家電+では売り上げではなく接客数をKPIにしており、お客様と会話することをもっとも重視しています。その結果として商品に興味を持っていただき、最終的に欲しいと感じていただけることがメディアとしての店舗の役割なのではないかと感じています」(木崎氏)

 商品の魅力を余すことなく伝えるため、販売スタッフも積極的に商品知識を学んでいる。商品が入れ替わるタイミングでは可能な限りメーカーの担当者に勉強会を開いてもらい、面白さを自分の口で説明できるまで資料を読み込む。さらに出店期間中にも不明点が出てくれば店頭のLINE@で随時メーカーに問い合わせをし、知識をアップデートしていく。

 「売ること」ではなく「語ること」に注力しているからこそ、結果的にモノが売れているのが蔦屋家電+の特徴だ。

■顧客とメーカーをつなげるアナログデータ

 蔦屋家電+のもうひとつの特徴は、売り場で得られた顧客データをメーカーにフィードバックしている点だ。店舗に設置されているAIカメラを通して年齢や性別といった属性データはもちろん、滞在時間などの情報を個人情報が含まれないかたちに加工して渡し、メーカーは商品の改良やマーケティングなどに生かしている。

 米ベンチャーb8taなど同様の仕組みを取り入れている企業も増えてきたが、蔦屋家電+では販売スタッフが顧客との会話を通して得られたアナログデータもフィードバックとして送ることで、数字データを補強している。

 1日30人前後を接客することで得られた顧客の生の声は、1カ月で1000件近くにのぼる。それらを個人が特定できないかたちに加工して渡すことで、数字だけでは得られない顧客の感想やニーズが浮かび上がってくる。

 またその場で販売につながったときにはLINE@でメーカーの担当者に売れたことを報告し、ともに喜ぶこともあるという。

 木崎氏は、蔦屋家電を単なる売り場ではなくCtoM(コンシューマー・トゥ・メーカー)の舞台にしていきたいと話す。

 「これまでメーカーは売り上げの数字を見ることでしか顧客の反応を知ることができませんでした。しかし本来小売店は両者の架け橋になるべきで、顧客のニーズや要望を小売店が直接メーカーに届けることで、ものづくりにも新たな風を吹き込んでいけたらと考えています」

 これからの店舗には、単に場所を切り売りして貸し出すのではなく、つくり手であるメーカーと受け手となる顧客をつなぎ、新たなものづくりの関係性を築いていくことが求められていきそうだ。



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最所 あさみ(さいしょ・あさみ)
リテイル・フューチャリスト/noteプロデューサー
大手百貨店入社後、ベンチャー企業を経て2017年独立。ニューリテールにまつわるコンサルティングや執筆、コミュニティマネジメント、イベントプロデュースを行う。またnote有料マガジンを通して独自の考察や海外事例の紹介、小売や店舗を軸にしたコミュニティ運営を行う。2019年7月よりnoteプロデューサーに就任。ブランドや店舗オーナーがnoteを通して発信し、顧客とコミュニケーションをとる活動全般を支援する。
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リテイル・フューチャリスト/noteプロデューサー 最所 あさみ

最終更新:9月12日(木)6時15分

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