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アマゾンの「コンビニ」はここまで徹底している

8月27日(火)5時00分配信 東洋経済オンライン

アマゾン・ゴーのシアトル1号店。「無人店」だが、ウィンドウからは作業をするスタッフの様子が見える(撮影:中川 雅博)
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アマゾン・ゴーのシアトル1号店。「無人店」だが、ウィンドウからは作業をするスタッフの様子が見える(撮影:中川 雅博)
 世界でアップルやマイクロソフトらと時価総額ランキングの首位を争う、アマゾン。現在の時価総額は80兆円以上と「世界最強」の座に近い企業です。

アマゾンは、何がすごいのか。拙著『なぜ女はメルカリに、男はヤフオクに惹かれるのか?』でも詳しく解説していますが、主に5つの理由があります。

■アマゾンの「強さ」、5つのポイント

 第1に、それは「地球上で最も顧客第一主義の会社」というミッションとビジョンに対するこだわりです。アマゾンにおいて、顧客第一主義は決してお題目ではありません。組織の末端まで顧客第一主義は浸透しきっており、相手が上司だろうと誰であろうと「それは顧客第一主義なのでしょうか」と反論することが推奨される文化があります。
 第2に、顧客第一主義と表裏一体であるカスタマー・エクスペリエンスへのこだわりです。ジェフ・ベゾスは創業前、紙ナプキンにアマゾンのビジネスモデルを記しました。そこにもすでに「カスタマー・エクスペリエンス」という言葉が登場するのです。このエピソードは、アマゾンにおいてカスタマー・エクスペリエンスの追求がビジネスモデルの核、絶対的な位置に埋め込まれていることを示すものです。

 第3に、カスタマイゼーション(パーソナライゼーション)です。ベゾスの定義によると、顧客第一主義とは「(顧客の声を)聞く」「発明する」「パーソナライズ」の3点で構成されています。顧客の声に耳を傾け、それに応えるべく発明とイノベーションを行うこと。ベゾス自身の言葉を借りるなら、「顧客をその人の宇宙の中心に置く」ことがパーソナライゼーションだと語っています。
 第4に、ビッグデータ×AIです。テクノロジー企業にとって、ビッグデータ×AIとは、顧客第一主義と、それと表裏一体であるカスタマー・エクスペリエンス、そしてカスタマイゼーション向上のための手段にほかなりません。

 第5に、AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)とアマゾンが表裏一体であることです。AWSは今や、クラウドコンピューティングの市場で3割のシェアを握るトップ企業です。すなわち、アマゾンは、世界一のクラウドコンピューティングであり世界有数のテクノロジー企業のAWSに支えられた企業ということになります。AWSから見れば、同社はアマゾンという世界一の小売ECをクライアントに持つテクノロジー企業とも言えます。EC本体とAWSがクルマの両輪となり相乗効果を生み出しているのです。
 私たちは、さらなる進化を遂げたアマゾンの姿を、「アマゾン・ゴー」と「アマゾンブックス」に見ることができます。以下では、それら進化がもつ本質的な意味を読み解いていきます。

■進化するアマゾン

① アマゾン・ゴー
 筆者がアマゾン・ゴーのシアトル1号店を訪れたとき、そこで目にしたのは驚くべき光景でした。通りから店内を覗くと、右側にはガラス張りのオープンキッチンが。そこでは何人ものスタッフがサラダやサンドイッチを作っているのが見えます。清潔感を象徴するかのような白いユニフォームの上から、アマゾン・ゴーのロゴが入った緑色のエプロンを身につけ、手際よく作業を進めていくスタッフたち。
 アマゾン・ゴーといえば「無人レジコンビニ」が代名詞だったはずです。入店時に自動ゲートにスマホをかざし、あとは商品を手にしてそのまま出ていくだけ。それを実現させている最先端テクノロジーは、店内の至るところにあるセンサーやカメラの数から推測することができます。

 しかし筆者はアマゾン・ゴーの真価は「無人」とは別のところにあると分析したのです。ロボット化・AI化の急先鋒であり、もともとECとして成長してきたアマゾンが出店するリアル店舗とはどのようなものか。そこにはどのような狙いがあるのか。これまでの企業とは決定的に違う狙いがあるはずです。筆者はそこに注目していました。
 1点目は、「超有人店舗」だったということです。「無人レジコンビニ」というキーワードばかりが注目されがちなアマゾン・ゴーですが、実際には、多くのスタッフがオープンキッチンで働いていました。むしろ「ここで売っているサンドイッチはわれわれ人間が作っている」と、有人店舗であることをあえて見せ、誇示しているかのようでした。ガラス張りの明るいオープンキッチンでの調理は、食材がフレッシュであること、調理に手間暇をかけていることを顧客に訴求する効果が確実にあります。
 2点目は、ロボット化・AI化を推し進めてもなお、「最後の最後まで人に残る仕事(人がやるべき仕事)」をロボット化・AI化の急先鋒であるアマゾン自身が示す店舗だったということです。表から見えないところでロボットが作ったサンドイッチよりも、自分が見えるところで人が作った、まさしく手作りのサンドイッチ。それはロボットがいかに進化しようと、最後の最後まで人に残るニーズではないでしょうか。無人のようで無人でないアマゾン・ゴーは、人間が潜在的に持つ欲望や本能を見抜いているかのようでした。
 3点目は、アマゾン・ゴーはコンビニの「温故知新」であるということです。従来コンビニエンスストアが担ってきたのは、ポジショニングマップを描けば「便利×おいしい」となるでしょう。この点では、アマゾン・ゴーも同じです。便利においしいものを手軽に食べたいという顧客のニーズに応えるのが、アマゾン・ゴーのポジショニングです。

