ここから本文です

トランプ対中関税第4弾で1ドル=100円割れへ

8月26日(月)6時10分配信 東洋経済オンライン

中国にもパウエルFRB議長にも圧力をかけ続けるトランプ大統領(写真:REUTERS/Tasos Katopodis)
拡大写真
中国にもパウエルFRB議長にも圧力をかけ続けるトランプ大統領(写真:REUTERS/Tasos Katopodis)
 アメリカのトランプ大統領は23日、2500億ドルの対中輸入に課している制裁関税(第1~3弾)について、10月1日以降、関税率を既存の25%から30%へ引き上げる方針を発表した。

 また、9月1日以降に予定している第4弾は当初10%で発動する予定であったが、これも15%に引き上げる方針とした。第4弾についてはスマートフォンやノートパソコンおよび玩具など家計部門への影響が大きい一部の財が12月15日以降の発動へと延期されているが、これも当然15%となる見通しである。
 まとめると、これまで発表してきた第1弾から第3弾、金額にして2500億ドル分については関税率が25%から30%へ引き上げられ、これから予定される第4弾のうち約1100億ドル分については9月1日から15%、家計部門への影響度が大きい財(約1600億ドル)については12月15日から15%という整理になる。

 なお、第4弾については当初発表時から「25%」を最終ゴールと見ていた。今後は第4弾の断続的な引き上げ、最悪の場合、この部分についても「25%」そして「30%」へと歩が進められる(すなわち対中輸入すべてに30%が課される)ことが懸念される。
 こうした一連のトランプ政権による踏み込んだ対応は先週23日、中国政府が原油や農産物など約750億ドル分の対米輸入について5~10%の報復関税をかけると発表したことに対するリアクションである。その反応速度は非常に速く、あらかじめ想定していた動きのようにも思えるほどだ。

■パウエル議長は努力の甲斐もなく吹き飛ばされた

 本来、先週23日から週明けのアジア市場ではジャクソンホール経済シンポジウムにおけるパウエルFRB(連邦準備制度理事会)議長講演が取引材料となるはずだった。講演前から金融市場では、議長が7月FOMC(連邦公開市場委員会)後の記者会見でタカ派を気取り政治・経済的に大炎上した反省を踏まえてハト派色をアピールする(具体的には追加利下げを示唆する)との期待が高まっていた。
 そして実際にパウエル議長はこの期待に応えたのだが、今回の対中報復関税によってその努力もすべて吹き飛ばされてしまった感がある。もはや「保険的な利下げ」ではなく「対症療法的な利下げ」が必要な情勢であり、必要な利下げ回数はFOMC後、徐々に増えている印象すらある。7月末以降の世界の経済・金融情勢を踏まえる限り、コミュニケーションに失敗したとしか言いようがない。政治に振り回される不運とコミュニケーション下手が相まって、悲哀も漂う。
 そもそも7月利下げの理由が「貿易政策の不透明感に端を発するダウンサイドリスク」だったことを思えば、利下げが「保険的なもの」で終わる保証はどこにもなかった。トランプ大統領と完璧に意思疎通できる間柄ならまだしも、今や2人の関係はお世辞にも円滑とは言えない。水物である「政治」を理由に利下げしたのに「保険的」という根拠のない強弁をしてしまったことが7月会見の最大の敗因と言える。

 今後、関税が本当に30%まで引き上げられるのであれば「貿易政策の不透明感に端を発するダウンサイドリスク」はリスクを超えて実体経済を本格的に毀損するレベルに入ってくる可能性もある。それを実感する頃には「保険的な対応」ではなく「堂々たる利下げ局面」に入っているであろうし、アメリカの金利もドルも一段と切り下がっている公算が大きい。
■人民元は対ドルで次々と節目を割り込む恐れ

 もう一方の当事者である中国からも目が離せない。具体的には人民元相場を注視したい。過去にも論じているテーマだが、対米輸入額が限定されている以上、中国が取るべき戦術は追加関税だけでは不十分で「通貨安による関税相殺」も必要になる。理論的には「5%ポイントの関税上積み」は「5%ポイントの通貨安」で相殺できる。