 ただしアマゾン・ゴーの場合、「便利」も「おいしい」も、相当に先鋭化されています。「便利」という点では、単に「さまざまな商品が気軽に購入できる」だけでなく、「ただ立ち去るだけ」で買い物や支払いが終わるというスピーディーさや、「買い物をしていることを感じさせない」「支払いを感じさせない」など優れたカスタマー・エクスペリエンスにまで高められています。
 一方、「おいしい」という点では、「機械が作る」のではなく、「誰かが知らない場所で作る」のでもなく、「自分が目に見える場所で人が手間をかけて」作っていることがポイントです。優れたカスタマー・エクスペリエンスとしての新たなおいしさが再定義されています。

 便利でおいしいコンビニエンスストア。当たり前といえば、当たり前の話です。しかし、その当たり前を誰の追随も許さないレベルにまで先鋭化したのが、アマゾン・ゴーだと言えるでしょう。
② アマゾンブックス
 「新しいタイプの顧客の特性は、マーケティングの未来がカスタマー・ジャーニー全体にわたってオンライン経験とオフライン経験のシームレスな融合になることを、はっきり示している。」(『コトラーのマーケティング4・0』より)

■「ビッグデータ×AI」の強み

 コトラーが言う、オンラインとオフラインが融合した「マーケティング4・0」は、アマゾンブックスにおいて実現しています。読みたい本が決まっているならアマゾンのECサイトで購入、すぐに読みたいならキンドルで、実際に本を手に取って読みたい本を探したいなら、リアル店舗であるアマゾンブックスへ。アマゾンユーザーは、オンラインとオフラインを自由に行き来することができるのです。
 また、アマゾンブックスならではのものに、書籍の陳列方法があります。よく知られているのは、表紙が見えるようすべての本が面展開されていること。顧客にとっては、見やすく、選びやすく、買いやすいというメリットがあります。しかし店舗側にすると、店舗の面積や店頭在庫の制約から、やりたくてもできません。アマゾンブックスも一昔前のアメリカの大型書店と比較するとそこまで大きな店舗ではないのです。

 にもかかわらず、アマゾンブックスが面展開できるのは、まさに「ビッグデータ×AI」の力によります。アマゾンブックスを訪れて驚いたのは「シアトルで読まれている本」「アマゾンでレビューが1万件以上ついている本」「キンドルでアンダーラインが最も引かれている本」などのコーナーがあったことです。
■アマゾンが掲げる「Day1」とは? 

 「ビッグデータ×AI」によって、その店舗でどんな本を面展開すれば売れるのか、解析する技術がアマゾンにはあります。逆に言えば、それ以外の本は在庫に置かなくて済むというわけです。さらにはもし仮に、顧客が探している本が店頭になかったとしても、スマホを使ってその場でアマゾンに注文すればいい。筆者は、アマゾンブックスの「書店としてのすごさ」以上に、これは、アマゾンが本格的にさまざまな分野においてリアル店舗展開する序章にすぎないのではないだろうかと脅威を感じました。
 アマゾンは、確かに、世界のトップ企業に成長を遂げています。しかし、その中身はいまだにスタートアップ企業的です。そのことを強く示すのは、ベゾスが繰り返し口にする「Day1」という言葉です。

 「Day1」とは「創業日」や「初日」という意味で、ベゾスのオフィスがある建物はすべて「Day1」という名前がつけられているほか、アマゾンの公式ブログのメインタイトルも「The Amazon Blog: Day One」となっています。ベゾスがどれほど「Day1」にこだわりを持っているのかがうかがえます。
 ベゾスは「今日がアマゾンにとってDay1だ」と言い続け、「Day2」すなわち大企業病に陥ることなくスタートアップ企業であることを強く意識しています。これは、スタートアップ企業的なDNAが消えてしまえば、継続的に破壊的イノベーションを起こすことはできないという強い危機感があるからにほかならないのです。
田中 道昭 :立教大学ビジネススクール教授

最終更新:8月27日(火)5時00分

東洋経済オンライン

 

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