金融市場ではアメリカの金利、株、ドルの値動きに応じて他の資産市場のセンチメントも規定されてくる印象が強いが、最近ではこのほかに人民元の水準も取引材料として注視される傾向にある。過去の東洋経済オンラインへの寄稿『為替操作国認定でチャイナショック再来の衝撃』でも示したが、米中貿易戦争で緊張感の高まるイベントがあった時に元安傾向に弾みがついてきたという経緯がある。
 現状のムードが続けば、ドル元相場は今後下落を続け、1ドル=7.5元、8.0元と次々に節目を割り込んでくる可能性もある。8月18日の日本経済新聞は需給に委ねていれば10元を割り込んでいた可能性もあったとの試算を紹介している。中国がもはや往時の経常黒字水準を保てなくなっている以上、このような声は今後、増えてきても不思議ではない。今回の関税引き上げを受けて、人民元相場がどういった動き方をしてくるかは他の資産市場にとっても大いに重要な話だ。
アメリカの経済・金融情勢が停滞色を強める中、円高・ドル安は着実に進んでいるが、アメリカの金利低下幅が大きい割には円高が限定的なものにとどまっているのも確かだ。これにはいくつかの理由が考えられる。かつて東洋経済オンライン記事『日本企業の対外直接投資の流れは止まらない』でも述べたように、対外直接投資を通じた円の売り切りが幅を利かせていることの影響も引き続きあろうかと思われる。

 しかし、足元の動きに関してはもっと分かりやすい理由もある。常に「相手がある話」の為替の世界では「相対的にマシ」であることが買われる理由になる。そこで国際決済銀行(BIS)の公表する日次の名目実効相場(NEER)を見ると、ドルは年初来でプラス2.4%、前年比でプラス1.5%と上昇していることが分かる。つまり、為替相場全体を見ると円高であり、かつ、ドル高なのだ。
 アメリカの経済が失速して金利が下がる中でも経済・金融情勢が他国に比して「相対的にマシ」である以上、ドル相場は下がらない(そもそも下がっても金利はまだ高い)。同期間に人民元が年初来マイナス1.2%、前年比マイナス0.9%、同様に、ユーロがマイナス0.9%・マイナス0.7%、英ポンドがマイナス3.0%・マイナス3.1%と軒並み売られていることが明示的だ。

■ユーロが沈没し、着実に円が上昇へ

 アメリカに見切りをつけて他国・地域に資金を寄せようにも人民元はさておき、欧州も政治・経済情勢が悲惨すぎて受け皿にならない。
 本来、世界最大の経常黒字を備え、緩和余地も限定的なユーロはドル売りの受け皿として期待すべき存在だが、大黒柱のドイツにリセッション懸念がくすぶり、域内3番目の経済大国であるイタリアで政治空白が発生、ブレグジットの行方もわからずじまいという状況では買うに買えない。それだけ悲惨な状況に賭けて金利面での見返りがあればよいが、南欧諸国以外の長期金利がおおむねマイナス圏に沈没しているという、いかんともしがたい現状がある。
 かかる状況下、通貨高の按分は世界最大の対外債権国通貨で金融緩和による応戦余地が乏しい円に回ってきやすい。上述の名目実効相場を見れば、同期間の円がプラス5.8%・プラス5.2%と騰勢を強めていることがその証左だ。緩やかながら1ドル=100円割れに向かって地合いは固まりつつあると見る。

 ※本記事は筆者の個人的見解であり、所属組織とは無関係です
唐鎌 大輔 :みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

最終更新:8月26日(月)6時10分

東洋経済オンライン

 

【あわせて読みたい】

【PR】Yahoo!ファイナンスからのお知らせ

【PR】Yahoo!ファイナンスからのお知らせ

平均年収ランキング

ヘッドライン